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「言葉の縛り」から解放された、田村歩未さんが伝えたいセクシャリティのこと。


生活の一部ではなかったものが気がつくと馴染んでいる、ということがあります。
たとえば、スマートフォン。世に出始めた頃は戸惑いの方が多かったことでしょう。それが、今ではほとんどの人が手にしたことのあるなくてはならない、生活の一部として馴染んでいます。


では、「セクシャルマイノリティ」はどうでしょうか。
「セクシャリティ」がイベントなどのテーマとされることは増えてきていると思います。けれど一方で、そのテーマが「セクシャルマイノリティ」にフォーカスされた途端、どこか他人事のように感じさせることが多いように感じます。まだまだ、馴染んでいるとは言えません。
セクシャリティには様々な意味がありますが、記事の中では主に「性」という意味で使っています。性と言われれば、私を含めた誰しもが持っているもの。たぶん多くの人が、初めに書いたスマートフォンよりもっと前から、生まれた瞬間から持っているもの。それでも、なかなか自分の性に目を向け考えたことがある人は少ないのではないでしょうか。


私もそのうちの一人です。そこで、今回のOriginal Life Talkは、私が初めて出会った”セクシャルマイノリティ”の当事者である田村歩未(たむらあゆみ)さんを話し手として迎えることにしました。
”たむ”の愛称で親しまれる彼女は、いつも弾ける笑顔でみんなに元気をくれる太陽のような存在。今回声をかけた時も、「ワシなんかでいいの〜?」と笑って引き受けてくれました。(たむは一人称に「ワシ」と使います。この記事では、たむの自然なままの言葉を大切にしています。)
そんな彼女がセクシャリティについて抱えてきた葛藤と、今感じている想いを聞くことができました。

みなさんが自分のセクシャリティについて考えるきっかけになれば、と思いながら書いています。第二回Original Life Talk、どうぞお付き合いください。

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たむには現在、おつきあいをしている人がいます。幸せそうな彼女たちをみていると、自然と心があったかくなってきます。



たむ:恋人と初めて会った時、とても魅力的な人だなあと惹かれるものがあった。そう、人生初のひとめぼれ。(笑)そこから、もっと知りたいと思って連絡を取り合うようになって、今の関係になったんだ。
(本当は馴れ初めだけで記事一本かけそうなくらい素敵なお話なのですが、泣く泣く省略・・気になる人はぜひ聞いてみてください・・笑)

恋人はワシとはまったく真反対のタイプ。ワシは「動」で、彼女には「静」という言葉が似合うと思う。
とても自然な人で、物事を良いか悪いかで判断しないような、ワシにとっては新鮮な感覚を持っている人。
例えば、たまに体調が悪くて寝続けてしまうときでも、「いっぱい休めてよかったね。健やかだね。」と声をかけてくれる。
そんな風に、あたたかい言葉をかけてくれるから、だんだんと自分自身に対してもあたたかい言葉をかけてあげられるようになった。そうやって、自分の弱いところや感情的なところも自然と受け入れられるようになっている感覚がある。

それは、自分のセクシャリティに対しても同じ。
前は、「かっこよくしていなきゃ」と思い込んでいて、それが苦しくもあった。
前の彼女に「(たむが)男の子っぽい格好をしていなかったら、好きになっていないかもしれない。」と言われたことがあって、心のどこかでずっと引っかかっていたんだ。
男らしくしていなければいけない。他の人から見て、「男女」に見えなければいけない。
そんなことに縛られていたように感じる。
でも、今の恋人は、ワシを一人の人として好きでいてくれている。「たむが、たむだから」と言ってくれる。だから、自然な姿で恋人との時間を過ごすことができるし、恋人と一緒にいるときの自分の表情が一番好きなんだ。


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恋人との出会いがきっかけで、現在は自然な恋愛ができているというたむ。
しかし、彼女がセクシャリティと向き合い始めた頃の話を聞いていると、こんな風に思えるようになるまでは様々な葛藤があったことが分かってきました。

彼女が初めて自分の性に対して違和感を覚えたのは、小学校6年生のとき。
みんな、段々と”好きな人”や”恋人”のようなものに興味が湧く頃ですよね。”なんとなく周りとは違う感覚”を抱きながら、彼女はその幼い頃をどのように過ごしていたのでしょうか。


