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経済に関するメモ(18) 【保険法(損害保険)】

本メモは経済の基礎的な内容に関するメモです。


1. 総則 4項目

1-1. 第1条(趣旨)

❶保険法の位置づけ
…ドイツの旧商法でも海上保険に関する規定のみで陸上保険に関する規定はなかったが、20世紀に入り保険契約者を保護するための規定が必要だと考えられ、非営利事業である共済も規律できるよう商法から独立した保険法の制定が実現

・商法
…営利事業が目的

・保険法
…非営利主義の共済も適用対象

❷共済への保険法の適用
…実質同じ契約であれば形式によって適用有無を分けることは保険法制定の理念に反する
→保険と異なる規律が要請される場合もありこれを否定しないようにすべき
→片面的強行規定とはしていない

・共済
…死亡共済受取人の変更は親族に限定

・保険法
…保険金受取人を変更できる

❸複合的な保険契約と保険法の適用関係
…生命保険を主契約、傷害疾病定額保険を特約とする保険を考える
→各章の保険に該当すればその章の規定が重量的に適用される
一部が無効、取消、解除となる場合にその効力がどのように及ぶかが問題
→保険契約者と傷害疾病定額保険の被保険者が異なり保険契約が被保険者の同意なく締結された場合、被保険者は傷害疾病定額保険に関しては解除請求権を有するが生命保険の部分も含めて解除されるのか?
→あらかじめ解除の範囲が約定されていなければ傷害疾病定額保険の部分のみ


1-2. 第2条(定義)
❶定義の意義
…「保険」を定義しない、実質的に保険契約のもの
→定義することは難しく保険法を適用すべきものが適用対象から外れることを防ぐ
→実質保険契約かどうかは保険の構成要素から考える
→共済も適用対象といえる、監督規制に関しては保険業法上保険業から除外され各共済の根拠法に基づいてなされる

・実質保険ではない共済
…団体内部の福利厚生の一環として構成員から費用を徴収し慶弔見舞金を払う制度
→危険選択を行わず給付反対給付均等原則が妥当しないため

❷保険デリバティブは保険契約に該当するか
そもそも法人の事業活動に伴う損害を対象とする保険について保険法の規定は任意規定であり適用の有無は当事者の意思にかかっているためこの問い自体が実益のないものといえる
→定義的には形式上保険契約に該当するが保険契約に該当しない

・保険デリバティブ
個別相対の取引、損害の有無を問わず対象インデックスが一定条件を満たした場合に約定した決済金が支払われる

・保険
大数の法則を前提とした多数の取引、損害額の査定を経たうえで損害店舗のために保険金が支払われる

❸定額現物給付保険
…損害保険では現物給付が可能、修理や代品の交付、家事代行サービスの費用を担保
→定額保険では現物給付が不可能、実効的な監督が難しい
→質の監督が難しい、価格の変動を考慮すると保険数理上の監督が難しい
要介護状態になると介護サービスが提供される場合
→保険法の適用は類推適用できるが合理的な数理的基礎もないままそのことを開示せず行われると公序良俗違反性を帯び契約が無効となると考えることもできる。

・要介護状態になると介護サービスが提供される場合
…保険法の適用は類推適用できるが合理的な数理的基礎もないままそのことを開示せず行われると公序良俗違反性を帯び契約が無効となると考えることもできる。


1-3. 普通保険約款
❶約款の拘束力の根拠
…約款を包括的に契約に組み入れることについて合意したため
→保険契約においては一般に保険契約者は約款によるとの意思で契約を締結するのが通常であり、仮に個々の条項についてよく知らない場合でも当事者双方が普通保険約款によらざる旨の意思を表示せずして契約したときは反証のない限り約款による意思で契約したものと推定される

❷約款の事前開示の必要性・意義
…約款の基づく契約が自らの意思に基づくためには約款が了知可能である必要
→しかし近年では普通保険約款を示すパンフレット等の交付を受けた場合、
提示を受けずに申込書を交付しても約款の条項を内容とする契約が成立

❸約款変更の合意
…2つの問題が考えられる

(ⅰ)約款条項排除の合意自体の有効性に関する問題
…特定の保険契約者に有利になる合意、特別利益の提供の禁止に抵触する可能性
→担保範囲を拡張する合意、危険の分散という団体性に反する
→個別合意がされ均一のリスクの集積を前提としないリスク移転契約と評価されても、この個別合意の効力が認められないというのは不当である
→契約を無効にする法理的根拠とはならない

(ⅱ)募集主体の権限に関する問題
…損害保険会社の外務員との間で保険料領収前の事故について損害填補を行わない旨の条項を排除する合意
→代理権限を越え保険契約者に悪意、過失があるとした判例がある、
保険者が約款変更する場合でも毅然の契約に対して効力は及ばず当事者間の合意が必要

❹不当条項
…厳格に条項の有効性が判断される
→一般私法上の任意規定からどれくらい逸脱するか
→消費者契約法の判例を考える(失効約款)
保険料の払い込みがない状態が一定期間継続して初めて失効する旨を定める約款の存在があり、失効前に保険料の払い込みの督促する態勢を整えていたとすれば消費者契約法に反しない


1-4. 保険募集
❶保険料保管用の専用預金口座に係る預金債権の法的帰属者
…保険料は代理店名義で開設した保険料専用口座に保管し、手数料控除後に保険会社へ
→代理店が破産した場合は専用口座の帰属は?
→最高裁は代理店帰属とした
→保険会社は代理店の口座を経由しない保険料の収受方法を検討するか、質権設定など代理店に対する債権回収保全措置を強化する必要がある

❷生命保険募集人の告知受領権
…生命保険募集人は媒介を行う権限しか有しておらず(医的診査が必要)告知受領権はない
→生命保険募集人への告知は保険者への告知にならず、生命保険募集人に悪意・過失があっても保険者の悪意・過失とならない
→告知妨害や不告知教唆がある場合には保険者の過失による不知があったとして保険者の契約の解除権を認めない

❸所属保険会社の賠償責任
…所属保険会社は保険募集について保険契約者に与えた損害の賠償責任を負う必要があり、募集と密接に関係する行為も含まれ、付与された権限の範囲内であるかは問わない
→相手が知っているか重過失により知らない場合や、保険契約成立後に募集人が不法行為責任を負うことになった場合は、所属保険会社は損害賠償責任を負う必要はない

❹保険者又は保険募集主体の説明義務・助言義務と適合性原則
保険商品の内容は複雑で不適正な勧誘の可能性があるため説明義務を課す
→違反による保険募集人の不当行為については所属保険会社も損害賠償責任を負う
→説明義務の内容の決定にあたっては一般人の理解可能な説明をすれば十分

・助言義務
…個々の保険契約者の需要に適合した保険を勧誘しなければならない
→説明義務では判断は保険契約者、助言義務では判断は保険者に委ねられる

・適合性原則
…知識、経験、財産力、投資目的に適合した勧誘を行わなければならない

・誠実義務
…保険仲立人は顧客にとって最も適合的な保険を推奨する義務を負う

❺変額保険における不当勧誘
元本割れの可能性を保険設計書に記載していればそれで十分か?
→変額保険自体のリスクについて具体的に説明しなければならず相続税対策として有効となる場合は限られるというリスクについても説明しなければならない

・契約者の錯誤による無効を求める場合
…不当勧誘によるため動機の表示は不要
→説明義務違反による損害賠償が認められても貸金義務と抵当権は存在
→土地や建物を失う危険にさらされたり賠償額を削減されたりすることが懸念される

❻情報提供義務違反による損害賠償責任の範囲
・原状回復的損害賠償(支払保険料)
…適切な情報提供があれば契約を締結しなかった
→変額保険訴訟では払込保険料から解約返戻金を引いた額を損害額とするのか?
→解約まで得ている利益を考慮するべき

・履行利益的損害賠償(保険給付)
…適切な契約が締結されていれば利益を得れただろう
→締結の可能性がなければそもそも因果関係はなく、所属保険会社以外の商品まで説明する義務はないため、可能性があっても締結したであろう蓋然性が認められる必要がある


2. 損害保険 47項目

2-1. 損害保険
❶利得禁止原則の意義
・利得禁止原則
…損害額を超える利得を得てはいけない

→絶対的に禁止されるべきものかどうか
→最狭義の利得禁止原則、損害てん補方式で保険給付を行う(任意法的原則)
→狭義の利得禁止原則、保険法が想定する損害てん補の保険給付を行う(強行法的原則)
→広義の利得禁止原則、公益上認められない利得となる保険給付は禁止(強行法的原則)

❷損害てん補として認められる給付にはどのようなものがあるか
…損害てん補の保険給付と利得禁止原則との関係の位置付けをどのように整理していくか
→時価評価によるてん補では同様のものを取得できない
→新価保険では再取得価額を基準とする
→新価保険の条件が適法性の要件となるか①減価率が 80%以下②実際に再取得

❸モノに関する損害につき損害てん補でない給付は適法か
…天候デリバティブのオプション行使による給付金を考える、
オプション行使要件は損害発生ではなく累積値が基準値を超えること、
給付金額は損害額ではなく 1 累積値あたりの約定金額
→損害保険ではないが利得禁止原則との関係を考えると天候の操作は不可能とされるため、モラルハザードは問題にならず利得を禁止する必要はない
→天候デリバティブは適法→賭博との線引きを考えるのは難しい

❹保険金請求権者
…被保険者の定義において保険金請求権者であることは直接には表れていないが、保険給付は損害のてん補であり損害を受けた被保険者が保険金請求権を有する

❺火災保険における保険事故の立証責任に関する問題
…保険事故の立証責任は保険金請求者にある
→発生したことに加えて、故意によらないことも立証しなければならないのか?
→免責事由と趣旨とする法律との関係性を考える

・保険金請求者に立証責任
…善良な契約者が保険金を受け取れない可能性

・保険者に立証責任
…故意による事故でも保険金を支払わなければならない可能性

❻オールリスク保険における保険事故の立証責任に関する問題
…すべての偶然な事故が保険事故とされる。
→「偶然」とは契約締結時に発生・不発生が確定していないことを指す
→「故意によらない」ということを指すものではない
→故意による損害であることは免責事由であり保険者に立証責任がある

❼保険事故の形式と立証責任
…傷害保険、「偶然」とは故意によらないという意味
→オールリスク保険、「偶然」とは契約締結時に発生・不発生が確定していないという意味
→故意に関する立証責任の所在が違う
→約款規定により立証責任が当然に転換されるのではなく「故意によらない」という文言が保険事故の内容を本質的に限定するものと解釈される場合のみ立証責任に影響する


損害保険の成立

2-2. 第3条(損害保険契約の目的)
❶違法な財物に対する利益の適法性
…違法改造車・違法建築物などについて考える。
→表面的な価値が高まっていたとしても違法性により価額を減じて損害額を判断したり、違反行為を事後免責事由とし填補責任を負わないようにしたりする

❷外国法に反する被保険利益
…保険制度は公益的かつ社会的な意義を有している
→日本法で犯罪とならなくても外国法で犯罪となる場合は適法性の要件を満たさない

❸譲渡担保における被保険利益
・譲渡担保
…債権者が債務者に対して有する債権を担保するために所有権や権利を債権者に移転
譲渡担保権者と譲渡担保権設定者は目的不動産に事故が生じた際にいずれも経済上の損害を受け、いずれも被保険利益が存在しそれぞれの火災保険は有効
→合計が損害額以上とならないよう各保険契約の保険金額の割合で負担額を決定

❹所有権留保の場合の被保険利益
…有効な被保険利益が存在するか・保険契約は誰の被保険利益に対して締結されたものかがポイントとなる
→リース契約では全損では貸主に保険金を支払い分損では借主に修理費等を支払うと設定することで保険金の重複填補や分配の問題も回避されている


