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Merci Vahid、W杯への道中から

 2018年FIFA W杯ロシア大会、セネガル戦が催されるエカテリンブルクに私は向かっている。1人のサッカーファンとして、今の心情を書いてみようと思う。

 ご存知の通り日本はコロンビアを2-1で下し第1戦を勝利で飾った。しかし、貴重な勝ち点3を、心の底から喜ぶ事は出来なかった。あの決断をした"僕らの代表"のトップや、その正当化を図ろうとする面々が脳裏を過ったからだ。そして何より、日本を本大会へ導き、「W杯が突きつけてくる要求」を示し続けたハリルホジッチ監督への無念が湧き出たサッカーファンは私だけでないはずだ。当然、私はハリルと仕事をした事はない。それどころか現場からは高校サッカー引退を機に遠ざかり、サッカーに救われてはきたものの、人生を捧げているとは言い難い人間だ。それでも解任発表に感じた怒りや悲しみには、ロシアの地へ赴く高揚感を奪われた。スタジアムに向かう前のワクワク感、サッカーの醍醐味の一つだろう。W杯の舞台にも関わらずその感情を削ぎ落とされた失望は、現地で代表のユニフォームを着ることへの抵抗感すら抱かせた。

 しかし、待っているのは4年に1度のフットボールの祭典である。リバプールファンの私にとっては幸い、セネガルのマネがいる。そんな気持ちで迎えた今大会であったが、アイスランドやメキシコが"下馬評"を覆す姿を目の当たりにすると、「自国」を応援したい気持ちが否が応でも出てきてしまう。感情の板挟みの中で、幸運にも(勿論、戦術頑張るを遂行した選手達、"勝負師"西野さんの功績でもあるが)手にしたコロンビア戦の白星には、ある現実を突きつけられた。この国は、解任劇の所為で負けたって何も変わりはしない。ハーフタイムにライブを開き、翌日のワイドショーではモノマネ芸人が躍動する。そんな国では、負けてしまっても、検証もなされず、“世間”は無関心に陥るだけだ。ならば、勝つしかない。結果を出し少しでも注目、資金を集める事が将来の改革・強化の繋がる(と信じたい)。

 私は、ハリルホジッチ監督が指揮した期間に大きく成長した選手達がロシアで躍動する姿が観たかった。コロンビア相手に2度のデュエルを制してMOMの活躍を魅せた大迫勇也。内田篤人との交代で観客を落胆させていた酒井宏樹は、フランスの地で誰よりも頼もしくなった。"問題児"原口元気は最後までチームの為に走り続ける選手になった。ガンバ大阪で王様してた宇佐美貴史がハリル就任以来、(未だ課題ではあるが)守備の意識を急速に高めたこともよく覚えている。彼らだけでなく、監督の下で成長した選手達で"仕上げた"完成形を観たかった。「日本の幸運を祈る」と語ったハリルの真意の程は定かではないが、選手達への想いからの発言である事は確かだろう。日本代表は、それ程までに真摯に向き合って仕事をしてきた監督を後ろから刺してしまった。それでも、彼が選手をサポートしてくれと言うならば、青色のユニフォームを着て今の代表を応援しようと思う。どんな結果が出ようとも、ハリルホジッチ監督への感謝と、協会への説明責任の追求を忘れる事はなく。

Merci Vahid

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