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教員の働き方改革と一体にした授業改善をめざすカリキュラムマネジメントについて(2)

「カリキュラムマネジメントで取組むディプロマポリシーの共有と実践」

拙稿に対して関心をお持ちいただき応援いただきました皆さま方、誠にありがとうございます。たいへん励みになります
今回の(2)「カリキュラムマネジメントで取組むディプロマポリシーの共有と実践」から(7)「おわりに」まで、毎週日曜日に更新して参りますのでどうぞよろしくお願いいたします
「カリキュラムマネジメント:「社会に開かれた教育課程」の理念の実現に向けて、学校教育に関わる様々な取組を、教育課程を中心に据えながら、組織的かつ計画的に実施し、教育活動の質の向上につなげていくこと」
https://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/new-cs/__icsFiles/afieldfile/2020/01/28/20200128_mxt_kouhou02_02.pdf

先ず、「授業改善・適正な学習評価」と「教員の働き方改革」の見方・考え方についての問いかけです

観点別学習状況の評価における「主体的に学習に取り組む態度」の評価について、既に実践されている初等教育・前期中等教育諸学校(以下「小中学校」と表記)では「評価疲れ」の現象が報告されていて、後期中等教育諸学校(高等学校、以下「高校」と表記)で同じことが繰り返されないようにと教育研究者から警鐘がならされていました
前回(1)で『さらに、先生方には、従来の「学習評価」の在り方の根底を問われる状況が迫ります。令和4年度 入学生から始まった観点別学習状況の評価において、新しい授業観の構築と適正な学習評価に学校全体で取り組むことが必要不可欠になったことです』と述べました。しかし、高校における観点別学習状況の評価は、新学習指導要領から始まったものではなく、従来の学習指導要領では「知識・理解」「技能」「思考・判断・表現」「関心・意欲・態度」の4観点評価が定められていました
現実には、私が、教諭・首席(主幹教諭)・教頭・校長を務めた37年間の経験則で言うと、高校では、観点別評価は積極的に行われず、「テスト点70点(若しくは80点)・平常点30点(若しくは20点)」で学期の評価及び学年の評価(点数で算出されたものを5段階の評定に総括する)を行うことが一般的であったように推察されます。よって、「新しい授業観の構築と適正な学習評価に学校全体で取り組むことが必要不可欠」となったのです
平常点は、先生方が、生徒たちの頑張りをできる限り幅広に評価しよう、進級・卒業単位修得のためにその変容や成果で加点してあげられる項目はないか、と、提出されたノートやプリントをこまめに一生懸命に点検・生徒たちにフィードバックして点数化、小テストの取組み、授業中の取組み点、果てや出席点等々、生徒たちの平常点評価に対するエビデンスを求め、アカウンタビリティ(説明責任)を果たすためにかなりの時間を費やされています

他方、「主体的に学習に取り組む態度」の評価の基本的な考え方は、
「単に継続的な行動や積極的な発言等を行うなど、性格や行動面の傾向を評価するということではなく、各教科等の「主体的に学習に取り組む態度」に係る評価の観点の趣旨に照らして、知識及び技能を獲得したり、思考力、判断力、表現力等を身に付けたりするために、自らの学習状況を把握し、学習の進め方について試行錯誤するなど自らの学習を調整しながら、学ぼうとしているかどうかという意思的な側面を評価することが重要である」
「本観点に基づく評価としては、「主体的に学習に取り組む態度」に係る各教科等の評価の観点の趣旨に照らし、
① 知識及び技能を獲得したり、思考力、判断力、表現力等を身に付けたりすることに向けた粘り強い取組を行おうとする側面と、
② ①の粘り強い取組を行う中で、自らの学習を調整しようとする側面、という二つの側面を評価することが求められる」
中央教育審議会 初等中等教育分科会 教育課程部会「児童生徒の学習評価の在り方について(報告)」
(「https://www.mext.go.jp/component/b_menu/shingi/toushin/__icsFiles/afieldfile/2019/04/17/1415602_1_1_1.pdf

「教員の働き方改革」に関連させて「新しい授業観の構築と適正な学習評価」のパラダイムシフトが重要になってきます
私の捉え方・考え方、実践してきたこと、構想していたことは次回以降にお話ししたいと思います

「教員の働き方改革」についてもう一言。「部活動改革」についてです

高校における「部活動」については、新学習指導要領において、『生徒の自主的、自発的な参加により行われる「部活動」については、スポーツや文化、科学等に親しませ、学習意欲の向上や責任感、連帯感の涵養等、学校教育が目指す資質・能力の育成に資するもの』とされ、また、スポーツ庁や文化庁のガイドライン(H30 策定)においても、『「部活動」は、体力や技能の向上を図る目的以外にも、異年齢との交流の中で、生徒どうしや生徒と教師等との好ましい人間関係の構築を図ったり、学習意欲の向上や自己肯定感、責任感、連帯感の涵養に資する』とされています

