香染・佐藤幸香

染織家 『源氏物語』に登場する「香染」を創作しています。『源氏物語」の原文 をテキスト…

香染・佐藤幸香

染織家 『源氏物語』に登場する「香染」を創作しています。『源氏物語」の原文 をテキストに色と香りで読み解き、季節の草木を染め、機で手織りした古代綺布。ミステリアスな平安人の想いを五感で謎解きします。

最近の記事

『初音』の帖     『香染記』

香日和「こうびより」「こうにちわ」とも~     十三之記 『源氏物語』五十四帖は、「色と香り」を重要画材として描いた絵物語。 例えば「初音」の帖は、新年の情景を白と青(緑)のみの色(光)で描いた美しい絵のような物語です。 「色」は二種ですが、いく種もの「香り」で満ちています。その一つ一つを謎解いていくと奥深い色と香りの世界に魅了されます。 「白」は太陽の光が上方に放たれ、「しらむ」から「しろ」になった中天の太陽の色。 光の色。 「瑞色(ずいしょく)」。 全ての色の中で最

    • 「梔子(くちなし)」  『香染記』

      香日和「こうびより」「こうにちわ」とも~     十一之記 日本古来の黄色を染め出すのは「梔子」と「刈安」です。 アカネ科常緑性の日本原産の低木。 飛鳥時代から黄色染料(色素名クロシン)として用いられました。 くちなし飯(黄飯)、栗きんとん、和菓子の美しい天然の色(カロチノイド)を暮らしに生かしてきたのは古代からの知恵です。 ジャスミンのような芳香の花を干した、くちなし茶も自然の恵み。 果実は黄疸や打撲に、和漢薬「山梔子」として活用されました。 16世紀、ヨーロッパに渡り、

      • 刈安(かりやす)  「香染記」  

        香日和「こうびより」「こうにちわ」とも~    九之記 古代からの聖地といわれる二子玉川(にこたま)、〈将監山〉 想えば「秋」、刈り残されたすすきが稲藁束のように枯色(かれいろ)を柔らかく輝かせ、銀色の花穂が風に揺れていた。 枯野、霜枯、枯色、黄朽葉、青朽葉と平安人は移り行く時間と風情を次々と愛しみました。 薄(すすき・尾花)は日本古来の黄を染め出す刈安(かりやす)と同種のイネ科です。 刈安のアルミ媒染。煮出さないと透明なうすい黄染液で、これでは絶対染まらない!とつい沸騰

        • 月桃 (げっとう)    『香染記』

          香日和「こうびより」「こうにちわ」とも~    七之記  5月の奄美は月桃(げっとう)の花が薫風にそよぎます。 可憐な風鈴のような白い房が青い空に映えます。 この月桃の葉で絹糸を染めました。すると工房には、爽やかな芳香が立ちこめます。この香りはシネオール、ピネン精油の香りです。月桃は樹木ではなく、ショウガ科の多年性常緑草です。台湾、琉球、奄美へと渡って来ました。奄美では、蓬、もち米、黒糖を月桃の葉で包み、蒸しあげ、月桃餅を家々で作ります。その葉は香り付けだけでなく、抗菌防腐

        『初音』の帖     『香染記』

           「羊歯 (しだ)」  『香染記』

          香日和「こうびより」「こうにちわ」 とも~    四之記  古代からの聖地といわれる二子玉川(にこたま)の丘の上、〈将監山〉。 ある年の6月、梅雨の晴れ間でした。 私の染め場近くに、羊歯(しだ)が瑞々しく繁っていました。 その羊歯で絹糸を染めました。 すると思いがけない香りが、染め釜から漂ってきたのです。それは海の香りでした。 そして深い海から立ち上がるようで、ある想いへ誘われました。遥か何億年もの昔の地球の情景です。ーー噴火する山、渦巻く黒雲の天、樹木を倒す恐竜、ーー 海

           「羊歯 (しだ)」  『香染記』

          「櫻(さくら)」 『香染』

          香日和「こうびより」「こうにちわ」とも 一之記 古代からの聖地といわれる二子玉川(にこたま)の丘の上、〈将監山〉。 我が家の桜の老樹は将監山(しょうげんやま)の大地にしっかりと根を張り巨木となり、太い幹からはまた太い枝を青葉も重く張り出しています。  4月25日。百一歳の母はケアサービスの送迎車から降り、昨日の雨で、蒲公英(たんぽぽ)の綿毛の様な赤茶の桜の落し物を杖で掃き散らし、『今年も桜の季節ね』と云う。まさに「桜蕊(さくらしべ)落つ」。 母にとっ

          「櫻(さくら)」 『香染』