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佐々木 一成さん Plus-handicap編集長(後編)

「生きづらさ」をなくすためのきっかけや仕掛けをつくるメディア「Plus-hundicap」編集長の佐々木一成さんへのインタビュー、後編です。


ー佐々木さん、そしてPlus-handicapがこの6年間拠点にしてきた神保町。以前、神保町は駅のエレベーターの数も少なく、古い建物も多い街であることからバリアフリーとは言えない街と言われていましたが、変化はありましたか?

一番大きかったのは、やっぱり駅。この間、駅のバリアフリー工事が進んで、エレベーターが増えましたね。駅から外へ出る経路は増えています。5、6年前に比べたら、よくなった駅のひとつだと思います。

東京都の地下鉄全駅バリアフリー便利帳を確認してみると、神保町駅にも東京メトロ、都営新宿線、都営三田線のそれぞれにバリアフリールートがあります。東京メトロ、東京都交通局では現在、全駅のバリアフリー化が進められているところだそうです。


結局、帰るのは神保町


ー神保町の魅力について佐々木さんは「成熟さと雑多なものが同居する」と言われていました。それから、街にどんな変化があったでしょうか。

個人的には、酔の助がなくなったのは大きいです。
それにしても、神保町ってやっぱり変わらないと思っちゃう。もちろん細かいところで書泉ブックマートの跡地にテナントが代わる代わる入ったり、変化はある。だけど、大手のデベロッパーが建てた、例えばテラススクエアとか、ちょっと離れたところにあるソラシティとかもそうだけど、ああいうビルは増えても再開発感が個人的には伝わってこない。いい意味で。この街はこの街の感じでいいよねって思ってる感じが、いいよねって。

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東京の他の街にいくと「新しいお店できたんだ」とか「ビル建ったんだ」とか、知らないことにちょっと焦ったりする感じがあるけど、神保町にいると新しいものが増えてもあんまり焦らない。その空気感ってなかなか出せないなあと思う。細かくは変わっていても、大きく見るといつも同じ雰囲気というのは、すごく好き。

ー他の街に比べて、変化のスピードが遅く感じますよね。

スピードというより、マイペースな街だと思いますね。この感じは誰が作ってるんでしょうね。

ーやっぱり、神保町がいいですか。

結局、帰るのは神保町、っていう気がしています。


いま、人は"ランダムで出会うこと"を求めてるのか

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ー拠点を持たない働きかたも真剣に考える企業も現れて来ている中で、神保町のような、都市の中で、人と人がランダムに、リアルで出会うような場所について、佐々木さんはどう考えますか。 

そもそも人がいまランダムで出会うことをどれだけ求めてるのか、と考えると、いまけっこう難しいところがあると思うんですよね。
Plus-handicapのオフィスと、じじ神保町の編集部もあったコワーキングスペースができたのは2013年くらいのタイミング。その頃は個人が経営するコワーキングのバブルの時代だなって思ってて。今ほどクラウド的なつながりもなかったし、SNSも今ほど盛んじゃない。何かやりたいなと思っている人が、明確な誰かは分からないけど、誰かに会いたい、繋がりたいと探していた気がしていて。
いろんな目的の人に会いたいけど、会える場所がない、だからコワーキングとかで何かやりたい人どうしが結びついてプロジェクトを起こす。じじもそうですよね。Plus-handicapはもともと別のコワーキングスペースで集まったメンバーで生まれたものだし。割と”コワーキングに育ててもらった”感が強いんです。そこで出会った人としかやってないから。

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でも、今は例えば、働き方改革の一環として使われていることが増えてきたり、コワーキングとかに求めているものがなんかその人と人とのつながりとかじゃなくて自分の仕事の便利さとかに移ってきてる。オフィスビルの空室利用という形で、それこそ駅前とかにできているのも一例ですよね。

ー確かに、単なる空間提供、という部分が強くなっている気がします。

隣の人と喋ろうって発想も少ない。むしろ、邪魔しないでオーラ強い(笑)。コミュニティをつくるものっていう感じじゃなくなりましたよね。そういうことを考えると、そもそも人がランダムにリアルの場で出会うことをどれだけ求めてるのかなってことはすごく難しいなって思うんです。
なんかこう、自動化された仕組みに乗っかって自分の中で7割か8割くらいの確率で確実に正解となる人としか会わないイメージ。ビジネスマッチングとか、交流とか言いつつも、結局自分の興味関心が伝わる間柄でしかない。ECのレコメンド機能とかも一緒で、自分にとって外さないものしか出会わないし、買わない。ランダムな出会いってものに対して必要性を感じてないし、ランダムな出会いへの耐性みたいなものもなくなってきてる。
果たしてそれがいいことなのか悪いことなのかはわからないけど、基本的にはそれは人の可能性を狭めているだけかなって気はしてます。そのくせ子供の教育ではいろんな人に会ったほうがいいよ、とかさまざまな情報に触れさせたほうがいいとかいうわけで。大人って都合いいなって思う。(笑)
逆に今の一桁世代の子供たちが社会に出てきたときに、その価値観はまた変わっている気もしますね。


