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役員として期待される「たたずまい」はこの10年間でこんなに変化している

タイトルに興味を惹かれてハーバードビジネスレビュー2024年3月号「生成AI 戦略と実行」を手に取りました。期待どおり生成AIに関する記事はどれも興味深かったのですが、期待に反して最も興味が湧いたは「『リーダーらしさ』はどこから生まれるのか」という記事でした。


米国企業において「いかにエグゼクティブ・プレゼンスを身につけるか」というのはエグゼクティブ・コーチングの典型的なテーマのひとつです。日本企業の経営人材育成においても「リーダーらしさ」というテーマに行きつくことは珍しくありません。エグゼクティブ・プレゼンスを日本語でいえば「役員としてのたたずまい」といえるでしょう。
 
役員としてのたたずまいは知識やスキルのことではありません。役員になったばかりの方であれば、役員として求められる知識やスキルが不足していても不思議ではありません。

役員としてのたたずまいは、むしろ「あり方」に関係します。どのような存在でいたいか、どのような影響を周囲に与えるかなど、知識やスキルよりも根源的な要素です。

米国企業の役員を対象に実施した2012年と2022年の調査結果を比較し、威厳、コミュニケーション、外見の観点から期待される資質がどのように変わっているかが記事では整理されています。2012年には見られず2022年に新たにトップ6にランクインした資質を中心に見ていきたいと思います。

威厳に関する資質

2022年に新たにランクインした資質
・包摂性 (インクルーシブネス)
・他者尊重

威厳に関する資質では、包摂性と他者尊重がこれまでにはみられない資質としてトップ6にランクインしています。これまでの威厳はどちらかというとみんなのパワーを自分が使うための資質でしたが、これからの威厳には自分のパワーをみんなのために使う資質が求められているといえるのではないでしょうか。

言い換えれば「あの人はすごい」といわれるよりも「あの人のおかげだ」というたたずまいが役員に期待されているといえそうです。一人の傑出したリーダーがその他大勢を率いるという形ではなく、誰もが活躍できるように下支えしてくれる存在ともいえます。

日本企業では役員だけではなく全体として、他者尊重の前に自分を大切にするということが必要にも思います。過労死問題など、働きすぎは社会問題として引き続き残っていますし、自分の幸せを会社で求めることは不届千万という空気感を感じているのは私だけではないでしょう。

コミュニケーションに関する資質

2022年に新たにランクインした資質
・「『耳を傾け学ぶ』姿勢」
・本人らしさ (オーセンティシティ)

自分をさらけ出しつつ相手も知る。そうした深い人間関係を築くコミュニケーションが役員には期待されているようです。日本企業の役員にとって「本人らしさ」というのはとてもハードルの高い資質ではないでしょうか。

まずもって「本人らしさ」といっても何を言っているのか相手に通じないことがあります。これまでの経歴や趣味、特技など、時間をかけていろいろとお伺いした上で「たとえば〇〇な点は、〇〇さんらしいところと私は感じました」とお伝えすると、ようやく「そういわれれば」というのが私の体感値です。

そもそも、それを言っている私自身の「本人らしさ」はどうなのかと問われれば、わたしの周りにいる数多の超個性派が頭に浮かんできて、とても本人らしさを解放できているとは言えません。

「『本人らしさ』が出ていない人が『本人らしさ』を語るから伝わらない問題」はあるにしても、本人らしさをどう発揮するか、日本企業における役員のたたずまいを考える上では広く見られるテーマのひとつではないかと思っています。

外見に関する資質

2022年に新たにランクインした資質
・本人らしさ
・健康的
・「ニューノーマル」な着こなし
・オンライン像の構築
・人前に出る積極性

6項目中5項目が入れ替わっています。2012年は魅力的な容姿、次の役職にふさわしい服装、身長、若々しさ、スリムな体格、そこに2022年にもみられる洗練を加えた6項目です。2012年の資質はなんとなく頭の中に画一的な「役員あるある」なイメージが浮かんできます。本人よりも肩書が前にでている感じすらします。

それに対して2022年の資質はより個として認識されることが大切にされています。特にニューノーマルな着こなしやオンライン像の構築など、リアルだけでなくオンラインでも個として確立することが役員のたたずまいとしても期待されている点は興味深いです。

こちらは米国企業を対象とした調査の結果であり、日本企業の役員にオンライン上での個の確立が現時点で期待されているかは疑問です。しかしコロナ禍が収束したといわれる今でもオンラインの活用は以前よりも圧倒的に進んでおり、今後は日本企業の役員もオンラインでの個の確立とは無関係ではいられなくなるのではないでしょうか。

まとめ

威厳、コミュニケーション、外見で新たに見られた資質は、いずれも一貫した時代の変化を感じさせます。それがどんな変化なのかを理解するために、いまさらながらですが最後に2012年と2022年がどんな年だったのかも振り返ってみます。もうすでに記事が長くなっているので日経新聞によるリストだけ。

2012年の10大ニュース
・衆院選で自民圧勝
・野田首相、党首討論で解散表明
・消費増税法が成立
・政府、尖閣諸島を国有化
・自民総裁選、安倍氏が逆転で再登板
・消費増税巡り3党合意、民主分裂
・北朝鮮がミサイル発射
・韓国大統領が竹島上陸
・政府、大飯原原発再稼働を決定
・維新など第三極が合従連衡

2022年の10大ニュース
・物価高・利上げ、世界経済に影 コロナ後の回復腰折れ
・習近平氏3期目、「1極」体制が完成 台湾統一「公約」に
・円相場、32年ぶり150円台 日本経済の弱さ反映か
・米中間選挙、上下院ねじれ 縛られたバイデン政権
・SNS、公共と利に揺れる 米Twitterをマスク氏が買収
・大谷翔平・高木美帆・藤井聡太 「全能」に挑んだ者たち
・「プーチンの戦争」泥沼に 核の脅し、世界秩序動揺
・岸田首相の政権運営、崩れた力学 安倍元首相撃たれ死亡

コロナだけでなくウクライナ戦争など、大きな社会的・地政学的なシフトが2022年には起こり、世界はこれまでになく複雑化しているように私には感じられます。同時に大谷翔平さんなど、これまでには考えられないような成果を現実にしてしまう個人の登場もとても象徴的だと思います。

資質や時代の変化を改めて見ることで、役員のたたずまいの根本として、「世の中はますます複雑になっており、もはや誰か一人の英雄の力でどうこうできるものではない」と同時に「みんなの可能性は益々解放されており、力を合わせればより良い変化を起こせる」という時代認識が期待されているのだと強く感じました。

みなさんはどんなことを感じましたか?
最後まで読んでいただきありがとうございました。


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