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たむ:小学生のとき、ある女の子に対してもっと「かわいがってほしい」「かまってほしい」って思ったことが一番初めに違和感を感じた出来事。
そのあとも、中学2年生のときクラスメイトのノリで、「〇〇(女の子)とチューして!」と言われてしたことがあって。そのとき、「あれ?」って思った。
その女の子に対して、「かわいい」「ドキドキする」みたいな、不思議な感情を抱くようになったんだ。それは今思えば、恋愛感情だったのだと思う。
相手は本気ではないと分かっていても、自分は本気で想っているという自覚を持つようになった。
当時は、自分はレズビアンなのかな、性同一性障害なのかな、と認識していた。それしか、言葉を持っていなかったから、そう表現することしかできなかったんだと思う。


「自分はレズビアンなのかもしれない」「性同一性障害かもしれない」。
そのことを周りにも話すことも、友達から言われることもあったそう。しかし、それができていたのも中学生の頃まで。それからは「まわりと違う」ということが、顕著に人間関係に影響するようになってきます。初めて恋人のような存在ができたという高校生にもなると、段々とまわりの目も気になっていただろうと想像できます。恋人との関係性を隠したり、無理に女の子らしい振る舞いをしてみたり。
つまりそれはたむにとって、”自然ではない”ということ。


たむ:男の子と付き合ったこともあったよ。だけど、どうしても付き合っていると求められるキスやハグみたいな行為をしている自分に違和感があって。高校生の頃は、髪を伸ばしたり女子として振る舞おうと頑張っていた時期もあったんだけど、どうしても自分には馴染んでいない感覚がずっとあった。

でも、大学生になって、セクシャリティの授業を受けたの。初めて正しい知識を学ぶことができて、自分でも調べるようになった。そこで初めてちゃんと自分の性と向き合ったんだよね。そしたら、心の中にあった氷が溶けていくのを感じた。
友達にもカミングアウトをした。彼女たちに自然に受け入れてもらえた時は、溶けた水が流れていったよ。それくらい、大きな出来事だった。


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たむ:それまでは、ワシ自身もセクシャリティに対して偏見を持っていたし、どうしても「なんで自分の恋愛対象は女の子なんだろう」という葛藤はあった。それが正しい知識を得たことによって、自分の中のボキャブラリーが増えた感覚。
自分のセクシャリティと向き合う上きっかけとして、言葉は必要だったし救われる部分はたしかにあった。
けれど、言葉に縛られてきたという感覚の方が強くあるよ。


セクシャリティにおける言葉は、とても複雑なもの。性的指向や、性表現などさまざまなものが組み合わさり、その人自身の性として表されます。そしてそれは、自分自身を表す一つのアイデンティティのようなものになる。だからこそ、一言でまとめるのは簡単なことではないと想像できます。


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たむ:言葉は自分についている”ラベル”のようなものだと思う。その言葉って自分が置かれている環境でもあるから、そのラベルがあることで楽になることもあるし、辛くなることもある。

だから、「セクシャルマイノリティ」に関する言葉には敏感。
例えば「レインボーフラッグ」。セクシャルマイノリティの象徴のように使われることが多いけれど、「レインボー=セクシャリティ」のようなイメージがつけられているように感じてしまう。
わたしたちを”マイノリティ”として結びつけるような言葉には、とても敏感になる。
わざわざ名前をつけて連想させることで、マイノリティになるんじゃないかって思う。

自分自身のセクシャリティも、一言で表すのは難しい。人に聞かれたときは「クエスチョニング」って答えるようにしたり、自分の中でもいろいろ試している。
そうやって言葉に縛られず、グラデーションを持つようにしているんだ。
だから、「たむ=セクシャリティ」と結び付けて認識されることにも違和感がある。ワシの人生の先にあるセクシャリティを自然に見てほしい。


正体不明の何かに言葉がつくことで安心できることってあると思います。けれど、その言葉に縛られて本来の姿が見えなくなってしまうことも、同時に起こっています。
たむは性と向き合う中で手にしたたくさんの言葉の中から、自分に合うものを選んでいる。そうやって丁寧に言葉と付き合ってきた彼女だから、伝えられることがあるのだと思います。

セクシャルマイノリティについて発信する難しさは、”社会的な目線”にあると感じています。それがどうしても外せないことだと分かっていても、もっと、自分を主語にしてもいいのではないかと思ってしまう。それほど、マイノリティといわれる彼女たちは、社会に訴えかけているようにみえます。
様々なSNSで発信を続けるたむは、どのように感じているのでしょうか。


たむ:自分を主語にしてもいい、というのは救われるものがある。でも、社会に向けて発信している一方で、ワシも「自分のために」発信をしている。発信をすることで、楽になれるから。みんなに知ってもらって、それが自然な状態で広まっていけば、社会に受け入れてもらえる。そうすれば、自然と、自分のことも受け入れられるようになると思ってる。

