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書店であった嘘のような本当の話②問い合わせラビリンス

書店で、探している本を店員さんにたずねて探してもらう時。皆さんはどうしますか?

タイトル、出版社、著者、ISBN。書籍、雑誌を探し当てる情報を全て持った上でたずねる人は稀です。

鉄道の通っていないある市に新しくショッピングモールができたのはいつだったか?そのモールにテナントとして入ったB書店は、100坪ほどのバランスの良いお店でした。オープニングスタッフとして採用された私を待ち受けていたのは、それまで書店の使い方を知らなかった方々…。それもそのはず。開店直後にウキウキと来店した女子中学生ふたりが、

「今まで本屋さんなかったから嬉しいね♬」

と言っているのを小耳にはさみました。地域の小中学生、高校生の購入をリアルで追えという指示もありました。例えば、高校生が新潮社夏の文庫100冊の夏目漱石「こころ」を立て続けに買いに来たとしますね。問い合わせの時やレジで、「学校の先生から課題としてこれを読むようにと言われた」という情報を手に入れたら、差し支えなければどちらの学校さんですか?と聞く。近くの高校じゃん!と在庫を見て少なければ慌てて追加発注する、みたいな感じです(例えばの話ですから、たいてい『こころ』はたくさんありますよ)。

もちろんそんなことは小売業なら当たり前にやっていることなのですが、この店舗のリアルで手ごたえを感じながらの仕事は好きでした。店長は当時30代の独身男性。「僕が小学生の女の子に、この本学校で流行ってるの?とか聞くとやはり怪しい。その点こんゆじまじこさんはお子さんがいるから、雰囲気的にも怪しまれずにリサーチしやすいんですよ。ぜひ先頭切ってやってもらいたい」と言われました。振り返ると、新しい商圏での店舗展開に力を入れていたんだなぁと今更思います。当たり前か。その頃は頭が主婦でしたので売上の数字とかさっぱり。

ここで、問い合わせラビリンスに迷い込むわけです。

冒頭に書いた、問い合わせの時にどれだけの情報をもって店員に聞くか。

体感ですが7割ぐらいのお客様が、曖昧なまま問い合わせをされます。ここで言う「探している本」とは、ピンポイントのものです。「とりあえず誰それの小説ならなんでもいい」とか、「ガーデニングのコーナーはどこ?」というものではなく。

私がトータルで15年ほど経験した書店員の仕事の中で、とにかく忘れられないオモシロ問い合わせが

「おとこの週末ある?」

です。

ここで吹いた方は書店員経験者ですね(笑)。「えーと、すみません、『おとなの週末』ですか?『男の隠れ家』ですか?」

探しているのは「おとなの週末」の方でした。

初めて書店でアルバイトをする新人さんについて教える時、私が必ずする質問があります。「書店での仕事って、何が一番大変だと思いますか?」と。もちろんそれぞれの答えに正解、不正解はなく、ただ聞いてみたいだけなのですが、ほとんどの人がまずはジャンルの場所を覚えること?とか、レジでの対応、と答えます。

私が、何年書店で働いても一番大変だと思うのは問い合わせの対応だと考えていました。おとなの週末と男の隠れ家という雑誌があることを知らなければ、一生懸命おとこの週末で検索するでしょう。書店の検索システムって想像力がなくて、「もしかして『おとなの週末』では?」とか言ってくれません。「情報がありません」とバッサリ。GoogleやYahoo!に聞いてみれば、もしかして、と言ってくれるかも知れませんが?

そんなわけで、商品知識プラス想像力、お客様からの情報を引き出す会話力、コミュニケーション能力が必要な仕事なんです。黙って店を開けていれば売れるというわけではないのは、他の小売業も同じでしょうが、案外人と話すことが得意、好きでないと、難しいこともある仕事です。

書店の仕事が続かなかった人は、この問い合わせラビリンスにやられてしまったのではないかなぁ。心が折れるというか、やってらんねーよ‼︎って思ったのではないかと推測します。だってお客様自身が欲しいものをわかっていないのに、私たちにわかるわけがないのです。みごと探し当てた時はお褒めの言葉を頂きますが、自分でも嬉しいものなのです。

#書店
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#書店での問い合わせ
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