私の舞台裏は、犬の散歩中。
退職して、毎日通うところがなくなって、
自分の時間は持てるようになった代わりに、
自分の時間をどう使っていいか自体に悩むようになった。
新米個人事業主としてやらねばいけないことはそれなりに多いので、
どの順番で何をするべきか、何かし忘れていないか,
日々整理をする必要にかられるのである。
私の場合、やはり朝の犬の散歩が
そういったことを頭の中でクリアにできる絶好のひと時なのである。
であるがゆえに犬の散歩をしながら私ほど仏頂面をしている飼い主は
おそらくいないと思う。
不機嫌なのではなく、考えごとをしているのだ。
仕事のこと、税金のこと、家のこと、今後のこと。
くるくると頭のなかが回転する。
ふと気づくと数十歩先に同じく犬の散歩中の人たちが
私と連れの犬をにこやかに待っている。
おそらく犬同士、
あるいは飼い主同士の交流を図ろうとしているのだろうが、
私はそそくさと道路の反対側にそれて、彼らをやり過ごす。
申し訳ていどに会釈をしながら。
失礼な奴だと彼らはきっと感じているであろうが、知ったことではない。
この時間は誰にも邪魔されたくない私の大切な脳の活動時間なのだ。
でも本当はこんな不愛想な人間ではないのですよ。
言い訳する自分もいる。
犬を連れてないときに声をかけてくれたら、
にこやかにお話しできるのに。
ああ、犬連れでないときには声なんかかけませんか。
犬を介してこその交流であり、
犬のいない私にはなんの価値もないのでしょうね。
と心の中で独り言ちる。
ふと見降ろすと犬が不思議そうに私を見つめている。
(独立したての人間はいろいろ考えるところがあるんだよ)と私。
(下手の考え休むに似たり)と犬。
そうかもしれんな。
時々犬にたしなめられながら、己の現在位置を確認する。
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犬と散歩している私を見たら、どうか声をかけないでください。
いま自分の内面と通話中なので。
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