見出し画像

#4 最近の庁舎整備事情ってどんな感じ?

NPO法人自治経営FMアライアンスの川口義洋です。
こちらのアカウントでのnoteは今回が初めてになるので、一応自己紹介から。
僕は岡山県津山市という人口約10万人くらいのまちの公務員(建築職)をやっておりまして、公共施設全体のマネジメント(FM)を中心に活動しております。
今年度でFM歴はかれこれ10年目ということで、この世界ではかなりの古参かなと自覚しているところです。

肩書きとしては、総務部財産活用課という部門の課長をやっておりまして、FM業務以外にも、庁舎管理、車両管理、公有財産管理などを任されています。
僕たち財産活用課というのは、元々庁舎や公有財産などを管理する「管財系」の部署からスタートしていて、そこに「公共施設マネジメント+FM」の業務が加わり、さらに「建築営繕」の部門を吸収したので、それこそ公共施設に関しては、FM的な企画立案から始まり、設計や工事監理など実際の整備もやりつつ、利活用のための公民連携や、施設の終わりを見届ける解体や譲渡までがテリトリーに入っています。
つまり、公共施設の「ゆりかご前の種付けの段階から、墓場の管理」までを任されているということで、それゆえに痛いところや、クソみたいな闇の部分までをよく見通しながら仕事をしているということになります(笑)

今回はNPO自治経営の肩書きでnoteを書いていますが、個人のアカウントでも、主に公共施設にまつわるテーマでnoteをやっていますので、そちらも併せて読んでもらえると嬉しいです。

さて、このnote記事が投稿される4月21日(日)には公共FMアングラBarの第一回目の夜会が開かれ、テーマが「庁舎の建て替えに物申す〜ホントに大丈夫?その庁舎!」ということなので、今回はズバリ、最近の庁舎事情について書いていこうと思います。


そもそも庁舎とは?

役所の中で庁舎と言うと、地方自治体にとっては正に本丸であり、まちの中央司令塔のような役割を果たします。
もちろん窓口業務も含め、役所業務のほとんど全てを網羅しますので、そこに用事を求めて来庁する市民も相当に多いですよね。
なので、庁舎を整備する時には、他の公共施設と同様に、市民目線を重視してしまう傾向にあります。
それこそ、庁舎の中に「賑わいをもたらすパブリックスペース」「交流スペース」また「ちょっとしたホール機能」まで付加された庁舎も珍しくありません。

ただ、もう一度冷静になって考えてみませんか?

まず、庁舎の法的な位置付けについておさらいしておきます。

地方自治法において、庁舎は行政財産のうち公用財産として定義されており、一般的な公共施設である学校、公民館、図書館、スポーツ・文化施設などの公共用財産とは完全に区別されています。
もちろん住民の福祉を増進し、その利用に供する施設である公の施設でもありません。
つまり、地方自治法において庁舎は、職員が専ら使用するオフィスとして定義されています。

それでは、建築基準法についてはどうでしょう?
建築基準法で庁舎は、事務所として位置付けられており、不特定多数の者が利用する特殊建築物には該当しません。
こちらの法律においても庁舎は、多数の職員が専ら使用するオフィスとして定義されているのです。

もうお分かりでしょうか?
庁舎とは法的には「単なる事務所」でしかありません。
そこに「賑わい」とか「交流」とか必要なのでしょうか?

庁舎の整備は今がピーク?

他の公共施設も同様なのですが、全国の「庁舎建築」は1970年代から80年代あたりに建てられたものが非常にたくさんあります。
僕は1971年生まれなので今、52歳。
人生100年時代と言われるようになっていますが、建物にとっては大体建て替えを考えるようになる時期です。
庁舎が60歳くらいになると、古い庁舎から現代仕様に改修するのが難しくなり、ほとんどが用無しとされるため、現在、全国で庁舎で建て替えラッシュの時期がきています。

大抵コンクリートの躯体でできており、可動部分もなく動くわけでもない建築が、約60年くらいで寿命をまっとうすることを考えると、人間ってビックリするくらい長生きですね。
人間はどこかが悪くなるとお医者さんに診てもらうため、病院に行きますが、公共建築は今までちゃんとお医者さんに診てもらうこともしてこなかったため、ビックリするくらい寿命が短いです(苦笑)

ちなみに余談ですが、僕の活動は公共建築のお医者さんみたいなもの。
ただし、診療科目が決まっているわけでもなく、内科・外科・心療内科・形成外科などオールマイティにこなします。
時としてブラックジャックみたいな役割も果たせば、死亡宣告人のような枠割も果たしています(笑)

どんな庁舎がトレンド?

