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細かすぎる英文契約解説

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英文契約の細かな(時に細かすぎる)TIPSをまとめています。週一程度の更新を目標に書いていきます。
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2023年4月の記事一覧

細かすぎる英文契約解説(第7回)〜論点抽出のフレームワーク〜

細かすぎる英文契約解説(第7回)〜論点抽出のフレームワーク〜

はじめに:フレームワークの重要性契約ドラフトの担当者は、一般に日々多岐にわたる契約書をドラフトする必要があります。例え同一のビジネスに関する契約書でも、その取引条件は様々なバリエーションがありますし、ときに全く経験のない契約書のドラフトも求められます。そのような際、論点抽出のフレームワークを知っておくと、大前提として「そもそもこの取引は何をしようとしているのか」を把握すのに大変役に立ちます。契約の

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細かすぎる英文契約解説(第6回)〜不完全な完全合意条項〜

細かすぎる英文契約解説(第6回)〜不完全な完全合意条項〜

はじめに:完全合意条項とは完全合意条項(entire agreement clause)とは、当該条項を含む契約書が当事者間の合意事項の最終版であり、それ以外の口頭や書面による合意は存在しないことを明示する条項です。完全合意条項を契約に含めることで、当事者間の合意内容を明確にし、もって紛争リスクを低減することができます。

具体的な条項例完全合意条項は、以下のようなものが一般的に規定されます。

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細かすぎる英文契約解説(第5回)〜Deemの正しい使い方〜

細かすぎる英文契約解説(第5回)〜Deemの正しい使い方〜

はじめに「deem」とは、英文契約においてよく使用される法的用語で、「〜とみなす」「〜と判断する」という意味を持ちます。この言葉は、ある状況や条件が満たされた場合にあるフィクションの事実が成立すると「みなす」ことを表現にするために使われます。ロースクールの教科書では以下のように記載されています。

ところが、意外に誤用が多いのがこの言葉です。本記事では、Deemの本来の使い方を少し深掘りした上で、

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細かすぎる英文契約解説(第4回)〜Shallの誤用〜

細かすぎる英文契約解説(第4回)〜Shallの誤用〜

はじめにこのような「細かすぎる」解説に興味をもっていただいた読者の方におかれては、英文契約では「Shall」が契約当事者の義務を表す助動詞であることはご承知かと思います。

一方で、以下のような条項も(特に日本人によって書かれた英文契約の多くに)みられるのではないでしょうか。

The payment shall be made within thirty days
(支払いは30日以内になされる

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細かすぎる英文契約解説(第3回)〜実は危険な分離条項〜

細かすぎる英文契約解説(第3回)〜実は危険な分離条項〜

はじめに:分離条項のリスク
今回は、通常あまり気に留めないであろう分離条項(severability)について少し深掘りしてみたいと思います。分離条項は注意しないと、意図せぬ方向に契約が解釈または変更されるリスクがある危険な条項です。

分離条項とは、契約において一部の条項が無効とされた場合でも、他の条項が有効であることを確保するための条項です。英文契約に当たり前のように入っている条項ですが、例え

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細かすぎる英文契約解説(第2回)〜ワンセンテンス・ワンミーニング〜

細かすぎる英文契約解説(第2回)〜ワンセンテンス・ワンミーニング〜

はじめに今回は、やや抽象的ながら、契約条項作成の一般論に視野を広げてみたいと思います。そもそも契約契約の一つの目的は、当事者の合意の明確化です。そうであるとすれば、出来上がった各条項に複数の解釈が成り立ってしまうことは厳に避けなければなりません。

私のような純ジャパが漫然と長めの条項を英文で書くと、しばしば曖昧な文章になってしまいがちで、実務でも相手方や上司にこの点を指摘されることがありました。

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