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【ジョジョ考察】 第七部 SBR がよくわかる記事① (「男の世界」「漆黒の意志」とは)

ジョジョ第七部で異彩を放っているキャラといえば、リンゴォですよね!!!()

彼は、ボス以外で唯一『時間を操作する能力』を持つキャラです。「あえて自分の能力をバラす」「あえて相手に先に撃たせる」など、戦闘における独自の美学をもっていて、敵キャラでありながら、とても魅力的なキャラです。

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リンゴォが登場するのは7~8巻(全24巻中)です。こんなに“濃いキャラ”を序盤で登場させたのは、リンゴォがジャイロの成長の鍵となるキャラだからでしょう。もしリンゴォと戦わなければ、ジャイロが成長することはなかったに違いありません。

では、

ジャイロはリンゴォとのバトルを通してどのように成長したのでしょうか?
リンゴォが語る『男の世界』とは何を指すのでしょうか?

主人公の一人であるジャイロに注目して、第七部に隠された”テーマ”について考察します。


この記事は、特に

『男の世界』とは何か、腑に落ちていない方
・ジャイロ推しの方
・第七部の隠された”テーマ”に気がつかなかった方
・哲学・宗教に興味がある方(←?)

に楽しんでいただけると思います。




【はじめに】 2人の主人公 と 2つのテーマ

第七部SBRは、主人公のジョニィとジャイロが、敵との戦闘を通して成長していく物語です。

なぜ主人公が2人いるのか、それは伝えたいテーマが2つあるからに他なりません。ジョニィの成長を通して伝えたいことと、ジャイロの成長を通して伝えたいことの、2つのテーマがあるのです。

今回(よくわかる記事①)はジャイロの成長に注目してテーマを考察します。近日中に、ジョニィの成長に注目した記事(よくわかる記事②)も投稿する予定です。




【第1章】 『受け継いだ人間』 は勝てないの!?

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ジャイロの成長といっても、彼は初めから精神的・能力的に成熟していたようにも思えます。特に1巻〜5巻では「ジャイロがジョニィを指導する」という構図になっていて、ジャイロの強さジョニィの弱さが対比的に描かれています。そんな2人の関係性が変わるのは、第6巻のDioとの戦いのときです。

3rdステージのゴールを目前にして、ジョニィがジャイロにこう語ります。

君はDioには勝てないッ! このSTAGEも君は優勝はできない!
  
君は国家や親たちから教えられ受け継いだ…………
「技術」と「精神力」でこのレースに参加している
  
Dioは『飢えた者』! 君は『受け継いだ者』!
その差は君の勝利を奪い 君を喰いつぶすぞッ!

「ジャイロは「技術」と「精神力」『受け継いだ者』だから、Dioには勝てない」とジョニィは忠告するのです。ここで1つ疑問が生じます。

なぜ『受け継いだ人間』は勝てないのでしょうか?

この答えが明らかになるのは、リンゴォとの戦闘中にジャイロが葛藤するシーンです。




【第2章】 「感傷」 ってなに?

① ジャイロの父は「感傷」を恐れている

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戦闘が始まったのに、ジャイロを相手にせずに帰ってしまったリンゴォ。ジャイロがリンゴォを追いかけようとしたとき、父の声がジャイロの脳内に響きます。

小屋へ「行く」動機はなんだ? 
それは「感傷」だからだ… だから負ける
「感傷」は おまえの心のスキ間に入り込み 動揺を生む
  
罪人が「少年」だろうと 無罪だろうと 
それにも「感傷」を 交えてはならないッ!

父は「感傷」に対して厳しい、というより、「感傷」を恐れているようです。
実はこれは、ツェペリ一族の死刑執行人としての宿命なのです。



② 死刑執行人の宿命

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ジャイロは実在の人物シャルル=アンリ=サンソンがモデルです。そこで、シャルル=アンリの生涯を描いた本( 安達正勝「死刑執行人サンソン」)を見てみると、「感傷」について触れている一節がありました。

たまたま死刑囚が若い女性だったりして、それで死刑執行人の心に少しでも動揺が生じれば、もうそれだけで刑の執行はうまくいかなくなる。気持ちが動揺していたりすると、剣が頭にあたったり、肩にあたったり、顎にあたったり、首を傷つけただけになる。死刑囚は処刑台の上でもがき苦しむことになる。(P105, 一部省略)

少しでも死刑囚に苦しみを与えてしまえば、それは”殺人”です。人の首を斬ることが”殺人”ではなく”処刑”であるためには、「感傷」だけは避けなければならないのです。



③ 『受け継ぐこと』と『感傷』

ここまでの内容を振り返ることで、

なぜ『受け継いだ人間』は勝てないのか?

