見出し画像

オーバーエイジ枠の中途採用戦略を考える

たかし

昨今、人生100年時代と言われて久しい。従来、日本企業が採用を行う際は主に若年層を中心に考えてきた。それは今も変わっていない。しかし、今後の時代の流れを考えると、若年層だけの採用では追いつかなくなり、中高年の転職者を受け入れていく必要性が一層強くなっていくと予想される。そこで今回は、年齢別の中途採用戦略について考察をしてみたい。特に注目したいのは、45歳以上の中途採用についてである。

一般的な採用のセオリーは、中途採用は若年層に限る、というものである。過半数以上の企業が採用については「U35」を基本としている。年齢が若いほど新しい仕事や環境に適応しやすい、と考えられるからである。ビジネスパーソンとして年齢と経験を重ねるほど、新しい環境に馴染む事が難しく、その結果として転職しにくい。中途採用を長年担当してきた中での肌感覚にはなるが、これは一定の妥当性がある。このあたりをもう少し解像度を上げて考えてみたい。

年齢別採用戦略概観


U30
特定の専門性が高い職種を除き、概ねU30は未経験でOKである。重要なのはコンピテンシー(行動特性)となる。U30はまだ完全にその人の仕事スタイルが確立していない事が多い為、職種及び業界を跨ぐ大幅なキャリアチェンジをしても、コンピテンシーさえマッチングしていれば早期に仕事に馴染む事が期待出来る事が多い。無論、ここで候補者を迎え入れる環境づくりとして主に上司の関りが大きい事は言うまでもない。

U35
仕事の基本的な流れがほぼ同じであれば、業界や職種を変えても適応できる可能性が高い。例えば、営業職から販売職へ、経理職から労務職へ、研究職の取り扱いテーマの変更、等が考えられる。30~35歳で多くのビジネスパーソンが「仕事の型」を確立する傾向にある。この「仕事の型」は、コンピテンシーをより具体的に体現した、その人固有の仕事の方程式である。「仕事の型」がある程度確立した後には、それ以外をやりにくいと感じやすい傾向にある。

U40
U40は職種(仕事内容)が同じであれば、業界や市場環境等がある程度は変わっても対応出来る。わかりやすいのは、人事職、経理職、経営企画職などのバックオフィス系である。営業職の場合は、その仕事のパターンがほぼ同じである必要がある。例えば、新規開拓なのか、ルート営業なのか、取扱製品の性質は有形か無形か等である。営業職の場合、早期に結果を出したいならば、営業先か取り扱い製品のどちらかが前職と同じ(あるいは極めて近しい)事が求められるだろう。

U45
同じ仕事&同じ職種は固定の前提となり、似通った業界構造、近しい市場環境等が揃っている必要がある。企業がU45の採用を検討する場合、多くが管理職(候補生)となる。あるいは部下無し専門管理職となる。そうなると、転職者はこれまで培ってきたスキル、経験、ノウハウ等を総動員して仕事にあたる事となる。雇用する側は、その人に特別な教育を行う事は原則として無い。無論、企業の個別の事情や市場における立ち位置等についてのインプットは行うだろうが、それ以上の教育は行う予定がなく、自らの経験と知識で対応してもらう事となる。想定として考えられるパターンは限られており、多くが同業界からのスライド転職(会社が変わるだけで仕事内容や役職レベルは全く同じ)、もしくはノウハウのある成熟した会社からベンチャーへの転職等である。

人事職を例にとると、成熟した会社で人事の管理職をしていた人を、同じ業界内のベンチャー(or中小)企業で幹部(部長)として迎えるというものである。これはある一定程度の効果が見込め、有効性も高い。既に確立している知識や経験を成熟企業からベンチャー企業へ移植する作業となる為、転職する側も何を期待されているかがわかりやすいし、受け入れる側も成果を想定しやすいからだ。個人的な見解では、出来れば業界は同じ方が良いだろう。この年齢層になると、業界特有の事情を一から学びなおすのは厳しいと感じる。その理由に、業界固有の事情についての知識は、ビジネススキルのようなポータブルスキルと異なり、業界の中で様々な事例や事件を通じて習得する暗黙知に近しく、業界紙などを読むだけでは文脈(例:企業間の勢力図や相互作用)のような微妙な機微までは理解しにくいからである。管理職としての活躍を期待される以上、転職者も「勉強しながら頑張ります」という姿勢が取りにくい。この手の中途採用は、変化を最小限に抑える事が成功のコツと考えられる。

