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【コラム】ジョブ型雇用では、働く人たちにどのようなことが起きるか(後編)

前回、ジョブ型雇用の社会では、自分に合った、少しでも有利な条件の仕事に就くために、多くの人が若いうちから自分の強みに対して自覚的になり、専門性や得意領域を伸ばし、業績を上げようと真剣に努力することになると解説しました。

その心理的機制は就職するときだけでなく、入社した後も変わりません。企業社会で生きようとする限り、一生続きます。
なぜなら、ジョブ型雇用の社会では、個々の仕事のポジションの市場価値で働く人の給与待遇が決まり、仕事が変わらない限り原則として給与も変わらないからです。少しでも有利な仕事を選び、その仕事に就く自助努力を続けなければ、給与待遇のアップは望めません。

対極的に日本では、一度会社に正社員として就職すれば、中堅層、ベテランへと経験・熟練を重ねながら、仕事の中身も役職も給料も上がっていく人材の内部育成・登用が広く行われています(もっとも大半の企業では、正社員以外の非正規雇用はその対象外となる点は要注意です)。
しかしジョブ型雇用の社会ではそのような内部育成・内部登用は必ずしも約束されておらず、あるジョブのポストに空きが出たときは、外部採用を含めて広く人材をサーチし、常にそのジョブに対するベスト人材を選抜するのが基本です。
より上位の仕事やポストに移ろうとすれば、常に外部の人材との競争があり、その厳しい選別に勝ち残った人だけが内部昇進できるのです。
それが叶わなければ、基本的に仕事もポストも変わらず、給料も増えません。今の会社では昇進や待遇アップが難しいと感じた人は、現状を甘んじて受け入れるか、外部のチャンスを求めて転職するかという選択が迫られます。

日本企業でも、内部登用は働く人同士の競争になりますが、外部から採用される人材とも競争するという認識はまずないでしょう。
このようにみてくると、働く人にはなかなか厳しいジョブ型雇用システムですが、別の見方をすれば、このような雇用慣行の中から、働く人一人ひとりが常に独立独歩の生活思想を持ち、自分の強みを錬磨し、業績を上げて自覚的にキャリアを高めていこうという自立心・自律性に富んだ人材がどんどん輩出されてきます。

自分の強みが発揮でき、より高い給与待遇が期待できる仕事、職種、企業、産業をめがけて自発的な労働移動が進むので、そのような前向きで野心的な人材を急ぎ吸収し、人材活用に成功する企業には高い成長力が見込まれます。個々の組織の新陳代謝が早まるだけでなく、産業レベルでみてもダイナミックな変革が進み、高付加価値を支える人的資本形成がスピーディに行われる可能性があります。

このようにジョブ型雇用には、働く人一人ひとりに仕事の専門性志向・プロ意識を持たせ、キャリア自立・自己決定・自己研鑽を促す面を強化する働きがあり、個々の人材がそれぞれの専門性を発揮して、業績に貢献していけば、生産性が向上し、人材の市場価値が高まるだけでなく、組織の創造力・変革力・スピードが高まり市場競争力も強まっていきます。その勢いに乗って、経営者はあらたな事業戦略を描き、さらに上を狙える新たな人材を確保していくのです。
そのような資本主義的な戦闘力のある企業経営の人材活用を支えるインフラが、ジョブ型雇用と呼ばれる仕組みといえるでしょう。
次回は、ジョブ型雇用と人材の育成・成長のスピードについて掘り下げてみようと思います。

株式会社プライムコンサルタント
代表 菊谷寛之

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