2-3. 第4条(告知義務)
❶告知義務の意義と根拠
…事故発生可能性に関する情報を持っているのは保険契約者や被保険者
→保険契約の技術的構造から保険給付の総額と保険料総額のバランスを保つために必要
→射倖契約・善意契約であるとし告知が信義則上要請されるものであり必要

❷告知義務者・告知相手方
…告知義務者が複数いる場合はその中の一人が履行すれば重ねて行う必要はない
→保険契約者が法人である場合は代表権を有する者が告知義務者となる
→告知相手方は保険会社であり保険会社の代表権を有する者に対して行う必要があり、保険者が複数の場合はそのうち一人に対して行えばよい

・代理店
…契約締結権とともに告知受領権も与えられている

・保険仲立人
…契約締結の媒介を行うに過ぎず告知受領権を有しない

❸告知時期・方法
…時期、保険契約の申込みを行ったときから保険者が承諾するまでの間
→方法、損害保険では契約申込書と告知書の一体型(書面)
→理論的には口頭、書面、代理人を問わない

❹告知事項
・重要な事項
…損害発生の可能性(危険)に関する事項
→保険者が告知を求めなかった事項について告知義務違反を理由に解除できない、保険技術に照らした危険選択に影響を与えるかどうかが重要
→保険者が他保険契約の存在を危険選択の判断材料として累積状況により拒絶する場合は重要な事項となる


2-4. 第5条(遡及保険)
❶遡及保険の意義
・遡及保険
…保険期間を保険契約の締結以前に定め、保険者の責任を保険契約の締結以前に開始
→出港以後の保険事故のための貨物保険契約
→第5条では事故の発生について知っていたかどうかについての規定を明確にした

❷保険契約が無効となる場合とその効果
(ⅰ)契約締結前に発生した保険事故による損害を填補する旨の定め
…締結時に保険者が事故の既発生について悪意→有効
申込みから締結までに保険契約者が事故の既発生について悪意→有効
→保険者が申込み、承諾のときに既発生を知っている場合は保険料の返還義務を負う

(ⅱ)契約申込み時以前に発生した保険事故による損害を填補する旨の定め
保険事故が発生しないと確定されている時期について保険料の受領を認めるのは不当
→保険者が申込み時に保険事故の未発生を知っていたときは無効とされる
→申込み時に保険契約者が不発生について悪意→有効
申し込みから締結までの間に保険者が不発生について悪意→有効


2-5. 第6条(損害保険契約の締結時の書面交付)
❶契約成立と締結上の過失責任
…諾成契約、申込みと承諾の意思表示が合致すれば成立
→書面交付は成立要件でなく書面交付義務は付随義務として保険者が負担するもの
→保険者や代理店が申込みを放置する等により申込みの意思表示が認められず契約が成立しなかったことで保険保護を受けられなかったなどの損害が発生すれば損害賠償責任が問題となる
→代理店による保険契約の更新時の過失が生じたときに契約締結上の過失を負うかが問題となる
→事例では保険証券が届いたかの確認の有無が過失相殺における申込み者側の過失を判断するのに斟酌されていて、保険金相当額が損害として認められた

❷契約成立と内容を証する書面記載事項
…諾成契約、内容を証明するうえで書面が重要な役割を果たす
→損害保険では保険契約者・保険の目的・被保険者・保険事故・保険金額・保険期間・保険料が契約の要素として確定
→契約の有効性や保険金請求権の帰属主体を判断するために被保険者に関する事項が追加
→通知義務を定めるかは個別の契約によって異なる可能性があるため危険増加に係る事項の通知義務の内容を掲げる
→誤った記載のある書面が交付されたが保険契約者が異議を唱えなかったのを承認と捉えることは妥当ではない
→書面記載事項には事実上の推定力があるため異なるということの証明が必要

❸書面の有価証券性の有無
…有価証券性はもたず証拠証券及び免責証券としての性質が認められる

❹内容と異なる合意の効力
…保険金請求する際には保険証券を提出しなければならない
→保険証券と引き換えでなければ保険金を支払わないという意味ではなく提出できない場合には他の方法によりその権利を証明することで保険金請求ができる

❺法律行為一般規定の適用により契約が無効となる場合
…保険金額が保険価額より著しく高額である、保険事故についてこいの事故招致を疑わせる様々な間接事実が存在する
→公序良俗違反により無効


2-6. 第7条(強行規定)
❶保険法の片面的強行規定と任意規定との関係
…契約内容について交渉の余地が少なく約款の内容が優先となる
→契約者保護のため相当数の規定を片面的強行規定とし消費者保護法としての性格を併せ持つようになった
→そうではない規定
(ⅰ)当該規定に反する特約が他の法律との関係で認められない強行規定
(ⅱ)規定の趣旨が公序の点にあり当該規定に反する特約が認められない強行規定
(ⅲ)任意規定、消費者契約法に適用され消費者が一方的に不利になるものは無効

❷約款の不当条項規制との関係
…消費者契約法、合理的な理由があれば任意規定からの逸脱も許容
→保険法、多くの規定を片面的強行規定とし合理的な逸脱がなくなる
→契約者が不利な合意について同意している場合でも効力が否定される
→契約自由の原則の例外、片面的強行規定を定めたことについて十分な合理的根拠が必要

❸保険契約者等に不利な特約の意義
…実務においては総合判断説に基づき条項全体を通して不利か否かを判断
→約款の背景にある制度・全体像を把握し、保険法の規律全体の趣旨を踏まえて判断
→保険料領収前免責条項は双務契約の本質から当然許容されるべきもので、
契約解除を将来効とする・保険者免責が遡及する場合を限定列挙する規定に反しない

❹4条及び5条2項(告知義務と遡及保険について)の片面的強行規定性
…4条及び5条2項では契約者と被保険者が不利となる特約を無効とする
(ⅰ)重要事項について保険者から質問されなくても自発的に申告する義務を課す
(ⅱ)保険者が事故の不発生を知っていても遡及保険を有効とし保険料返還請求をできない
→質問事項が絶対的に重要性のある事項に限定されるべきというわけではない
→質問・告知事項と保険事故の因果関係は保険者の免責を考えるうえで重要


損害保険の効力

2-7. 第8条(第三者のためにする損害保険契約)
❶被保険者が損害保険契約の当事者以外の者の意義
…契約者(当事者)は運送業者、被保険者は荷送人
→保険法では両者の委任に関する合意の内容は損害保険契約に直接には影響しない、民法上の「第三者のためにする契約」
→契約時に第三者が特定されていなくても事故発生時に特定できる基準が確定していれば「不特定の第三者のための損害保険契約」となり本条の規定が妥当

❷当然に当該損害保険契約の利益を享受するの意義
…第三者のための契約
→第三者の権利は利益を享受する意思決定を行った際に発生
→利益の享受(保険者への保険給付請求権)、契約者と保険者の合意による自己固有の権利
→解除権や保険料返還請求権などは契約者に帰属し、保険料は契約者が支払う
→保険者は契約者に対する抗弁事由をもって第三者に対抗することができる


2-8. 第9条(超過保険)
❶取消権の行使と時効に関する問題
…契約者が善意・無重過失である場合、超過保険であれば契約取消と超過分の保険料返還
→一部の取り消しも可能であり期間中、期間後でも取り消し可能
→追認可能時から5年・行為の時から20年経過で時効となり無効
→契約更改や一部の保険金請求を行った場合はどうか?
→契約者が超過保険であったことを知らない限り取消権は行使できる

❷返還される保険料の範囲
…取消権を行使した場合、超過分の保険料が全額返還されるのか?

ex) 保険価額1000、契約者が善意・無重過失で保険金額1500
→1000 を超えない→500を取り消し
→1300まで上昇→1300まで保険金を支払う→取り消しで保険料はいくら返還されるか

(ⅰ)契約者と保険者の利益均衡と契約者間の公平性を重視し保険期間中一貫して超過していた部分を返還
→契約者は超過分がどの部分かを立証しなければならずかなりの負担となる
(ⅱ)保険者が保険期間中の保険価額上昇の事実を証明できない限りにおいて契約者は締結時の保険価額と保険金額の差額を全額返還
→保険者が締結後に保険価額増加の立証を試みた場合、契約者側の反証が極めて困難
(ⅲ)保険価額の変動にかかわらず締結時の差額分を全額返還
→契約者は超過分について危険負担をしてもらおうという意思はなく保険者が勝手に危険負担していた
→超過分ははじめから無効

❸善意・無重過失の解釈
・重過失
…故意に近い著しい注意欠如の状態に限定
→保険契約者等の機会主義的な加入行動を防ぐ
→代理店が「保険価額が上昇するかもしれない」といいさえすればいいのか?
→超過保険の仕組みを理解できていない一般の消費者の場合、販売話法等により超過保険であると示唆されていても重過失が認定されることはない

❹契約締結時の解釈
…継続契約が原契約と法律上同一であれば超過保険の判断時期は原契約締結時
t=0 保険価額 2000、保険金額 2000
t=6 保険価額 1500 に減少
t=10 更新で超過保険に気づく
→継続契約を1つの保険契約と考えると継続契約締結時(t=0)は超過保険でない
→更新時を新たな契約締結時と考えると t=6~9 における超過保険料の返還請求ができる
→継続契約の性質から後者の考え方を採用

❺超過保険の有効性の限界
…どのような超過保険であっても有効とするのか?
→契約締結時に不法な利得の目的があろうとも誤解であり実際には損害額を超える保険金を取得できないため故意の事故招致の事実がなければ保険金を支払ってもよいのでは?
→保険法が規定を置かないのは公序良俗違反で対応できるから
→公序良俗違反に該当するすべての超過保険に関しては全部無効とする
不法な利得目的の超過保険を認めるわけではない


2-9. 第10条(保険価額の減少)
❶著しく減少とは
…少しでも超えた場合に減額できるという議論を防ぐため長期契約は減価償却が重なる
→保険価額が著しく減少したという状況が生じる可能性

❷減額の対象となる時点
…「将来に向かって」の解釈の問題
→保険料不可分の原則より次の保険期間から減額ということはない、保険金額の請求が保険価額が著しく減少した時点より遅れている場合に問題が発生
→保険価額変動時点に遡ることが妥当だが調査技術的に困難
→保険価額減少後に保険金額の減少請求を行っても余分に支払った保険料は戻らない
→長期契約に関しては保険契約者と定期的に連絡をとり確認や教示することが期待される


2-10. 第11条(危険の減少)
❶著しく減少とは
・危険減少
…告知事項についての危険が低くなり契約で定めた保険料が算出保険料を超過
→契約前の契約・軽微な危険の減少に減額請求を認める
→契約処理の煩雑化
→契約全体のコストを増大
→契約後の著しい減少について減額請求を認める

❷減額の対象となる時点
…「将来に向かって」の解釈の問題
→保険料不可分の原則より次の保険期間から減額ということはない
→危険減少時以降と減額請求時以降ではどちらを減額対象とするか?
→「将来に向かって」より減額請求時以降が妥当
→保険者は保険料を返還(額については合理的な約定を設けることができる)


2-11. 第12条(強行規定)
❶8条の片面的強行規定性
…意思表示を必要とする・権利の発生時期を契約成立後とすることは本条に反する

❷9条の片面的強行規定性
…取消権を著しく超えた場合のみ認める・そのものを否定することは本条に反する

❸10条の片面的強行規定性
…保険金額の減額請求権の行使・減額請求権の効力を制限することは本条に反する

❹11条の片面的強行規定性
…保険料の減額請求権の行使・減額請求権の効力を制限することは本条に反する


2-12. 損害保険の保険料払込
❶保険料の支払時期
…損害保険契約では保険期間が1年である契約が多い
→一時前払が一般的、火災保険のような長期契約は保険料分割払
→保険金支払の前に未払分の保険料を払い込まなければならない(期限の利益を喪失)