オーバーエイジ枠


45歳以上の転職は「オーバーエイジ枠」とする。なお、ここで考えるのは上級管理職候補者である。一般職~現場管理職層の転職はここでは論じない事とする。この層の転職は非常に成功させる事が難しい。仮に早期離職をしなかったとしても、「想定通りの活躍」を生み出す事は容易ではない。だから多くの企業の人事部がオーバーエイジ枠の採用を敬遠する。少なくとも採用専門職がこの手の採用を積極的にやろうとする事は少ないだろう。むしろ、ハイクラスを取り扱うエージェントやヘッドハンターが活発に動き回っている印象がある。その理由は単純、単価が高く大きな収益を見込めるからに他ならない。

誤解してはならないのは、オーバーエイジ枠の人はスキルや経験が古いから通用しない、能力がない、等ではない点である。オーバーエイジ枠にも様々な人たちがいるが、総じて共通して無いものは柔軟性(状況への適応力)である。これはもはや年齢と経験による影響である為、転職者側に柔軟性の要素を求めてはならない。採用する企業が予め熟慮した上で受入れ戦略を十分に練っていなければならない。上級管理職はそのポジション故、社内外の多く領域に強く影響を及ぼす為、わずかなミスマッチであっても多大な被害をもたらし、悲劇を生み出す事になりかねない。その対応には慎重に慎重を重ねるべきだろう。

オーバーエイジ枠採用を成功させる4つの留意点


オーバーエイジ枠の採用を成功させる為、企業が考慮するべき点は大きく分けて4つある。

①仕事内容

②業界や市場環境

③組織風土や社内環境

④経営陣との関係性

なお、この4つをしっかり揃えるのはとても難しい。ポーカーで言えば4カードくらいの難易度である。①と②については、U45と同じである。問題は③と④である。より詳しく見ていきたい。

組織風土や社内環境
これは一言で言い換えれば「仕事の進め方の作法」である。例えば、「仕事における根回しの位置づけ」は顕著に表れる特徴の一つである。新しく就任した上級管理職の転職者はほぼ必ずといって良いほど新しい施策を展開しようとする。それがCEOから求められているケースが多いからだが、それらの施策を展開しようと試みた際、どれだけ経営層や管理職層に事前の根回しを行うのか、という点は会社によって大きく異なる。事前に電話一本入れればよいのか、それともメールで済むのか、あるいは一人一人にじっくり時間を取って会話をしなければならないか、等である。特に大きな改革を打ち出すような場合は根回しは必須となるが、人間関係が出来ていない転職者がこれを行うのは難しい。よほど人懐っこい性格で様々な人に好かれるようなあり方でなければ厳しい。後援者となる経営陣の全面的なバックアップなしでは成立しえない。その他、新しい施策を一気に進めるのか、ステップバイステップで進めるのか、等も作法に入るだろう。いずれにせよ、これらの仕事の作法は外から来る人は全くわからない為、事前の丁寧なレクチャーが必要となる。そして、その作法が前職と近しい流れである必要がある。オーバーエイジ枠は総じて作法が異なる環境に馴染めない傾向がある。自らの知識、経験、仕事の進め方への自負などが心理的抵抗を生むからである。この部分は採用時の面接でじっくり時間をかけて対話を重ねるべきだろう。