という疑問への答えが見えてきます。


ジャイロは死刑執行のための「技術」と「精神」を受け継いでいますが、『受け継いだ精神』と「自分の感情」の間にはギャップがあります。このギャップ、スキ間こそが「感傷」であり、「感傷」は動揺を生みます。そして、この動揺が原因で、敗北・失敗してしまうのです。

ジャイロは「命令に従って冷静に死刑を執行する」という精神を受け継ぎました。しかし「本当にマルコを死刑にしていいのか」という感情も抱いています。この2つの間のギャップが「感傷」なのだと、父は指摘しているわけです。


では、「感傷」をなくすためには、つまり、『受け継いだ精神』と「自分の感情」の間のギャップをなくすためには、どうすれば良いのでしょうか?

その解決の糸口を提示してくれた人物こそ、リンゴォなのです。




【第3章】 「男の世界」 と 「漆黒の意志」 ってなに?

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① リンゴォの語る「男の世界」

リンゴォとジョニィたちが出会うのは果樹園です。
ジョニィから、なぜレースを妨害するのか聞かれたリンゴォは、こう答えます。

このオレを「殺し」にかかってほしいからだ
公正なる「果(はた)し合い」は 自分自身を人間的に生長させてくれる
卑劣さはどこにもなく… 漆黒なる意志による殺人は
人として未熟なこのオレを 聖なる領域へと高めてくれる

 
これが「男の世界」…………
反社会的と言いたいか? 今の時代…………
価値観が『甘ったれた方向』へ変わってきてはいるようだがな…

リンゴォにとって「男の世界」とは、「漆黒の意志を持つもの同士の公正な果たし合い」のことらしいのですが、、、この説明では何か釈然としませんよね。他のセリフも見てみましょう。


ジャイロに致命傷を負わされたリンゴォはこう語ります。

「社会的な価値観」がある そして「男の価値」がある
昔は一致していたが その「2つ」は現代では必ずしも一致はしてない
「男」と「社会」はかなりズレた価値観になっている…………
だが「真の勝利への道」には「男の価値」が必要だ

このセリフによると「社会的な価値観」と「男の価値観」の間には大きなギャップがあるようです。そして、「男の価値観」がなければ「真の勝利への道」にはたどり着くことができないというのです。「社会的な価値観」だけでは不十分であるというのです。



② 「社会的な価値観」ってなに?

リンゴォの語る言葉には抽象的なものが多いため、彼の主張を理解することは難しいです。そこで、まずは、比較的わかりやすい言葉から見ていきましょう。

「社会的な価値観」という言葉について考えてみましょう。

「社会的な価値観」は、「社会で広く使われている考え方」という意味です。あるいは、「ごく一般的な考え方」「常識」と言いかえることもできます。

私たちは「常識」を親から学びますから、「社会的な価値観」は親から学ぶものだと言えます。つまり「社会的な価値観」は、親から『受け継いだ精神』と言いかえることができそうです。



③ 「漆黒の意志」ってなに?

ジャイロは『受け継いだ精神』(=「社会的な価値観」)と「自分の感情」の間のギャップに悩まされていました。父はこれを「感傷」だと批判したのですが、リンゴォもこれを瞬時に見抜き、こう言い放ちます。

こびりついた『正当なる防衛』では オレを殺す事は決して出来ない
受け身の『対応者』はここでは必要なし

リンゴォは、ジャイロはただ「精神」を『受け継いだ』だけただ「社会的な価値観」を「受け入れた」だけの『対応者』に過ぎないと批判しているのです。自分の感情を押し殺して、『受け継いだ精神』や『社会的な価値観』に従って『正当なる防衛』をすることしかできない人間なのだと。


では『受け継いだ人間』はどう生きればいいのでしょうか?


鍵となるのは「漆黒の意志」です。

ジャイロは今まで「自分の感情」を押し殺してきました。「自分の感情」が『受け継いだ精神』(=「社会的な価値観」)と異なる場合、『受け継いだ精神』の方を優先してきたのです。

