橋のうえの出逢いと別れ
橋は出逢いと別れを演出する絶好の場所である
古い映画だが佐田啓二と岸惠子が主演した「君の名は」でも、数寄屋橋が、二人の運命的な出逢いと悲劇的な別れの舞台になっている
ドラマチックではないが、わたしにも橋にまつわる小さな想い出がある
高校生のころ
歩いて学校に通う道に橋が架かっていて
その上で きまった女子生徒とすれ違った
ほぼ毎朝
髪が長く 少しきゃしゃな おとなしそうな子
ちょっと可愛かった記憶
彼女が通う女子高は端の手前 私の男子校は端をわたった先
遅刻すれすれの朝は 私が橋をわたりはじめるあたりの場所で
始業時刻まで余裕のある朝は 橋をわたり終えたあたりで
意識しないわけにはいかない
彼女も意識していたにちがいない
ほのかな恋心
見つめ合ったり ことばを交わしたりしたこともないのに
一学年が過ぎ
その子はいなくなった
卒業してしまったのか
一つ年上だったのかも ・・・
寂しい気がした
ほのかなる別離
次の年 こんどは別の子とすれ違う
ほとんど毎朝
やはり橋の手前だったり わたり終えたあたりで
一年次に入学したのか
前の子より少し背は低いが
どこなく心ひかれた
その子とも互いに意識するだけ
でも「別離」の記憶はない
たぶん私が高学年だったから
次の年の三月 私のほうから消えたのだろう
こうして 高校時代のほのかな想いは淡雪のように消えていった
人生ってこんなものかもしれない
人の出逢いは偶然のいたずら
その場所を通りかかる時間をたがえれば 永遠に逢うことはない
すれ違わなければ 出逢いそのものすらないのだ
出逢っても 声をかけなければ 呼び止めなければ
ただの行きずり 通りすがり
いくら意識しあっていても 他人のままとどまる
あの人との出逢いと別れを想う
あの日 あの時間 あの場所に たまたまいなかったら
出逢っていなかったら
その後の触れあいも やりとりもなく
こんなにも哀しまずにすんでいたのだ
そしてその人の死 ・・・
あのあと 私の橋に「次の人」は現れない
それどころか わたる人はもう誰も見えない
たとえすれ違っても 目に入らない
このまま孤独な歩みを続けていくことになるのか
淋しい橋を独りわたり続けていくのか
いまの私には見当がつかない
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