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窓辺にて

鑑賞:2022年11月@テアトル新宿

面白い。2時間半ほどですが、全く中だるみせず、あっという間の時間でした。事実は小説よりも奇、ということを表現しています。言葉を大事にした作品で、それでもコントのような展開も織り交ぜられた今泉監督節が炸裂しています。

同じ人物でも色々な側面がある。人物像の落差が面白い。 高校生受賞作家は、その奥行きを表しています。 ここに主人公の悩みが絡む。感情の起伏が穏やかで、観客は間接照明のように主人公と周囲のやり取りから察していく。ここを他の人と話したくなる。ラストも人に問いかけたいところです。

稲垣吾郎さんの主演作は久しぶりに拝見しました。良い歳の取られ方をされていて、今後の活躍も楽しみです。今作では、悩みを抱えているものの、人柄に救われている主人公です。よくわからないシチュエーションに振り回されたり、何か言い返そうとしそうなところで言葉を出さない思慮深さが大変マッチしていました。
中村ゆりさん、そんな役やるんですねみたいな展開ですけれど、艶っぽいのが予想を超えていました。
若葉竜也さんは若葉竜也さんですね。良くも悪くも若葉竜也。いや、悪くないです笑。
玉城ティナさん、相変わらずカワイイ。この役柄、とても似合ってます。いろんな姿・表情が見られて大満足。セリフなしで、ずっと映り込んでるのが最高でした。

暗転が何度かあります。これがまた、絶妙。シーンチェンジと暗転が繊細な今泉監督の持ち味ではないでしょうか。移動しながら会話するシーンも今まで以上に織り交ぜられていて、画づくりも飽きない優しさを感じました。

お話はライトに仕立てられていますけれど、テーマの掘り方によっては大変重たくなると思います。これ、ネタバレせずに感想書くのはハードル高いのですが、いったんここまで。

☆彡感想再開。ネタバレ含みます。

時間軸がちょっと前後にズラしてあるシーンが数か所あって、そこを読み取るのも面白いです。冒頭、喫茶店で陽射しをグラス越しに手指に当てています。この作品のタイトル「窓辺にて」を象徴するシーン。陽の光を当てる指には指輪がなく、婚姻関係が解消されているのだと判ります(勝手にくみ取るしかないのですけれど)。

つかんだものを手放す。手放すことで得られるものがある。
時間とお金を両方費やせる贅沢。

そんな中、はじめてパチンコを打ってみる主人公。初心者あるあるで、隣の客がお金を機械に投入する方法を教えてくれたあと、すぐに777大当たり。大量にパチンコ玉を獲得して、何箱も積みます。しかし電話がかかってきて、店を出ることになりますが、よくわからず獲得した玉を隣の客にすべて委ねて退店します。見事にお金も時間も費やす贅沢をしたのですが、隣の客が追いかけてきて、手持ちの数万円を握らされてしまいます。結局、贅沢ができませんでした。コントのような展開、稲垣吾郎さんがパチンコ「海物語」を打つという画の面白さ。笑わせていただきました。映画の1カットに海物語の777大当たり演出がデカデカと出てくるのも笑えました。

つかんだものを手放す、手放すことで得られるものがある。これは、高校生受賞作家の叔父さんに会ったときに、川で拾った石をもらうのですが、これを妻の浮気相手に渡すことで、浮気相手から小説の原稿をもらうことになるところを示唆しているようです。石は、川の上流から流れてくるあいだに、どんどんカドが取れて丸くなっていくのを感じられるという話が語られます。小説では、主人公が過去に書き上げた小説の続編を、妻の浮気相手が勝手に書いてきたというおかしな流れなのですが、このとき浮気相手の語り草が秀逸です。なぜ主人公は続編を書かなったのか。それは続編を書いてしまうと、お話が終わってしまうから。妻との関係も終わってしまうから。終わらせたくないから続編を書かなかった。そういうことだと判りました、と言います。似たようなトークをしたことがあるので、それを映画の中で表現されていることに嬉しさもあり、やられた感もありました。

タクシーのシーンも印象的で、競馬で走らされている馬は可哀そうに思うのに、馬刺しは美味しく食べちゃうと語る運転手。なんでかな、ひょっとして、自分が仕事で車を走らされているからなんじゃないかと思って、というシーンも面白い。タクシーのトークは、短くて印象的な話を差し込むのにはとても合います。

少し話題が戻りますが、稲垣吾郎さんが女子高生とホテルに入ったり、ベッドの上で布団をかぶって閉じこもってる姿、疲れる山道を歩かされる姿、パチンコを打つ姿、なかなか見られない画が楽しかったです。

監督・脚本の今泉力哉さんが本作についてメディアやSNSなどでお話をされています。ラストは、もともと主人公が離婚しない話として考えていたそうです。実際には離婚して終わる話ですし、離婚届も手に入れて証人にサインしてもらうシーンもあります。最後は離婚してますよね、とおっしゃっていたのですけれども、私は離婚しない説を強く主張したいです。なぜなら、この主人公や作品そのものも、うそぶくのです。冒頭で、アスリートがトレーニングしているジムに訪れたシーンに表れていて、待ち時間にスタッフから軽くランニングしませんか、と促されても、服が無いしやらないよ、いいよいいよと言っていたのに、直後のカットではランニングマシンで走る主人公がいます。ほかにも、妻と浮気の話をちゃんとするための場として温泉旅行を計画しますが、結局自宅で話をすることになり、予約など手配はしているのに旅行には行きません。描写としては離婚しているように思えますけれど、明確に離婚しているのかは描かれていません。明確に描かれていない以上、離婚していない説を唱えたいと思いました。

そんな、いろいろな受け止め方ができる面白い作品です。
私事(わたくしごと)にフォーカスする日本を代表する作品ではないでしょうか。


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