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経済に関するメモ(21) 【保険データ】

本メモは経済の基礎的な内容に関するメモです。


1. 保険会社における統計分析 3項目

1-1. 統計分析の目的
❶事実を数値に置き直し調べて何が起きているのかを理解する
…新商品の契約数増加に伴って既存商品の解約数増加、切り替えが起こっているように思える
→局所的なものか収益に大きい影響を与えるものなのかを理解するため、
現場のヒアリングをもとに数値化し全体への影響を計測する必要がある

❷現象について仮説の裏付けを取る
…切り替えが1割、代理店へのヒアリングによって女性の切り替えが多いと分かる
→代理店は女性に対する訴求力があると考えてセールスしている
→仮説は「女性に対する訴求力が強く切り替えが進んでいる」
→既存契約と切り替え契約の男女比を比較する

→もう一つの仮説は「新商品の魅力が既存商品の顧客にもアピールしている」
→既存契約のうち新商品のターゲット層に当てはまる契約と他契約の切り替え率を比較する

❸影響度を把握する
…20代女性の切り替えが多い、次に収益性の変化や影響について調べる
→収益性の程度、新商品による収益性の変化、費用・収益の変化はどのくらいか?
→契約構成の変化が事業にどのような影響を与えるのか?予定通りに変化しているのか?

❹問題に対して重要度や影響度の高い情報に焦点を当てる
…既存契約のうち 20代女性の契約動向がポイント、収益に対する影響も大きい
→20代女性の契約数を取り出して新契約全体での割合や切り替え率を指標とする

❺将来収支分析を行う基礎データとして使う
…過去データを用いて保険の統計分析を行う一方でそこから得た知識をもとに将来収支分析も行う
→現状把握や結果評価だけでなく将来の状況予測まで、傾向や因果関係を知る


1-2. 統計分析を管理会計で応用
・会社の目標設定、将来終始予測における前提条件設定、シナリオの基礎数値決定で統計を利用

・保険料、保険金、事業費、手数料、純利益
→保険料単価、事故頻度、損害規模、事業費率、手数料率、純利益率、伸び率

・これらの指標を社員が見て評価して次の行動に活かそうとする
❶商品開発、保有リスクについて形を変えるとき
❷料率改定、現状の料率を修正するとき
❸アンダーライティング、リスクを評価するとき
→モニタリングでも統計を利用、行動を実施した上でどのように収支が変化したか


1-3. 管理会計と監督会計の視点の違い
❶区切る期間
…管理会計では保険期間に応じて区切りを変える、1年を超える契約については保険期間を通期で見る
→監督会計では短期契約・長期契約に関わらず決められた期間で等しく区切る

❷集計ユニットと評価額
・管理会計では見たいものに合わせて自由に統計の取り方を変えることができる
→決算書上で把握できない経営課題について分析できる
→監督会計上の保険料・収益に結び付けなければならない、どのように関連づけるかという問題
→管理会計上の数値は公式とされる監督会計上の数値より分が悪い


2. ポートフォリオ分析 3項目

…契約実体について統計数値を使って分析
→収益分析という性格を持つ

2-1. コンポーネントへの分解と関連づけ

・収入保険料を分析する場合
…地域 × 販売チャネル × 保険種目というコンポーネントで分解
→契約件数 × 保険料単価と分解することもできる
→契約件数が増加すると保険料単価は低下しがち、関連も踏まえてなぜそうなったかを考える

・保険料
新規契約 = 新規件数(伸び率) × 新規保険料単価(増減率)
継続契約 = 継続件数(継続率) × 継続保険料単価(増減率)

・保険金
担保項目 = 事故件数(事故頻度) × 損害規模(損害率)

・手数料
販売チャネル = 手数料単価(手数料率) × 業績達成時などの特別手数料


2-2. 販売チャネルの切り分け
…代理店については一般代理店・直販社員・銀行窓販のように切り分けれる
→保険会社によって従業員数・資格取得状況・IT整備状況などで代理店の格付けを行う
→販売動向の差異を捉えどのような販売パターンが営業成績増加に結びつくかを把握


2-3. マーケットの切り分け
…契約集団と見込み客集団の属性・特性を切り口に契約対象をグルーピング
→属性・特性が似通った契約をセグメントとして比較することもできる
→セグメントごとに保険期間、継続率は異なるため属性・特性から理由を探る
→契約集団と見込み客集団の属性・特性は異なる可能性があるため、
業界全体の統計や一般統計を利用し分析の偏りを修正する


3. トレンド分析 43項目

3-1. 観察期間
…3年、1年のサイクルで考えると前年・前々年の数字が必要
→対象契約が少ない時、対象の変化のサイクルが長い時は観察期間は長くなる、契約データより事故データの方が件数が少ないため長い観察期間が必要となる
→観察期間を長く取ると外部環境の変化が大きく要因が複雑になることに注意する
→観察期間を長く取るとデータ基準のコントロールが難しくなるため統計方法に変更がないか確認する
→観察期間を長く取るとデータ量が多く処理に時間がかかるため集約したデータに形式を変える


契約データの動き

3-2. ❶新規契約の伸び率
…先行型、新規契約件数が伸びている部・支店は営業活動がうまくいっている
→やり方を他に広める、セグメントや販売チャネルをが特定できれば競争力の存在


3-3. 新規契約件数は伸びているか?
…前年・前々年に対して伸びているかを意味することが多い

・マーケットが拡大しているとき、マーケットシェアが小さく侵食していくとき
…分母が小さく大きな伸びを示す→絶対的伸び率を見る

・マーケットが飽和しているとき、マーケットシェアがある程度に達した時
…伸び率は鈍くなる→相対的伸び率を見る、他社と比較した


3-4. 新規契約はどこから来ているか?
…新規契約が多ければそれだけ新しいマーケットを手にしているということ
純粋な新規契約、他社から移行してきた新規契約
→他社から移行してきたかどうかは前契約が自社か他社かで判断
→自社の場合は契約内容が特定できれば切り替えかどうかを判断


3-5. 何が新規契約を伸ばしているか?
…全体をグルーピングして比較しどのグループが伸びているか調べる
→伸び率で比較すると契約ボリュームがないグループはブレが大きいため公平に評価できない
→契約ボリュームをある程度揃える


3-6. なぜ新規契約が伸びているか?
…どのようなマーケット、セグメント、販売チャネルで伸びているかを特定し理由を探る
→営業部門からの情報により原因を仮定し統計結果と原因の因果関係を検証する、集計前に営業部門が感覚的に掴んでいる可能性がある


3-7. ❷保有契約の更改率
…反応型、1年契約が主体の保険では前年の契約がどれだけ更改されるかが収支に影響を与える


3-8. 更改率が落ちていないか?
…保険会社と契約者の結びつきがどの程度かに依存する
→各社が独自性を競うようになり代理店は条件の良い保険会社の商品を更改で勧める
→契約時に契約者の意向を確認することが義務付けられ契約者は自分で見直しを行うため重要


3-9. 更改率が落ちているセグメントはないか?
…対象となる契約集団のボリュームが大きいほど更改率は安定する
→保険契約は更改回数が多いほど更改率が高くなるため更改回数・営業年数が揃う対象を選ぶ
→何回目の更改か、初めの契約はいつかが変わればそれに従ってグルーピングする
→代理店ごとの更改率を比較する場合は委託年数などをある程度揃えることが望ましい


3-10. なぜ更改されないか?
・保険目的が消滅した
…自動車の廃車、被保険者の死亡、家の引っ越し

・契約上のトラブルがあった
…事故発生時に思ったようなサービスが受けれなかった経験により保険会社を変える、契約手続きにおけるトラブルにより保険会社を変える

・他社への移行
…保険目的がそのままであるのに更改されず他社へ移行するのは商品の競争力の低下を示す


3-11. 保有契約の動向
・伸び率に重点を置くと営業活動の中心はマーケット開拓
→更改率に重点を置くと営業活動の中心は既存契約・代理店のメンテナンス
→新しく進出した保険種目や新しい形態の販売チャネルでは伸び率に重点が置かれ、ある程度契約者の固定化が進んでいる保険種目では更改率に重点が置かれる

・伸び率と更改率のバランスで契約ポートフォリオの動きが特徴付けられる
→どのような状態かで営業施策・リソース配分が変わる
❶伸び率高い・継続率高い→保有が拡大している
❷伸び率高い・継続率低い→契約が入れ替わっている
❸伸び率低い・継続率高い→安定している
❹伸び率低い・継続率低い→保有が縮小している


3-12. ❸解約率
…契約の中断
→保険目的の消滅、保険目的は存在するが解約、保険会社が解除、なかったものとして取消


3-13. 解約はいつ起こるか?
…経過期間が長いほど解約される契約は解約され結果解約発生は少なくなっていく
→取消は最初からリスクを担保してない契約となるため区別する
→口座振替不能のまま解約となることがあるため初回の口座振替月は解約率が上昇する
→早期の解約発生に対してペナルティを課す場合はそれがなくなる月で解約率が上昇する


3-14. 解約率は上昇していないか
…契約ポートフォリオがどのような経過期間に分布しているかにより解約率の評価が異なる
→新規契約を取ることにインセンティブが与えられると一過性の契約をとる傾向
→インセンティブが与えられる期間を過ぎると無理のあった契約が解約され解約率は上昇する
→新商品が販売されるとインセンティブが与えられ新商品の方が契約者に有利であれば、切り替えが起こり解約率は上昇する