経営陣との相性
日本企業の場合、転職者が現体制の経営陣に好かれていて、受け入れられているかは非常に重要な要素ある。その人が上級管理職として活躍する為には、単に仕事が出来るだけは無理である。上級管理職となると、社内政治に長けていなければならない。社内政治の存在を悪く言う人がいる。その悪影響を放置するべきではないと主張する。まったくその通りである。しかし人が一定以上集まれば必ず政治が生まれ、利害関係の対立や既得権益の攻防が生まれるものである。その事は避けられない。そうであれば、上級管理職は政治の流れをうまく読み取ってその流れに乗ったり、新しい流れを生み出したりできる人でなければ務まらない。日本企業の場合は特にこの傾向が強い。経営陣との人間関係は、この政治力と強く結びついている。仕事の作法を誤って経営陣から嫌われたり、目立ちすぎて疎まれたりしてしまっては、社内で影響力を発揮する事が出来なくなってしまう。だから、日本企業では経営陣に好かれている人物が上級管理職に選ばれる傾向が強い。それを、外部から採用するという事は、その会社が上級管理職の候補者を出せなかった、という事になる。あるいは、管掌取締役がその分野の候補者を推薦するも、CEOに受け入れられなかった等の心理的なすれ違い等が発生している事も考えられる。こうなると、問題は複雑化、内面化し、外部から来た人には全くわからないところで心理的な乖離が起きる事もあり得る。

オーバーエイジ枠採用を行って失敗している企業は総じて③と④と軽視している。要は、オーバーエイジ枠をU45と勘違いして採用しているのだ。U45とオーバーエイジ枠との最大の違いは、最前線での実践経験とその鮮度である。U45は仕事人生において総合的に最も脂の乗っている成熟期であり、最前線で自らも手を動かしながら陣頭指揮を執る事も多く、現場とマネジメントのバランスが最も良い時期である。その為、最前線で起きている様々な状況への変化を否応なく求められるので、スキルや経験を活かしつつ、アップデートを行いやすい。また、最前線に近いがゆえに社内の政治的な動きに疎くとも何とかなる。仮に営業職で言えば、優れた営業的戦術を完成度高く駆使し、お客様に真摯に対応している限り、一定以上の実績を上げられるし、部下からも尊敬されるのである。U45を経営陣として迎え入れるのは、ベンチャー企業が多いだろう。ベンチャーの場合、創業者CEOに気に入られて実力があればどんどん頭角を現す事が出来る。しかし、一定程度以上の規模と社歴がある会社の場合、U45の上級管理職を社外から招くというのは、文化的にも難しいと言える。そこで経験豊富なオーバーエイジ枠を選ぼうとするのだが、しかしここで問題が生じる。オーバーエイジ枠は成熟期を超えて、円熟期となる。円熟期には、それまで培ったスキル、経験、人間関係構築力、状況把握力、その他様々なノウハウがそのまま活かせる場所でしか機能し得ない。アップデートが基本的に期待しにくいのだ。

オーバーエイジ枠でかつ上級管理職まで進んでいる人は、一部の例外を除き、総じて仕事能力が高い。しかし、転職をすれば人間関係及びそこから生み出される政治力は完全にリセットされる。この場合、社内にその人の後ろ盾となってくれる経営陣が少なくとも一人以上いなければ、社内で孤立してしまうリスクが高まる。ただでさえアップデートが難しいオーバーエイジ枠の転職者がこれを独力で対応するのは、困難を極める。なまじ高い能力を活かして現場で活躍をしようものなら、経営陣がその影響力を恐れて抑え込もうとする事すらある。経営陣と転職者がしっかり融和しつつ、建設的な議論を活発に行える素地になっているか、という点が、実は最大限に考慮するべき事である。それを疎かにするがゆえにオーバーエイジ枠の受け入れに失敗している企業は多い。結果、高い年俸を用意し、膨大な紹介料を支払ったにも拘らず、思ったように活躍せずにくすぶったり、早期離職したりするケースが出ている。

はっきり言おう。これは転職する人の責任ではない。受け入れを行う企業側(特に経営陣)の問題だ。自社とシンクロ率の低い人を上級管理職として入れれば、悲劇的な結末になる事は火を見るよりも明らかである。

オーバーエイジ枠採用の正しいやり方

では、オーバーエイジ枠採用を成功させるためにはどのように行えばよいのか。以下にいくつかアイディアを上げてみたい。ポイントは、じっくり時間をかけて採用を行うという事だが、単にたくさんの候補者を長い時間をかけて比較検討する、という事ではなく、以下の事を確実に行うという事である。

