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佐々木 一成さん Plus-hundicap編集長(前編)


「生きづらさ」をなくすためのきっかけ、仕掛けをつくるメディア「Plus-handicap」は2013年に創刊されたWEBメディアです。

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その旗揚げ人であり、自らも取材と執筆を行うのは編集長の佐々木一成さん。

2014年、じじ神保町が創刊号の中で取材をさせていただいたお一人です。

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自身も生まれつき両足と右手に障害を持ちながらも、障害者でありながら健常者の世界で生きてきたと自覚する佐々木さん。「障害者と健常者の橋渡し」をすることをミッションとして活動しています。

神保町を拠点に、障害者だけでなく鬱やニート、LGBTなどマイノリティの多様な価値観もSNSやソーシャルなイベントを通して社会に投げかけてきました。

2014年、神保町を「成熟と雑多が同居する」街だと言われていた佐々木さん。
2020年の今、その神保町で改めてお話を伺いました。

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待ち合わせたのは、Plus-handicapのオフィスとじじ神保町の編集部があったビルの前。

ーお久しぶりです。Plus-handicapは、今も神保町が拠点ですか?

実はオフィスの入っていたビルの持ち主の関係で引越しをしようとしていたところでコロナがあって。今は拠点なしのリモートワークで運営しているんです。「神保町に戻ってきたい」という気持ちがある反面、固定のオフィスがなくても運営していけている面もあるので今後の拠点については考えているところです。


出られると思ってたパラが無くなった人、になるかも。

佐々木さんをはじめて神保町で取材をさせてもらった2014年は、ちょうど、Plus-handicapが創刊されて一年経ち、一般社団法人プラスハンディキャップが立ち上がったタイミング。

佐々木さんがシッティングバレーの日本代表に選出されたのもこのときでした。

ー2014年の取材の中でおっしゃっていた目標の一つが2020年のパラリンピック出場と障害者スポーツの認知拡大のための団体をつくることでした。
2017年にWEBメディア「障害者スポーツの未来」を立ち上げられましたが、オリンピック・パラリンピックは延期となりました。今、情報の発信者として、アスリートとして、何を感じられていますか。

2020にでたい、でます、と言いつつも、実は本当に選ばれるかってところには自信がなかったし、実際まだ決まっているわけじゃない。国としては開催枠での出場権があるけど、自分が選ばれるんだって強い気持ちを持つまでには、だいぶ時間がかかりましたね。

ーそういう不安な気持ちは前回の取材では感じられませんでした(笑)

去年の秋に山形でドイツと試合があって、その試合に出た時にやっと道が見えたような。それまでは言葉だけ上ずってた感じ。
でも、頭の部分ではあともう一年上手くなるチャンスがある、という思いと、この経験も書けばネタになるって思いもある。

ーうーん。すごい。あともう少しで「オリパラ出場選手」になった、って気持ちの面で相当くやしいと思いますが、そこでその考え方も出てくるのはたくましいです。

オンリーワンのブランディングと言ってもいいかもしれない。出られると思ってたパラが無くなった人(笑)。オリンピック・パラリンピックに対してはいろんな意見があるけど、スポーツする子供にとってはやっぱりものすごい夢。それに向かって努力している子たちがいる。個人的に、やっぱり出たいし、チャレンジしたいですけどね。


「出勤できない社会」が障害者雇用にもたらしたポジティブな一面

ーコロナが特にそうですが「みんなが大変なときは、もともと大変な人はもっと大変」というイメージがあります。佐々木さんの周りには生きづらさを抱えていることを自覚する人が多くいると思いますが、もともと生きづらさを抱えている人は今回のコロナをどう感じたのでしょう。佐々木さんの、感覚的なところを教えてほしいです。

生きづらさもそうなのですが、まず障害者にとってはエポックメイキングくらいのターニングポイントだったと言っていいです。
もともと障害者雇用の世界には、多様な働き方を認めてほしいという考え方がベースにあって。なんで9時ー17時、9時ー18時の形で出勤しないといけないのか、という考え方が障害の種類によっては存在しているんですね。「行かなくてもいいし、行かなくても仕事ができる」というのが今回のことで社会全体の理解に変わってきているのは大きいです。
一方で、工場とかがそうですが、現場に行かなければならない仕事内容であったり、個人情報や機密情報など家などに持ち帰れないものを扱っていたりすると出勤しないといけないこともあります。今まで、どんな職種も仕事内容でも当たり前に通勤してきたものが、<通勤しなければならない職種>と、<通勤しなくても何とかなる職種>とかで、その区分けみたいなところが具体的にできたこと、これは障害者雇用を進めたい人や生きづらい人にとっては相当ポジティブな状態になったかなと言えます。

ー多様な働き方を取り入れなくてはならない状態になって、障害のある人が長年解決したかった問題のひとつが進展したんですね。

とくに鬱や発達障害の傾向がある人にとっては、自分のペースで、コミュニケーションを取れたり仕事ができるようになったことは今回できるようになったこととして大きいんじゃないかと思います。
ただ一方で、在宅の難しいところって、結果でしか評価されないんですよね。特に新卒で入社した人は、社会人デビューのタイミングからテレワーク。最初ってなかなか結果出なくても、同じオフィスで仕事していて「あいつがんばってるな」とか「真面目だな」ってところで評価される。在宅だとその機微が気づけないから、結果でしか評価されないとなると、けっこうしんどい。
全員がプロフェッショナルにならないと、仕事が成り立たないって状態だから、それが合う人にとっては生きづらかった人が生きやすくなるけど、ある人にとってはよりしんどい世界になるかもしれない。