❷保険料の支払場所
…持参債務であり支払場所は債権者である保険者の営業所
→契約締結の権限を与えられた代理店は保険料受領の権限を有する
→口座振替、事務処理ミスで遅延が発生した場合は保険者の免責の抗弁は認められない
→クレジットカード、カード会社から領収できない場合は契約者に保険料を請求できる

❸保険料の支払と保険者の責任開始
…契約者の保険料支払不履行に対して保険者が履行を強制することは困難
→保険期間開始後でも保険料領収前に発生した事故による損害についてはてん補しない
→保険料不払を理由に保険契約を解除した場合にそれまでの保険料を請求できるか?
→保険者の責任は保険期間初日に開始するが危険負担をしていない
→保険料を取得できないが契約締結費用については損害賠償として請求できる

❹保険料の支払とアフターロス契約
・アフロス契約
…契約者と代理店が通謀し保険料支払後に事故が発生したと見せかける
→違法であり遡及保険となるため無効
→保険料支払前か否かの立証責任はどこ?
→保険者の支配下の者が作成した領収書であり記載内容との違いを保険者が立証すべき

❺保険料の支払猶予と責任持ち契約
…猶予の合意は責任開始条項を排除する意思表示とするか猶予中は履行遅滞による解除権の行使・損害賠償請求を行わない特約とするか
→当事者の合理的意思に合致すると考え責任開始条項を排除する意思表示とする
→代理店の立替は無効かどうか?

❻分割払保険料の不払と免責
…解除権により保険料支払債務の履行強制は意味をなさない
→不払の場合は期日の翌日以後の事故による損害については保険金を支払わないとする

・保険休止状態
…契約は有効に継続しているが保険者は危険負担の責任を負わない状態
(ⅰ)滞納保険料の支払で解消できるのか?→未払元本全額支払後は保険金支払義務を負う
(ⅱ)立証責任はどこ?
→最高裁は契約者、下級審裁は保険者とする場合が多い

❼分割保険料の不払と契約解除
(ⅰ)払込期日が属する月の翌月末までに払込がない
(ⅱ)払込期日までに払込がなくかつ次回払込期日までに次回保険料の払込がない
→これらの場合は一般の債務不履行の場合と同様で保険者は解除権を行使できる
→解除は書面で行うが催告は定められていない(実務でははがきで催告)


2-13. 損害保険の担保的利用
❶保険金請求権に対する物上代位の可否

・積極的肯定説
…物上代位を当然に肯定
(ⅰ)債務者の権利が法・契約のどちらに基づくかを区別しない
→保険金請求権も含まれる
(ⅱ)民法の起草者も含める趣旨で起草した
(ⅲ)保険金は経済的に抵当権の目的物に代わるもの・変形物とする

・消極的肯定説
…債権者を保護し衡平を図る意味で結論的に肯定

・否定説
(ⅰ)保険が付けられていなければ担保目的物が滅失しても保険金は支払われない
(ⅱ)保険金請求権は担保目的物の滅失損傷により発生せず保険料の対価として生ずる
かつ滅失前に成立する→保険事故の発生は条件の成就を意味するに過ぎない
(ⅲ)抵当権設定者は保険契約を解除・継続しないこともできる
(ⅳ)抵当権設定者による保険料不払があれば必ずしも保険金が支払われるわけではない
(ⅴ)保険金は支払済保険料に左右され目的物の時価と保険金額の関連性が弱い

❷抵当権者の物上代位と質権者の優劣
…抵当権者が質権を設定せず抵当権を有しない債権者が質権を設定した場合では抵当権者の物上代位と質権との優劣の基準はどうなる?
→質権設定が「払渡し・引き渡し」にあたるとして質権者が抵当権者に優先する
→債権譲渡は「払渡し・引き渡し」に含まれないとする最高裁判例
→抵当権者は質権設定に左右されずに保険金請求権に対して物上代位を行えるのでは
→物上代位を行うためには抵当権者は転付命令が送達されるまでに差し押さえする必要

❸譲渡担保に係る損害保険の担保的利用
…譲渡担保権を有する債権者が損害保険を利用して担保物の滅失損傷に備えるには?
→(ⅰ)物上代位が認められるか→認められるとするのが多数説
(ⅱ)譲渡担保権者が有する権利についての被保険利益性担当者のみ、担保権設定者のみ、双方
→判例は双方とし重複保険と同じような状況
→保険法では独立責任額按分方式で処理するのが妥当だとする
→保険者間での利害調整ではない・自衛手段をとった担保権者に被担保債権額を下回る保険金しか支払われないおそれ

・譲渡担保権者
…自己の保険契約から優先的に支払を受ける

・譲渡担保権設定者
…残りの損害額のみ自己の保険契約から支払をうける

❹所有権留保に係る損害保険の担保的利用
…所有権は譲渡担保と同様に自動車の売買で多用され、この場合買主だけ付保する
→自動車を所有権留保付売買により購入した買主が自動車を目的物として車両保険を付保
→車検証上の所有者は売主となっており保険金は誰に支払われるのか?
→約款では所有者(売主)に保険金
→時価額に対する既払代金の割合に応じた保険金・保険金全額を買主へという判例もある
→売主としては質権の設定などの措置が必要、実務では売主の意向も確認し紛争に巻き込まれないようにしている


損害保険の保険給付

2-14. 第13条(損害の発生及び拡大の防止)
❶損害防止義務者の範囲
・損害防止義務者
…被保険者、保険契約者
→被保険者は保険の目的物に密接な関係をもち損害防止に最も適する
→保険契約者に関しては解釈論上困難だとしても立法論としては規定すべき
→運送品などについて保険契約を締結する場合は契約者が最も適する

❷損害防止義務の開始時期
…解釈論から保険事故発生前の事故や損害の発生防止が損害防止義務の問題ではなく保険
事故招致による保険者免責との関係で取り扱われるとした
→「保険事故が発生したことを知ったとき」と規定する
→損害防止義務は保険事故が発生したことを前提とすることと開始時期を明確にした

❸損害防止義務の内容
…保険契約を締結していないときより努力を尽くさなければいけない理由はない
→無保険の場合と同程度の努力をすれば成功か否かを問わず義務は履行されたとする、防止すべき損害はてん補すべき損害
→保険事故が発生した場合でも免責事由に該当などの保険者がてん補責任を負わない損害に対しては被保険者・契約者は損害防止義務を負わない
→不明確であり約款である程度具体的に約定すべき

❹損害防止義務違反の効果
…損害防止義務違反があれど保険者のてん補義務には影響を及ぼさない
→違反があった場合は保険者が損害賠償請求権を取得することで相殺、控除できる
→債務不履行説、債務不履行ととらえて同様の一般原則に従うべき
→不法行為説、保険者の「保険の目的物に損害の生じない」という消極的利益を侵害に分かれる
→損害防止義務違反の履行は保険者がてん補を行うための前提条件であり、
保険者は違反によって発生した損害を限度としててん補責任を免れる
という見解が近年支持を集める
→実務では約款に違反の効果を約定している


2-15. 第 14 条(損害発生の通知)
❶通知義務の懈怠
…発生した損害の内容を通知すれば足りる→違反の効果は?
→通知は契約者が保険者に対する損害てん補請求権を確保するための前提条件、違反により保険者に生じた損害について賠償責任を負う
→違反のインセンティブは乏しいため通知の懈怠が起こり得るのは
(ⅰ)単なる過誤
保険契約の存在を失念、付保対象を把握できていない、保険金請求の過程で誤解
(ⅱ)契約者の保険金を受け取る意思がない
損害が軽微で保険金請求の手間を考慮し自らが負担、
契約更新での保険料増額を考慮し保険金請求を行わない
(ⅲ)保険金詐取を実行する過程
保険事故の偽装、保険者の証拠収集の妨害
→保険者免責は(ⅲ)のケースの対策を念頭に置いていたが
(ⅰ)のケースが一番多く契約者にとって不利益が大きい
→約款解釈のあり方を考えた判決

❷損害額や事故状況などの不実報告
…損害・事故状況の説明義務、書類・証拠の提出義務、調査への協力義務
→保険金を増額しようと不実報告のインセンティブが強くなる→違反の効果は?
→火災保険は事故にあってない物件も申告、盗難保険は価値の詐称
→保険金の不正請求を図ったかどうかで免責額を考える(全額、5 割)

❸重大事由による解除との関係
…保険者が重大事由による解除をした場合でも免責となるのは重大事由の発生以降の事故
→損害発生後に通知義務を怠っただけで免責事由を約款で定めても無効
→信義上許されない目的(保険金不正請求)のもとに違反がなされた場合は全部免責
→保険金不正請求の事実関係の立証は難しく兆候を捉えて対応しようとする


2-16. 第15条(損害発生後の保険の目的物の滅失)
❶保険事故による損害が生じた場合、目的物が事故によらず滅失してもてん補責任を負う


2-17. 第16条(火災保険契約による損害店舗の特則)
❶保険者による損害てん補の範囲
…「消防又は避難に必要な処置によって保険対象について生じた損害」を含む消防・人命救助のための放水や破壊
→保険事故が発生していなくても必要な処置であればてん補

❷火災の際における保険の目的物の紛失又は盗難による損害てん補の可否
…損害防止義務違反に問えなくもなく、保険金を支払わない旨を約定するものが多い
→必要な処置によって目的物に生じた損害としててん補対象とすることができる
→改正案では保険者がてん補する義務を負う規定を新設するよう提案されている
→保険事故との因果関係の立証が極めて困難、保険金不正請求の可能性
→保険約款をもってこのように約定するのは妥当


2-18. 第17条(保険者の免責)
❶故意免責
(ⅰ)故意免責の内容
…商法の「悪意」は故意を意味しない→保険法では「故意」とする
(ⅱ)故意免責の趣旨
…故意の保険事故招致は信義則に反するまたは公序良俗に反する
(ⅲ)故意の対象事実
…保険法では故意の対象は損害それ自体である
→正確には故意によって発生した保険事故による損害→故意の対象は事故の発生
(ⅳ)第三者の故意による事故招致
a)第三者が被保険者、契約者の指示により事故招致
→被保険者、契約者の事故招致と言うことができ、行為者が特定できなくても間接事実の積み重ねにより被保険者、契約者の事故招致と推認できれば故意免責の成立を認める
b)第三者が被保険者、契約者の指示によらず事故招致
・名義上被保険者、契約者ではないが実質上の被保険者、契約者である場合
免責の可否については実質上の被保険者、契約者に即した判断が必要
・代表者責任論と自己責任主義の対立としてとらえる場合
代表者責任論…被保険者、契約者に代わって管理する者の事故招致は故意
自己責任主義…被保険者、契約者以外の事故招致は故意と認めない
・被保険者、契約者が法人である場合
法人である場合は理事、取締役、その他の機関の故意が免責事由と規定
→生命保険契約に関する判断は損害保険契約でも妥当とする見解もある

❷重過失免責
…重過失を準故意というものに限定すべきという見解
→故意の事故招致は立証が難しく、救済するために重過失を故意の代替概念として捉える
→一般人を基準として甚だしい不注意であれば足りるとする立場、高度に疑われる場合のみ重過失免責を適用するという限定的解釈をすべきではない