3-15. ❹保険料単価


3-16. どのようなメカニズムで保険料単価は変動するか?
・契約ポートフォリオがマーケットと自社との間で差異がある場合は、
料率格差がなく何もしてなくても環境変化により契約条件・保険料単価は引っ張られ上昇する
→自動車保険、大きなシェアを持っている保険会社が対物賠償の支払いを無制限にすると、自社で推進しなくとも契約ポートフォリオにおいて対物賠償無制限の契約が増加する

・保険料は保険金に比例するため保険金のトレンドにより保険料単価が変動
→車両保険、新車を購入すると保険金が上昇、その後に急速に保険金が低下、償却価格に近くなるにつれ低下が鈍くなり、また新車を購入すると保険金が上昇というサイクルで保険金・保険料単価が変動、保有期間が長くなると保険料単価は低下

・経済や社会的動向を反映して保険料単価が変動
→ノンフリートの自動車保険、無事故のまま運転歴が長くなると保険料が低下、若い運転者を除外するという年齢条件をつけるとさらに保険料が低下
→若い運転歴の浅い人にとって保険料は高くなり、日本の人口構成上保険料単価は低下

・保険料の変動要因のうち特定できるものを除くといつまで続くかわからないトレンドが残る
→長期間の将来予測を行うときに影響は大きくなるためトレンドの継続性は慎重に検討する


3-17. 営業活動と保険料単価
・情報量においては保険会社が優位、保険会社の商品提示額で保険料単価が決定される
→商品政策や料率政策の影響を大きく受ける
→営業成績を測る方法として件数を掲げた場合は契約件数が大きくなるため保険料単価が低下
→顧客を囲い込むような推進策をとれば証券が集約され保険料単価が上昇

・特定の期間、契約パターンの偏りが見られる
…営業成績集約期間の終わりでは営業成績への圧力がかかり保険料単価の低い契約が集中


損害データの動き

3-18. なぜ事故頻度が変動するのか?
…自然災害などの集積損害を除いたとしてもある程度の季節変動がある
→損害査定部門での統計情報処理や支払事務の進捗により事故件数の把握に影響が出る
→事故件数・事故頻度を分析する際は損害査定部門がどのような事務を行なっているか理解する


3-19. 保険種目・セグメントによって事故頻度は異なるか?
…自動車事故・火災が保証する集積損害は事故頻度が低く一定
→補償を充実させるための特約は保険金が少額で事故頻度は高い


3-20. 損害査定部門における事故処理
…事故件数・事故頻度
→事故報告件数・保険金支払件数・保険金未払件数残高・報告から支払までの日数、迅速さの指標
→保険金支払件数/事故報告件数の割合が低下すれば、保険金未払件数残高は増加、報告から支払までの日数も長くなる


3-21. ❶損害率
…収入保険料に対する支払保険金の割合を示す


3-22. なぜ損害率が上昇するのか?
…事故頻度が上昇、損害規模が拡大、保険料単価が低下
→事故頻度が上昇してもそれ以上に損害規模が小さくなれば損害率は上昇しない
損害規模が大きくなっても保険料単価が引き上げられれば損害率は変化しない

・損害保険は変動リスクが大きいと言われ小規模多数の損害が中心
→損害率の変動は保険料の影響を大きく受ける


3-23. 損害規模分布の期待値と偏り
…損害の動きは保険金総額または期待値で観察する

・保険金額・支払限度額が大きくなれば損害規模は大きくなる
→物価や賠償額の上昇を反映して保険金額・支払限度額が大きくなり損害規模が大きくなる一方、安全工学の発達で事故発生が抑えられ損害規模は小さくなる

・損害規模は契約条件・担保内容の変化の影響を受ける
…損害規模分布の変化を観察することで知ることができる

Aは損害規模が小さいところで損害額の上昇がある
Bはほとんどの損害で損害額の変化はない、損害規模の大きな損害の発生確率は上昇
→B の方が分散は大きくなり損害規模の変動は激しい、リスクが高いと言える


3-24. ❷最終発生保険金
…事故発生から時間経過とともに最終発生保険金額は増加


3-25. ロスディベロップメント
…支払保険金総額が計上年度によってどのように増加するかを表す


3-26. ロスディベロップメントファクター
…支払備金の積み立てがどれくらい正確かを示す、当該年度/前年度


3-27. 賠償責任を担保する保険金支払は示談や裁判を待つ必要があり長い時間がかかる
…数年にわたって支払保険金総額が増加し続け、ロスディベロップメントファクターはゆっくりと1に近づく
→財物を担保する保険のロスディベロップメントファクターは早い時期に 1 に近づく


料率改定の影響

3-28. ❶料率改定の新規契約への影響
…マーケット価格より料率が低下すると新規契約獲得の機会が増えるが保険料単価は低下

・料率改定の影響はまず標準的な契約パターンの保険料により代理店に影響を与え、次に個別契約に対する保険料により契約者に影響を与える
→代理店が保険料の安さをどのくらいセールスで使おうとするか、
契約者がどのくらい価格情報に接する機会があるかによって影響は変化する
→価格比較で安い保険料で加入したい顧客であれば、競争力のある料率で新規契約の機会を得る
→代理店との人間関係を重視し価格比較をせずに加入たい顧客であれば、
代理店にとって魅力的な商品で新規契約の機会を得る

・保険会社の規模やポジショニングによっても料率改定の影響は異なる
…マーケットシェアが低い保険会社が料率を上昇させれば新規契約の機会は減る


3-29. ❷料率改定の更改率への影響
…販売チャネルによって料率改定へのセンシティビティは異なる

・代理店と契約者の信頼関係は重要
…代理店をシフトした顧客の知人・家族が代理店をシフトする可能性がある
→代理店の従業員が他社へ移ったときに顧客ごとシフトする可能性がある

・販売チャネルの多様化により契約者は販売チャネルを変えて他社へ移行する
→更改率への影響を分析する際は販売チャネルの特性による比較が重要


3-30. 保険料単価はなぜ変化するか?
…契約ポートフォリオが変化する、価格を決定する保険会社自身が価格を変化させる
→同じような保険を提供しているときは安い保険料の保険会社に契約がシフトする
→同じ保険会社内で観察するとマーケットにおけるポジショニングと料率変化で契約動向がわかる

・マーケットシェアが低い保険会社
…リスクの大きい契約の保険料をマーケットより高く、
リスクの小さい契約の保険料をマーケットより低くする
→リスクの大きい契約はマーケットに流出、
リスクの小さい契約はマーケットから流入


3-31. 保険料単価の変化に継続性があるか?
…将来収支予測では保険料単価予測が重要

・料率改定により契約ポートフォリオが有利な方へシフト
→潜在顧客がいる限りシフトし続け、保険料単価の変動は大きい
→契約条件の変更が一巡すると保険料単価の変動は小さくなる

・新割引について新規契約時・更改時に確認するようになっている
→シフトするスピードは速くなっている


3-32. ❸更改時の保険料単価の変化
…損害率低下、保険料上昇、契約は流出し収入は増えない
→契約者が何を持って保険料が高い低いと判断するかを考える
→同条件で更改する場合の保険料変化で契約をグルーピング
それぞれのグループに契約が100件あったとしたらどのコマに何件ずつ分布しているか
→この分布を更改に当てはめて更改率や保険料単価の変化を予測


3-33. 保険料単価が上昇すると更改率は低下するか?
…フリート契約では過去の損害率によって保険料が調整される
→料率の自由化が進みマーケットでの競争が激しい
→自社内の保険料単価動向よりもマーケットでの優位性によって更改率が変化

・代理店の更改契約の動向を比較することもできる
…保険料単価の低い保険会社を勧める代理店では保険料単価が低下しなければ更改率は低下
→コンサルティングに重点を置く代理店は保険料単価の変動と更改率の変動との関係が明確でない
→保険料単価と更改率でグリップ力が推察できる


3-34. ❹価格優位性
…更改率はマーケットにおける保険料単価の動向の影響を受ける
→価格優位性が低下すれば更改率も低下する
→契約ポートフォリオのセグメントによって異なり価格優位性の高いセグメントの契約が集まる


3-35. どのセグメントで価格優位性が高いか?
…大きなシェアを占める複数社と分析対象となるセグメントを把握しマッピング
→価格設定をセグメントを絞って契約条件を揃えて情報収集する
→情報に基づき価格比較を行いマーケットにおける自社のポジショニングを特定し、ポジションと伸び率・更改率をセグメントごとで対比し関連性を調べる

・理論的には保険料単価が上昇するように契約ポートフォリオを誘導できる
→保険料単価が高いセグメントは損害率も高く収益性を確保できない可能性がある
→セグメントごとの収益性も踏まえて価格優位性をコントロールする必要がある


補償内容改定の影響

3-36. ❶小規模高頻度の損害への拡大
…小規模高頻度である身近な事故を保証する動きがある
→小規模高頻度の損害は事故処理にかかる時間も短いことから事故処理日数が短い一方、事故頻度が上昇することから損害調査費用が増加する


3-37. ALAE(直接損害調査費)
…事故処理を行うための交通費や鑑定費
→改定後の契約ボリュームが拡大してから保険料支払いに改定が反映されるまでに時間がかかる


