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【エッセイ】ググり育児


「生後3ヶ月 ミルクの足し方」「吐き戻し 多い 飲ませすぎ」「寝返り 生後 何ヶ月」「離乳食 食べない」「赤ちゃん 泣き止む 音楽」

* * *

里帰り出産を終えて賑やかな実家から自宅に戻る日、飛行機の中で私の赤ちゃんはよく眠り一度も泣かなかった。良かった、色々調べておいて良かった、と安堵のため息をつく。

核家族、親戚は周囲にゼロ、ママ友もゼロの状況で静かに育児が始まった。
子育てはSNSと共にあった。求めていたのは専門家の論文や小児科医のブログではなく、同じ境遇に置かれたママや先輩ママの呟きだった。
情報の真偽性云々なんて言われなくても分かっている。
それでも、迷ったとき、とりとめもなく不安なとき、まるでそこに私の正解があるかのように、誰かにとっての正解をスクロールしつづけた。

ヒトの脳は核家族で子育てするようにできていないと知ったのは2人目が生まれてからのことだ。

『ママたちが非常事態!? 最新科学で読み解くニッポンの子育て』(NHKスペシャル取材班著,ポプラ社,2016年)

人類の起源まで遡って子育てを科学した本。人間の脳は共同養育(周りの人と協力して子育てをすること)で育児をするようになっているのに、現在の核家族下での子育てで脳がギャップを感じ、母親は孤独や不安を感じてしまうそうだ。

漠然とした孤独、不安、それは第一子の育児において私を苦しめたものだった。

長女が3歳の時、2人目が生まれた。
里帰り出産はせずコロナ禍で1人で産んだ。3年ぶりの新生児。赤ちゃんってこんなに可愛いものだっけ?と不思議なほど新鮮な可愛いさだった。
娘の保育園の送迎の時、赤ちゃんを抱っこして連れて行き先生に顔を見てもらうのが嬉しかった。「お姉ちゃんが赤ちゃんの頃とそっくり!」「ママ似かな?パパ似かな?」
娘のお友達やそのママも赤ちゃんを楽しみにしていてくれた。ご近所さんや職場への出産報告。知り合いが3年前より増えていた。

ずいぶんと気楽に2人目の子どもを抱いている自分の心持ちに、単に育児慣れだけでない何かを感じていた時、先の本の「不安感は脳のギャップ」の言葉で心がすっと晴れた。SNSを読み漁る当時の私は、科学的に言ってしまえば共同養育の本能に苦しんでいたんだなあ。

深夜のSNS巡りは落ち着いた。あの頃の自分が指先に触れていた「誰かにとっての正解」、私にも何か書けるかもしれない。どきどきと不安な夜を過ごすあの日の自分の背中に手を当てながら、布団の中で記事を書いている。

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