❸戦争その他変乱による免責
・戦争
…宣戦布告の有無にかかわらず国家間または交戦団体の交戦状態

・その他変乱
…内乱、一揆、暴動などの人為的騒乱の状態
→これらによる損害は平均性を欠き蓋然率を測定することが困難であり、
予防なども功を奏しないため保険料率の計算には加えられない保険学:保険法(損害保険)

❹性質損害の免責
…保険法では免責事由から削除
→改正前商法は偶然性という性格が皆無でないにせよ危険団体を通じた危険分散は適切でなく加入者それぞれが損害予防や損失分担をすることが望ましいとして免責事由だった
→これら損害はすべての損害保険契約で生じ得る損害ではなく保険の担保範囲に含めることは不可能ではないため、個々の約定に委ねるとした

❺責任保険契約
(ⅰ)責任保険の意義
現代社会ではテクノロジーが高度に発達
→加害者に損害賠償責任を発生させる様々なリスクが増加
被害者の権利意識が向上し損害賠償を求める機会が増加
→被害者保護思想の浸透に伴い加害者の賠償力を確保する必要
→責任保険が効果的
(ⅱ)重過失免責の不適用
責任保険契約については故意のみが免責事由として規定
責任保険契約は被保険者の不法行為による損害賠償債務の負担に備えて締結
→被保険者の重過失を免責事由としない


2-19. 第18条(損害額の算定)
❶保険事故と損害との間に求められる因果関係
…損害保険における因果関係の問題は複雑な事故が起きる海上保険で研究されてきた

・相当因果関係説
…当該事例だけでなく一般的な場合においてもその事実が同じ結果を生じさせると判断される場合に両事実の間に因果関係が認められる
→因果関係の判定においては生じている事象をいかに認識し立証できるかという主張立証の問題とともに約款の解釈も問題となる
→原因と考えられる事項とともに損害との関係について一般経験則に基づいてどこまで合理的に説明できるかが重要

❷原因が競合する場合における損害てん補
…保険保護対象の原因と免責となる原因の競合・保険事故と免責事由の競合
により損害が発生した場合にてん補責任を負うか?
→いずれも単独、いずれもが相当因果関係にある原因となる
→両者が競合して初めて損害が起きる、相当因果関係にない原因となり時系列を考える
→原因を一つに絞るか寄与した割合を考えるか

❸てん補損害額はいかに算定されるか
…任意規定でかつ事故地における時価
→具体的な損害額算定は当事者の自治による
→利得禁止原則からみて許容される範囲で合意
→全損、分損、細かい合意がなされていない場合は事象・取引における慣行を考慮

❹保険価額はいかに算定されるか
…いかなる保険価額をもって目的物の価額とみるかは具体的な争いになりやすい
→契約では具体的な算定方式の明確化が重要でありその合意内容に従って解釈すべき
→火災保険では「損害が生じた地および時における保険の対象の価額(保険の対象と同一の構造・質・用途・規模・型・能力の物を再取得するのに必要な金額から使用による消耗分を差し引いて現在の価値として算出した金額)」と記載されている保険学:保険法(損害保険)

❺保険の目的物を市価より著しく安く調達していた場合
…こうした場合は時価による損害てん補を行うことが利得禁止原則からみて許容されるか
→被保険者が再取得する意思がない場合に利得が発生するといえるかどうか
→取得時の価額がどうであれ利用している場合にはその物からの財産価値を享受しているといえ原状復帰がなされる場合には時価ベースの損害てん補は利得禁止原則に反しない
→モラルハザードがあるとすれば損害てん補の基準ではなく事故原因の観点から主張

❻保険価額を著しく超える場合
…保険法の解釈として 2、3 割の過大をもって公序良俗違反とする
→物の種類、損害の態様によって変わる


2-20. 第19条(一部保険)
❶約定保険価額が保険価額を著しく超える場合
…約定保険価額が著しく過大な場合保険者はてん補額減額請求権をもつ
(ⅰ)減額請求された場合の約定保険価額の効果
…過大とはいえない程度まで減額されその範囲内で約定保険価額の効力が維持されるのか、約定保険価額としての効果は全面的に失われてみ評価保険とするのか
→後者が妥当
(ⅱ)一部保険となっていたことに対する効果
…約定保険価額の事故発生時における損害額としての部分だけ効果が失われるか、一部保険としての効果も失われ損害発生時の保険価額に基づいて算定され保険金額が保険価額を下回らなければ一部保険とはならないか
→後者が妥当

❷約定保険価額が保険価額を著しく下回る場合
価額変動が激しい分野や長期の契約では価額が契約締結後に大きく上昇する場合や、最初から実際より低い額でもって約定する場合が考えられる相対的に安い保険料で原状回復費用のてん補を受けようと契約者が考える場合に生じる
→保険価額を利用するのは無理があり利得禁止原則により約定保険価額の否定は難しい
→変動リスクは保険者が負担せざるを得ない


2-21. 第20条(重複保険)
❶重複保険の規律が及ぶ損害保険の範囲
…保険金額の合計が保険価格ではなくてん補損害額を超えるか否かが基準
→保険価額の概念にとらわれることなく損害保険であれば重複保険の規律が及ぶ

❷重複保険の判断基準時
…保険価額は変化するため基準時が問題となる
→保険法では重複保険に関する規定は契約の効力規定でなく保険給付の範囲に関するものとして位置づけられ、てん補損害額は損害発生時の価格により算定
→損害発生時を基準時として重複保険か否かを判断すべき

❸保険者の複数性の要否
…保険者が複数であることが要件となるか?
→同一保険者との契約でも内容や細かい条件の差があれば重複保険として別々に処理
→別の保険者との間にも重複保険が存在すれば利害バランスをとるため同一保険者の契約を重複保険として処理
→保険者が複数であることは要件とならない

❹重複保険に該当するか否かが問題となるケース
(ⅰ)譲渡担保権者と譲渡担保権設定者が同一の建物に火災保険契約を締結した場合
…被保険者が異なるため重複保険に該当しないが被保険者利益は同じ建物に係るもので同一の被保険者が同一の目的について契約を締結した状態となることを否定できない
→保険金額の割合によって負担額を決定すべき
(ⅱ)他人の車を借用中に交通事故が発生した場合の各責任保険の関係
…加害者のドライバー保険と車両の対人賠償が適用される場合はいずれも加害者を被保険者とする損害賠償のてん補を目的とする損害保険であり重複保険である
(ⅲ)交通事故被害者の人身傷害保険と無保険車傷害特約の関係
…無保険車両と被害車両で交通事故が発生した場合
→保険者が同一である場合、いずれも適用され重複保険とはならない
→保険者が異なる場合、いずれも適用されうる、重複保険とはなるが実務上の保険者間の調整条項を設けているところは少ない

❺重複保険とモラルハザードの関係
…同一の物件を保険の目的として複数の損害保険に加入し意図的に保険事故を発生させるというモラルハザードへの対応を考える
→他保険契約に関しての告知・通知義務を課したうえで違反を理由として解除することが考えられる
→解除権の行使に関しては様々な議論が存在する


2-22. 第21条(保険給付の履行期)
❶履行遅滞の時期に関する約款の解釈
…保険金支払請求完了日から30日の期間に一定事項の確認を終え保険金を支払う

・請求完了日
…契約締結時に定めた書類・証拠が提出された日

・一定事項
①事故原因、発生状況等
②免責事由の有無
③保険金額算出のための損害額、事故と損害の関係
④保険契約の解除、無効、取消の有無
⑤他の保険契約の有無、内容等
→被保険者が振込口座を伝えないために遅滞した場合、保険者は遅滞の責任を負わない、調査が早く終わっても 30 日の期間が過ぎたときが履行遅滞となる

❷相当の期間の考え方
…個々の保険請求ごとに判断するのではなく契約の種類などに照らして類型的に判断
→履行遅滞の時期の定めが相当の期間よりも後であることの立証責任は主張者にあるか?
→調査する期間としてどのくらいが合理的かによって決まり、判断材料は保険者にある
→保険者が立証責任を負う

❸個別合意と本条1項との関係
…履行遅滞の時期について個別的に保険者と被保険者との間で合意がある場合
→本条1項の規律は類型的に定められた履行遅滞の時期についての規律であり、保険事故発生後に個別具体的な事情に応じて当事者間でなされた合意は対象外

❹請求可能時期も対象とする規律か
…もし請求可能時期も対象とすれば遅延損害金相当の利息は支払うが保険金の支払自体を先延ばしにする旨の規定も対象となる
→履行の期限は権利行使できるようになる時期であり履行遅滞の時期にも関係する
→請求可能時期も対象とすると解される

❺調査妨害・不協力
…正当な理由がない場合、保険者は調査妨害・不協力による保履行遅滞の責任を負わない、立ち入り拒否、間取り調査に応じない、証拠の隠ぺい
→正当な理由がある場合、保険者は遅滞責任を負う、体調不良や取調べのために調査に応じることができない

❻保険金請求権の行使
…請求権者が複数、代表者が行使
→この規定の効力、52 条❶
→被保険者でない者の保険金請求権行使、損害保険❹
→保険金請求権者が破産した後で事故が発生した場合、81 条❶❼保険金の過誤払の際の保険者の不当利得返還請求権、故意の事故招致などが発覚→保険者は不当利得返還請求権を有する、保険金請求権者でない者に保険金を支払った場合も同様
→消滅時効期間は商事債権の5年ではなく一般民事債権の10年であるとした判例も存在


2-23. 第22条(責任保険契約についての先取特権)
❶先取特権に基づいて被害者の権利はいかに確保されるか
・先取特権
…債務者の財産について他の債権者に先立って弁済を受けることができる権利
→破産開始手続の決定がある場合、被害者は破産手続きによらずに権利行使できる
→被保険者が賠償に応じない場合に担保権行使が可能だが高度な蓋然性の立証が必要
→確定判決等は先取特権としての機能を弱めるが意味はある
(ⅰ)差押権者が保険者に対して取立訴訟を提起した場合に紛争が再び起きることを防ぐ
(ⅱ)直接請求権を規定する自動車保険でも被保険者と第三者との訴訟での判決による合意の成立時に保険金請求権が発生して行使できることと比較しても被害者は不利でない
(ⅲ)被保険者と第三者との間で不当な責任確定の可能性を排除
→裁判所から債権差押命令が得れれば被害者は送達された日から 1 週間経過すれば取立可

❷被害者の請求権と被保険者の保険給付請求権との関係
…保険者は免責事由、解除・無効等被保険者に対してすべての抗弁を対抗できる
→自賠法に基づく直接請求権の場合、保険者は被害者に対して免責事由を主張できない
→被保険者の保険金請求権がなくなる
→先取特権の対象がなくなることとなる
→保険者は被保険者から被害者に対する損害賠償義務の存在・賠償額について争える
→確定判決を得た場合でも保険者には判決の効力は及ばず争える

❸被害者が複数存在する場合
…他の被害者が参加するためには保険者による執行供託・取引訴訟の送達前に保険給付請求権の差押え、仮押え、配当請求を行う必要
→遅れれば参加できない
→問題となるのは損害賠償請求総額がてん補限度額を超える場合
→被保険者からの請求があれば順次保険金を支払い、てん補限度額以上支払う必要はない
→被害者は被保険者の財産から支払を受ける必要があり、この時点では被保険者の保険金、請求権自体が存在しないので先取特権も存在しない
→被保険者に倒産のリスクがある場合、先取特権に基づく担保権行使は保険者の支払義務が消滅する前に実行する必要

❹被害者からの保険者に対する債権者代位請求
…保険者は被保険者の保険金請求権は裁判上での同意成立時に発生・行使できるとした
→最高裁は保険金請求権は事故発生と同時に債権として発生し、賠償額確定により行使できるとした
→代位訴訟は認められる
→保険者は直接請求を認める方式を取り入れた
→現在は代位請求を提起する利点は弱まっている