ー急に進んだことでもあるから、皆んなの動きについていけない人は孤立しそうですね。

そう。より、一人一人に求められるようになった。

ー自分でどうしたいのか、がわからないといけないんですね。

"will can mast" じゃないけど、何がしたくて何ができて何を求められているのか自分に与えられている役割は何かを自覚できているかどうか大事な社会に近づいた、という感覚がありますね。

ーそれが合っている人には生きやすく、合わない人には難しくなった、、なんとなくわかる気がします。


メディアで当たり前の言葉になった、「生きづらさ」


ー2014年から6年が経ちました。佐々木さんから見て、社会の「生きづらさ」についての認知、マイノリティについての常識はどのくらい変化したと思いますか

じじに取材受けた頃は、いろんな人に「”生きづらさ”っていい言葉ですね」って言われたけど、最近はメディアでも「生きづらさ」って言葉を当たり前に使うし、最近立ち上がったプロジェクトとかでも「〇〇の生きづらさを解消する」って謳ってたり、「生きづらさ」って言葉はお題目として入ってきている。Plus-handicapは生きづらさという言葉を2013年くらいから使っていたから言い出しっぺに近いメディアではあるけど、後発だと思われても仕方ないくらい、「生きづらさ」って言葉が当たり前に使われるほど認知が広がりました。その面では、すごくよくなったかなって気はしています。

ただ、「生きづらさ」系の事業って社会課題解決モデルだから、利益がめちゃくちゃ上がるとかではないのが難しいところ。また、解決しようとしている課題や悩みは減っていないと感じています。全然。

ーぜんぜん、なんですね。ここまで「生きづらさ」やマイノリティの声といったものが目に入りやすくなっているのに、意外です。

ぜんぜん。というのも、一人一人の悩みが多様化しすぎてて 今までみたいに、こういうプロジェクトしたら解決するよね、こういう制度作ったら解決するよねっていうところからこぼれ出している人が増えているから難しいんです。

解決してきてる社会問題は増えているけど、問題の当事者の人たちの悩みが多様化していて、そのスピードについていけてないのが正しいかな。

ーその「悩み」、今は救い上げやすくなっているところもあるのでしょうか

そうそう、SNS、といってもほとんどツイッターだと思うけど、この問題の当事者さんたちはこういう問題抱えているんだなってことをツイッターで拾い、そこから探ることもできるようになってきました。でも、いたちごっこですね。解決したと思ったら新たな悩みが出てくる。
以前、ETIC(実践型インターンシップや起業支援プログラムを運営するNPO団体)に通っていたときに、生きづらさ調査をしたんです。Plus-handicapの仮説としては、生きづらさは基本的に、お金の問題人間関係の問題自己決定権の問題、この三つなんじゃないかって話をしていて。自分の障害、病気、セクシャリティの問題がつらいっていうのは、問題の原因としては発生しても、それが問題でみんなが苦しいわけではない。それが引き金となって「生きづらさ」になっていくと考えたんです。障害があって働けない、っていうつらさはお金の問題、セクシャリティのこと理解してくれる理解者がいなくてつらいのは、人間関係の悩み。
生きていくために月これぐらい稼ぎたいとか、一人でもいいから友達がほしい、とか、やりたいと思ったことがちゃんとできるとか、住みたいと思ったところにちゃんと住めるとか、そういう思いが達成されれば、結論、障害があって病気抱えてても、幸せにはなれるんじゃないかって。対・障害者のために、とか、対・病気を抱えている人のためのアプローチ、というよりは、本来はやっぱり、もうちょっと横軸で、変えられるものをやったほうがいいんだよねってことは内心はずっと思ってます。

ー障害を持つ人や病気を抱えている人の問題を解決するためには、もっと幅広い層が持つ共通の課題を解決していく必要があるんじゃないかということですね。

内心はずっとそう思っています。けど、今仲の良いNPOとチャレンジしているクラウドファウンディングはこういう感じです。

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障害のある学生に届けるキャリア応援放送局設立プロジェクト

ー”障害のある学生さん”向けのプロジェクトなんですね。

って、だいぶピンポイントでしょ(笑)。でも障害のある学生に届ける必要がある情報って、休職中の障害者にも通じるものがあるし、むしろ障害者に限らないよねっていうつくりには自然となると思います。

ー最初はピンポイントのほうが、プロジェクトを知った人はイメージがしやすいかもしれないですね。今の話を聞いていると、障害のある人や病気を抱えた人の生きづらさを解決していく道筋には、きっと、そこに当てはまらない人の生きやすさにつながるアプローチもあるんじゃないかと素直に思えてきました。

→(後編)につづく


記事の前編では、障害者、健常者という枠に囚われることなく「生きづらさ」をなくすためのきっかけをつくる活動を続け発信し続ける佐々木さんに、その視点から見た社会の変化をお聞きしました。

記事の(後編)では、ずっと拠点を置いてきた神保町という街について、人と人がリアルの場で出会うということについてどう考えるか、お聞きしていきます。



Plus-handicap
一般社団法人プラスハンディキャップが運営する、「生きづらさ」に焦点を当てたWEBマガジン。なんとなく「生きづらい」ひとたちの、なかなか「知らない」リアルや「生きづらさ」を打ち破るためのきっかけや改善提案を届ける。

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https://plus-handicap.com/

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