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オーストラリア農業の先進性から学ぶ! 第31回 農業版「トヨタ生産方式」(その1:作業者の評価制度のカイゼン・作業の効率化)

今回は、オーストラリアの農業現場で実際に「トヨタ生産方式」を導入し、一日に50人程度の多国籍の作業者を、分刻みで管理を徹底してきた、私の経験を基に解説します。「トヨタ生産方式」は、製造工程のムダを徹底的に省き合理化を図りながら商品を生産する手法です。これをどのように農業に当てはめるか、その方法について詳しくお話しします。

高齢化によって農業人口が減る一方の日本の農業現場では、日本人の作業者の代わりとして、今後は一時的な労働力確保のための政策が施行され、日本の農業現場で外国人労働者との接点がますます増えていくことが考えられます(本来は日本人のみで現場が構成されることが望ましいが)。そのため、言語やコミュニケーションが困難な多国籍・異文化の外国人を効率よく管理する手法やソリューションを現場に落とし込む教育が必要です。そのような環境下では、「トヨタ生産方式」のような生産管理方法が最も効果を発揮します。私は多い時には、10カ国以上の多国籍な作業者を同時に同じ現場で管理し、中には英語が通じない作業者もいましたが、この日本式の生産方式・管理方法が最も効果を発揮しました。

オーストラリアの作業者の評価制度の現状

作業者を1日で数十~百人管理するオーストラリアの大規模生産現場では、オランダを始めとする海外版の農場マネジメントシステムが導入され、作業スピードを基にした作業員の評価制度が導入されています。その中でも、生産者が最も注力を注ぐ収穫作業「ピッキング/パッキング」における作業者の評価制度が重要視されています。作業スピードを基にした評価制度の指標は、一時間の内に何キログラム(kg/時間)を収穫できたかの収穫「量」が指標として使われています。

しかし、同評価制度を導入している生産者は、作業者を評価するために「量」を基準にした作業スピードのみに焦点を当てていることが多く、収穫作業の「質」については軽視されがちで、現場では日々トラブルを抱えている生産者が少なくありません。

収穫作業の「質」の問題点

収穫作業の「質」の低下で発生するトラブルの多くは、作業/判断ミスが大半で、①収穫予定でない場所での誤収穫②収穫作業が終わった後に収穫し忘れ箇所の発覚③収穫(出荷)基準に満たない未熟状態での誤収穫④誤った収穫方法による収穫物のダメージ等です。①~④のトラブルが発生し易い要因は、作業者は一時間あたりの「量」のみにフォーカスし、少しでも多く収穫したいと言うプレッシャーの中で作業を強いられているためでもあります。

「定義付け」から「見える化」へのステップ

現場のマネジャーの作業指示のみでは、作業の「質」の管理に限界があるは事実です。以前私が参画していた農業プロジェクトでも、「質」の低下による問題が現場で日々発生しており、プロジェクト就任直後に、同現場に「トヨタ生産方式」を導入したところ、数ヶ月後には、作業の「質」が格段にカイゼンしました。また、収穫作業の「質」が向上することで作業ミスが減り、結果的に収穫後の廃棄量減少=収穫増「量」にも貢献しました。

作業者の作業の「質」をカイゼンするには、まず「何となく」作業が進められている現場の状態を改め、全ての作業場所~作業工程の「定義付け」から始め、現場を「見える化」させることが最優先事項となります。

定義付けの重要性

作業者の作業の「質」を改善するには、まず現場の「定義付け」から始めることが重要です。以下の①~⑥は「定義付け」の具体例です。

作業スピード等を見える化させるために、定義付けされた栽培場所の一例

① 作業場所
■区画・畝の場所、
■区画・畝の長さ、■区画/畝当たりの作付け量(株数):

《作業場所が明確なることで作業指示がし易くなる》
※施設作物や果樹作物は定義付けることが容易。
※露地作物は定義付けすることが難しいのが現状。
例えば、2人の作業者が、畝毎A/Bの収穫作業スピードを比較すると、畝Aでは50m内に100株、畝Bでは50m内に120株ある場合、同等の作業時間、作業距離であっても、必然的に畝Bの作業者の方が収穫量が多くなってしまい、正確な作業スピード(kg /時間)を計測することができない。作業者のスピードを正確に計るには、同等の作付け量(株数)、同等の距離の作業量の環境下でなければならない。

② 作業者
■作業者番号、
■作業動作(例:同じスタート位置(右または左)から進む: 
収穫作業のし忘れ等のミスが無くなり、リアルタイムで作業者の進捗状況を把握することができる。

③ 栽培品種
■品種毎に栽培場所を番号や色で区別、
■品種毎に使用する用具を色で区別:

栽培条件が異なる品種間での栽培管理がし易くなる。収穫時の品種の混合等のミスが減る。

④ 単位
■全ての単位を統一にする(例 kgに統一):

収量を始めとする、データ入力のミスが無くなり、エクセル等でデータ管理し易くなる。

⑤ 作業用具
■個数・サイズ・色・保管場所:

"誰が、いつ、何を使ったかを常時把握できるため、用具の紛失等のミスが無くなる。
整理整頓を徹底し、どこに何を保管するのか、保管場所も定義することにより、用具を探す時間が無くなり、毎回作業をスムーズに開始できる。"

⑥ 作業工程
■播種〜収穫までの工程: 

播種、定植、栽培管理、収穫(ピッキング・パッキング)のように、一連の作業を定義し、全て平準化させることで作業スケジュール、作業者のコントロールがし易くなる。

これらの「定義付け」を行うことで、現場の「見える化」が進み、作業の「質」が向上します。

結論

「トヨタ生産方式」を農業に導入することで、作業の「質」を向上させることが可能です。特に、収穫作業の「質」が向上することで、作業ミスが減少し、結果的に収穫後の廃棄量も減少します。これにより、全体の収穫量の増加にもつながります。今後も継続して「トヨタ生産方式」の導入を推進し、農業現場の効率化を図ることが重要です。

次回は、「定義付け」の次のプロセスを解説します。お楽しみに。

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