僕は、仕事柄というか、全国各地を巡業(セミナー講師など)することも多々あります。
大抵の場合、訪れたまちの庁舎に足を運ぶので、色んな庁舎を目にしますし、普段から庁舎管理の仕事をしているため、ことさら他のまちの庁舎には大いに興味があり、ついつい必要以上に観察してしまうという凝り性クセを持っています(笑)

色々と観察してみると、何となく今の庁舎トレンドも見えてきます。
今回、見出し画像に選んだのは一昨年訪れた徳島県阿南市の庁舎(2017年竣工)で、割と最近のトレンドを押さえています。
設計は日本で一番大きな組織系設計事務所である「日建設計」
色んな賞も受賞していますが、その特徴は以下のようなものです。
・全面ガラス張りに大きな庇で水平ラインを強調している。
・建物の真ん中に大きな吹き抜けがあり、どこからでも施設内を見通せる。
・風の通り抜けみち「エコボイド」とか「グリーンボイド」とかがある。
・内装に木材がふんだんに使われている。
・空間にゆとりがあって、伸びやかな印象がある。

徳島県阿南市庁舎の外観

最大手設計事務所が手掛けていて、数多くの建築賞ももらっているため、こんなスタイルの庁舎が世の中に氾濫しています。
発注者としては望んでもいないけど、建築家を決め込んだ設計屋さんは吹き抜けのシークエンスとか大好きなんですよね〜。
職員に聞いてみると、これマジ相当に評判悪いです(苦笑)

阿南市庁舎の大きな吹き抜け
こちらも一昨年訪れた富山県射水市庁舎・・・えげつない吹き抜け

新庁舎に求められるスペックについて

さて公共施設をマネジメントする発注者としましては、正直、真ん中に大きな吹き抜けがあって使い勝手が悪く、そんな空間作るくらいなら、階数低くしてくれよというのが本音ではないでしょうか?
加えて、雨漏りを誘発するような攻めたデザインなんて、まっぴら御免ですし、夏の暑さや冬の寒さも勘弁してほしいです。
エコボイドやグリーンボイドなんて、絵に描いた餅のような気がしてなりません。
ちなみに射水市の庁舎は冬、めっちゃ寒いそうで、エコでも何でもありません。
そんなことするくらいなら、しっかり断熱した方が良いですし、窓も必要以上に大きくする必要なんてありません。
また、無駄に吹き抜け作ると、冷暖房費もえげつないです。

さらに言えば、最初に書いたように、庁舎はオフィスですから、交流スペースなんてものも正直、設計者の妄想でしかないように思います。
ニーズに応じた打ち合わせコーナーはあったとしても、市民と職員が交流することなんて滅多にありませんから(笑)
賑わいも庁舎には必要ありません。

そういえば、こちらも一昨年訪れた岐阜市庁舎には、2層に1つづつ、ほとんど利用されていない謎のスペースがありました。

岐阜市庁舎の外観
2層に1つづつあるゆったり過ぎる謎のスペース(岐阜市庁舎)

こんなスペースがたくさんあったり、大きな吹き抜けがあったりで、建築コストは上がるわ、維持管理コストも上がるわで、庁舎管理者としてはたまったものではない気がします。

そう考えると、庁舎に求めるべきは、以下のようなことではないでしょうか。
・ワークスペースとしての快適さと動線の良さ(シンプルに働きやすさ)
・無駄な空間を排除した床面積(建築コストの圧縮)
・断熱性を高めた、省エネ+再エネ建築(維持管理費の圧縮)
・メンテナンスのしやすい建築(シンプルなデザイン)
・災害時の中央司令塔としての機能(災害に強い庁舎)

ホントにそれでいいのか?

僕のいる岡山県では、多くの自治体で庁舎の建て替えラッシュの様相を呈しています。
下の表は、HPなどで確認できた数字を僕なりにまとめたものです。
(もしかしたら正確な数字と少し違っていたらごめんなさい)

岡山県内で近年進められている庁舎

この表をみると、他の公共施設との複合化で面積を減らしている美咲町と久米南町を除いて、新庁舎の方が面積がかなり大きくなっています。
建築単価も美咲町を除いて、他の公共施設と比較してものすごく高くついています。

岡山市の新庁舎の完成予想図(お城のイメージらしいw)
岡山市の新庁舎の断面構成(グランドラインになぜ入り口がない?)

全国の自治体でDXを進めるのなら、市民が来なくても良いシステムを構築したり、全館フリーアドレスやペーパレス、リモートワークを進めることで、庁舎は床面積を相当小さくすることができるはずです。
そこで浮いた建築コストは、断熱や再エネに簡単に回せるでしょうし、既存の書類を全部アーカイブ化したり、システムを組み直したり、フリーアドレスやPCのポータブル化みたいなことやっても、お釣りが来るように思います。

何だか庁舎のトレンドは、今の時代と逆行しているようにしか思えません。
そんなことを考えると、何だかやるせない気持ちになるのは僕だけでしょうか?

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?