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ネジ巻きの詩

ネジ巻きの詩

「ネジ巻きの詩」

ぼくのネジは緩んでゆく
油断すると緩みっぱなし
だから、ぼくはネジを巻く
毎朝、毎晩、隔週、隔月、エトセトラ…

こっちのネジを巻くのに気をとられると
あっちのネジが緩んでいる
すべては同時進行だ

巻きそびれ、外れ落ちたネジもある
そういうのって、時が経って気づく
もう巻き直せないネジに馳せるセンチメンタル

ぼくの人生の至るところに満ちている、
たくさんのネジ
ぼくは今日も

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雨の路上の詩

雨の路上の詩

雨に濡れた路上を行き交う、急ぐ人々
年老いた女が膝をつき、
ずぶ濡れの画用紙を拾い上げる

アジテートのための言葉たちが
滲んでかすれている
ぼくの胸にそれらの言葉は響かない
むしろ、女の皮膚に刻まれた深い皺のほうが
ぼくを怯えさせるのに十分だ

この怯えの正体は何か?

憐れな女の姿になど、
みんな目もくれず通り過ぎる
誰にも届くことなく、
雨に溶けて流れてゆく女の訴え

こんな瞬間を幾千回もく

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中毒の詩

中毒の詩

美しくセンチメンタルなものだけを
眺めて生きることができたなら
もっと品良く繊細にふるまうことができるのに、
生気を失ったたくさんの人の手がぼくを摑むものだから、ぼくの口唇はしだいに青くなる。

《口を開けば、もうおしまい》

きっと重要じゃない情報がまるで酸素のように
ぼくの体にもぐりこみ全身をかけ廻る。

ぼくの目はさらに過激なポルノグラフィーを求め、とどまることなく動き続ける。

安らぎを求

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イメージの詩

イメージの詩

君自身の醜さを何度も修正し、
もはや原型をとどめない君。
造られたイメージは持てはやされ、
ある時には対価すら支払われる。

君が君であることを削りとることで、
君は高く評価される。
君がそれに耐えうる間は、
上手く生きていくことができそうだ。

しかし、イメージは生き物だ。
ある日、ある瞬間、君の生身の肉を噛みちぎり、
飼い主だったはずの君の手を離れ、
ひとりでに歩き出すかもしれない。

その時

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きみがいなくなって困るのは

きみがいなくなって困るのは

きみがいなくなって困るのは
きみがぼくの中で占めていた場所が空洞にならないことだ。
たとえば、ぼくが食事を作るとき、
パソコンに文字を打ち込むとき、
きみはひょっこり顔を出す。
厄介なことに、きみが立つ場所はくっきりと色濃い。
そこに流れる時間は「過去」とは言い難い。
あと何度洗い流して、あと何度拭い去れば、
その場所は空洞になるのか。
答えはわかっている。
しかし、ぼくは今夜も同じ問いを一人くり

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ゴミ箱に溜まっていく、いくつもの痕。

ゴミ箱に溜まっていく、いくつもの痕。

ゴミ箱に溜まっていく、いくつもの痕。
ペットボトルのラベル、丸めたティッシュペーパー、つぶしたヨーグルトの容器。
それらは、ぼくが消費した時間の痕だ。
この痕を拾い集めたら、ぼくが生きた時間は再現されるのだろうか?
そんな疑問がこびりついて、ここ二三日離れない。
ただ消費する以外に、きみは生きていない。
目の前のゴミは、強迫観念をぼくに植えつける。
#詩 #小説 #ポエム #言葉 #詩作 #写真

重力の詩

重力の詩

君に届かなかった言葉が
地面にそっとこぼれ落ちた。
自由を感じようとして跳躍したぼくは
弧を描いて元の位置に戻ってしまった。

このぼくという存在をつなぎとめている重力
それは目に見えない透明の鎖なのだろうか、
それとも、真綿のようにやさしく
ぼくを包みこむ透明の羽根なのだろうか。
ぼくにはよくわからない。

ただ、それは静かにいついかなるときも
ぼくをつなぎとめ続ける。

しあわせは遠くから眺めるぐらいでちょうどいい

しあわせは遠くから眺めるぐらいでちょうどいい

しあわせは遠くから眺めるぐらいでちょうどいい
近づきすぎるとその光は眩しくて
わたしのボロボロの皮膚を照らし出す

この醜い素肌を晒せる相手が現れたなら
その人を運命の人として大切にしよう
だけど、いつまで経ってもそんな人は現れなかった
わたしの体を欲しいままにした者ですら
白日の下でわたしのありのままを見ることはなかった

しあわせは遠くから眺めるぐらいでちょうどいい
暗がりの中からそっと覗き見

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あべこべの詩

あべこべの詩

取るに足らないことには目くじらを立てて
口汚く責め立てる
なのに、ここぞという場面では怯んでしまって
言わねばならぬ言葉が出てこない
これじゃ、あべこべだよね。

恋人のつれない態度を厳しく糾弾するくせに、
自分の身勝手にはそっと目をつむる
これじゃ、あべこべだよね。

あるべき姿は、いつも鏡の向こう
何だか歯がゆいね。
#詩 #詩作 #写真 #小説 #言葉 #ポエム

ナマケモノよりもナマケモノ

ナマケモノよりもナマケモノ

ナマケモノよりもナマケモノ。
朝から晩まで、画面の上を流れる
文字や画像の虜になっている。
お前は何がしたいんだ?
その問いに即答できる大人になりたかったな。
手を伸ばして届く範囲にないものはいらない。
このベッドさえあれば、ぼくは安心して眠っていられる。
暇や退屈ですら、ぼくを肥やす栄養になるのだから、
ぼくは当分餓死することもないだろう。
#詩 #詩作 #写真 #小説 #言葉 #ポエム

好きっていう言葉が嫌い

好きっていう言葉が嫌い

好きっていう言葉が嫌い。
口にするたび、喉の奥で嘘が絡むのがわかるから。
胸のうちで分泌される打算、恐怖、投げやりを飲みこんで
声を身にまとった「好き」は
加工しまくった自撮り写真のように醜い。
きめの粗い凸凹の素肌
それが私です。
そんなふうに言えたら、好きなんて言葉はいらないのかもしれない。
#詩 #詩作 #写真 #小説 #言葉

ほんの少しの輪郭を

ほんの少しの輪郭を

青白い画面をつけたり消したりして
きみからの言葉が届くのを待っている
ぼくが必要としているのは、
きみという存在なのか?
それすら、こんな夜闇にはあやしいものだ
ふちどってくれるものがなくちゃ、
ぼくがここにいることすら浮かび上がらないね
結局はぼくの ぼくによる ぼくのための
孤独な営みか。
四角い画面から放たれる人工的な光だけが
ぼくにほんの少しの輪郭を与えてくれる
#詩 #詩作 #写真 #

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一人ぼっちなんてたくさんある

一人ぼっちなんてたくさんある

酔いそうになるほどいっぱいの人、人。
おっちゃんが怒鳴り声をあげて、
ベビーカーを押すお母さんが思わずふり返る
重そうなスーツケースを引きずる外国人の家族は
素知らぬ顔で通り過ぎる
こんなにも人であふれているのに、
多分この中にいる誰もわたしのことを知らない
それって、何となく気持ちいい
わたしは、この人にまみれた空間において孤独だ
一人ぼっちなんてたくさんある
その事実はわたしの肩をちょっぴり軽

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