マナーオ〜風邪のひきはじめにタイの香りを〜
「ペンアライナ?(どうしたの?) もしかしてちょっと風邪気味?」
ルームメイトのジャップが、ベッドに座っていたわたしのとなりに腰をおろしました。
「うん、ちょっと のどが いたいかも」
常夏タイでも、季節はあります。乾季、雨季、そして少し涼しい季節。日本の秋口のような涼しい季節は、バンコクだと1週間くらいで去ってしまう年もありますが、この涼しい季節に入ると ここぞとばかり、革ジャンなどを着て(!) 束の間の秋口ファッションを愉しむひとたちが続出するのです(笑)。
「ナーオ!(さむい)」
暑い暑いタイで待ちわびたこの季節。この「ナーオ」のなかには、わくわく嬉しい気持ちが宿っているのです。ナーオ!と言いながら、目をきらきらさせて肩をすくめるこの季節を、タイ人はこころからたのしみ、愛しています。
それでも、季節の変わり目はやっぱり体調も崩しやすいようで、タイに留学していたこの年、わたしはひさしぶりに のどに違和感を感じていました。
「ちょっと待ってて!」
ジャップはそういうと、外へ出かけ、袋を手にしてすぐにもどってきました。袋のなかには、、、、
「マナーオ(すだち)?」
「チャイ(そう!) 屋台で買ってきた。マナーオ(すだち)は風邪のひきはじめにいいんだよ。とくに、のどが痛くなりそうなときや、もうすでに痛いときに」
そういうと、ジャップはマナーオを洗って包丁で四つ切りにしました。そして、そこになんと、たっぷり!はちみつをかけたのです。
「ギン(たべて)!」
「えー? このまま? すっぱそう!」
「大丈夫大丈夫! はちみつたっぷりだから全然酸っぱくないよ。すごい効くんだから! うちの田舎でも、みんなこうやって風邪のひき始めにマナーオをたべるの」
すだちにそのままかぶりつく! 想像しただけでも酸っぱそうだけど、はちみつたっぷりのすだちは、ほんとうに美味しくて、のどが痛くなりかけていたのが嘘のように、あっという間に治ってしまったのです。また、疲労回復にもよいみたいで、ちょっと疲れたときなど(特に乾季のタイは、外にいるだけで暑くて汗びっしょり)、わたしはこのマナーオと はちみつにその後もたくさん助けられました。
そんなマナーオ(すだち)が、今年も ふるさとのあちこちでたくさん実をつけ始めたようです。先日、友人からいただいたマナーオをみて、タイを懐かしく思い出しました。
採れたてマナーオ。なんてつやつやでうつくしい!🥺
季節が夏から秋へ、行ったり来たりしながら移行していくこの時期。のどが少しイガイガちくちく、、、久しぶりにマナーオに はちみつをたっぷりつけていただきました。
とれたてマナーオと はちみつは、のどにやさしく流れていって、爽やかな酸味が細胞のすみずみまで広がっていきます。
なつかしいなぁ、、、タイのみんなは元気かしら?と想いを馳せながら、2つ目にもかぶりつく。
この季節の変わり目に寄り添うように実を結ぶマナーオ。みんなが健やかに過ごせるように、自然はいつもあらかじめ必要なものをたっぷりと大地に用意してくれているんだろうな。そんなことを想って、感謝のきもちにひたる朝。
あちこちで秋の花々が本格的に咲き始めました。どの季節の始まりも大好きですが、やっぱり秋もすごく好き。今年もめぐってきてくれた実りと彩りの美しい季節、、、秋のあれやこれやに思いめぐらせ、わくわくほくほく......。