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地方暮らしと都会生活の選択で迷う自分をプッシュしてくださった方々
はじめに
人生、おおいに迷うことがある。わたしは大学院での就職活動でそれがおとずれた。どうどうめぐりで結論をだせないまま。ふと、活動途上でのめぐりあいから…。
きょうはそんな話。
就職活動での迷い
若い頃はわりと割りきって考えていたようだ。ドライでサバサバしていたといってよいかもしれない。大学院の修士課程もなかばにさしかかり、就職活動していた当時をふりかえりたい。
かなりあわただしかった。ようやくみずからさがし得た上場企業の面接へ心の準備のないまま出立した。
地元に残るか東京にするか決めずじまいで面接に向かう。その会社の雰囲気をみて決めようというこころづもり。かといって地元に働き口のあてがあったわけではなかった。
倍率の高い技術職の公務員試験を受けたばかり。これはくじ引きにすぎないとなかばあてにしておらず、かといって自分の専攻から考えて地元に残るならば研究職は無理、どれだけ妥協せねばならないか自問自答していた。
面接の場で…
ところが企業の面接担当者は節穴ではなかった。「迷っている」ことはお見通しのよう。最初の2,3の問いかけで建前は通用しないとわかった。そこで途中から開きなおり本音を伝えようとのこりのやりとりに臨んだ。
それでもここまで洗いざらい掘り下げて聞かれるとはつゆ知らず、終わったときにはようやく立ててお辞儀をやっとできるぐらい消耗した。身ぐるみあからさまにされるとはこういうことかと今でも思うぐらい。わたしひとりに30分間ほど、3人の方が質問をされた。いわゆる最終面接。
ひとりの社員を雇うとはこれほど真剣な場なんだとつくづく思い知れた。将来に向けて値踏みされるという感じか。こののちさまざまな面接に臨み、ときには面接する側の立場もあったが、これほど真剣な場はそののちも経験していない。
わたしを最初から世話していただいた人事担当者からねぎらいの言葉をいただき、「つぎがあるとしたら事業報告会・健康診断となります、それは実質的に当社に来ていただく段どりになりますので…。」との念おしの説明をいただく。
内々定を出したい旨を伝えられたようだ。当時は会社訪問解禁日にこうした他社を受けにくくする行事が各社恒例で催されていた。
言いたりなかったことはないか、伝えておいてほしいことはとフォローしていただいた。
働きたい場所
のちにわかったことだが、すでに就職後の仕事内容が専攻と合致しており、あとは人物(つまりわたし)を確認したい面接だったようだ。
さてその会社の本社。山手線の内側でしかも駅近くにある建物に入ったところからどこかしこも行きとどいており、文字どおりそつがない。これが上場企業なのかとあらためて知る。学生の立場のわたしにはまだ場ちがい。
会社の状況を把握をするうえでわたしが参考のポイントとするトイレはきちんと清潔に保たれていた。案内されて途中とおり抜けたオフィスには明るく朗らかな声が行きかう。世話役の担当者は親しくはなっても節度を保っていた。いわゆる大人の対応だ。
社会的に清新で実直な製品を売りとしている会社。企業のイメージとは並々ならぬ努力でこうして連綿と築かれているんだと知れた。それをおこたり一瞬でも油断すると崩れかねない。その厳しさが垣間見えた。
もちろん悪い印象ではない。それまでの就職活動やアルバイトでいくつかの企業や働く現場を見ていたが、やはりこれほどの会社には接するチャンスがなかった。
ここで働いてみたいというじゅうぶんな気持ちが湧いてくる。その一方で自分でつとまるだろうかという一抹の不安はあったが、それはむこうが判断することだとしまい込んだ。
帰途にて
心身ともにぐったりして、座席にもたれるように帰りの夜行列車に乗る。
列車の行程の半分を過ぎたぐらいの頃。うとうとしているとボックス席ななめ前に人の気配。
初老の男性が手提げかばんをひざに座っている。顔を上げると「どちらまでですか。」と彼の方から声をかけてきた。30年来つづけてきた仕事がなんとか軌道に乗り、離れた拠点の監督にむかうとのこと。
2,3やりとりしたのち、おもわず旅の気安さから穏やかなこの方に自分の抱える迷いについて話してみた。こういうときには利害のない方のほうが相談相手によさそうだときっと思ったのだろう。あっさり話してしまった。
原点となる話
2つ、3つほど経緯を話すとご自分の経験をふまえつつ「やりたいことをおやりなさいよ。」と落ち着いたおももちのまま言葉をかけていただいた。
その言葉は斬新に聞こえた。するりとからまった糸がほどけたようだった。頭にのせた重たい石かなにかがとりのぞかれた感触。
それから間をおかず気持ちを整理でき決心できたと思う。さきに下車される男性にお礼を言い別れた。
これが原点だ。そこで地方にとどまると決めた。人の運命なんて…という話をたまに聞くがそう思う。このたまたまの出会いがなければはたしてどう判断していたか。ちがう人生を歩んでいただろうか。
この初老の男性には感謝申し上げたい。できることならば会ってお礼をいいたい。いい人生へのひと押しをありがとうございましたと。
おわりに
こうした出会いの段階ではすでに結論はでているのかもしれない。自信なく躊躇して行動に移せない状態。あとは「ほらっ、やってごらん。」という肩をちょんと押されるぐらいの、軽いプッシュの最終段階に来ていて、そののちは自走できるのかもしれない。
若い頃はそのあとわずかなひと押しがほしい。経験の積みかさねがなく自信がないもの。最近はそう思う。
その初老の男性の年齢と同じくらい年齢を重ね、はっと我にかえる。
上にあげた企業のわたしの人事担当者はきっと伝えたかったにちがいない。「すばらしい仕事をいっしょにやろう。」と。そのプッシュをわたしにくださりたかったのだろう。
そのチャンスをくださった気持ちと感謝を忘れないでこれからも活かしつづけていきたい。こんどはわたしが若い方々をひと押しする番だ。
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