2-24. 第23条(費用の負担)
❶損害額算定費用
…損害額算定費用は保険者の負担とする
→保険実務では保険者と被保険者との間で損害額に争いが生じたときは双方が1名ずつ選定した評価人の判断が、評価人の意見が一致しない場合は双方が1名ずつ選定した裁定人が裁定するとしている
→各評価人の費用は各自、その他の費用は半額ずつ負担する約定も効力は認められる

❷損害防止費用
…損害の発生・拡大防止に必要な費用は損害防止費用として保険者が負担、損害防止義務の履行は保険者の利益に帰すべきものであるため
→発生防止費用は含まれない、防止に成功したか否かは関係ない
→一部保険の場合、保険金額の保険価額に対する割合に応じて保険者が負担

❸本条1項2号と損害防止費用不担保約款の有効性
…損害防止費用がてん補損害額と合算して保険金額を超えても保険者が負担
→損害防止費用不担保約款は公益保護を目的とした強行規定であり無効とした
→一部不担保約款は損害防止努力を削ぐほどの非公益的効力はなく保険者の責任を保険金額を限度とすることは合理的な理由があり有効とした
→実務では契約者、被保険者に損害防止義務の履行を促すために損害防止費用一部不担保約款を採用するものが多い


2-25. 第24条(残存物代位)
❶保険の目的物の全部の滅失(残存物代位の要件Ⅰ)
…全部の滅失とは目的物が経済的効用をすべて失ったときのことである

・物の価値
…物質固有の価値+経済的効用+付加価値
→物質固有の価値の残存を考慮せざるを得ない→価値の調整
→実務では経済的効用の滅失か否かの判断は約款で合意しておく

❷保険給付を行ったとき(残存物上代位の要件Ⅱ)
…全損事故に加えて保険者が保険給付を行ったことが残存物代位が生じるために必要負担額の一部を支払った場合でも保険価額に対する割合に応じて残存物代位が生じる
→損害防止費用の支払を不履行にする場合に代位するのは不公平である
→損害防止費用も保険給付に含まれ不履行である場合は残存物代位は生じない

❸権利取得(残存物代位の法的効果)とその範囲について
…物保険に限って物権を対象としてのみ残存物代位は生じる
→当事者の意思表示を必要とせず保険金支払時に当然に権利が移転し対抗要件なしで対抗
→一部保険では割合による被保険者と保険者との共有が物をめぐって生じることとなる
→実務では一部保険で残存物代位を行う場合は残存物の価値を協定し控除して保険金を支払い残存物は被保険者に残すという処理が一般的
→保険者が一部しか保険給付を行えなかったとしても残存物の所有権を取得する


2-26. 第25条(請求権代位)
❶残存物代位との相違
…被保険者の権利が保険者に移転する点は共通
(ⅰ)請求権代位は物保険だけでなくあらゆる契約に適用
(ⅱ)物保険に関しては分損の場合でも請求権代位は生じる
(ⅲ)請求権代位制度は被保険者が有する債権を対象とする
という点が相違

❷請求権代位の対象
…対象は事故による損害が生じたことで被保険者が取得することとなった債権、相続人が取得する債権も対象となる
→給付を発生させる事象と同一の事象により取得する債権であれば種類は問われない
→代位が行われるために債権が有効に成立していることが必要

❸保険者による保険給付(請求権代位を生じる要件)
…保険者が契約上負担している給付義務を実施することが唯一の条件
→義務がない支払、無効な契約に基づく支払には請求権代位は生じない
→義務がある場合、履行が完全でなくても代位が生じ、被保険者に対する給付義務の履行と同様の効果を生じる場合でも代位は生じる

❹法律上当然の権利移転
…代位による移転は債権譲渡による権利の移転ではなく法律による権利の移転
→第三者対抗要件を具備していなくても対抗できる、移転時期は保険給付の時点で、被保険者が第三者から現実に支払を受けていれば控除
→再保険関係では再保険者は自ら債権を行使せず元受保険者が自己の名をもって再保険者の受託者地位においてなし、回収した金額を再保険者に交付

❺権利移転の範囲Ⅰ (対応の原則について)
・対応の原則
…債権は「保険による損害てん補の対象対応する損害についての債権」
→特定の非保険利益に対して付保されそれ以外の損害は無関係で対象とならない
→入院通院費用に該当する損害のみ代位でき休業・後遺障害による損害は認められない

❻権利移転の範囲Ⅱ (差額説について)
…権利取得の量的制約として給付額か債権額の少ない方を限度とする
→一部保険・過失相殺の結果、損害額が不足しても保険金と賠償金の合計において回復
→保険価額100万、保険金額60万、被保険者2割の過失の全損(被保険者債権額80万)、給付額60万、債権額40万
→保険者から60万、相手方から40万で回収

❼被保険者の権利の優先
…被保険者が論点❻で40万の範囲で代位
→40万の賠償請求権が残り保険者と競合
→相手方が無保険など資力不足となる場合、被保険者に残される債権が優先

❽代位権不行使特約
…一定の条件のもとでは行使しない旨を約定する場合がある
→火災保険では借家人に故意・重過失がない場合、保険者は借家人には権利行使しない

❾被代位債権も消滅時効の起算点
…保険者は保険給付の時点で権利の性質を変更することなく承継
→被害者が損害と加害者を知ったときから 3 年経過で被代位債権の消滅時効が完成
→代位の範囲が確定できず具体額が不明であっても起算点が遅れる理由にはならない
→損害額・過失割合が確定する前でも調査を行って範囲の検討・加害者への権利行使は可能
→実務では確定前に保険会社が加害者に訴訟をする事例もある

❿被保険者の権利保全義務
…保険給付を受ける前に債権放棄した場合、代位して取得できたであろう金額について保険者は支払義務を免れる

⓫代位権行使に係る弁護士費用等
…弁護士費用等は相手方に対し請求し得るものではないというのが圧倒的多数の見解

⓬代位債権に係る法定利率と遅延損害金の起算点
…債権が民法上の不法行為に基づく損害賠償請求権
→保険者は不法行為に基づく請求権ではなく代位による請求権をもつ
→加害事故の日から遅延損害金を請求することはできず保険給付を受けた翌日から発生

⓭所得補償保険
…定額保険と請求権代位規定の適用関係
→損害保険固有の規定で生命保険、傷害疾病定額保険契約には規定なし
→損害保険であればデフォルト規定として適用、それ以外は合意で定めない限り代位は生じない

⓮損益相殺と保険代位の関係
…保険金は不法行為の原因と関係なく支払われるべき
→不法行為による算定において保険金は損益相殺として控除されない
→請求権代位制度が適用される限り、支払った保険金を限度として請求賠償額が減少


2-27. 第26条(強行規定)
❶15条の片面的強行規定性
…目的物が損害発生後に事故によらずに滅失した場合に保険者がてん補責任を免れる特約は無効

❷21条1項及び3項の片面的強行規定性
…保険給付を行うために必要な確認事項の確認のために相当の期間を超えて保険者が遅滞の責任負わないとする特約は無効
→期限自体を先延ばしにするものであれば違反となる可能性が高い、契約者等が調査に応じなかった場合まで遅滞責任を負わないとする特約も無効

❸24条の片面的強行規定性
…合意が不利な特約として無効となるか否かは代位の範囲が法律で定める範囲より広いか否かのみで判断される

❹25条の片面的強行規定性
…差額説の処理を変更して絶対説(どのような場合でも給付額と同額を代位)や、比例説(債権を給付額の損害額に対する割合で代位)をしたとする
→それらは無効
→代位を認めない約定等の範囲を狭める特約は有効


損害保険の終了

2-28. 第27条(保険契約者による解除)
❶保険者契約者の任意規定として解除の趣旨
…契約成立後でも両当事者の合意で解除でき、任意解除権は認められていなかった
→約款では任意解約権を認め、保険料は既経過保険期間分を控除して返還される
→支払継続の強制には合理性はなく本条では責任開始前後を問わない

❷保険契約者に解除が認められない場合
…任意解除権の制限は可能
→火災保険において保険金請求権に質権または譲渡担保権が設定されている場合、質権者等の書面による同意がなければ解除できない
→興行中止保険で興行開始直前に解除した場合、保険料を返還しないのは不合理ではない

❸解除の方式・効果
…意思表示を保険者にする必要があり方式の規定はない
→実務では書面で行うことを約款は要求している、解除権行使により将来に向かってのみ効力を有する
→実務では責任開始前に解除された場合、収受した保険料を返還
責任開始後に解除された場合、既経過保険料分を控除して保険料を返還


2-29. 第28条(告知義務違反による解除)
❶告知義務違反の主観的要件
…故意または重過失により告知をしなかったことや不実の告知をしたことが必要
→不告知が問われる場合について義務者が知っている事項に告知をすればいいのか?
→故意によるとは
(ⅰ)告知事項である重要な事実のあること
(ⅱ)告知すべきものであること
(ⅲ)告知しないこと
のそれぞれを知っていること
→重過失の判断は故意に匹敵する場合に限定される

❷他保険契約の告知義務違反の成立要件
…他保険契約の存在は危険選択や道徳的危険の増大を考えるために必要
→故意・重過失によるだけでなく信義則に反するため告知義務違反は成立し直ちに保険者の解除権を認める

❸解除権阻却事由
(ⅰ)保険者が当該事実を知っていた場合、過失により知らなかった場合
補助者が事実を知りながら報告しなかった場合については保険者の選任・監督責任について過失があったとされる→保険者の過失による不知となる、立証責任は請求側
(ⅱ)保険媒介者の告知妨害・不告知教唆
…媒介者、契約の媒介のみを行い契約締結権・告知受領権を有しない者
(a)媒介者によるデータ改ざんなど告知義務者の意思が介在しない場合
(b)告知義務を履行しないよう勧めた場合
→保険者は解除できない
→立証責任は請求側で間接事実をもって証明することになるだろう

❹解除権の消滅
…故意または重過失による義務違反があることを知ったときから 1 ヵ月で消滅
→損害保険契約の締結時から 5 年経過したときも消滅
→両期間とも時効期間ではなく除斥期間である

❺告知義務違反と詐欺・錯誤との関係
…保険法では契約者等の詐欺または錯誤を理由として損害保険契約に係る意思表示を取り消した場合に保険者が保険料の返還義務を負わないと規定


2-30. 第29条(危険増加による解除)
❶故意・重過失による通知義務違反がない場合の保険者の対応
…通知義務違反がない場合は原則通り保険料を増額することで継続、具体的対応は約款
→保険者は追加保険料請求権を有する
(ⅰ)対象期間の始期は追加保険料請求時点か危険増加発生時点か→後者(遡及効)
(ⅱ)請求権は形成権か同意を必要とするのか→前者
→同意が必要とすると不承諾・不回答の場合、保険者が解除
→危険増加発生時から解除時までの事故の有無責が問題となる
→追加保険料を支払わない場合、催告をしたうえで解除ができる

❷引受範囲外の危険増加の場合の保険者の対応
…保険法では規定しておらず個別の約款で規定
→(ⅰ)解除を制限して存続を強制することは保険者に過度の責任を強いることとなる
(ⅱ)契約者は危険増加が生じた場合にまで利益を享受することは期待すべき立場にない
→範囲外かどうかは合意の内容となっていることが必要
→保険者に明示していない場合は引受内の危険増加とみなし 29 条及び 31 条が適用
→本条1項が満たされれば契約を解除でき危険増加時から解除時までの事故は免責、満たされなければ引受範囲内での追加保険料請求
→範囲外の危険増加が生じた場合、解除権の付与が一般的な得策

