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特殊部隊が極右の巣に    カッコいい軍隊に気をつけろ その5       愛国者学園物語142

 (このジェフの話は2021年に公開されたものという設定。内容は全て実話。)
 

 ジェフの話は続く。次の問題点は、特殊部隊の隊員が極右化したという、背筋が凍りそうな実話である。

 昨年、2020年に発覚した例は、特殊部隊の志操堅固な隊員ですら、ある思想に染まってしまうことを世界に示した。それは、ドイツの軍や警察の部隊の中に、過激な極右思想を持つグループが出現したことが発覚し、部隊が解散させられたという実例だ。第二次世界大戦頃のドイツは、ナチス党が率いるドイツとして、世界の脅威だったことは言うまでもない。戦後はそのナチス・ドイツからの脱却を図ったが、実際は、1960年代になっても、ナチスの思想にはまっている人間はドイツに少なくなかった。

 映画「検事フリッツ・バウアー」と「アイヒマンを追え! ナチスが最も畏れた男」の2本は、ドイツとイスラエルが、1960年にナチスの戦犯アイヒマンを確保した実話を映画化したものだ。この2本では、ドイツ政府内にナチスのシンパがいて、彼らがアイヒマンの確保を邪魔しようとしたことが描かれている。映画「コリーニ事件」も、戦後の西ドイツで60年代まで、ナチス関係者が政府内におり昇進していたことを示している。また、フォーサイスによる小説「オデッサ・ファイル」(1972年)と同名の映画でも、ナチスを支援するグループの存在が問題になっている。そのような小説や映画の題材にならなくても、ネオナチの存在が明らかにしたように、ナチスの思想は戦後のドイツから消えたわけではない。

 そして、昨年のことだ。ドイツ陸軍の特殊部隊KSKの1個中隊が解散させられた。その理由は、部隊に極右思想が浸透したからというものだった。そのような思想に傾倒した隊員たちは、戦後のドイツでは固く禁じられたナチス式の敬礼をし、仲間を集めていた。武器の不法所持していた隊員もいた。また、あるメディアは、ドイツ軍内部にそのような人間が2000人いると報道した。

 それとは別に、警察の特殊部隊SEKの一部隊も解散させられた。それは対テロ部隊として有名なGSG-9とは異なるが、ドイツの治安を守る重要な部隊であることには違いない。陸軍の特殊部隊と警察の特殊部隊。どちらも、エリート部隊でその一員になるには、優秀な勤務実績があり、過酷な選抜コースに合格しなければならないはずだ。もちろん、志願者の精神や日頃の言動もチェックされるだろう。特別に選ばれた人々なのに、反社会的な思想を信じ、SNSや集会で仲間を作っていたのだ。これらは情報機関による調査によって発覚したそうだ。

 特殊部隊やその関係者が悪人になってしまうという例は、映画で描写された架空の物語であれば、「ザ・ロック」や「コマンドー」あるいは「ダイハード2」で描かれている。しかし、現実にそれが起こったという例は、私はドイツのこの例しか知らない。もし起きたとしても、どこの国でも、どこの部隊でも隠したいのではないだろうか。


 これは大変なことだ。特殊部隊が危険な思想を信じる秘密結社になってしまったのだから。苦楽を共にした戦友が、危険な絆で結ばれた結社を作り出し、極右になった。

 もし、そういう人間たちが軍隊で身につけた『力』や『特殊な技能』を、彼ら自身が嫌う人間への攻撃に用いたらどうなる? あるいは、他の軍人たちを説得して、彼らを極右にしてしまったら、どうなるだろうか。それは大変危険なことだ。

 

 ここで紹介した特殊部隊の例だけでなく、軍人と政治、軍人と宗教との関わり合いの問題は、彼らの政治的自由、あるいは宗教的自由を考慮せねばならず、単純に法律や規則で禁止や強制が出来る問題ではない。ここにこの問題の難しさ、つまり、将兵が特定の思想、危険な思想信条に傾くことをどう防ぐか、の難しさがあると思う。

 もしも軍隊が、外国人や異教徒、軍に批判的な勢力に対して、『異常な』感情を持ったとしたら? その時、軍隊は我々の国家と国民を守る存在ではなく、殺戮を平然と行う危険極まりない集団へと変身しかねない。彼らが忌み嫌う集団に対し、正当な軍事行動ではない過剰な攻撃を加えたら? あるいは、戦争犯罪と言われるような行為を平然としてのけたら? 

 かつて、ドイツでは、支配政党であるナチス党が絶対的な権力を持ち、彼らはナチズムを、つまり自民族至上主義を絶対的な価値観として信じ、他民族や異教徒を平然と@戮(さつりく)していた。その悲惨さはここに書く必要はないだろう。警察や武装部隊、軍隊が冷静さを失った時、あるいは、軍隊を指揮・監督する政府が狂気に取り憑かれた時、軍隊は国家を守る存在ではなく、@@マシーンになってしまう。21世紀に生きる私たちは、それをどう防いだらよいのか。私たちは、ナチズムの反省から、ドイツの特殊部隊の事例から、特定の主義主張に偏らない軍隊を作ることが出来るだろうか。あるいは、冷静な政府を持つことが出来るだろうか。
(中略)

 そして、私たち国際社会の一員は、南米のバルベルデ共和国の悲しい実例を忘れはしまい。あれは、バルベルデ人至上主義とでも言える極右思想を信じた一部の軍部隊が、先住民たちを@@した話である。首謀者のガルシア中佐は、その事件の前から、多くのバルベルデ人至上主義者の熱烈な支持を受けていた。だから、彼らが熱狂したジャングル開発計画に反対する先住民とその支持者たちを、共産主義者だ、外国の工作員だなどと言って、@@したのである。

 私たち民主主義社会に生きる国民は、自分たちの軍隊が『異常な』感情を持たないようにするために、何をすべきだろうか?

 このような例は他の国にもあるのではないか? 日本はどうだろう。近年、日本では日本人至上主義が社会で成長を続け、強い勢力を持つようになった。日本独自の宗教である神道と日本が世界に誇る王族である皇室、それに愛国心を柱とするその主義主張は、戦後の日本を支えた、戦争放棄をうたう憲法や、民主主義とは明らかに異なるものだ。米国社会で力を持つ白人至上主義の日本版である。そのような日本人至上主義が広まりつつある社会は、日本の軍隊である自衛隊や日本警察の関係者にどのような影響を与えるのだろうか。
(中略)

 以上のように、軍人ではない私たちが、軍隊について語ること。それは私たちが国際情勢や自国の生存について考えることと同じであり、究極的には、自分自身の生存について考えることと同じだ。

 だから、国民は軍隊に関心を持つべきだし、軍隊を批判してもいいのだ。軍隊を支えているのは、自分たちが払った税金なのだから。そういう態度こそが、民主主義国家の健全なあり方ではないだろうか。自分たちジャーナリストはその手伝いをしたいと思う。




続く
これは小説ですが、ドイツの特殊部隊の一部が極右思想に染まっていた、というのは実話です。

クーリエ・ジャポン 
「極右主義者が予測 なぜドイツ軍の精鋭部隊は『ネオナチ』の温床になったのかー『xデーは9月』
「台頭する過激派に政府は打つ手なし ドイツのネオナチが激白『軍内部などに同志2000人 隠れ家は国内数十ヶ所』
2020年7月 

CNN.CO.JP 「ドイツ軍特殊部隊を一部解体へ、隊員多数が極右主義者か」2020年7月2日付
時事通信 「ネオナチ隊員、秘密のやりとり 警察精鋭部隊解体へー独ヘッセン州 」 2021年6月11日付配信





 


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