リアルで生々しい、"多様性"はどこにあるか

いまシッティングバレーをやっていて面白いなと思うのは、シッティングバレーやってる人はソーシャルな活動とか知らないし、特別興味もない。僕の活動だって「へーそれで?」っていう人は割といます。
それより、好きなバレーやって、いい酒飲んで、みんなで楽しい話して、仕事の愚痴言って、それでいいじゃんって。でも、周りを見渡すと、医療や福祉の従事者、学校の先生、不動産扱ってる人もいれば、土建屋のおっちゃんもいる。もちろん、障害者はたくさん。このコミュニティの多様性ってすごいんですよね。話を聞いてて、生きる知恵はたくさん転がってる。そしてこういうコミュニティって、昔からたくさんある。
Plus-handicapもそうですけど、いわゆるソーシャルグッドな活動をしている人たちって世の中ではマイノリティで、その中にいると、自分たちの声は確かに伝わっているように見える。ただ、これは「昔からのコミュニティに入れなかった人たちが自分のコミュニティを作りたいための声になっているかもしれない」って感覚も大切だなって。よく、マジョリティはマイノリティのことをわかってないってそれはそうなんだけど、マイノリティもマジョリティのことをわかってない
話が遠回りしてますけど、マジョリティをどう巻き込むかって話になると、よく世の中にサロンスペースがあるといいよねっていいます。でも、その雑多なサロンスペースってもう世の中にあるんですよね。シッティングバレーのチームもそう。正直、エモいコミュニティイベントとか行って、なんかすごそうな活動をしている人たちがドヤ顔で話してることより、おっちゃんたちの話を聞いてるほうが、社会に役立つヒントがいっぱい転がってるって思います。
すでに世の中にあるスナックとか、おっちゃんたちがなけなしのお金で飲んでる飲み屋ってぜったいサードプレイスだし、そこにある多様性って「多様性、多様性」って言ってる人たちが理解できない多様性なんじゃないかって思うんです。それくらいリアルで生々しい多様性。ソーシャルな活動の担い手の人たちが実現したい社会やコミュニティはもうその場では存在していて、でもそこにいる本人たちはそれが大事とか社会のためとか、1ミリも思ってない。ぶっ飛んだ例かもしれないけど、それを接続することが、これからのコミュニティマネージャー的な人には求められているんじゃないかと思います。
例えばテレビのワイドショーって、見てるだけで精神病むなって思いながら観てるんですけど、世の中の人たちってテレビをベースにしている人たちってまだ多いし、ネットだけで情報収集している人もいると思うけど、そもそもどっちも見てない人も多いから、そういうこと前提にいろんなプロジェクトとか組んでいかないと、なんか若い人がやってるね、って思われちゃう。やっぱり、自分たちも似たようなことやってたけど、やってたことで隔絶を生んでたなって反省するところはありますね。偉そうなこと言ってたけど実際はさ、世の中の多くの人たちのことをわかって言っていたのかなって。
そういう意味で、コミュニティマネージャーの人には思い切り全振りでやってもらわないと無理かなって時代になってきたと思います。

ー特定の層に向けて、だけじゃなくて。

リアルとネットをうまく組み合わせないといけないし。テキストだけでなくて動画もある、やれること、やらなきゃいけないことは多い。だけど、その分うまくいったときに、すごい場の力をもった場所になりそうな気がしてます。いまは気軽に会える状況じゃないけど。コロナバブルがはじけたあとにリアルで会うことへの飢餓みたいなものが生まれるから、それが(リアルで会うことの可能性を広げる)最後のチャンスかもしれない。






(じじのあとがき)
6年ぶりの神保町でのインタビューを、快く引き受けてくれた佐々木さん。「生きづらさ」を持つ人の立場に立って、ソーシャルな活動をする一人として、さらにアスリートとして、実は誰よりも熱い気持ちで行動しているからこそ見えている視点を話していただきました。これからも、街に出て、自分の知らない世界や考え方と出会う生き方を選んでいたい、お話を聞いていてそう思いました。





今回取材をさせていただいた佐々木一成さんが、「多様性・ダイバーシティ」をキーワードに、誰もが社会の当事者になれる環境づくりに取り組むために2013年に設立された団体「Collable」と一緒に取り組む、リアルとネットをつなぐようなプロジェクト。

障害のある学生が自分の障害と向き合い、自分のキャリアを考える機会に気軽に参加できる仕組みをつくるため、「障害のある学生のためのキャリアを応援する放送局 ”GATHERING” 」を立ち上げるというプロジェクトです。

7月22日(水)までのチャレンジ。リターンには、開局イベントへの参加チケットも。どんな内容か、興味を持たれた方はぜひご覧になってください!

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障害のある学生に届けるキャリア応援放送局設立プロジェクト


コロナが障害者雇用の世界にもたらした一面や、ここ数年で変化した「生きづらさ」という言葉をとりまく環境についてもお聞きした、佐々木さんへのインタビュー前編は→こちら

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