【スーパーには珍しい野菜がない?】 スーパーと青果店の品揃えの違い
青果店で仕入れや販売をする中で気付いたことがありました。
それはスーパーと青果店の品揃えの違いについてです。
今回は日本の青果流通の構造という視点からその違いについて書いていきます。
先にまとめを載せます。
「珍しいものがあるね」と良く言われる
青果店にいた頃、お客様からいただいた言葉の中で印象に残っている言葉があります。
それは
「このお店は他のところにないものがあるからいいね」
というような言葉でした。
確かに農家さんから産直で野菜や果物を扱う場合は、珍しいものが入ることもしばしばあります。
ただ、お客様が指しているのはそれらの商品についてだけではないのです。
突然ですが、皆さまは以下の野菜の名前を聞いたことはありますか?
みぶな
エンダイブ
のらぼう菜
ずいき
また、果物でこれらの品種やブランドがどんなものか分かりますか?
マスカット・ベリーA(ぶどう)
サマーエンジェル(すもも)
赤い彗星(スイカ)
しずる(みかん)
この中で1つでも知っている方がいたら、同業の方もしくは相当「食」に詳しい方だろうなと思います。
ちなみに私はすもも農家さんのところにいたことがあったので、すもも「サマーエンジェル」は知っていましたが、それ以外は全て青果店で働くようになって初めて知ったものです。
しかし、実はこれらの野菜や果物は全て市場で手に入るのです。
このように、市場で手に入る野菜や果物でも珍しいものはたくさんあり、種類で言えば品目だけでも300以上、等級(見た目の綺麗さ)や階級(大きさ)に分けるとその種類は1500以上にもなると言われています。
なので品数で言えば地方の1つの直売所などよりも圧倒的に多いはずです。(一方で直売所でしか置いてないような野菜等もあります)
そして、私がいた青果店はもちろんスーパーも野菜や果物は市場から仕入れるのが日本では一般的です。
ではなぜ私たち一般消費者は上記のような珍しい野菜や果物に出会えないのでしょうか?
正直そこまで品種やブランドに興味がない。というのも理由の1つだとは多います。
しかし、それ以上に大きな理由だと思うのが、市場でのスーパーの青果部門と個人で経営しているような青果店の市場内での役割の違いからくる品揃えの差です。
次の章で詳しく書きます。
揃えるスーパーと調整する青果店
スーパーでは日常生活でよく使う青果を満遍なく扱いう一方で、青果店のような小さいお店は特定の品目を削ったり拡げることで市場における需給バランスの調整役のような役割をしています。
そういった品揃えの差はそれぞれの仕入れ方法の差にも影響が出ます。
スーパーなどの大型量販店の仕入れ方法:契約販売
日本で初めてできたスーパーマーケットは1953年の紀伊国屋だと言われています(諸説あり)
それ以来、スーパーマーケットなどのナショナルチェーン店がどんどん増えてきたわけですが、スーパーマーケットは青果をどこから仕入れるのかというと、日本の場合、意外にも卸売市場から仕入れるケースが多いのです。
その理由は日本のスーパー業界の寡占化が進んでおらず、自ら市場で仕入れるコスト(人件費等)よりも仲卸業者に委託するコストの方が安いからです。(スーパー上位5社の寡占化率は3割程度、小売業の仕入れ先は8割が市場経由というデータもあります)
仲卸業者とスーパーの関係については詳しくはこちらに記載しています。
そんなスーパーなどの大型量販店・ナショナルチェーン店は、仕入れに際して揃えることを前提としますので、事前に仕入れにかかる予算と数量を決めた中でそれを各店舗に割り振るという手順をとっていますが、どちらかというと数量を揃えることを重視するので計画性が重要となります。
ですので、入荷した日にセリ取引で価格が決まるというやり方はそぐわないのです。
また、青果店のような小さい小売店が少なくなっている中では仲卸業者にとってもスーパーなどの大型量販店が大事な取引先となりますので、できるだけ契約販売の形に対応する必要があります。
青果店などの小さい小売店の仕入れ方法:当日のセリ取引や相対取引