他方、文部科学省「学校の働き方改革を踏まえた部活動改革について」(【本文】学校の働き方改革を踏まえた部活動改革 (mext.go.jp))には、「一方で、部活動の設置・運営は、法令上の義務として求められるものではなく、必ずしも教師が担う必要のない業務と位置付けられている。
・教師の勤務を要しない日(休日)の活動を含めて、教師の献身的な勤務によって支えられており、長時間勤務の要因であることや、特に指導経験がない教師には多大な負担となっているとの声もある。」と記載されています
私の教員時代(生徒会部長として)、管理職の11年間、部活動顧問・特に正顧問の委嘱は、先生方の生徒たちの成長を願い、共に喜びや悔しさを共有したいという思い、のみに支えられた、お願いベースのものでした。私も教員時代に女子硬式テニス部の正顧問を20年以上させていただきましたので現状はよく承知しているつもりです
大阪府においても、令和5年8月「大阪府における部活動等の在り方に関する方針」(https://www.pref.osaka.lg.jp/attach/2387/00457858/01%20houshin.pdf)が策定され、
「部活動大阪モデル」が三か年計画で取組まれることとなりました。基本的に近隣の二つの学校間での合同部活動を推進し(但し、部活動加入生徒数が多い学校は単独、箕高は単独21校でした;09 sankou62.pdf (osaka.lg.jp))、部活動指導員や外部指導者等の適切な指導者を確保するとされました。正顧問をしていると公式戦やコンテスト・コンクールのことが気にかかります。私立高校や高体連との調整も今後の大きな課題です

私が思うところは、「学校の働き方改革を踏まえた部活動改革」になっているのかという点です。週休日に、部活動指導員や外部指導者、合同練習で相手校の顧問に練習や公式戦等に付き添ってもらう。週休日で部活殿付き添いがないので、家族と遊びに出かける、たまの一人の時間をゆっくり楽しむ、ことが心ゆくまで安心してできるのか。私の長年部活動主顧問をしていた経験ではNOです。練習中や公式戦参加中の生徒に、熱中症、大きな怪我や頚より上の身体への事故が生起した場合、保護者への緊急連絡、管理職への報告、担任・学年主任の先生への連絡、病院受診の付添等々に大きな問題が生じます。顧問は練習や公式戦が終わるまで心配でなりません。部活動で顧問をしている生徒たちが活動している間は、身体的にはOFFかもしれませんが、危機管理対応を常に心のなかにもっておく心理的負担。これを軽視しては何が働き方改革だ、と思わざるを得ません

また、文部科学省が言うように「学校部活動から地域部活動への転換」が高校でも推進されれば上述の心配もなくなるとおもわれますが、それは、学校教育の現場から部活動がなくなることを意味し、青年期の発達段階に大きく寄与している教科外教育活動の大きな柱を失うとともに、顧問の先生が、普段の授業やHR活動では見られない生徒たちの姿や資質・能力を発見するとともに信頼関係を構築していく機会をも奪うことにもなります

では、どうすれば良いのか、についての問題提起が本論の中心テーマです

「授業改善・適正な学習評価」と「教員の働き方改革」の見方・考え方について私見を述べてきましたが、最後に本稿のテーマである「カリキュラムマネジメントで取組むディプロマポリシーの共有と実践」についてもお付き合いください

新学習指導要領・観点別学習状況の評価の理念に基づく適正な学習評価・授業改善に向けた第一歩は、校長のリーダーシップのもと、全教職員がディプロマポリシー(グラデーションポリシー)を共有することだと考えています。その理論的背景と箕高での実践について述べたいと思います

平成31年度入学生より始まった新学習指導要領の先行実施(「総合的な探究の時間」「総則」「特別活動」「地歴・公民科の領土に関する規定」「家庭科の契約の重要性及び消費者保護の仕組みに関する規定」)を経て、令和4年度入学生より新学習指導要領が年次進行で実施されています
そのなかで注目すべき項目は後期中等教育における観点別学習状況の評価、探究的な学び(活動)とカリキュラムマネジメントです

他方、2030年の子どもたちを取り巻く社会について、OECDは Learning Compass 2030 で、コンピテンシーを再定義し、その育成につながるカリキュラムや教授法、学習評価などについて提起しました。そのなかで、学習プロセスとして、学習者が状況に適応し、振り返り、必要な行動を起こし、継続して自分の考えを改善していく力、つまり、見通し(Anticipation)・行動(Action)・振り返り(Reflection)の「AARサイクル」の獲得を提唱しています