経営陣同士で上級管理職候補を採用する事について、真に同意を作る
ここが一番難しくも、必ず押さえておきたい点である。本当は自分の部下を昇進させたかった、外部から上級管理職を招くなど気に入らない、等の心理的反発がないか、CEOが中心となって人事担当取締役と共に入念に打ち合わせをするべきである。

求める人物像要件定義を細かい部分まですり合わせする
スキルや経験については議論の余地が少ないだろうが、組織風土や仕事の作法、人柄などについて意外に練り込みが甘い傾向にある。CEOに細かい条件を聞きにくい、忖度して好かれる人柄を推し量るべきである、等の遠慮をしていると失敗する事は確実となる。

選考プロセスに現経営陣を出来る限り多く参画させる
現経営陣全員に選考を行わせ「誰があんな奴を連れて来たんだ」「俺はもともとあいつを採用する事には反対だった」等と言わせない構造を作る必要がある。そして、満場一致で合意した人だけを最終候補者に挙げるべきだろう。

候補者と何度も会ってじっくり会話する
出来れば候補者と複数回、情報交換と銘打って食事会等で長時間に渡って話すのも良い。候補者の人柄、雰囲気、考え方、習慣等をじっくり聞きだすのである。CEOや経営陣からも積極的に自分の話をして、お互いの雰囲気がマッチするのかを確かめると良い。その際、自社で受け入れを行う際の懸念事項についても予め話し合っておくと良いだろう。

候補者の部下となる人物も選考に加える
実際に実務を動かす際、社内事情に精通しているのは課長以下のミドル管理職層である。彼らの意見を選考に加える事で、実態に合った人物の採用を行う事が出来る。

オーバーエイジ枠の採用コンセプトを変える


もう一つのやり方としてはオーバーエイジ枠採用のコンセプトを変える事で摩擦や問題の発生を未然に防ぐ方法である。オーバーエイジ枠の上級管理職採用を行おうとする背景は、社内に特定の領域の上級管理職候補者がいない(あるいはまだ育っていない)からである。もし、社内にまだ経験が充分とは言えない為、今すぐ上級管理職にはできない有望な若手~中堅人材がいるとしたら、思い切ってその人を抜擢してしまい、オーバーエイジ枠人材をその補佐官としてつける、というものである。この方法には三つのメリットがある。

一つは、オーバーエイジ枠採用が発生させる不可避なトラブルを未然に防げる、というものである。あくまで上級管理職は社内人材で賄い、それを補佐する人物を採用するのであれば、社内における様々な思惑が起きにくく、オーバーエイジ枠の持つ経験や知識を上位者が取捨選択して活用する、という事が出来る

二つ目は、若手有望人材を早期に育成する事が出来るという事である。実践に勝る教育はない。かといって、いきなり重責を任せたら失敗して損失を出したり、本人が潰れたりしかねない。そこで、オーバーエイジ枠を補佐官としてつける事で、安全弁を働かせつつ有望人材に一気に上級管理職にふさわしい経験を積ませて育成する、という事が出来る。

三つめは、オーバーエイジ枠転職者の立ち位置の安全性を高める点である。上級管理職は総じて部下に相談しにくい問題を多数抱える事になる。転職したばかりで人脈もなく、状況もわからない中で責任をもって業務を遂行するのは非常に厳しい。また、オーバーエイジ枠の人は自らを最前線で働ける人と位置付けながらも、年齢的に後輩育成の重要性を理解してもいる。その場合、補佐官として若手有望人材を育成するという役回りは本人の重責を軽減しつつ、その人の持っているスキルや経験を活かしやすいし、伝承を通じて暗黙知を形式知にする事も出来る。これは会社にとって大きな無形資産となる。

結論:オーバーエイジ枠を採用する際には、受け入れる企業側が慎重かつ戦略的に行う事が求められる。

その責任を負うのは、言うまでもなくCEO及び人事担当取締役である。

この記事が気に入ったら、サポートをしてみませんか?
気軽にクリエイターの支援と、記事のオススメができます!