しかしリンゴォは、自分の感情は押し殺すべきではないと主張します。自分の気持ちに素直になって、目的の達成のためにあらゆる手段を尽くすことが重要だと。

この「目的を達成するためならば、人殺しさえ厭わないという意志」こそ「漆黒の意志」なのです。


リンゴォから「「漆黒の意思」を持て」というアドバイスを受け取ったジャイロは、自分の行動の目的は何なのかと自問自答します。

オレは「納得」したいだけだ
  
「納得」は全てに優先するぜッ‼︎
でないとオレは「前」へ進めねえッ!
「どこへ」も!「未来」への道も! 探すことは出来ねえッ‼

ジャイロが自分の意志をむき出しにした瞬間でした。これをきっかけに勝負は「男の世界」、すなわち「漆黒の意志を持つもの同士の公正な果たし合い」に突入します。



④ 「男の世界」の先にあるもの

ジャイロは納得するために「男の世界」に踏み込み、
リンゴォは人間的に成長するために「男の世界」で生きています。

彼らの勝負は、一手先を読んだジャイロの勝利で決着します。死ぬ間際、リンゴォはこうつぶやきました。

「真の勝利への道」には「男の価値」が必要だ
レースを進んでそれを確認しろ…… 「光り輝く道」を…
オレはそれを祈っているぞ そして感謝する
ようこそ………… 「男の世界」へ…………

そう、「男の価値」は「真の勝利への道」(=「光り輝く道」)にたどり着くための手段にすぎないのです。果たしてジャイロは「光り輝く道」を見つけることができるのでしょうか?




【第4章】 俺とヴァルキリーだけが 『なじむ道』

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リンゴォを倒したジョニィとジャイロが、前を走るDioを視界に捉えたのは、遺体を目前にしたカンザスシティの近くでした。2人の目的は「Dioより先に遺体を手に入れること」。では、Dioを追い抜くためにはどうすれば良いのか?2人の意見が分かれます。

【ジョニィ】
追い抜けるラインが何本か見えるが 実はそうじゃあない
最速で有利に走れる『ライン』は ベストの一本だけッ!
Dioの『ライン取り』の『ミス待ち』 それしかない
【ジャイロ】
この草原でDioの道がベストというなら
そのラインは 敵に差し出してやるのもいいだろう………… あえてな
オレとヴァルキリーだけのラインを行く
オレとヴァルキリーだけが… 『なじむ道』
オレたちだけの「気持ちいい道」だ!
その先には「光」がある筈(はず)だ…

ジャイロが自分とヴァルキリーだけが『なじむ道』を貫いた結果、その『なじむ道』はベストの道とぴったり重なり、Dioに追いつくことができました。しかしジャイロは、Dioに追いつくことを最終目標にはしていませんでした

そのときの様子をDioはこう語ります。

今までと何かが違う
こいつ どこを見ている!?
このDioじゃあないのか?
ジャイロ・ツェペリ 今どこを見すえている?

ジャイロは、Dioに勝つことよりも先のこと、つまり、遺体を手に入れ『納得する』ことまでを見すえていました。ジャイロにとってDioとの勝負は過程に過ぎなかったのです。ジャイロはリンゴォの教えの通り、「男の世界」の先にある「光り輝く道」を探していたのでした。




【まとめ】 第七部のテーマってなに?


① ジャイロの成長から学べること

たとえどんなに素晴らしいものを親から受け継いだとしても、それだけで自分の人生が決まるわけではありません。自分の人生はあくまで自分の意志で選び取るものです。もし自分の意志を押し殺して、親や社会が命じるままに生きるとしたら、自分の感情と社会の価値観のギャップに悩まされることになり、人生を失敗してしまうでしょう。

ジャイロのように、自分が『なじむ道』を貫くことで、ベストの道を走ることができるのです。


かと言って、『受け継いだもの』を捨て去るべきではありません。

自分の欲望と真摯に向き合うことで、『受け継いだ道』を『なじむ道』にアレンジすること。そうしてできた納得できる道が「光り輝く道」なのです。

ジョニィは【第1章】の時点で、こう予言しています。

ジャイロ… ここは少しずつ「生長」すればいいじゃあないか…
少しずつ「生長」して… そして そうすれば……
レースの最後に勝つのは 君のような「受け継いだ」人間なのに……

ただの『受け継いだ人間』は、『飢えた人間』に勝つことができません。しかし、『受け継いだもの』を自分なりに解釈し直して自分のものにできたとき、『飢えた人間』にも負けない力を発揮することができるのです。



② 第七部のテーマってなに?

第七部のテーマの1つは、「『受け継いだもの』とどう向き合うべきか」ということです。テーマを知った上で本編を見直すと、セリフの一言一言がより味わい深く感じられると思います。

この記事を読んでくださった方が、よりジョジョを好きになっていただけたら幸いです。



近日中に後編(よくわかる記事②)も投稿する予定ですので、また読んでいただけると幸いです。

また、シャルル=アンリ=サンソンの生涯を描いた「死刑執行人サンソン」という本の書評も書いています。そちらでは、「ジャイロがジョニィと出会わなかった世界線こそが、シャルル=アンリの人生だ」という持論をもとに、本の内容を紹介しています。ぜひご一読ください!



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