3-38. ❷集積損害の取り入れ
…発生タイミングや地域に大きな偏りがあるため過大・過小評価してしまうことがある
→統計的に処理が難しい損害は工学的な損害額推定をして通常損害と別のものとして扱う


3-39. ❸支払限度や保険金額の引き上げ
…損害規模分布の裾が伸び損害率の変動幅が大きくなる
→障害等級を改定すれば同じ障害を負っても認定される障害等級は変化し損害規模に影響する


アンダーライティング基準改定の影響

3-40. ❶アンダーライティング基準の見直し
…引受により事故発生率が高くなり損害率に影響を及ぼすものや、
故意に事故を起こすモラルリスクの高いものがあるため引受条件を見直す必要がある

・アンダーライティング基準
…適切な引受を行うために保険金額に制限を設定したり免責を設定したりといった基準
→保険対象の人気の移り変わりや性能の変化によって事故頻度や損害規模が小さくなれば見直しを行い損害率への影響をモニタリングする

・アンダーライティング基準は見込み客の契約を断ったり制限したりと営業活動に制限を設ける
→営業部門とアンダーライティング部門の協議は必要である

・適正なリスク評価を行い特約・制限を設定しながら損害をコントロール、どのようにすれば引受ができるかを考えることで収益を最大化させる


3-41. ❷アンダーライティング実務への影響

・小さい契約集団では損害率の変動が大きく損害率だけでは判断できないことがある
→事故頻度をアンダーライティングの目的で用いる、単純に事故を起こしやすいかを観察

・ポートフォリオ分析によりロスコントロールを行う
…比較的コントロール可能な高頻度小規模な事故を軽減することを考える一方で、低頻度大規模な事故を防止するための原因分析を行う

・アンダーライティング分析により事故頻度が上昇してきている契約者や代理店を洗い出す
…同じセグメント間で比較し統計的誤差の範囲を超えて事故頻度を比較する必要がある

・契約者別に見る場合は、事故多発者への注意喚起、過失事故の防止、安全教育へつながるように事故データから問題点を洗い出す

・事故分析では事故件数を運転手別、原因別、発生時間別、発生場所別によって集計


営業施策の影響

3-42. ❶契約件数の動向への影響
…営業成績の評価基準により営業活動の中心が異なる
→顧客選定・主要販売チャネルの対応・大口の顧客に対する施策・商品投入により、契約件数の伸びや保険料単価が変動しコストにも影響を与える

・販売チャネルが代理店の場合では顧客は消極的動機で商品を購入する
→消費者の不安や潜在的ニーズを掘り起こし効能を説明することで契約に繋げる
→代理店が自分の顧客に対して有用だと思える商品であれば販売件数は伸びる
→募集資料が整っていて訴求力のある商品であれば販売件数の伸びは促される
→保険会社は説明や理解がしやすくリスクが想起でき補償が必要だと考えやすい商品を作る

・販売チャネルが代理店の場合では手数料での収益性はインセンティブとなる
→手数料率の見直しによる契約の変化や収益への影響を分析する必要がある


外部環境の変化

3-43. ❶各指標への影響
…業界・政治経済・社会慣習などの影響がある場合とない場合を比較して各指標への影響を検証
→外部環境をコントロールするのは難しいため業界統計や一般統計と自社統計の連動性を検証


4. セグメント分析 13項目

…リスク特性によってセグメント分けをする

4-1. セグメント
…意識的に作ったある共通の特徴を持つグループ
→異なる観察期間を比較してトレンドを理解した上で分析結果を読む必要がある


GLM

4-2. GLM(一般化線形モデル)を導入することで多次元のリスクをモデル化して統合的に計測
→様々な確率事象に応用でき継続率をセグメントごとに比較できる
→どのセグメントの新規契約がとりやすいか、どの契約が解約されやすいか、どの販売チャネルの契約の収益率が高いか


4-3. GLMのモデル化に適しているデータ
…❶高頻度❷大数の法則が適用しやすい❸一定の確率分布に従うことに無理がない


4-4. セグメント分析を行う際に考慮すべきこと
❶何をターゲットにするかを考える
…GLM 分析では数値が小さくセグメント間の差異が検出できない場合は、
信頼区間が広くなる、有意差を検出できない、パラメータを計算できないという問題が発生する
→セグメントの切り分け方法やデータの扱いといった手法の違いにより解釈は変わる

❷何をRF(リスクファクター)として取り上げるかを考える
…RFを設定するには制約がある、分析結果を利用して何を行うかによってRFは異なる
→どのようなセグメント情報が得られるか、十分な量か、リスクを説明できるかが重要

❸RFを絞り込む
…RFの数が多くなると処理時間がかかる
→GLM にかける前にRF同士の相関などを見て評価し絞り込む

❹RFの区分をグルーピングする
…モデルをコンパクトにするために区分の多い RF については
エクスポージャーの少ない似通った区分をグルーピングして区分の数を少なくする
→異なる区分をグルーピングするとモデルの意味が変わる

❺データの品質を確認する
…大量の契約データを扱っていると十分にチェックされていない異常値を含んだデータもある
→データの形式を整えてゼロ値・ブランクをどのように扱うかを考える
→保険金額のような連続的な指標はいくつかの階層に分ける
→契約の少ないセグメントを近隣のセグメントとまとめるとセグメントの意味合いが変わる


4-5. GLM のためのデータ整備
❶RFを取り上げて契約グループのリスクパラメータを計算する際は、
一部の契約でしか収集できない情報に関しては「不明」を表すコードを振る

❷分析する RF・頻度・単価の情報を把握できるか確認
…頻度・単価を計算するために事故件数・損害規模・既経過件数が必要となる
→損害額は支払保険金か、支払備金まで含めた発生保険金かを決めておく
→RFは契約データから、事故件数・損害規模は損害データから取り出し、
GLM用に証券番号などをキーにして連結する、既経過件数は365分法の使用が望ましい
→データが揃えばエクスポージャーや事故件数・損害額の分布を調べて、
損害規模を階層区分したり掛け合わせてまとめたりする、全体に影響がないとされる契約グループもまとめる

❸単純集計し大まかなリスク分析の方向性を決定
…相関が強いと同じようなリスクを複数のRFで計測していることになりパラメータが求められない


4-6. GLM によるモデル
…GLMでは唯一の正しいモデルを求めるわけではない
→適切なモデルを探すためにRFを入れかえたり区分を変えたりと試行錯誤を繰り返す
→RFの順位を計算してもらいながら分析目的を踏まえてRFを選定し、
出来上がったモデルに基づいてRFごとにOne-wayと比較
→エクスポージャーとともにグラフ化するとパラメータがどのように評価されるかが分かる
→決定されたモデルを契約グループに当てはめて当てはまり具合を見る


4-7. GLMの計算
…GLMではモデルが決まれば実績によく当てはまるパラメータを最尤推定法で計算する
→尤度関数を最大にするパラメータを求めるために尤度関数を各パラメータで偏微分する
→RF や区分の選択によって解が一意に決まらない可能性もある

・運転歴1年未満は免責あり、運転歴1年以上は免責なしという条件
…運転歴1年未満という集団と免責ありという集団は同じ集団であるため、
パラメータを求めたとしても運転歴によるものか免責によるものか両方かが分からない

・データ数が不十分な区分があると計算結果が出ない場合もある
→グルーピングするなどの対処が必要


GLMによるセグメント分析の分析結果の利用

4-8. 料率改定への利用
…セグメント分析の分析結果は主に料率改定へ利用される
→リスク細分型保険では多様な RF を取り入れることで契約者に応じた保険料を提示できる
→GLMはリスク量に対して割高な保険料となってしまう契約者をターゲットとし、優良顧客の囲い込みの手段として新規参入者が積極的に行う
→統計結果をRFとして採用するにはセグメントが意味を持ち、
他のセグメントと比較してリスクが異なることを説明できなければならない


4-9. GLMによるモデリングの意義
…リスク細分化の際に新しいセグメントを作りそのセグメントに対する料率を設定する
→リスク細分化が極端に進むとリスク量によって保険料が大きく異なる
価格競争により優良顧客が抜けた既存商品の契約グループは損害率が悪化、保険料が上昇


4-10. 複数RFによるリスク評価
…相関があるRFを扱うときはそれぞれの測定したリスクを掛け合わせると過大・過小評価に繋がる
→複数RFを統合的にモデル化したGLMと比較し評価の行き過ぎや帳消しになったリスクを調べる


4-11. 契約グループが小さい時のリスク評価
…複数RFを統合して意味のあるモデル化を行う
→GLMにおいてもエクスポージャーの大きさにより信頼区間を見ながらパラメータを評価できる


4-12. モデルによるリスク予測
…モデル化によって契約グループのリスクを表す
→エクスポージャーの分布が変化しても変化後の契約分布に対してモデルを当てはめリスクを予測
→過去3年間のデータでモデルが構築できれば来年はどのような契約分析となるかを推定しながら、モデルを当てはめることで来年の契約グループのリスクを予測できる


4-13. 更改率への利用
…更改時の保険料増減や更改回数など更改率に影響を与えそうなファクターで更改率をモデル化

・自動車保険では契約初期に保険料逓減率が低く契約が長く続くほど保険料は一定となる一方で、更改回数が多くなるとスイッチングコストが高くなり更改率は高くなる
→保険料逓減率、更改回数という 2 つのファクターが交差することになる
→GLM により2 つのファクターが更改率に与える影響を分解してモデル化、
料率改定の影響や契約ポートフォリオ変化による更改率の変化を予測
→料率改定により生じる保険料単価を再計算して比較することで保険料単価への影響を分析