仲卸業者としてはスーパーへの販売の優先順位が高まるため、悪天候などで需要に対して供給量が少なくなってしまった品目(=価格が上がっている)に対しては小さい小売店はあえて仕入れなかったり、その一方で特定に品目が大量に市場にあり、契約販売のスーパーでは捌き切れないと判断した品目に対しては、思い切ってたくさん仕入れて「お買い得品」として販売したり、量販店では扱いづらいような珍しい商品を扱ったりするときもあります。
このように市場流通の調整役とも言えるような臨機応変な対応を青果店ができるのは、仕入れ量や品目をあらかじめ決めず、当日の市況や商品の状態を見て仕入れを行うからです。(青果店も必ずないと困るような商品は事前に注文をして確保したりもします)
つまり、先ほどの「珍しい商品がある」というエピソードは青果店の役割として、量販店が扱えない商品(需要が限定的な商品)を扱った結果と言えます。
そんな青果店がなぜ珍しい商品を扱えるのかというと、お客様との距離感が近く、そういった商品の魅力を伝えることができるからです。
スーパーの場合、青果コーナーに商品説明をする専属のスタッフさんはもちろんおらず、スタッフさんと接する機会といえばお会計くらいですが、青果店では店主やスタッフさんとお客様の距離が近いので必然的にコミュニケーションが生まれ、そういった商品の説明もしやすいので珍しい商品でも扱いやすいのです。
青果店は必需品とは言えなくても欲しい人が一定数いる商品やこちらから提案することでお客様にその魅力を伝えることができる商品、または入荷量が特に多くなってしまった商品を「お買い得品」として扱うことで、青果市場の豊かな品揃えと円滑な流通を行うための調整役を担っていると言えます。
最後に 「青果店の減少」について
しかし、個人経営の青果店のような小規模の青果専門店は近年減少傾向にあります。
農業自体も大規模化が進む影で高齢者を中心に小規模農家が減少するように、青果店も高齢化や後継者不足による減少が進んでいるのです。
八百屋さんと言えば、若い人というよりはどちらかと言えば高齢の方がやっているイメージが強いと思います。
「数十年前は八百屋は儲かった」という話を聞いたことがあります。
その頃は1世帯当たりの人数が多く、じゃがいもなどがケース単位で売れたと言います。(今は一個単位で売って欲しいと言われることもしばしばです)
そして、八百屋をやって外車を買ったとか家を建てたとかそういった話も聞きました。
もちろん、今でもそういった方はいるでしょうが、全体として見ると当時のような元気はないと思います。
実際に青果店の仕入先である仲卸業者にとってもスーパーの重要度が増しており、契約販売を促進していくための法整備も進んでいます。しかし青果店が減っていくということは、先ほど書いたような流通上での「調整役」がいなくなっていくということなので、これまでのような商品の多様性を維持することが難しくなってしまうという懸念もあります。
インターネットを使って農家さんが売る方法ももちろんあります。
しかしサイトの管理など販売にかかるコストを農家さんか消費者が負担することになり、送料も市場流通より遥かに高くつきます。そして消費者も現物を見ずに商品を買う必要が出てくるのです。
もちろん、そういった手段を使うことで農家さんはオリジナリティを出せますし、実際に成功している方もいらっしゃると思いますが、単純に中抜きができるので農家さんも消費者もwinwinということにはなりません。
そして、詳しくはこちらに載せていますが、物流以外にも決済や情報面など卸売市場は青果流通に欠かすことができない、なおかつ代替が難しい機能を抱えています。
とはいえ現在でも青果の流通は市場が中心です。そのような中では仮に青果店ではないにしても豊かな食生活を維持するためには市場における「調整役」が必要なのだと思います。
今回は以上です。最後までお読みいただきありがとうございました。
参考:
・〝適者生存〟戦略をどう実行するか: 卸売市場の〝これから〟を考える
・市場流通2025年ビジョン―国民生活の向上と農水産業の発展のために
・青果物仲卸業者の機能と制度の経済分析