❸保険者の悪意・過失及び保険媒介者による通知妨害等
…28条とほとんど同内容の法律
→保険者が危険増加を知ったにもかかわらず通知がないとして放置した場合
→1ヵ月で解除権の除斥期間にかかり、その後は保険者は解除できない
→危険増加を知っただけでは解除権の原因を知ったことにはならず除斥期間は開始しない
→追加保険料の交渉をすべきで追加保険料を支払わない場合に解除の問題となる、媒介者による通知妨害等は議論はなく文献も見当たらない
→約款で規定を置かない限り通知妨害等が立証されても解除権には影響がない

❹危険増加には道徳的危険の増加が含まれるか
…保険法では重大事由解除制度を創設したことにより道徳的危険の増加は 30 条で対応
→道徳的危険の増加を危険増加の規律に含めることは可能か?
→含めることはできるが引受範囲外、重大事由解除との重複の問題がある
→実務では考慮される余地はほとんどない

❺他保険契約の通知義務の扱い
…告知義務と併せて議論が行われてきたが保険法では通知義務を削除したのが一般的
(ⅰ)他保険契約の通知義務は告知義務と比較して契約者側のロードが大きい
(ⅱ)他保険契約が発覚するのは事故発生時がほとんど事故前解除は実効性がない
(ⅲ)契約者側の保護を図るという保険法の趣旨

❻保険の目的物の譲渡の規律
…保険法では目的物の譲渡についての規定を全面的に約款規定に委ねる
→目的物の譲渡が行われ約款規定によって他人のための契約としてあるいは移転されたものとして継続され危険増加が生じた場合、
引受範囲内の危険増加について追加保険料請求規定に従う、
引受範囲外の危険増加について約款規定に従う


2-31. 第30条(重大事由による解除)
❶重大事由解除の根拠となる理論
…保険法では重大事由解除に関する規定新設の趣旨を当事者間の信頼関係が契約の大前提
→モラルハザードのように信頼関係を破壊する行為が行われた場合、保険者に解除による契約関係からの解法を認める必要があるとした

❷他保険契約の告知・通知義務と重大事由解除
…保険法では他保険契約の告知・通知義務の違反ではなく契約との重複については重大事由解除のうち包括条項の該当性について検討される
→損害保険はてん補保険であり重複保険のみをもって重大事由解除を認めるのは難しい
→不正請求の事情等を考慮し保険者との信頼関係破壊に該当するかを判断する必要

❸重大事由解除の片面的強行規定性と不実申告による保険者免責の可否
…保険では重大事由発生時から解除時までに発生した事故による損害についてはてん補責任を負わない
→不実申告は保険者に対する詐欺と捉えられるから重大事由解除の対象となる
→有効性の議論があり不実申告免責条項は置かれていないが全部免責となる

❹暴力団排除条約と重大事由解除
(ⅰ)信頼関係破壊
…暴力団という属性のみで解除に値する信頼関係破壊があったといえるか?
(ⅱ)契約存続の困難性
…反社会的勢力に属する者は不正請求を招来する可能性が高い


2-32. 第31条(解除の効力)
❶損害保険契約の解除と将来効
…契約者が諸義務に違反することなく正常に継続していた期間まで契約者の保険保護を遡及的に奪うことは期待を裏切るもので原則として許されるべきでない
→解除時までの事故については支払義務を負い、契約者も保険料を支払う

❷法定解除事由に基づく解除とその効力
…契約者は任意解除、被保険者からの請求に基づく解除、保険者破産による解除
→保険者は告知義務違反による解除、危険増加による解除、重大事由による解除
→支払債務不履行による解除は将来効でなく遡及効があるとする

❸告知義務違反による解除の将来効と免責
…解除時までに発生した事故による損害について免責を認めるのか?
→解除の効力を将来効としつつ免責については実質的に遡及効を認めても因果関係不存在
→特則との関係が上手く説明できない問題のため将来効と免責効を組み合わせた
→保険金を支払った後に解除したときは不当利得として保険金返還を求めることができる

❹因果関係不存在特則
…保険事故発生と不告知・不実告知との間に因果関係がない場合、保険金を支払う
→因果関係の不存在についての立証責任は契約者側にあるとされる
→損害保険契約では主に免許の色についての問題がある

・プロ・ラタ主義
…詐欺的意思による告知義務違反については契約を無効とする半面、重過失による告知義務違反については徴収すべきだった保険料との比率で保険金を減額
→制裁的な効果が弱まるとされ導入が見送られて保険法でも維持された

❺危険増加による解除の将来効と免責
…危険増加についての通知義務に違反した契約者に対する制裁的効果がない
→危険増加の発生時から解除時までに発生した事故による損害について責任を負わない
→将来効解除と遡及効免責の組み合わせ
危険増加をもたらした事由に基づかなければ免責されない
危険増加をもたらした事由と事故発生の間に因果関係がないことの立証責任は契約者側

❻重大事由解除の将来効と免責
…本来ならば契約成立後にも解除でき保険者はてん補責任を負わない
→信頼関係破壊行為は事故発生後に判明することが一般的
→重大事由発生時から解除時まで発生した事故による損害について責任を負わない
→将来効解除と遡及効免責の組み合わせ
重大事由解除の場合、因果関係不存在特則は認められていない
重大事由発生前に発生した事故による損害については免責されない


2-33. 第32条(保険料の返還の制限)
❶詐欺・強迫による取消と保険料返還の制限
…保険者の詐欺・強迫、契約者は保険料の返還を求めることができる
→契約者の詐欺・強迫、保険料の返還はしなくてもよい
→保険者は未払保険料を請求できないが締結費用等は損害賠償請求できる
→未成年者である場合の取消、消費者契約法による取消などにおいて保険料を返還すべきか否かは民法に基づいて判断される

❷遡及保険が無効とされる場合と保険料返還の制限
…保険法では損害保険契約の締結前に発生した事故による損害をてん補する定めは、契約者が契約の承諾時において契約者が発生を知っていたときは無効、不当利得を得ることを防ぐ、保険料返還義務を負わない
→保険者が知っていて承諾をした場合、免れることはできない
→公序良俗違反により無効となる場合、保険者は保険料の返還義務を負わない


2-35. 第33条(強行規定)
❶28条1から3項、29条1項の片面的強行規定性
…規定に反する特約で契約者等に不利なものは無効
→片面的強行規定より形式的にみて不利になる約款条項や
実質的にみて保険法の趣旨を没却するような約款条項も含まれる
実質的に反するか否かは片面的強行規定の趣旨及び射程範囲、規定の目的、要件、効果を総合的に勘案して判断すると解される
→契約者等以外に告知を求めてその違反について解除を認める約款条項は無効
→危険増加の通知義務を定めないで危険増加を理由に解除を認める約款条項は無効
→解除が認められないにもかかわらず解除同様の免責効果が生ずる約款条項は無効

❷30条の片面的強行規定性
…重大事由に該当しない事由について保険者が解除できると定める約款条項は無効

❸31条片面的強行規定性
…解除の効力を遡及効と定めたうえで危険増加が生じる前に発生した事故につき支払保険金の返還を求めるような約款条項は無効
→保険料不払いによる解除は契約者等にとって不利益ではなく解除は認められる、解除された場合の免責については因果関係不存在特則が適用される
→不告知・不実告知や危険増加と事故に因果関係がないときに免責は認められないが、因果関係不存在特約を排除する特約は無効
→プロ・ラタ主義の導入が見送られた、それに基づく支払を約定するのは反するか?
→反しない、不正請求に対する免責はないという解釈があるがこの場合は許されるべき

❹32条の片面的強行規定性
…保険料返還の制限に関する規定を定めそれ以外の取消事由及び無効事由により損害保険契約が取消または無効となった場合に保険料返還をしない旨を定める約款条項は無効


2-36. 自動車保険
❶被保険自動車の用途変更
…用途・車種により事故発生の危険率は大きく異なり各危険率に対応して保険料は定まる
→車種変更は遅滞なく保険者に通知する、用途変更は危険増加の一場面
→判例では用途の変更があったかではなく危険変動があり免責を正当化できるかをみる
→引受範囲外となる場合とは?今後の判例に注目すべき

❷被保険自動車の入替え
…自動車の買い替えは保険期間の中途で行われる場合も少なくない
→買い替えは被保険利益が消滅したとして契約は失効し新たに締結し直すのが妥当
→責任保険においても改めて危険測定が行われ新規の契約が締結されるのが妥当
→契約者からすれば保険料割引の資格を維持するために従来の保険を継続することに意味
→入替えでは保険契約が継続することを原則とする
→入替え前の自動車は廃車でも返却でもよい、入替え後の自動車は借入でもよい
→入替えにあたるかは柔軟な定めが多く制限的ではないが用途は同一でなければならない
→入替え通知を懈怠した場合、保険者は免責
→承認が遅滞しているうちに保険事故が発生した場合のてん補責任が争われる可能性

❸無断承認禁止事項
…被保険者等が賠償請求を受けたときに保険者の承認を得ないで承認することは禁止
→不当に高額な賠償責任が承認されることを防ぐため
→被保険者は一般的に賠償額の適正性について判断できる知識を有していないため、安易に承認するインセンティブが働く、最悪の場合賠償責任を捏造する
→問題は①承認が必要とされる対象とは②条項違反の効果
→重要な要素は①客観的な損害賠償責任は存在するか②損害賠償の責任と損害の位置
→基本的には責任関係における結論の拘束力が認められることはコンセンサスが得られる
(ⅰ)責任関係と保険関係で結論が分かれて混乱することを防ぐ
(ⅱ)同じ責任について二重に判断する手間を省ける
(ⅲ)法律上の当事者でない保険者が責任関係をコントロールできると利害関係を有する
→責任関係の結論が適正でなければ拘束力を排除すべきこともコンセンサスが得られる


2-37. 賠償責任保険(任意保険)
❶許諾被保険者における承諾
・許諾被保険者
…記名被保険者の承諾を得て被保険自動車を使用・管理中の者、承諾は明示のものでも黙示のものでもよい
→又貸しの場合は否定的だが実質的所有者の承諾を得れば許諾被保険者となる判例
→一時的な移動のために従業員に承諾した場合、関係が希薄であれば許諾効果は及ばない

❷被保険者の定義等における同居の意義
…被保険者等の別居の未婚の子に対して同居要件が認められなければ保険金支払はなし
→同居とは同じ建物に居住しているかで住所登録や扶養関係は考えない
→別居の未婚の子は同居しにくい、判例では判断の指標として重要視されない

❸他車運転危険担保特約における常時使用する自動車の意義
…他車の使用状況が一時的ではなく 2 台も使用しているのに 1 台分の保険料では不適切
→記名被保険者や同族が所有する自動車は除外、常時使用する自動車も除外
→常時使用と判断する要件は所有と同程度の支配力を及ぼしている状態
期間、目的、頻度、裁量権の有無に照らして評価、判断基準は具体化されていない
→修理時の代車を常時使用とする説はあまりない、繋ぎの車両は要検討
→判例の積み重ねを待つのみ

❹故意免責の成否と結果発生に対する認識・認容の程度
…賠償責任保険での問題は被害者との紛争等が事故発生のきっかけとなるのが多いこと
→被保険者等が予期していたかどうかが論点となる
→発生可能性が高い場合認容したというのみで故意免責は不適切、認識していれば免責、発生可能性が低い場合に認容していたとき免責となるのか?