5. 将来収支分析 17項目

5-1. 将来収支分析の目的
…保険金支払を確実にするために責任準備金をいくら積み立てるかを計算し健全性を高める
→保険料は損害率によって変動するため変動に備えて将来収支分析を行う


5-2. 保険会社のソルベンシー
…保険金支払義務の履行能力

・純資産は株式・利益剰余金からなり負債が純資産を上回ると保険会社は破綻する
→純資産の変動リスクの分析を行う際はデフォルト確率を検証する極値分析と、純資産が一定以下になる確率を検証する分析を行う
→純資産はマーケット価格を時価としマーケット価格をもたなければ性質に応じて決定する


5-3. 将来収支分析の構成要素
…会計数値のトレンドを読み取り競合他社と比較したりポジショニングを知ったりできる
→自社の分析だけではリスク変動なのかトレンドなのか判断がつかない場合だとしても、トレンドに織り込むことができる


5-4. 将来収支分析におけるシナリオ設定
…シナリオ設定ではネガティブな方向に寄せて検証しバッファーの保守性について考える
→収益性とのトレードオフに注意する、指標や計算ツールを統一して精度の変動を抑える

❶過去の状況が繰り返されるとして設定
…来年の損害率は今年の損害率と同じ

❷過去の状況にトレンドが存在し将来も継続されるとして設定
…今年の損害率が1%上昇し来年も損害率が1%上昇

❸将来の状況にほぼ確実に影響を与えるイベントが存在しその影響を踏まえて設定
…来年に料率改定がありその影響を踏まえる

❹過去の実績が十分になく一般統計や業界統計に基づき設定する
…台風の襲来回数は一般統計に基づき考える

❺とりあえず数値を仮定し結果を得ることで試行錯誤を繰り返して設定
…自社内外にデータが存在しなければとりあえず損害率を60%と仮定して考え、根拠ある前提条件を満たす複数のシナリオを組み合わせてシミュレーションを繰り返す


5-5. as if 予測
…ある事象がもう一度起きたらどうなるのかを考え過去の状況を再現して検証する
→台風の場合では、過去と同じ規模・ルートで日本を通過した時の損害、
集積損害について再来を仮定し損害額を計算する


5-6. 様々な収支
❶元受リトンベースの収支
…当期に収受した元受収入保険料、当期に支出した元受支払保険金のみで計算する

❷元受アーンドベースの収支
…元受リトンベースの収支に加減する
元受収入保険料に未経過保険料戻入・繰入、
元受支払保険金に支払備金戻入・繰入

❸正味アーンドベースの収支
…元受アーンドベースの収支に加減する
元受収入保険料に出再保険料・受再保険料
元受支払保険金に再保険回収・支払再保険金

❹将来のリスク変動を踏まえた収支
…未経過保険料・支払備金の他にリスク変動に備えた異常危険準備金を加減する
→予想を超えるリスク変動・外部環境変化による影響を考える場合は、
予定された発生率と異なる発生率や確率変動の幅を仮定して計算する

❺積立保険部分の収支
…積立保険は満期が決定している負債であるため、積立保険部分を取り出し CF や利回りを検証する

❻事業費に関する収支
…事業比率を計算、事業費の中の代理店手数料率を計算、代理店手数料の妥当性や効率性を考える


5-7. 契約データや損害データに基づき積み上げて将来収支分析を行う場合
・近い将来の収支分析では契約ポートフォリオに依存する
→契約ポートフォリオの変化を予測する必要がある

・長期契約では契約ポートフォリオがある程度維持できる前提で保険料などを予測する
→契約ポートフォリオから未経過保険料・未収保険料・未払保険金をファクターとして取り出す
→トレンド分析により契約者の行動パターンを予測することで更改率・解約率を予測する
→出再保険料・受再保険料・大規模損害・集積損害についても契約ポートフォリオから予測する


5-8. 長期保険契約の将来収支分析
…金利と切り離せない
❶保険期間 1 年以下、金利要素含まない
❷保険期間 1 年超え、長期積立あり、満期保険金なし
❸保険期間 1 年超え、満期保険金あり、無事故払戻しあり
❹保険期間 1 年超え、リスクに応じて保険料・準備金が変化

・❷では未経過保険料は予定利率を考慮する
利差益=(期始資産−負債+未経過保険料+利息収入)−期末資産

・❸に対応する資産は一般資産と区別されて運用、ALM として分析される
一時払保険では保険料を積立勘定に繰り入れた時点での予定利率と保険期間にあった資産を配分することで最低化される
→保険期間は長くないためデュレーションマッチングが行いやすい

・❹では保険期間が超長期であるため予定利率と実際の利率が乖離するリスクを踏まえて、バッファーとして安全割増を加えてリスクに備える
→標準責任準備金の積み立てにかかる負担を考慮、負債十分性をストレステストで検証


保険料予測

5-9. ❶新規契約予測
…新規契約の予測により将来収支分析が甘くも厳しくもなる
→資産とのマッチングを考える場合は新規契約件数の変化に対して資産 CF を変化させる


5-5. 過去平均とほぼ同じと仮定する
…過去件数・単価を参考に商品改定・料率改定を踏まえて修正する
→前年度に契約していない人が今年度に同じ人数だけ新たに契約者になるという不思議な仮定
→保険業界には激変を起こしにくいという特徴がある


5-6. 過去の伸び率とほぼ同じと仮定する
…新規契約が増加するという楽観的な見方
→利業部門において前年度比で目標が管理されて一定の伸び率が期待されるという特徴
→収益管理部門と営業部門の目標を関連させる場合には便利


5-7. 販売見込みを積み上げて仮定する
…代理店の見込み客数×成約率×保険料、を積み上げて新規契約を仮定
→小さな単位で新規契約件数を見込む場合に用いられる
→販売チャネルが限られていたり特殊ニーズに対応したりする場合は、
個別案件ごとに積み上げて仮定する方法が有効
→顧客層・代理店規模で販売チャネルが区分できる場合は、販売チャネルごとに、代理店あたりの見込み客数×代理店数、で新規契約を見込む


5-8. 類似商品・契約対象に関連する指標から仮定する
…新商品が既存商品の代替となる場合は、既存商品の新規契約が少なくなる
→新商品の発売を待っているのかをはっきりと知ることはできない
→新商品に既存商品からどの程度顧客が移ってくるのかを予測する必要がある


5-9. ❷継続率予測


5-10. 解約率を仮定する
…過去の解約率によって設定する場合は、経過時間による変化を考慮して異なる解約率を乗じる
→商品・販売チャネルで解約率は異なりトレンドを的確に捉えられるように契約区分を工夫する


5-11. 更改率を仮定する
…解約や契約対象の売却・移転で契約が消滅することを考慮し満期を迎える契約を予測する
→更改時に保険料が変更されるため仮定に差を儲けようとする場合は、
更改契約の資産保険料データから更改後の保険料を求める必要がある
→手間がかかるため更改動向の詳細を考えなければ組み入れない場合が多い

・競争状況・スイッチのしやすさ・満期時の顧客への案内方法によって更改率は変化し、どれだけ同じ保険会社で契約しているかも関わってくる
→販売チャネル・商品種類・契約歴も必要
→契約データが整備されていないことが多く難しい

・更改率は基本的に安定しているが保有契約が蓄積されている場合は、
更改率のわずかなズレで大きな差が生じるため慎重に扱う必要がある


発生保険金予測

5-12. ❶未発生保険金予測
…支払件数・支払保険金の推移から予測する


5-13. 支払件数予測
…事故頻度×保有契約件数
→事故頻度は事故データに確率分布を当てはめたりモンテカルロ法を行ったりして予測
→保有契約件数は商品のライフサイクルから予測

・再現期間
…集積災害がもう一回発生するまでの期間

・集積損害は別途で考える
…1年単位の将来収支分析を行う場合は、
前年度の支払件数に対し集積損害による支払件数の平均値を上乗せしてリスクを求める
→支払可能性の中で最大件数を求める場合は、
再現期間中のいずれかに最大規模のリスクが発生すると仮定して上乗せする
→比較的早い年度の発生を仮定してしまうと予測期間を通じて赤字続きとなることがあるため、集積損害の発生タイミングも重要となる


5-14. 支払保険金予測
…支払件数×損害規模
→損害規模は損害データから推定を行い損害額トレンドや補償内容改定を踏まえて予測

・損害率×既経過保険料
→損害率は純保険料に対して支払保険金が発生するかを推定する
→巨大災害の分布のテールはパラメータが少し異なるだけで最大損害が大きく変化
→限度額無制限の契約における損害額上限の推定は難しい


5-15. ❷既発生保険金予測
…事故データに基づき予測する


5-16. 事故が発生すると事故状況に応じて損害額を見積もり支払備金を積み立て、事故について新しい情報が追加されるに従い損害額は確定される
→支払までの経過時間に比例して支払保険金は増加するため事故報告を受けた早い段階で推定

・事故発生ベースで発生保険金を予測したいときは、ロスディベロップメントをモデル化し既発生既報告損害・既発生未報告損害の支払備金について将来修正される額を推定
→ロスディベロップメントファクターをGLMに当てはめる、過去のトレンドの延長という前提


