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プレーンオムレツ、蕪入り猪汁、虎魚のお造りの日。

午前八時。起きてキッチンに立った途端、スクランブルエッグの延長みたいないつもの適当なオムレツではなく端正なプレーンオムレツが食べたくなり、普段使っている卵焼き用の四角いフライパンの代わりに丸い方を取り出して火にかける。私のオムレツに欠かせない黒胡麻パウダーは今回は加えず、卵三個に「酵研」の酵母原液を加えてよく解いて準備。多めの有塩バターを温まったフライパンに入れたら卵液をジュワッと入れ、グシュグシュっと混ぜたらささっと奥に寄せ、火を止めて手前にヨイショっと転がしたら黄色が映えるプレーンオムレツの出来上がり。後ろから覗いた夫が「お、今朝はちゃんとしたオムレツだ」とちょっと嬉しそうに言う。材料も手間もほぼ変わらないし同様に気血を補ってくれるのに、スクランブルエッグや卵焼きよりオムレツの格が少しだけ上なのが不思議だ。

昨日出町枡形商店街の「改進亭総本店」で今年もぼちぼち終わりに差し掛かった猪肉を買って来たので、珈琲を飲んだ後、ランチ用に豚汁ならぬ猪汁を作る。小さく切った人参、蕪、長葱を炒め煮したら、食べやすく切った猪肉とごく少量のニンニクを加えて軽く炒め、干し椎茸と鰹でとった出汁を加えて弱火で少し煮る。全体的に一体感が出て来たら、普通の味噌と白味噌を半々に混ぜたものを溶いて味を調え出来上がり。猪の脂には甘い風味が確かに合うけど、一般的な猪鍋のように白味噌たっぷりのこってり味は私にはちょっと重いので、鍋にする時はしゃぶしゃぶ風にして梅酢を使ったタレで食べることが多い。出来上がった猪汁は猪の脂の旨さが野菜によって更に引き出されて最高の仕上がり。あとは艶々の丹後コシヒカリを炊けば他に何も要らない、質素かつ贅沢なランチの完成だ。

午後、地下鉄四条駅近くのピラティススタジオで一時間レッスンを受けた後、今出川新町を下がったところにある食材店「エナジィ ママ」で春菊や人参、卵などを買って帰宅。調べ物をしているうちにあっと言う間に五時半を過ぎ、今夜は木屋町二条の「割烹やました」で食事なので、着替えてタクシーで夫と待ち合わせをしているホテルオークラに向かう。ロビーで十分ほど時間調整してからホテルからすぐのところあるお店へ。私は生ものを食べる時は脾胃が冷えないよう常温か温かいお酒を頼むことにしているので芋焼酎のお湯割りを頼む。料理はまずは虎魚のお造りを注文して夫と乾杯。続いていつもの炭焼きのもろこ、赤貝のてっぱい、河豚の白子焼き、蕗と独活の炊いたもの、すっぽん鍋、鯖寿司などを注文。こちらの店に通い始めて早いものでもう二十年以上。調子に乗って遊んでばかりの大学生だった私も立派なおばさんになり、夫も気付けば七十代になり友人知人が亡くなり出した。大昔に亡くなった夫の父が「戦争では食べられなくなった奴から死んで行った」と言っていたらしい。食べながらそれを思い出し、最期の瞬間までこうして美味しく食事が出来る体で居られるように切に祈る。

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