・男女関係のもつれ
被害者…自動車のドアノブをつかんで「降りてこい」と叫ぶ
加害者…振り切ろうと自動車を加速した⇒被害者は転倒し死亡
→結果発生の認識とは?
(ⅰ)加速が有形力の行使となる
(ⅱ)加速が相手に傷害を与えうる行為である
(ⅲ)相手が受傷する
(ⅳ)相手が死亡するという段階が想定できどこまでの認識が必要か
→最高裁は(ⅳ)まで
→死亡損害のみ有責となるのか?
→部分免責を是とすれば死亡と傷害を区分できるのか、植物状態(傷害)⇒死亡の場合はどうかなど単純にいかない問題がでてくる


2-38. 自損事故保険
❶自損事故保険の法的性質
…重大な過失でも免責とならないという約款が多い点が搭乗者傷害保険との違い、そのほかは類似しており代位もしない
→人身傷害保険の方が補償が手厚く事実上吸収されて付与されない場合が多い

❷運行及び運行起因性
・運行
…人や物を運送するかに関わらず自動車を装置の用い方に従い用いること
→原動機説⇒走行装置説⇒固有装置説へと変遷
→駐車状態は運行中ではないか、降車してドアを閉めるまでは運行中かどうか
→現在は停止、ドアの開閉なども含まれ運転よりも広い概念となっている
運行に起因するとは運行と損害に因果関係が存在することを要する
→駐車中の荷おろし中、修理中などの事故は時間的・場所的近似性や目的、状況を勘案


2-39. 搭乗者傷害保険
❶搭乗者傷害保険における保険事故の偶然性とその立証責任
…事故発生を予知し防止できたのに放置した場合は偶然性なし、自殺も偶然性なし
→保険法では偶然性を事故要件とするのではなく故意を免責とする規定
→立証責任は保険者が負うことが明確になった
→立証責任が保険金請求者にあるとしてもノンリケット(真偽不明)の場合のみ

❷正規の乗車用構造装置のある場所に搭乗中の者の意義
…乗車人員が動揺、転倒することなく安全な乗車を確保できる構造を備えた場所
→運転者席・助手席・乗り合いバスの立ち席など、座っていなくてもこれに当たる
→運転席と荷台スペースを行き来できない→荷台スペースにいる者は被保険者にならない
→箱乗りのように極めて異常かつ危険であれば保険対象外

❸自動車の運行に起因する事故と傷害・死亡との因果関係
①運行起因事故が発生し②その事故により搭乗者が損害を被り③後遺障害や死亡となる
→従来は被保険自動車に搭乗中に直接に損害を被ることが要件になるとしてきた
→車外に放り出された運転者が後続車に引かれた場合は?自損事故と死亡には因果関係
→被保険自動車の搭乗中に生じていることを条件に運行起因事故と死亡に因果関係が認められれば保護される

❹搭乗者傷害保険金と損益相殺・慰謝料斟酌
…損害賠償請求訴訟における搭乗者保険金はどうなるか?
(ⅰ)損益相殺
…損害額に関係なく定額が支払われ、損害てん補のものではない
→損益相殺の対象とならず控除を認めるべきでない
(ⅱ)慰謝料斟酌事由
…保険料を支払っていない人への保険金と損害額は関係なし
→同乗者は自動車の運行へ関与することで事故による損害発生関わりをもつ
→慰謝料の性質は損害てん補であり慰謝料からの控除は損害額からの控除

❺既存障害・疾病の影響による限定支払
…事故と無関係な疾病などの影響で傷害が重大になった場合はどうか?
→影響がなかったときに相当する金額を支払う→寄与度減額
→被保険者が軽度の脳卒中を起こしながら運転し事故が発生し死亡した場合には事故の寄与度は 10%、疾病の寄与度は 90%とする判例


2-40. 無保険車傷害保険
❶無保険車傷害保険の法的性質
…傷害疾病損害保険か傷害疾病定額保険なのかが問題
→①被保険者の損害てん補を図る②実損により保険金を算定③損害賠償請求権を代位取得
という点から傷害疾病損害保険と位置付け
→被保険者が死亡した場合の相続においては無保険車傷害保険請求権は相続財産に帰属

❷無保険車傷害保険の遅延損害金充当
…無保険車傷害保険の法的性質をどう捉えるかや約款の規定はどうかがメルクマール
→無保険車傷害保険は傷害保険で責任保険金と同様に考える必要はない
→損害賠償請求権についての遅延損害金を支払う規定も存在しない
→遅延損害金をてん補するものではないため無保険車傷害保険金額は損害元本から自賠責保険額を差し引いて算定すべき

❸無保険車傷害保険の遅延損害金の起算日
…賠償義務者への不法行為による損害賠償請求であれば起算日は不法行為時になり、保険金請求であれば約款で定める履行期の翌日からとなる

❹無保険車傷害保険の遅延損害金の利率
…実質的に賠償義務者に対する損害賠償請求と同じ
→無保険車傷害保険は加害者の賠償責任を保険会社が肩代わり
→責任保険的要素で年5分
→商行為によって生じた債務とし無保険車傷害保険の支払請求が賠償義務者に対する損害、賠償請求に代わる性質を有しても遅延損害金の利率を賠償義務者に対する損害賠償請求の場合と同様に考える理由にならない
→遅延損害金の利率は年6分

❺弁護士費用のてん補
支払うべき損害額は賠償義務者が被保険者の損害について負担すべきと認められる額
(ⅰ)被保険者から賠償義務者への責任訴訟の場合の弁護士費用
→弁護士費用は事故と因果関係のある損害と認められる場合が多い
(ⅱ)保険会社へ無保険車傷害保険金請求を行う保険訴訟の場合の弁護士費用
→保険会社が相手の弁護士費用について保険給付を予定していると考えられないため、弁護士費用は損害として認められない

❻胎児は被保険者となるか
胎児の出生後に後遺障害が生じて損害を被る場合、規定では既に生まれていたとみなし、無保険車傷害保険は責任保険的性質を有するため、賠償義務者が賠償義務を負う損害はすべててん補の対象となる
→胎児であった者の保険金請求権は認められる


2-41. 人身傷害補償保険
❶人身傷害補償保険契約の法的性質
…人身傷害補償保険は被保険者が身体に被った傷害による損害に対しててん補される
→責任保険代替的機能を目的とし重複保険や保険代位が要請される
→人身傷害補償保険は傷害疾病損害保険と位置付け
→精神的損害部分については傷害疾病定額保険に該当し代位が認められない
→約款に代位規定を置くことで代位が認められる

❷人傷基準損害額と訴訟費用基準損害額の乖離による問題(保険金請求先行)
…保険金支払により保険会社は損害賠償請求権をどの範囲で代位取得できるか?被保険者はどの範囲で損害賠償請求が認められるのか?

❸損害金元本に対する遅延損害金の代位取得の可否
…遅延損害金の支払請求権も代位するのか?
→遅延損害金はてん補されないため遅延損害金の支払請求権を代位取得するものではない

❹損害額の比較対象
…算定された損害額が訴訟基準損害額を上回るかどうかを比較するには
①損害項目②積算額の2つが比較対象となる
→多くの判例では積算額による比較を行っている

❺代位取得した損害賠償請求権の消滅時効の起算点
…権利の同一性を保ったまま保険会社に移転→損害および加害者を知った時から進行
→代位取得の範囲は過失割合の決定で明らかになるため過失割合の確定時とする説もある
→実務上では過失割合が決定されてない中で保険会社が提起するため難しいのではないか

❻保険会社が人傷一括払をしている場合
…実務上人傷社は自賠責保険会社から被害者に代位して保険金を回収

❼人傷基準損害額と訴訟費用基準損害額の乖離による問題(損害賠償請求先行)
…従来は損害額に過失割合乗じた額を差し引いたり既受領額を控除したりしていた
→訴訟基準損害額が確保されず保険金請求先行時と異なる結論
→控除すると記載されていても訴訟基準損害額と読替える見解が有力、控除は加害者に 100%過失があり被害者負担分のてん補がない場合のみという見解も


2-42. 車両保険
❶保険事故の立証責任
…車両が盗難・いたずらをされた場合、間接事実を積み上げての事実認定が多い
→偶発性の立証責任を保険金請求者と保険会社のどちらが負うか
(ⅰ)盗難
・請求者負担説
…請求者は被保険者の意思に基づかない事故発生を立証すべき

・外形事実説
…請求者は自然経過では発生しない客観的事故を立証すべきであり、主観的事実(偶発性)までを立証する必要はない

・損害説
…車両保険はオールリスク保険であり請求者は損害発生のみを立証すべき

・事故事案・盗難事案二分説
…盗難に偶然性が含まれ請求者が偶然性を立証すべき
→判例では②の説から請求者は盗難の外形的な事情を立証すべきとした

(ⅱ)蛮行事案(いたずら)
…蛮行事案では偶発性について立証する必要はないという最高裁の判例
→下級審では分かれているが損傷したことのみを立証すべきとする判例が多い

(ⅲ)偽装事故事案
…交通事故が起きたことの外形的事実については立証すべき
→偶発性については保険会社が立証責任を負う方向ではあるがどのような間接事実を集積する必要があるかという立証上の問題が焦点となるのではないか

❷被保険利益欠く場合の車両保険の効力
…車両保険で被保険利益が争われるのは名義貸しの場合。売買の事実が確認できない場合
→契約が無効となる反面で既払い保険料の返還請求の対象となる可能性がある
(ⅰ)被保険利益の帰属
…自動車は所有権留保付売買が多く被保険利益の所在が問題となる
→ローンの支払に応じて所有権は売主を離れる→既払代金が占める割合で考える
(ⅱ)被保険利益が認められない場合における保険金請求
…名義人が被保険車両を所有していたとはいえず被保険利益を有していないという判例

❸協定保険価額が保険価額を著しく超える場合
・協定保険価額
…契約車両と同一の用途・車種・車名・型式・仕様・年式で同一の損耗度の販売価格を契約車両の価額として契約者と保険会社の間で協定した価額
→全損では協定保険価額が全額支払われる
→協定保険価額が保険価額を著しく超えた場合は保険価額を保険金額として支払う
→著しく超えるという評価は社会通念によって判断、判例では 2.1 倍となっていた

❹未修理状態の車両に生じた後発損害についての保険金支払額
…事故にあった後の車両が未修理のまま事故にあった場合の支払額が問題となる
→協定保険価額100万、先発事故損害額30万、後発事故損害額100万
→実務上では130万とする考えが多いが、後発事故は70万でよいとする考えもある

❺車両保険における請求権代位の範囲
(ⅰ)絶対説
…保険者は一部保険の割合とは無関係に自己のてん補額まで請求権を代位取得
(ⅱ)比例説
…保険者は請求権の額に保険価額に対する割合を乗じたものを代位取得
(ⅲ)差額説
…保険者は一部保険の割合とは無関係に未てん補分だけ代位取得
→最高裁は(ⅱ)説を採用し保険者は(ⅲ)説を採用、結果は(ⅲ)説を採用
→実務では片面的強行規定性により(ⅱ)説の採用は被保険者に不利として修正する必要

❻車両保険における酒気帯び免責条項の意義
…最高裁は酒気帯び運転を当然に免責とするのは困難であるとし、酒気帯び運転のうちアルコールの影響で正常な運転ができないおそれがある状態での運転を免責事由とした


2-43. 賠償責任保険
❶責任保険における保険金請求権の発生時期・履行期
(ⅰ)発生時期
①契約成立により抽象的保険金請求権が発生し保険事故の発生を停止条件とする
②保険事故の発生と同時に賠償額の確定を停止条件とする債権とする
③責任関係における賠償額の確定後にはじめて発生する

・ノーアクションクローズ
…判決が確定し合意の成立時に請求権は発生し行使可(③説)