5-17. 発生保険金予測は事故処理過程もトレースする
…大規模損害による支払備金修正・保険金回収などの事務フローの変化の影響を受ける
→事故処理の実態に応じてい修正しながらロスディベロップメントファクターを選択する

・予測と乖離した場合は、選択されたデータ、ロスディベロップメントファクター、計算を見直す

・事故状況の判断は事故処理担当者に依存するため支払備金にばらつきが生じる
→あらかじめ支払備金を定め支払備金妥当テストを行い推定誤差を小さくする


6. リスクモデル 12項目

6-1. リスク分類と確率分布
…大数の法則から支払発生確率を求め期待値としての発生保険金を計算し保険料を計算する
→同質なリスクを持った集団を母集団、保有契約を標本とすると、大数の法則では標本数が無限大となる極限において標本平均が母平均と一致する
→保有契約は有限であるため標本平均は母平均から乖離する
→発生保険金が期待値から乖離するリスクが保険引受にかかるリスクと考えることができる
→多くの契約を集めて大数の法則を適用することで事故件数・損害規模を予測しリスクを予測する
→リスクモデルとして確率分布を用いる場合はフィットネステストを行い当てはまり具合を確認
→損害規模分布ではテールの長さ・厚みが重要となる


6-2. ❶通常災害リスク (少額クレームリスク)
…高頻度低損害のリスク、大数の法則の範疇にある
→十分な契約数が前提、区分ごとの発生保険金分布を期待値・標準偏差・歪度を用いてモデリング


6-3. ❷巨大災害リスク (高額クレームリスク)
…低頻度大損害のリスク、単体で巨額の支払責任が生じる
→十分な契約数があれば事故頻度分布・損害規模分布を推定
→損害発生確率を複合した複合分布から複数回の災害をモデリング
→通常災害リスクと巨大災害リスクの境界は再保険カバーの内容から判断する


6-4. ❸集積災害リスク
…低頻度大損害のリスク、単体で多数の契約について支払責任が生じる

・工学事故発生モデル
…災害発生から被害が生じるまでの過程を工学的に評価してモデルに反映させ、数千年に一度の災害についても的確に評価できる可能性がある
→手法やパラメータによって結果が大きく変動するため妥当性をテストする

・理論分布的事故発生モデル
…工学事故発生モデルが適用できない場合に用いられる
→過去実績を分析する際は十分な観察期間を取り物価水準・担保内容・リスク変化で修正する
→潜在的災害については一般化パレート分布を採用し反映させることができる


6-5. ❹備金リスク (ランオフリスク)
…想定を超える保険金支払が発生し支払備金が不足するリスク

・ランオフリザルト
…期始備金−(当期支払+期末備金)
→ランオフリザルトの変動は正規分布でモデリングできる
→データが均質であることが条件で備金計上実務・計算手法の変更には注意する

・発生保険金は以前の発生金によって決定されるとする
→ランダムウォーク法、GLMを使った超過分散ポアソンモデルが用いられる


6-6. ❺解約リスク
…返礼金などの条件が契約者にとって有利になることで解約されるリスク
→オプションで考えると保険会社は保険契約のCFを原資産にするプットオプションをショート
→契約者が有利な状態で解約するという合理的行動を取ることは現実的ではない


6-7. ❻保険料率設定リスク
…将来の保険に対して適切な保険料を適用できないリスク

・アンダーライティングサイクル
…マーケットによる保険料率の周期的な変動


6-8. ❼再保険者の信用リスク
…再保険を委託する場合に再保険者が破綻して再保険金を受け取れないリスク
→格付けの低い保険会社に委託するとリスクは大きい


6-9. ❽パラメータリスク
…モデルに含まれるパラメータが適切に推定できないことによるリスク
→ポートフォリオの規模が大きくなると通常災害リスクの影響が小さくなる一方で、
パラメータリスクは大数の法則が適用されずに残るため支配的となる


6-10. リスク統合
❶個々のリスク量を評価してからリスク間の相関を考慮して合算
…計算が簡単で理解しやすいが説明が難しい
→各リスクが正規分布に従うと仮定するため正規分布によるモデリングが最適かを検証

❷各区分のリスク確率分布から畳み込みやシミュレーションにより複合分布を求めリスク量を評価
…コピュラ(接合分布関数)により分布間の依存関係を決定し複合分布を表現
→各区分の周辺分布と相関関係についての古ピュラを分離して表現できて独立でモデル化
→分布のテール相関を反映してテロ・自然災害のモデリングができる可能性がある
→分布のテール部分の実績データが得らずコピュラの推定が困難な可能性もある

・料率自由化が一段落していれば損害率やエクスポージャー水準にトレンドを反映させず、直近の水準を用いて保険金額をモデリング対象にする


6-11. リスクモデル
❶通常災害リスク→対数正規分布
❷巨大災害リスク→ポアソン分布、パレート分布
❸備金リスク→対数正規分布
→❶❸にはパラメータリスクが存在している
→マーケットリスクを畳み込みで合算し再保険者の破綻、テロ、金融危機などのストレスシナリオを加味することで資本の確率分布を求める


6-12. リスクモデルの限界
…リスクモデルを用いてリスクを定量的に評価できるが保険会社が認識した範囲であり、リスクの全てをモデル化できるとは限らない
→リスクモデルが提供する情報を有効活用するためにリスクの識別・評価・報告・リスク対応などリスクマネジメントプロセスが有効に機能していることが重要である


7. 料率設定・改定 8項目

純保険料

7-1. ❶損害率法
…損害率によって保険料を設定、損害率に対して実績が上回れば料率が引き上げられる

・営業保険料に対する損害率は保険会社が事業費等として使える分がどのくらいあるかを示す
→営業保険料を引き上げるということは保険金支払に充てる額を修正して事業費を確保すること

・最適な契約ポートフォリオを目指してターゲットでの価格競争力を高めようと料率を改定する


7-2. ❷純保険料法
…契約集団の純保険料の実績によって保険料を設定
→純保険料は事故頻度×損害規模で計算される、事業費は付加するもの

・過去実績から純保険料を計算するが保険料の適用は新契約からになる
→事故頻度・損害規模が将来どのようになるか予測する必要がある

・契約ポートフォリオが変化しないという前提がある
→変化を反映するためにセグメントごとの純保険料の計算が必要となる
→リスク変動を加えるために過去標本値の分布から信頼区間を仮定したり、
最悪のシナリオを想定したりしてリスクマージンを計算し支払保険金をカバーする必要がある


付加保険料

7-3. 事業費と利潤から構成される
→予定事業費と実績事業費の差を調べ、それぞれの収入保険料に対する割合を調べる
→代理店手数料に関しては契約ポートフォリオ分析でセグメントごとに調べる
→1-(損害率+代理店手数料)で粗利を計算、高いところで保険料を引き上げる


7-4. 各事業費
❶直接費
…証券発行・募集資料作成にかかる費用

❷間接費
…人件費、物件費

❸新契約費
…新契約の募集に必要な費用

❹維持費
…契約の維持・管理に必要な費用

❺変動費
…契約量に比例する費用

❻固定費
…契約量に関係なくかかる費用 


7-5. 保険種目・セグメントのバランス
…保険種目全体で料率改定を行う際はセグメントごとの損害率や代理店手数料を考え、セグメント間のバランスも考える
→純保険料総額をセグメント間較差に従って振り返り保険種目全体の予定収益を確保する


7-6. 料率競争
…料率は合理性・妥当性・公平性を考慮しながら価格優位性を確保する必要
→商品や販売チャネルが似ている競合他社と比較して価格優位性があるセグメントを調べる
→必要な販売チャネルを持っているか、新規開拓の見込みがあるかを検討する
→販売戦略をたて実現可能なシナリオに基づいた収益予測をして料率設定をおこなう


7-7. 新規契約獲得と継続率の向上
…保険料を引き下げると新規契約が増える一方で保有契約の保険料も下がる
→収入が減少し自社シェアの低いセグメントの保険料を下げて継続率への影響を最小限に留める
→自社シェアが低いのはアプローチがうまくいってなかった可能性もあるため、販売戦略の実効性によって料率設定の考え方は変化する


7-8. 販売チャネルと料率改定
…通信販売では低価格を目的とする顧客が多く料率感応度が高い
代理店ではコンサルティング中心の代理店と大量販売中心の代理店では料率感応度が異なる
→販売チャネルによって異なるサービスの質を料率に反映させる必要がある


8. 損害保険統計 22項目

8-1. 損害保険統計を取るにあたって
❶目的が明確か?
…どのような集計を行うかが定まり修正もしやすい
→数値の解釈に迷った場合は目的について再度検討する必要がある

❷実務フローを理解しているか?
…数値の解釈においては営業部門や損害処理部門での現状を理解することが重要

❸データの正確性は確保されているか?
…データを集約するシステム構築、データを収集するルートの確保、
データを入力・生成するインターフェイスの整備、により正確性を確保する


8-2. 契約の始まり
❶申込日・保険料領収日
…申込日は案外ブランクで提出され、記載の有無はシステム上でチェックされていない
→日付付印の日付や保険料領収日から特定する
→申込日・保険料領収日は保険会社が保険料を認識する日としては扱われない

