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読書記録|松岡亨 『お袖狸と大蛇の話』

読了日:2024年9月16日

 2024年9月某日、四国の愛媛県と香川県に行ってきた。目的はいつもの神社巡り・歴史探訪であるが、今回は少し内容が違っていた。四国といえば狸!ということで、できる限りお狸様を祀る神社を巡ろう!というのが主な目的だった。
 四国に点在するお狸様を祀る神社のうち、愛媛県の松山城のお堀の傍にひっそりと佇む八股榎お袖大明神(やつまたえのきおそでだいみょうじん)なる神社がある。通称「お袖(そで)さん」と呼ばれたりもするこの神社の御祭神は、呼称の通り「お袖」という狸さんで、その昔、松山城の森の中に住んでいた雌狸だったが、文政13年(1830)頃に堀の傍の榎の大木に住み着いた。その後、文明が進むにつれ都市開発などで榎の大木が伐られ、住処を点々とする。お袖狸は神通力があり、古来より人々の信仰を集めていたことによって、移り住む榎がその都度伐採されても、人々の手によって新たに祠が造られたりして、現在では元いた松山城のお堀の傍に戻って、大きくはないがお社を持ち、朱の鳥居も設けられて他のお狸様と共にしっかりと祀られている。

 八股榎お袖大明神には、長いことこの神社のお世話をしている高齢の女性が一人いて、ご本人が体験したお狸様にまつわる不思議な話を聞かせてもらった。この八股榎お袖大明神の修繕に充てるため、有志の方々がお袖さんにまつわる伝説と松山にいた大蛇の伝説を題材にした本を作ってくれたという。600円なんだけどもしよければ…とこの本を見せられた。別に高いものではないし、お袖狸について知りたかったので快く購入した、という経緯だ。八股榎お袖大明神の存続に役立てるなら嬉しい。

 本の中身は「お袖狸」と「湧ヶ淵 大蛇伝説」の二部編成になっていて、この本で描かれる大蛇を祀る神社も実在している。本を読み終えた今になって、そこへも足を運びたかったなぁと思わされた。「湧ヶ淵 大蛇伝説」は菊ヶ森城の城主、三好長門の長男である秀勝が打ち取ってしまった湧ヶ淵の守り神の大蛇の話で、近代まではその大蛇の頭骨と文献を代々三好家が受け継いできたようだが、現在は「奥道後 壱湯の守」という温泉旅館が譲り受け、「竜姫宮」として敷地内の一角で丁寧に管理されているようだ。(例大祭もきちんと行われている)

 話を狸の話に戻す。
 「お袖狸」のお袖は、作中ではとても優しく明るい狸として描かれており、松山城主のところに輿入れにきた「某姫」に付き添ってきた狸だ。もちろん姿は人に化けている。某姫と共にその子孫に至るまで松山城を守ったお袖。ストーリーは少し切なさが残るのだが、お袖のキャラクターがとても愛くるしい。
 某姫が神通力を受け継いだお袖の子供に「人々の願いを叶えてほしい。小さなことで構わない」と告げる。その通り、お袖狸の子孫と言われる狸が、現在の今治市大西町の明堂菩薩が安置されているお堂の側にある洞穴に住んでいて、人の願いをよく叶えてくれていたとか。そしてその狸は現在は松山に戻っているそうだ。

 この時代においても、このようにして伝説が語り継がれるにはなんらかの理由があると思う。「まさか、そんなことあるわけない」と流さずに、少し掘り下げてみると、その信仰に裏付けられた何かに触れることができる。
 人々がこれまで伝え継いできたお袖狸大蛇の伝説は、人間のエゴに警鐘を鳴らしてるような、そんな気もした。

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