(ⅱ)履行期
…期限の定めのない債務とする見解と不確定期限のある債務とする見解の対立
→任意規定であるため特約があればそれに従う
→約款規定がないとして責任関係が確定する前に請求を受けたら遅滞責任を負うのか
→賠償額が確定されない限りてん補すべき損害額は発生せず履行期は到来しないとした

❷責任関係の基準性(拘束力)
…第三者への賠償責任の存在と額の確定内容(行使に必要)に保険者は拘束されるのか?
→責任関係の判断が保険関係の判断に基準性、拘束力を有するか?
→損害確定プロセスの特殊性を考慮し無駄と混乱を避けるため拘束力があるとする
→義務違反の効果として免責や減額を認める

❸保険事故の学説と実務
・自動車事故における事実
(a)被保険者が事故で他人に傷害を負わせた事実
(b)被保険者が賠償責任を負担した事実
(c)その他人が被保険者に賠償請求した事実
(d)示談や確定判決により責任の所在が確定した事実
(e)被保険者がその他人に賠償義務を履行した事実
→どの事実によって保険事故とみるか?
→損害事故説は(a) 、責任負担説は(b) 、請求説は(c)
→見解の相違が重要となるのは保険期間との関係(期間内に事実が発生していたか)

・実務上の方式
→発見方式(損害事故説の変形) 、責任負担方式(責任負担説と同じ) 、
請求事故方式(請求説と同じ)
→ロングテールの問題(責任発生時と賠償時に長期間のラグが存在し収支計算が難しい)や保険期間との関係を考慮すると発見方式・責任負担方式が採用される

❹請求事故方式における損害賠償を請求されたとは?
・請求事故方式
…被保険者が第三者から賠償請求を受けた事実を持って保険事故とする
→どの事実によって損害賠償請求を受けたとするか?
→金額を明示せずとも被保険者側に責任追及の意思を示していると分かればいいのでは?
→請求行為がないとダメ(請求事故方式のメリットと発見方式との区別)

❺発見方式における事故が発見されたとは?
・医師賠償責任保険
…患者の身体に障害が発生したと客観的に明らかになったとき

・損害事故説を修正
…発生時期に近接、明確性、客観性、特殊性を備えているか?
→表現が曖昧で請求事故方式を志向する意見(損害事故説を取っているわけではない)

❻建築家賠償責任保険の滅失・毀損とは?
・建築家賠償責任保険
…建築物が滅失・毀損した場合の賠償責任に対応

・滅失・毀損
…建築物の物理的、化学的損傷、損傷を伴わない欠陥や汚損は含まれない

❼保険対象業務
…賠償責任保険では損害発生の原因事実を限定
→専門家による業務のうち保険対象業務の範囲が微妙で争点となる場合が多い

❽被保険者の賠償責任負担の有無と争訟費用のてん補
…被保険者が賠償請求してきた第三者に勝訴し賠償責任が否定された場合はどうなるか?
→賠償金と争訟費用は主従関係にないため賠償責任負担を前提としないのでは?
→学説では争訟費用請求は賠償金とは別の保険給付請求権として考える
→保険事故の見解からは導き出されず約款の文言や解釈による判断が必要
→約款では法律上の賠償責任負担がない場合はてん補は受けられないと解釈できる
→保険実務上は賠償責任を負わなくても争訟費用はてん補されるため約款で明確化が必要

❾争訟費用の行使の要件
…保険者の承認を要する(不要な費用を支出して保険者に転嫁することを防ぐ)
→支出を要する(客観的に妥当と判断されれば承認がなくてもてん補されるべき)
→被保険者は支払いが困難だが必要性や合理性が明らかである場合は?
→実務では前払いの必要性・合理性が認められる範囲で支払いがされている

➓保険者の争訟費用に関する裁量権の有無
…保険期間内に発生していない事故に費やされた費用はてん補対象ではなく、保険者が必要性・妥当性について考慮することは重大
→保険者は裁量権をもつ
→弁護士会の標準に従って算出された費用に対して裁量権の意味はあるのか?

⓫争訟費用のてん補給付の履行期
…損害賠償金と同一手続きにより損害確定後に到来(手続き完了から 30 日以内)
→弁護士の着手金などは責任関係を前提としない→承認後であれば確定を待たずに行使可

⓬争訟費用のてん補と免責事由
…被保険者の賠償責任が免責事由に該当すれば損害賠償金だけでなく争訟費用も免責
→賠償責任の有無がわからない段階で保険者は争訟費用てん補を拒めるか?
→故意責任の疑いが相当程度あれば拒める、承認の留保もやむを得ない
→立証責任は保険者にあるため拒むには主張立証が必要(故意による事故招致は免責確定)

⓭本人訴訟と争訟費用
…弁護士賠償責任保険の被保険者が訴訟され自ら訴訟活動を行った場合の争訟費用は?
→他の弁護士に報酬を払っていなければ弁護士報酬に該当せずてん補されない
→保険者は防御の利益を無償で享受しているのでは?

⓮防御給付と特別の先取特権
…22条より特別先取特権は争訟費用てん補給付請求権には及ばない

⓯他人に損害を与えるべきことを予見しながら行った行為の免責
…賠償責任保険では重過失が免責事由とされていないが予見しながら行った行為は免責
→故意とこの行為の関係は?
→判例では
→故意、損害を与えることを認識しながら行為に及ぶ(積極的な意思作用)
→この行為、損害を予測し回避する手段を認識していても使わない(消極的な意思作用)

⓰過少申告等があった場合の本来納付すべき税額の免責
・税理士職業賠償責任保険
…顧客が必要ない税額を負担した場合の賠償責任に対応
→過少申告や不納付がある場合に本来納付すべき金額は免責
→税制選択の時点で過誤があり過少申告を行い更正を受けた場合は?
→判例では免責はなし
→判例を受け免責条項改定、本来納付すべき本税に関する定義規定を置いててん補される

⓱生産物賠償責任保険(PL 保険)の生産物自体の損壊に対して負担する賠償責任の免責
・生産物賠償責任保険
…製品などによる対人・対物事故が起きた場合の賠償責任に対応
→生産物や仕事の瑕疵による損壊に対する賠償責任は免責
リスクが非保険屋の技術力や姿勢に大きく依存していて大数の法則に馴染みにくいため
→損壊とは?

・光拡散フィルム(液晶パネル部品)のコーティングにおける事故
…仕事の目的物とはコーティング対象部分だけではなく光拡散フィルム全体→免責

⓲賠償責任の無断承認禁止違反の効果
…保険者の承認を得る義務に反すれば賠償責任がないと認められる額を控除
→被保険者が勝手に示談をして保険者が適正以上の損害賠償責任の承認をするのを防ぐ
→賠償責任がないと認められる範囲は誰がどう決めるのか?
→判例では最終的な判断権が裁判所が有するとした


傷害疾病損害保険の特則

2-44. 傷害疾病損害保険
❶損害保険契約と傷害疾病損害保険契約の関係
・被保険利益
…保険の目的について保険事故が発生するか否かに関し保険者が有する経済上の利益関係
→損害保険契約が有効に成立するための要件
→傷害疾病損害保険契約は損害保険契約の一種
→損害保険契約の規律に従うことになる
→傷害疾病損害保険契約において被保険利益の存在が必要であるかは検討すべき問題
→損害保険では消極保険の賠償や医療費の負担は被保険利益かどうか?
被保険利益だが積極的保険の被保険利益とは異なるとした
→傷害疾病損害保険で消極利益を認められるとすれば被保険利益は一部保険、超過保険、重複保険で考えることはできず精神的感情的な利益まで含まれない
→人の生命・身体は経済的に無価値であることを考えればそれが傷害疾病を被ること自体の損害は考えることができず、傷害疾病という事実から因果関係上発生した積極的損害・消極的損害が範囲に含まれることになり人に被保険利益を考えることができないのでは

❷傷害疾病損害保険契約と人身傷害保険契約
…人身傷害保険契約は人身事故による傷害から生じた損害をてん補
→包括的全体的には傷害疾病損害保険に分類されそう
→ 「傷害疾病が生じたものが受けるものに限る」より受傷者である被保険者以外の者の損害をてん補する契約は傷害疾病損害保険ではなく、直接傷害を被っていない配偶者・父母・子に発生した損害部分は傷害疾病損害保険の定義から外れることになる、法定相続人が自己固有の権利として保険金請求者となってもこの部分は定義から外れる
→人身傷害保険契約傷害疾病損害保険には含まれないが損害保険には含まれる
→請求権代位の規律は人身傷害保険契約に適用される
→保険金受取人・請求者の変更は考えることができない
人身傷害保険契約では被保険利益を考えることができないため被保険者という概念で保険金請求権者という概念を定めている
→遺言で保険金請求権者を絞ることはできない
→傷害や後遺障害による損害に対し保険者は法定相続人が取得した賠償請求権を代位取得
→死亡による損害に対し抽象的となった保険金請求権は法定相続人に帰属するのか?


2-45. 第34条(被保険者による解除請求)
❶解除の要件及び保険契約者と被保険者との間の別段の合意がある場合の処理
…生命保険・傷害疾病定額保険とは異なり被保険者の同意は契約の有効要件とされない
→被保険者が知らないままに締結された場合、離脱は認められる
→被保険者と契約者との間で解除権を行使しない別段の合意がない場合は解除できる

❷保険契約者の解除請求を受けた場合の解除権行使義務
…約款で契約者の任意解除権が制限されても被保険者による解除がなされた場合、制限されていても解除できる
→契約者に解除するか否かの選択肢を付与したものではなく保険契約者に解除権限を与えたところに意味がある
→契約者が解除請求を受けたにもかかわらず解除権を行使しない場合、
契約者の意思表示を求める訴えを提起することで被保険者の勝訴判決が確定した場合は確定時に解除の意思表示をしたものとみなされる


2-46. 第35条(傷害疾病保険契約に関する読替え)
❶損害保険契約に関する規定中の「被保険者」の読替え
…傷害疾病損害保険においては被保険者の相続人が保険給付の権利者となる場合がある
→「被保険者」⇒「被保険者の相続人」「被保険者又はその相続人」
→対象となるのは5条1項、14条、17条1項、21条3項、25条1項、
26条及び32条1号、30条、32条2号

❷遡及保険に関する規定の「保険事故が発生している」等の読替え
…傷害疾病損害保険は人保険でありながら事故が人に発生するだけでなく保険事故による損害が生じる必要
→5条1項の「保険事故が発生している」⇒「保険事故による損害が生じている」
5条2項の「保険事故が発生していない」⇒「保険事故による損害が生じていない」
32条2号の「保険事故の発生」⇒「保険事故による損害が生じていること」


適用除外

2-47. 第36条
❶海上保険契約、航空機・航空貨物損害保険契約及び原子力施設損害保険契約
…これらに係る損害は巨大でありこのリスクを負う事業者は上記契約の締結が求められる
→保険者は通常巨大損害に備えるため再保険を利用してこれらを引き受ける
→片面的強行規定性が適用されると再保険契約を締結するための必要条件を満たせない
→上記契約では片面的強行規定性の適用を除外

❷事業活動関係損害保険契約
…論点❶の他に再保険契約、海外 PL 保険契約、運送保険契約などがある
→これらもリスク評価ができない等の特殊性が認められるため片面的強行規定性を除外
→事業活動損害保険か否かは契約者が事業者か消費者かをメルクマールとするものでなく、リスクの特殊性が認められるか否かを区別の基準にしている


おわりに

ここまでご覧いただき、ありがとうございます。
修正すべき点やご意見などあればXでお声をいただければと思います。
修正の際は、番号を指定して、フォーマットをなんとなく合わせていただけると助かります。

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