❷システム計上日
…保険会社が契約を正式に認識するのはシステム計上日
→契約申込⇨契約者から申込書受取⇨データ確認というタイムラグの存在
→書類のやりとりをインターネットでなくしてタイムラグは小さくなったが
新種保険では特殊な契約が多くデータ入力までに時間がかかる

❸保険始期日
…保険契約は保険始期日から始まる
→通常は保険始期日よりも早く契約計上されるが一定割合で計上が遅れることに注意する

❹営業成績計上日
…営業成績をコントロールするために契約計上のタイミングをずらしたり、
月末に休日があったりすると計上が遅れたりすることに注意する


8-3. 契約の途中
❶始期応当日
…毎月の保険始期日に該当する日、この日を基準に分割払などの保険料の集計・分析がされる
→保険始期日が月末の場合は毎月末が始期応当日となる

❷分割払保険料領収日
…分割払は基本的に口座振替
→口座振替日は毎月一定で始期応当日と異なる場合が多い
→口座振替の事務処理に時間がかかることから11回払や10回払が存在

❸解約日
…契約者から解約が行われると保険事故がなかったとわかってから解約することになり、契約がなかったことにできてしまうため保険料を負担せずに加入することが可能になってしまう
→解約日は解約請求日以降となる

❹解除日
…口座残高不足で口座振替ができない場合は支払を猶予し、
それでもできない場合は入金済みの保険料を充てれる期間だけ保険契約を有効とする
→口座振替不能による解除は 1〜2 ヶ月遅れて認識される

❺取消日
…条件が整っていないことによる取消も遅れて認識される


契約データにおける指標

8-4. ❶伸び率
…営業パフォーマンスを見るのに用い営業部門・支店単位で測定
→組織編成の変更に注意、費用対効果を考えて社内のデータ整備を行い件数を正しく捉える


8-5. ❷更改率
・分母となる契約件数はリストが作られて把握できるが契約消滅も考えられる
→他社への流出と自然消滅を区別する必要がある

・分子となる保有契約件数は中途更改や更改事務処理の遅れ・修正を確認する
→正確に把握するために 2 ヶ月後まで待つ必要がある


8-6. ❸解約率
・分母となる保有契約件数は①毎月の集計を積み上げる②年始の保有件数から満期・解約を引くことで求められる
→解約率を正確に把握するために取消・失効などと区別する必要がある


8-7. ❹特約附帯率
…保険期間中に附帯された特約も考慮する
→不担保特約や自動附帯特約は主契約と一体のものとし担保内容を任意に拡大する特約と区別
→複数の特約附帯による商品の複雑化を防ぎ顧客ニーズに合った特約附帯を目指しながら、保険金不払いを未然に防ぐ


8-8. ❺成約率
…マーケットでの自社の競争優位、広告の費用対効果を測定するのに最も用いられる
→各媒体のコストパフォーマンスを把握するために分子・分母に何を使うか、データの関連性、重複がないかを確認して計算する


8-9. ❻保険料単価
・保険料をどのように捉えるか?
…分析目的によって用いる保険料は異なる
収入保険料、会計上どれくらいの保険料が収入となるかを知りたい時
経過保険料、保有リスクに対する保険料がどれくらいあるかを知りたい時
年換算保険料、保険期間や払込方法の異なる契約を一元的に扱いたい時

・保険料と件数の集計方法は対応しているか?
…分析目的によってどのような保険料をどのような単位の件数で割って分析するかは異なる
→どのような単位で把握しようとするかにより件数のカウント方法は異なる
→保険料と件数のカウントを別々で行う場合は保険料と件数の集計対象が異なることと、カウントされるタイミングがずれることに注意する

・どのタイミングで保険料が計上されているか確認する
…分割払いの場合は保険料が計上されていてもカウントされていないことがある
→口座振替の場合は申込が計上されてから保険料の払込が認識されるまで時間がかかる


損害データにおける指標

8-10. ❶事故頻度
…事故件数/契約件数
→損害規模や保険料単価に依存せずに事故が発生するかしないかを捉える
→保険会社のリスク選好や契約者の逆選択により保険会社統計と一般統計にズレが生じる可能性
支払保険金予測を行うには事故報告や損害処理にかかる時間や季節変動も考慮する


8-11. ❷損害規模
…免責金額やフランチャイズ金額が設定されている場合は最低額を超えたところで損害発生を申告
→フランチャイズ金額以下の損害分布は入手が難しいため山が分布が切断されたものなのか、フランチャイズ金額を超えるため申告され損害額が膨らんだものなのかは統計で確認できない
→アンダーライティング基準の変更により切断されていた損害分布の下層部が見えることもある


8-12. ❸損害調査費用
…損害額を見積もるアジャスターや鑑定士の費用、書類作成や弁護士費用を支払保険金に加える
→将来収支分析では損害調査費用は保険金支払いのタイミングで発生し支払件数に比例すると仮定
→固定費がある場合は事故に寄らない費用として計上することもある


8-13. ❹損害率
・ペイドベース
…支払保険金/収入保険料
→支払保険金は前期以前に発生した事故を含む
収入保険料は未経過保険料を含む

・インカードベース
…期間中に発生した支払保険金/経過保険料
→期間対応は取れているが支払備金にリスクが存在
→厳密に適用する場合は既発生未報告損害の見積もりが必要である

・リポーテッドベース
…事故報告基準で計算した保険金/事故報告基準で計算した保険料
→事故報告にかかる時間を考慮し事故発生ベースとはズレが生じる、既発生未報告損害は算入せず

・ポリシーイヤーベース
…特定年度契約の保険金/当該契約の保険料
→契約年度によって集計しその年度の契約全てに対して保険金支払が完了するまで集計する


8-14. 巨大災害の捉え方
…事故データが少ないため一般統計と合わせて推定する

・地震の場合
…地震発生のメカニズム、振動の伝わり方、損害発生のシミュレーションを行う
→人や事物に対する損害だけでなく企業や経済への影響も考慮するため、
専門機関を利用して情報を入手したりシミュレーションの外注を行う


8-15. 集積損害の捉え方
…一つ一つの事象が独立し互いに影響しないという仮定が暗黙で行われている
→条件付けや相関なども仮定し事象の発生頻度や損害規模を推定し集積損害リスクを計算

・地震の場合
…地震の発生確率、地域的な影響、災害を引き起こす力、その力による損害に分ける


8-16. ❺損害処理の記録
(ⅰ)事故発生日

・事故発生日ベース
…保険期間内に事故が発生した場合に有責となる

・保険金請求ベース
…保険期間開始前に事故が発生しても保険期間内に保険金請求がされれば有責となる

(ⅱ)事故受付日
…事故報告により保険会社は事故発生を認識し事故に対して事故受付番号が与えられる
→事故受付センターに連絡が入った場合は事故受付がはっきりしているが支払対象かはっきりせず
営業窓口に連絡が入った場合は事故受付とするかはっきりしない
→データ集計上は事故受付カードが作成され損害処理の流れに乗らなければ把握できない

(ⅲ)保険金請求日
…事故受付により保険金請求の意思が確認される
→損害処理の流れ上では保険金請求書を書いた日付によって保険金請求の意思が確認される
→保険金請求日で損害発生を把握する保険もあり保険事故のカウントを行う日付の認識は異なる

(ⅳ)支払備金計上日
…事故情報がある程度収集できた段階で保険金が見積もられ支払備金も計上される
→高頻度事故であれば報告時点で画一的にいくらと決められ早い段階で支払備金が計上される
→重度の人身障害を含んでいるような場合はなるべく多くの情報を収集しようとし、慎重に損害額の見積もりが行われるためある程度の日数を要する
→保険会社は事故発生は事故受付日に認識し、損害額は支払備金計上日に認識する

(ⅴ)内払・仮払日
…保険種類によっては支払額が確定する前に一部を支払う制度がある
→支払備金が崩されて支払われるが損害処理が完全に終わったわけではない

(ⅵ)保険金支払日(損害処理終了日)
…損害調査が終了し保険金請求に関する書類が整い保険金が支払われて損害処理は終了する
→迅速な保険金支払いは保険会社のサービスの良さを示す指標となり、
事故受付日から保険金支払日までの日数の短さを競う
→目標日数が設定されることが多く目標日数あたりに損害処理日数が集中する
→損害調整により保険金支払が不要だと判断された場合は、以後の支払が発生しないと確定された日が記録され支払がないまま損害処理が終了する

(ⅶ)再計上日
…保険金支払をして終了したはずの事故について改めて保険金請求が行われた場合は、原因となる事故が同一の請求は一つの事故として扱うべきである
→以前使用した事故受付番号を復活させて使用する


8-17. ❻事故件数
(ⅰ)事故発生を基準とする
…事故発生から事故報告までの期間を考慮し 1〜2 ヶ月経ってから集計する
→事故報告の遅れも考慮する必要があるが保有リスクから発生する事故件数を正確に捉えるため、料率較差を早い段階で測定する目的で使用される

(ⅱ)事故受付を基準とする
…新しく設定された事故受付番号の計上日に従って集計する
→保険金支払が行われていない・支払備金が計上されていない・保険金支払の対象とならない、という案件もあり支払となる事故件数よりも多くなる
→損害処理に従って早い段階で事故件数をカウントできるため、
損害処理のパフォーマンスを測定する目的で使用される