箕高は昨年度創立60周年を迎えたグローバル科・普通科併設校として、生徒・教職員がともにChallengeし、校訓である「自主自律」「和親協力」のマインドを持って国際社会で活躍できる生徒を育成してきました
箕高では、令和2年度より、更なるChallengeとして、高等教育における「学士課程答申」「高大接続改革実行プラン」により「3つのポリシー」の明確化・一体的な策定義務が求められたことを参考に、「学校経営計画」の「めざす学校像」を基にディプロマポリシー(グラデーションポリシー)(卒業時に育成をめざす資質・能力に関する方針を、箕高では、高等教育の学位授与の方針「ディプロマポリシー」の名称を借りて用いました。以下表記は「ディプロマポリシー」)を策定し、令和3年度に新設した「学習指導室(後述)」でディプロマポリシーの共有とカリキュラムポリシーの策定、箕高授業スタイルによる授業改善等の取組みを始めました
「「学校経営計画」:府立学校では、中期的(3か年)な目標を踏まえ課題を明確にした「学校経営計画」(3か年)を策定し、PDCAサイクルによる学校経営を一層推進します」
(https://www.pref.osaka.lg.jp/kotogakko/hirakaretagakkou/index.html)

その契機となったのが、令和2年12月23日 開催の 教員研修「箕面高校で学ぶ生徒たちはどのような力を習得するのか〜”グローバル”に着目して〜」です
関西学院大学 准教授(現、教授)の 時任 隼平 先生によるファシリテートで、国際教養科時代、グローバル科改編以降、箕高はどんな生徒を育ててきたか、特に印象に残る生徒像を取り上げ全体で共有し、
1.教師として、箕面高校を卒業するまでに生徒にどのような力を習得して欲しいのかを再確認・言語化する
2.箕面高校教職員は、箕面高校を卒業するまでに生徒にどのような力を習得して欲しいのかを再確認・言語化する
というワークに、個人 ⇒ 教科で取組み、その内容を教科ごとにプレゼンしました
あるベテラン教諭から「研修内容がとても良かった。38年間の教師生活で、教科として卒業時にどのような資質・能力を身に付けさせるかを議論したのは初めてです」と嬉しい言葉もいただきました
 同時に私から、研修の内容を踏まえて、「めざす学校像」「ディプロマポリシー」を、卒業時、生徒たちにこのように育って欲しいという姿をイメージしてCompetency –based で考えてみませんか、と提案しました

箕高の 令和2年度 学校経営計画「めざす学校像」は次の通りです。

令和3年度「学校経営計画(案)」策定に向けて、国際教養科時代、そして現在のグローバル科の取組みの継承すべき財産と課題、教職員としてどんな生徒を育てたいのか、育ててきたのか、を先生方全員から聴き取り、気付いたこと、学んだことを踏まえて「めざす学校像」「ディプロマポリシー」を次のように捉え、全教職員で練り上げていこう、と提起したのです

これを基に、令和3年度「学校経営計画(案)」を策定しました
さらに、次節で紹介する「学習指導室」が中心となり、「めざす学校像」「ディプロマポリシー」の共有を全体に図りながら、「スクールミッション」「スクールポリシー」の策定(案)に繋げました

箕高の 令和3年度 学校経営計画「めざす学校像」「ディプロマポリシー」は次の通りです

ディプロマポリシーについては、継続して議論を進め、Competencies (4)は、「自主自律」「和親協力」の心をはぐくみ、他者や身近な社会・世界のために、自らの強みを主体的に発揮し、社会的貢献ができる力 に発展的修正を加えました。令和3年度に、グローバル科・普通科の「科としての特色・魅力・大切に育てたいこと・広報活動で中学生に伝えたいこと」について学習指導室を中心に全体で議論し、グローバル科は、「舞台は世界 ― 異文化理解は、グローバル科の学びの特色・目標 ―」とし、「グローバルな視野で、異なる文化・価値観を持った人々を理解し、協働できる生徒を育てる」ことをめざすとしました。普通科は、「決め手は探究 ― 探究・貢献は、普通科の学びの特色・目標 ―としで、「自己と向き合い、自らの強みを見つけ、他者や身近な社会・世界のために、その強みを主体的に発揮・貢献できる生徒を育てる」ことをめざすとしました。この議論のなかで、Competencies (4)の「地域に信頼され愛される学校の取組みを進め」は、普通科の特色・魅力・大切に育てたいことの核となる、Learning Compass 2030で、2030年の教育に求められる生徒像 ― より良い社会を実現するために “Agency” を身につけ、発揮していくことが期待されている ー を落とし込む形で、「他者や身近な社会・世界のために、自らの強みを主体的に発揮し」に発展的修正をしたのです

カリキュラムマネジメントで、ディプロマポリシーの共有と実践を進めていくことは、観点別学習状況の評価の理念に相応した「授業改善・適正な学習評価」、さらには「教員の働き方改革」に繋がると考えています
次回以降、さらなる問題提起をしていきます
何かのきっかけで、現場の生徒たちや先生方が幸せになっていくような議論が拡がればと願います
引き続き、どうぞよろしくお願いいたします

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