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ショパンの旋律とモクズガニ

朝6時前。
部屋は肌寒くて、カーテンの外はまだ薄暗い。

私はキッチンでショパンのピアノ曲を流しながら、頂き物の茹でたモクズガニ3匹を朝ごはん用にほじりはじめる。 

子供用にカニの身を丁寧に。
私の目の前には、ほじった後のカニの残骸がお皿いっぱいに積まれていて。
この光景をカニの視点で且つ人間的に見たら、なんて凄惨な光景だろうと思った。

食べるためとはいえ、こんなにカニをバラバラに分解して、バチがあたらないだろうか。
そんな思いもよぎりつつ、私はカニの足を1本、また1本と、もぎ取っていく。
最後に待っている美味しい美味しい本丸(カニ味噌)を目指すのだ。 

そんな、自分が酷いことをしているのではないかというウッスラとした考えを、ショパンの旋律は慰めてくれた。 

この綺麗なピアノの旋律が、カニさんにとっての鎮魂歌になるのだろうかとぼんやり、思った。

(あ、また、私変なことを書いている気がする。)



□□



カニが食べられない夫は、「この家が静かになる時は、君たちがカニ味噌をすすっている時くらいだ」と言う。

カニの胴体を開ける時は緊張感が漂う。
息子もカニ味噌の美味しさを知っているからで、味噌は公平に分け合うことを私は大事にしている。

以前は、奪い合うようにして二人でカニ味噌を啜っていたが、自然と「息子は頭側。私は腹側」という食べ分けにおさまった。

今後、娘もカニ味噌に目覚めたら、私は大人しく譲らなくてはいけないわ。
そうよ、だって私は大人なんだから…。
大人らしく、ね…。


□□



カニを食べているとどうしても食い散らかし感が出る。
隅々まで食べようと思うと、さらに、上品とは言えない食べ方になる。
カニ味噌を食す時なんてまさにそうで、下品とも言えるだろう。

上品に蟹を食べる作法、茶道的な「蟹道」みたいな面白いものってあるのかなぁ?

と、後片付けをしながら、ぼんやり思った。


□□


おしまい。





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