・期末未処理事故件数
=期始未処理事故件数+新規計上事故件数+再計上事故件数ー支払終了事故件数ー取下事故件数
→新規計上事故件数+再計上事故件数ー取下事故件数
=期末未処理事故件数ー期始未処理事故件数+支払終了事故件数

(ⅲ)保険金支払を基準とする
…最終支払時にカウントするか、仮払時にカウントするか
→保険金支払がされない案件を考慮すると事故受付を基準とするより件数が少なくなる
→保険金支払が事故発生からとても遅れることがあるため事故件数の認識も遅くなる

・既経過件数
=(13 ヶ月前の計上件数+直近 1 ヶ月の計上件数)/24
+(12 ヶ月前から 2 ヶ月前までの計上件数の合計)/12
ー(13 ヶ月前の解約件数+直近 1 ヶ月の解約件数)/24
ー(12 ヶ月前から 2 ヶ月前までの解約件数の合計)/12

・期央の保有件数
=(期始有効件数+期末有効件数)/2


8-18. ❼損害額と支払備金
…損害額における損害率の計算は事故発生から早い段階で行う、事故発生ベース
→ある程度情報収集できれば支払備金が計上される

・発生保険金
=既支払保険金+支払備金ー回収見込額

・期末支払備金残高
=期始支払備金残高+新規計上支払備金+再計上支払備金ー保険金支払ー取下±支払備金修正額

・期末支払備金積立額
=期末支払備金残高ー期始支払備金残高
=新規計上支払備金+再計上支払備金ー保険金支払ー取下±支払備金修正額

・保険金支払
=支払保険金+支払備金取崩分と支払保険金の差

・IBNR備金
…事故が発生していても発見・報告が遅れてしまう場合を見込んだ支払備金

・IBNER備金
…十分な情報収集が出来ずに支払備金が十分に積めていない場合を見込んだ支払備金


8-19. ❽保険料
…年換算保険料を基本とし①始まりの時期②対応期間の長さで測定される

・収入保険料(リトンプレミアム)
…支払のポイントポイントで計上された保険料
→CF における収入のほとんどは収入保険料であり計上された日の属する期間で区切って集計

・保有保険料
…保有契約の一定期間に対応する保険料

・既経過保険料(アーンドプレミアム)
…既に消費した保険料
→保険料は一定期間のリスク量に対応するため保険期間の経過とともに消費すると考える
→正確な損害率を計算するために分母である正確な既経過保険料の計算が必要
→様々な「みなし」を含んでいるため保有リスク量をどのように捉えるかという哲学的な問題
→リスク量を測定する視座を固定することでトレンド観察やリスク特性比較ができる

・未経過保険料(アンアーンドプレミアム)
…これから生じる支払のための保険料

(ⅰ)計上ベース
…収入保険料をベースに既経過保険料を考える
→計上年月が保険始期年月と異なるため計上年月によって掛け目を変えて未経過保険料を計算
→3月から4月へずれ込む保険料計上を極力抑えて会計上の数値との乖離を小さくする

・既経過保険料
=収入保険料ー解約保険料+前期末未経過保険料ー当期末未経過保険料+予定利息

(ⅱ)保有ベース
…保有保険料をベースに既経過保険料を考える
→年換算保険料を1として想定期間内のリスク量に対応するもを既経過保険料とする
→保有ベースのデータを利用すると契約情報が取得しやすいためセグメント分析がしやすい
→異動で保険料が変更されると新保険料が含まれていることが多いため、
入力されている保険料が旧保険料か新保険料かを確認する


8-20. 短期契約の既経過保険料
…既経過保険料=保険料× (計算の基準日ー保険始期日)/(保険終期日ー保険始期日)
→自動車保険や火災保険は翌日起算であるため分母は (保険終期日ー保険始期日+1)
→年換算保険料は日割で計算するものと短期率を乗じるものがあある
→短期で契約したい場合はリスクの高い時だけ契約する可能性があり短期率が用いられる


8-21. 長期契約の既経過保険料
…既経過保険料=保険料× (計算の基準日ー保険始期日)/(365×年数+端日数)
→年換算保険料は年数倍するものと金利や募集費が小さくなることを踏まえた長期率を乗じる


8-22. 解約契約の既経過保険料
・計上ベース
…会計ベースの情報を使用して計算
→会計データは入出金時のエラーにより修正が入りやすく綺麗に集計できない時はBで計算

・保有ベース
…解約までの期間に対応した既経過保険料=年換算保険料/365 ×(解約日ー保険始期日)
→会計データの乱れに左右されず1レコードのデータから計算できる
→短期率を用いた契約については受取保険料よりも小さくなり解約益とする
→解約益については損害率の分母に算入しないため損害率は会計上の数値より高くなる


9. データベース構築 30項目

データの構造

9-1. データの構造
…明細方式を前提、データのボリュームは大きくなる
→持ち方を工夫することで分析の自由度を高めながら使いやすいデータベースを構築できる
→データを統一的に扱うために保険種目共通の構造が必要
→頻度の高いデータ読み替えや計算はパターン化しあらかじめ組み込む

❶使いやすさと計算効率
・分析は仮説によって違う切り口でデータを加工することになる
→結果を検証すると情報の追加や手法の変更が必要でデータを取り直すことになる
→ある程度細かい単位で必要そうな情報をすべて含んだデータをもらうことが効率的

・データ量が大きくなると計算が遅くなる
→データベースの操作を2つに分ける
①契約 1 件ごとのデータをある程度選別・集約したテーブルにする
②集約されたデータを使って計算し分析する
→中央に汎用の明細データを置きそこから抽出して分析目的に合わせた契約データを作成して分析
→データのレコード数を減らすことで分析のスピードは格段に上昇保険学:保険データ

❷データ項目の取扱い
・個人向け商品・小規模法人向け商品・明細付き契約
…保険金も保険料も少額で同じような契約がたくさんあり大数の法則が適用しやすい
→データベース構築に向く
→契約に例外がありデータが欠けているものはデータベース構築に向かない
→対象をふるい分けてデータの詳しさにレベルをつけて考える
→データベース化する保険種目や対象契約とデータ項目の仕分けができたら、共通項目には一気に処理ができるような形式を与え、固有項目は共通項目とリンクする形式にするか独立した形式とするかを決める


9-2. データが入力されていないものの扱いが課題
…紙ベースの入力フローを作る、データを持ってきてつなぎ合わせるシステム開発は、コストと必要性から考える


9-3. 常にデータエリア不足に悩まされる
…同じデータエリアに性格の異なる項目を突っ込まれている可能性
→性格ごとにデータ項目を分ける、コード化されていない情報もコードやフラグで整理する


エクスポージャーユニット

9-4. エクスポージャーユニット
…保険統計の基礎となる単位、1つのリスクに対して1つのエクスポージャーユニットが基本
→階層の異なる集計においても使えるように最小単位でレコードを作成する
→データの重複が起こらないような工夫が必要

❶契約の単位
…証券 1 枚が基本単位
→明細契約、明細契約の証券、明細契約がついていない証券というレベルで調整
→明細付きの場合は、明細1件を単位とすることが望ましくデータを申込書から引っ張ってくる

❷事故の単位
…事故1件が基本単位
→1件の事故の中に、異なる担保条項で支払があったり同じ担保条項でも支払が異なったりする
→事故単位でもクレーム単位でも集計できるようにクレーム 1 件を1 レコードとする

❸保険期間と単位
…10年契約の場合と1年契約が10年継続される場合を考え、リスクの単位は毎年1、10年で10
→1年未満の契約は日割りで考えることで4月と5月のリスクの重みを区別して考えることができる

❹契約データと損害データのリンク
…損害データに不足している契約内容や保険料の情報を契約単位で得ることができる
→どのような契約が事故を起こしたのか・保険金に対してどのくらいの割合で損害が起こるのかを調べることができる


9-5. リンクさせるには証券番号や枝番をキーとする
…同じ証券番号や過去に使った証券番号を使い回す場合は保険種目や商品コードを追加キーとする


9-6. 事故はすべての契約で発生するわけではなく 1 つの契約から複数の事故が発生する場合もある
→契約データと損害データは1on1の対応が取れない
→損害データ側から契約データを見に行き、契約データは複数回繰り返されるような構造となる


9-7. 損害率を正確に計算するために
❶事故情報を統計的に処理できるようにコードを整備
❷損害処理のプロセスが標準化されるようなシステムを構築
❸契約データとのリンクを考えながらデータ構造を決定


9-8. 安全かつ有効に損害データを利用するために
❶データセキュリティの環境を整備
❷統計処理しやすいデータ構造に変更
→保険商品の複雑化により画一的な処理が難しくなっているが、損害処理の標準化により適切・迅速に行い無形財産である損害データを統計処理できるように


顧客情報

9-9. ❶名寄せ
…1人の顧客から引き受けている契約を全て紐付ける、マーケティングの観点から
→顧客管理台帳やファイリングシステムの利用で営業現場を中心に行われる
→契約データベース上は顧客単位に ID を与え統一的に管理する

・個人顧客では名前・住所・電話番号がキーとなる
→顧客の顔を知らない本社ではこれだけで判断できないこともありデータ入力の斉一性が重要

・法人顧客では株式会社という表記などを削ってマッチングする必要がある
→屋号の変更により同じ法人でも違うものとして認識することに注意

・個人事業主の契約は個人契約とするものと法人契約とするものがある
→異なる契約と認識されるがマーケティングの観点からは一つの開拓先として見ることができる
→どこまでをまとまりとするかを考える必要がある