発信を続けていると、こんなうれしいことが起こるようになったんだ。
「たむと出会って、セクシャリティのことで困っているひとの話を聞いて、声をかけられるようになった。」とか、
「セクシャルマイノリティについて受け入れられるようになった」と友人が言ってくれる。
これって、”自然になっている”ということだと思う。今まで、マイノリティ的存在だったものが、その人にとって自然なものになっていく。そうやって広まることを、求めているなあと感じるよ。


彼女は何度もなんども、”自然に”という言葉を使っていました。セクシャリティは、だれしもが持っているもの。自分たちにとって、自然なものであると改めて気付かされます。
こんなにも自然に広まることを求めている彼女、もしくは彼女たちの声にもっと耳を傾けたくなりました。


たむ:当事者ではない人たちの中には、もちろん、受け入れられない人もいると思う。そこまで気にしていたらキリがないというか。どんな状態でも違和感を持つ人はいるし、それぞれの理由があると思うので。ただ、正しい知識や、わたしたちの生き方を知ってほしいという想いは強くある。ワシが知識を得たことで自分の性と向き合えたように、新しい視点や考えが生まれるかもしれないから。
そして、わたしたちの姿から感じたことを知りたい。そこから、一緒に考えることができたら嬉しい。そういう場が必要だと感じている。
今は、マイノリティ側から向かっている矢印の方が多いと思う。それが、マジョリティ側からも増えてきたら、自然に広まることに繋がると信じているよ。


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私にも、セクシャリティがあります。私は、女性としてうまれ、女性として生きています。「かわいい」と言われたいと思っていること、かわいい服を身に着けることに喜びを感じること、これもひとつのセクシャリティなのかもしれません。
自分を表現する方法や、「こう在りたい」という想いの幅が広がって、それぞれのセクシャリティになっていくのではないでしょうか。
そう思えた今、自分の先にあるセクシャリティって何なのだろうかということを、問い続けたいと思っています。


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ー 編集後記

何かに向き合おうとするとき。それが自分にとって馴染みのないものであればあるほど、向き合うことが怖くなったりします。それは、まだ”知らないから”だと今回気づくことができました。

たむは、自分自身についての性も”知ること”で選べるようになったと話してくれました。それは、彼女がこれまでの人生の中でたくさんの選択をし、自分の人生をつくってきたからだと思います。
過去について話す中で、彼女の人生の中に何度か挫折経験のような話がありました。幼い頃は、それらを環境のせいにしていた彼女は、その度にスタートラインに立ち直すことで確実に前に進んできました。そして今も、何度もスタートラインに立ち、その先の未来を自らの手で作ろうとしています。
そんな彼女から発信されるものは、とても自然でありながら周りの人に届くパワーがあります。

今回の記事やイベントを通して、みなさんがセクシャリティについて”知る”きっかけになり、これから先、自分の性について考えるスタートラインになればと願っています。
たむが、自然体で話してくれるその姿に勇気をもらいました。
この場を借りて、お礼を伝えさせてください。本当にありがとう。


ー たむから皆さんへ

最後まで読んでいただきありがとうございます。
身近なようでとっても話しづらいセクシャリティ。私はもっと早くから正しい情報を知りたかったと思っています。
この記事を読んでいただいた方の中にジェンダーやセクシャリティの悩みをひとりきりで抱えていらっしゃる方がいれば、ぜひ、私に連絡をください。いっしょに悩み、いっしょに進みたいです。そして、周りに悩んでいる方がいたら、この記事を紹介していただけたらうれしいです。いっしょにお話しましょう!


ー Original Life Talkイベントのお知らせ
記事を読んで、一緒に考えたいと感じてくれた方はぜひイベントへのご参加おまちしております!(残り1名です!お急ぎください!)
当日は、私とたむの対話の時間や参加者のみなさん同士での対話の時間を通して、「セクシャリティ」について考えを深めていきます。

みなさんと共に過ごせる時間をたのしみにしています。

参加ご希望の方はこちらのフォームからご応募ください⬇︎
https://forms.gle/34hAV9vhGoHs55rR9

イベントページはこちら⬇︎
https://www.facebook.com/events/238303654135479


なお、今回もありがたいことに「参加できないけれどぜひ話は聞きたい」というようなお声をたくさんいただきました。
そこで、イベント当日の録画を配信することを検討しています。
また、詳細はお知らせしますので、しばらくお待ちください!


ー 書き手・聴き手・イラスト

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関野菜子(せきのななこ)
https://note.com/cororonn




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