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版元が民事再生手続きで、メディアとか自分の未来について考えざるを得なくなった

 ちょっとまとまらないままに書き始めてみる。

 先日、“作品”として残る紙媒体のような仕事がしたい、みたいなことを書いた矢先、私が長く紙媒体の仕事をしてきた会社が民事再生手続きに入り、紙媒体の仕事がガッツリ飛んでしまった。このタイミングかよ、という。

 出版業界は慣例的に原稿料の支払いが遅く、その会社は発売月の翌々月の10日払い。民事再生手続きに入ったのがその前日で、入るはずの原稿料(つまりは私のここ数カ月の生活費)が未払いになり、さらには今まさに作っていた雑誌とムックの制作も止まって、あまりにもでかい損害を食らった。

 単に取引先というだけじゃなくて、編集者として駆け出しの時代を過ごした前職場でもあるので、媒体と会社への思い入れもあった。思い入れがあっただけに、裏切られた感のあるやり方でもあった。編集長から連絡をもらったときに謝罪の態度ではなかったのも、引っかかっている要因だと思う。

 今進めている別の書籍も、がんばって作ってもまた支払われないんじゃないかという恐怖心も芽生えて、仕事へのやる気もなかなか起きず……。資本主義への不信感、みたいな方向にも行きかける。


 clubhouseでも、「エイ出版社の民事再生から考えるメディアの未来」というルームができて、何時間も話が続いていた。大勢の人がスピーカーになっていて、全部聞いたわけではないけど、いろんなテーマが出た。

(こういう箇条書きもclubhouseの規約の「record」に当たるのかな? 微妙にわからないのだけど)

・紙は終わりで、これからはウェブの時代とか、二者択一ではない。紙やウェブなど、それぞれの媒体の特性を生かすことが大事。

・現状、ウェブには紙媒体のような編集者がいない。雑誌の編集者は自分たちの強みをもっと自覚して、それをうまく生かす方法を考えたらいい。

・今はまだ雑誌の権威ってあるけれど、それは雑誌でなければいけないわけではなく、これからの時代は例えばウェブメディアとか別のコンテンツに権威がつく可能性もある。それをどう生かすか。

・雑誌は文化だから、残ってほしい。例えば書店だけでなく美容院とかでも販売するなど、雑誌を残す方法を考えることができるのではないか。

・コアなファンがたくさんいたのだから、雑誌を作るだけでなく、顧客リストを作ってもっとコミュニティ作りとかをうまくやっていれば、生き残る方法はあったのではないか。

・(台湾の方より)日本の編集者は作ることばかりで、マネタイズを考えない、考えるのは汚いことのように思っている人が多い。そこを変えないと。日本の出版業界は、再販制度である意味守られている。

・グローバルに売るには、雑誌は難しい(写真やイラスト、テキスト、広告などいろんな要素が入り混じっているから)。グローバルに売るには、実はテキストがいちばんやりやすい。

 などなど……。耳の痛い話もあった。ずっと同じメディアにかかわって、同じやり方を繰り返していると、どうしても近視眼的になってしまっている部分が多いなと感じた。


 こうやって「メディアの未来」を考えることももちろん大事だけど、そもそも自分はメディアを通して何をやりたいの? というところに戻ってくる。

 「自分のやりたいこと」もそうなんだけど……、なんというか、スピリチュアルっぽい言い方になってしまうんだけど、「世界の大きな流れの中にいる、ちっぽけな私というツールを、最大限に活用するにはどうすればいいか?」という感じ。

 私は仕事をくれる会社や編集部、編集者、著者のためにがんばって仕事をしてしまう面が強い。でも、そうやって仕事をしていると、今回のようなことがあったときに、裏切られたと感じてしまう。そうじゃなくて、もっと大きな目的のために仕事をしたくて。「世界のために自分を最大限に活用できている」と感じられたら、おそらく自分自身もいちばん満足できると思う。

 で、私にできることって何なの?と。

 ざっくりの方向性で言うと、私がやりたいことは、雑誌みたいに旬の情報を届けることじゃなくて、もっと人間の根源的な部分に触れることだと思う。媒体で言えば、雑誌じゃなくて書籍かなと。もっと言えば、そういうものであれば、別に紙媒体、書籍にこだわる必要はないのも事実。

 もう一つは、社会の中でいないことにされがちなマイノリティに焦点を当てて、そういう人たちがより生きやすい社会になるよう貢献すること。

 こう考えると、マネタイズとはほど遠いんだよなあ。ううむ。

 最初のほうに書いた資本主義への不信感にもつながるんだけど、たくさん稼ぐのがいいことっていう価値観から離れたほうがいいというのも、ここのところ思っていることではある。私は「メディアで稼ぎたい」わけではない。自分の書いたものが、少人数でも人の心を動かして、その人やまわりの人の人生を少しでも救うものであったら、と思っている。もちろん、生きていくためにお金は必要なんだけども。

 とりあえず、考えるだけではわからないから、ざっくり思っている方向へトライ&エラーを繰り返すしかないかな。

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