9-10. ❷単種目契約者と複数種目契約者
・単種目契約者はそれ以外の保険種目にとっては見込み客となる
→既契約情報を使ってヒット率の高い見込み客のリスト作成も可能
→単種目契約者であっても契約をある程度継続している顧客は安定した顧客に含まれ、契約ヒストリーに関する情報が残されていると有益

・複数種目契約者は代理店との結びつきが強い顧客で安定的に保険郎をもたらす
→分析を行う意味は大きい


9-11. ❸顧客単位のロス管理
…顧客 ID により顧客単位のデータをまとめることができるようになると、
ロス管理ができる単位で情報処理をしてロス改善提案や継続契約の条件付けに役立てられる
→大口顧客であればデータを取り出して顧客に合った切り口で分析できる


9-12. ❹継続契約の把握
…顧客IDにより顧客単位のデータをまとめることができるようになると、
保有契約だけでなくそれ以前の契約をマッチングすることができる
→継続前後の契約を繋ぐときは継続契約の定義をはっきりさせる


9-13. ❺顧客プロファイリング
…顧客IDにより顧客単位のデータをまとめることができるようになると、
情報を組み合わせて顧客プロファイルを作成できる
→保険種目、保険金額、契約タイプなどでグルーピングできる
→それぞれのグループで平均的な顧客を想定し購買行動を分析することでマーケティングに活かす
→各グループ間で保険料単価・継続率・特約附帯率の差があれば要因は何かを考えることができる


9-14. 個人情報の取り扱い
…顧客情報は分析するための資産である一方で個人情報として保護対象になる
→個人情報保護法や社内ルールに従って注意を払う
→アクセス制限を設けてデータベースから取り出す場合は目的以外の流用が起こらないよう配慮
→顧客情報を収集する時点で顧客の了解を得ているか・会社の個人情報の利用目的に沿っているかを確認する


9-15. ❻代理店プロファイリング
…代理店についてもデータが利用可能で代理店プロファイルを作成できる
→代理店は販売チャネルなどのグループ分けや保険会社独自の格付けが行われている
→中心商品や販売形態によりグルーピングできる
→組織変更もあるため直近の代理店コードとかこの代理店コードが互換性を持つテーブルを用意


9-16. 代理店手数料
…会計データに近い扱いとなり証券番号などで契約データとリンクすることができる
→インセンティブは契約コストだが直接契約と結びついていないため、
支払のたびに特別なロジックを組むのは難しく契約への割り振りは困難


9-17. ❼再保険
…再保険タイプ、再保険料、再出割合、再保険更改時期、再保険会社、保険料手数料率

・任意再保険
…個別の保険契約ごとにカバーする
→石油プラットフォームや大規模な建設現場といった大規模な単一のリスクについて、所定の稼働または建設期間にわたり購入される

・特約再保険
…一定条件を満たす契約をまとめてカバーする
→再保険契約対象となるかを判断して再保険用のコードを振る
→再保険の更改を挟んで前後のどちらの再保険でカバーするかを判断する


9-18. ❽事業費
…勘定項目、支出部署のコーディング

・直接事業費
…保険種目や契約に直接つながる費用

・間接事業費
…人件費、設備費、文具費、通信費
→どの保険種目に分配されるかは明確でなく一定割合で分配される
→支出が複数の保険種目に関連することもあり事業費配賦の単位となるまとまりでデータを持つ
→付帯サービスに関しても年間で提携料を支払うことが多く間接事業費に近いが、契約に付随するものであり料率反映を考慮すると何らかの亜 k たちで把握する必要がある


9-19. ❾資産データ
…ALM などの分析は専用ソフトを利用して財務中心にシミュレーションされる
→契約データを中心としたデータベースに財務データを取り込むよりも、
分析用に契約データを集約し負債 CF を作成するなどして情報を財務分析ソフトに移植する

・資産と負債の相互作用
①資産側で運用成果として配当率が上昇すれば負債側である継続率が上昇
②金利上昇局面において高金利商品への切り替えのため負債側である解約率が上昇
→資産と負債は独立して捉えられていたが負債の時価評価時の相互作用も考慮してモデルを構築


外部データ

9-20. ❶車名型式別参考純率料率クラス
…損害保険料率算出機構が発行する個別車両型式に対する参考純率算出に適用する料率クラス


9-21. ❷車両情報・車両価格
…日本で販売されている乗用車の型式・発売年月・装備説明・車両価格


9-22. ❸建築単価・建築指数
…建築費を構造に従って示す、建物価値を示す


9-23. ❹緯度経度情報
…保険目的の所在地を正確に地図上にマッピングすることで地理的分布を把握する


9-24. ❺災害危険度
…国土交通省が発表されている指標、契約者の住所情報に基づき災害危険度を参考にする


9-25. ❻法人データ
…法人規模・売上高・利益率などをデータバンクから購入、法人名などをキーとして見つける


データベース完成へ向けて

9-26. ❶データのコストと効用
①何が知りたいのか?どういう答えが欲しいのか?
②何を分析すればいいのか?何が分析対象か?
③必要な分析結果を出すにはどんな分析を行うべきか?
という観点からデータベースを構築
→データベースがないところに新しく構築する際は何ができるようになるかをイメージできない
→ユーザー人数が増えて結果を大人数で共有するようになって初めて分析の可能性が生まれる

・データを使って検証する⇨データを読み込み理解する⇨有用な情報を引き出す
というステップを踏めるようになるにはある程度の経験と知識が必要である


9-27. ❷分析方法・分析ツールの汎用性
…どこにどのような情報があるか、情報が何を意味するかを理解して、
加工できるスキルを持つ人がデータを扱うことができる
→データ分析のノウハウが特定の人に集中すると本人不在や退職により、
プログラムの書き換え・実行ができなくなる可能性がある
→データ処理方法について標準化、同じ項目を扱おうとする人が同じ処理を行えるルールを作る
→プログラムを書く際もプログラム自体の体裁やコメントを残すようにする必要がある


9-28. ❸会社全体のデータ統一
…分析用データも営業成績処理データや会計データもホストコンピューターで扱う
→数値が一致していないと分析結果の信憑性が問われる
→会社全体で統一されたデータベースから取り出し、同じルールで扱われるように整理
→データ生成時のフローを整理しどのようなライミングで何のデータをアウトプットするかを決定、分析用データに流すことで出力される数値と分析対象の数値が擦り合う、保険種目間の調整をすることで指標の統一を図ることは重要である
→会社全体で同じ数字を共有しながら数字が示す問題点を深掘りし、
原因究明や改善策の実行シミュレーションに繋げる


9-29. ❹データベース完成まで
・利用可能なデータを洗い出す、保険種目ごと
→データのレベル分けをする、分析に必要かという観点
→種目共通項目と種目固有項目を分ける
→データの体裁を揃える
→欠損データを埋める、もしくは欠損データの取り扱いを決める
→コードブックを用意する


9-30. ❺データベースが整ってきたら
(ⅰ)知りたいことがデータ集計ですぐにわかる
(ⅱ)感覚で決めていた試作が数字で裏付けできる
(ⅲ)具体的な数字で示して反論されにくくなり自分のペースで結論に持ち込める
(ⅳ)数字が一人歩きする
(ⅴ)何でもデータで確認したがるようになりデータスキルを持つ人に仕事が集中する
(ⅵ)システム任せだったプログラミングの仕事が、ユーザーコンピューティングの名目でユーザー側の負担になる


10. レポート 6項目

10-1. レポート
…どの情報・指標が重要かを見直しシンプルなものにする
→報告する相手の立場によって分析の切り口を変える


10-2. 内容がネガティブにならざるを得ない時
…一部分を肯定して印象を和らげながら、
具体的にどこが悪いのか・なぜそうなったかを詳細に伝えることで漠然とした不安を拭い去る


10-3. 定例レポートではトレンド分析が中心
❶なぜ作成し配布することになったのか
❷何を伝えたいか
❸何を考えて行動に移して欲しいのか
をはっきりさせる


10-4. 定例レポートを読む人は限られている
❶どの範囲の人に読んで欲しいか
❷重要度はどのくらいか
❸どのくらい時間をかけて読むか
という観点でメール・ミーティング・ニュースなど形式を変える


10-5. 定例レポートの構成
❶題、日付、発行者
❷目的
❸概要
指標
❹前提条件
❺手法・計算過程
❻結果
❼考察
❽参考文献・データの出典


10-6. 指標の種類
❶損害実績(事故件数、支払件数、支払保険金、事故頻度、損害率、事故処理日数など)
❷営業成績(新規件数、保有件数、伸び率、更改率、解約率、保険料など)
❸事業費(代理店手数料、損害調査費、人件費、物件費など)
❹資産運用(資産残高、利息収入、償還額、資産評価額など)
❺財務諸表(損益計算書、貸借対照表、CF 計算書、ソルベンシーマージンなど)
→推移(当月、累計、四半期、対前年比、対予定)、担保項目別、商品別、集積リスク


おわりに

ここまでご覧いただき、ありがとうございます。
修正すべき点やご意見などあればXでお声をいただければと思います。
修正の際は、番号を指定して、フォーマットをなんとなく合わせていただけると助かります。

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