1on1の真髄とは何か?
ここ数週間の間に、集中的に1on1セミナーを受講した。そこからの気づきや発見を記そうと思う。
1on1セミナーを実施してくれたのは自分の尊敬する素晴らしい友人で、本家Y社の1on1の専門家だ。その場で展開される良質なセミナーは非常にわかりやすく、鋭い洞察とMECEな分析に満ちていた。そしてそれ以上に、1on1の真髄をその人の「在り方」から発見した。
■1on1の真髄とは
1on1の真髄とは何か?
1on1は何か特定の手法(会話の構造、人事制度、教育研修等)ではない。
1on1とは上司と部下の関係性を良質化する事で両者の精神状態の発達(成熟)を促すものである。両者の精神状態が発達すると、仕事の文脈において以下のようなことが起きる。
・視座が高まり、より高い目的意識、より高尚な意義(大義)のために行動しようとする
・視野や認識の幅が広がり、多数のステークホルダーや市場や業界全体、地球環境などに配慮した行動を取ろうとする
・自らの保身を手放し、リスクを取って大義の為、他の誰かの為になる行動を取ろうとする
これらは一つの現象の現れ方であって発生源は一つだ。
源(ソース)と呼ばれる深い領域から湧き上がるように生まれる言動は、仕事はもちろん人生全体において効果的となる。それは源(ソース)が地球上の全ての存在と繋がっているからに他ならない。
これはオカルトの話ではない。世界の構造の話であり、真髄だ。
■1on1の導入を目論む側が知っておく事
1on1を導入しようとする企業の人事部やコンサルタントが、概念を分かりやすく説明する為に良く言われる事にこんなフレーズがある。
『1on1」は期末の面談や業務上の報連相とは違います。』
『部下の話をとにかく良く聞いてください。上司はあまり意見を言わないようにしてください』
『事実を押さえて部下にフィードバックを返し、学習と成長を促進する事が大切です。』
『出来るだけ部下の中長期の成長目標やキャリアプランについて語ってください』
これらの内容は誤りではない。1on1で語られている状況の一つの側面を捉えている。
1on1はこうやりましょう、こういう段取りでやりましょう、というアプローチは導入期には肯定されるべきだ。それは初心者を含めたすべての上司と部下が、1on1の真髄へと至る道のりへの入口に立つために必要だからだ。目標設定の訓練や傾聴トレーニングなどの基礎練習はいくらやっても良い。しかし、それ自体が1on1ではない事は知っておく必要がある。
1on1が辿り着きたい到達点とは、上司と部下が真に深い関係性の中で相互に育み合い、互いの力とコミットメントが引き出される場を生み出す事にある。上記のようなアプローチの型はそこへと至るプロセスの一つとして捉えておくとよい。
■上司と部下の関係性の良質化
上司と部下の関わりのレベルがより良い状態へと進化すると、業務上の報連相も、評価を伴う期末面談も、何気ない雑談も、全てが1on1の一部となる。関係性の良質化とは、以下のような状態へと近づいていく事を指す。
・保身なく何でも率直に話し合える
・相手からの耳の痛い話に感情的に反応せず、平常心でいられる
・互いの事を一人の大切な存在として捉えている
・互いに交わした言葉に対し、責任を取る為に真剣に仕事に向き合う。約束やコミットメントを守ろうと必死に努力する。
上司と部下の関係性の良質化は、どのような状態なのだろうか。
わかりやすく例えると、まるで師弟の間柄になったかのような「感覚」だ。互いに全人格的にかかわる。当然、仕事以外の話(雑談)も出てくるだろう。しかしその雑談も単なる世間話やアイスブレイクではない。全人格交流の会話だ。関係性が良質になり、互いに全人格的にかかわるようになれば、会話が互いの人生全体、将来の共有ビジョン、大切にしている価値観や夢等に言及されるのは当然だし、困っている事を一緒に解決していこうという関わりが生まれてくるのは必然だ。そこには本物の人間関係が存在する。本物の人間関係は、おのずと潜在能力を解き放つ方向へと人々を突き動かす。
即ち、上司と部下の関係性の良質化による視座の変容(ティール組織的に言えば、発達段階が高まる)である。それによりあらゆる仕事における言動を呼び起こす源(ソース)に変化が訪れる。何のために仕事をするのか?何故今自分はここにいるのか?これらの深い問いと共に、自然と業務上の関わりの質が向上する。従来まで今まで交わされていなかったような言葉が飛び交うようになる。
上司、部下それぞれの現在の心理状態や価値を置いて生きている精神構造の成熟化と、互いに信頼し合う度合い等が総合的に加味されて、上司と部下の対話という1on1はより高い次元の関わりへと進化する。
誤解を避けるために付け加えると、抽象的な事(ふわふわした夢物語)だけを話す訳では全くない。むしろ非常に具体的で実務的な話にもなるだろう。ポイントは、仕事における課題を取り扱う際の視座の高さ、視野の広さ、真剣さ、自分事として仕事にのめり込んでいる具合の深さ等が変わるという事だ。
言い換えると、『仕事に取り組む真摯さ(インテグリティ)の"次元"が変わる』と表現できる。
まるでそれは、箱根駅伝を走るメンバーに選ばれたランナー達が自分の肩にかかっている襷を繋ぐ意味を分かって走るかのようなオーナーシップを呼び覚ます。それこそが1on1の真髄が現れている状態と言えるだろう。
その領域へと至る入口として1on1は存在する。最終的に進化した状態であれば、どんな形の1on1が存在しても良い。話す時間の長さでもなければ、話すテーマの事でもない。上司と部下の全人格的な関わりから生まれる躍動感、仕事に生命の息吹を吹き込む関係性。これこそが1on1なのだ。
1on1を導入する際、やむを得ない事だが、組織への定着を目指してフレームワーク化させていく傾向にある。フレームワークは悪くない。何事も型が大事なのは、仕事もスポーツも武道も同じだ。しかし少なくとも導入を目指す側、運営している側は1on1の目指す真髄の奥深さを矮小化させてはならないだろう。
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