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神兵団 愛国者学園物語 第222話

 その騒動は、学園生の中にある

タブー

を口にする者が出現したことに起因する。それは、学園や自分たちに敵対的な人間を@せという主張である。そうしなければ、日本社会は反日思想であふれてしまう、だから、自分たちがそれを阻止するのだ。それは、愛国者学園が教える思想に、言い換えれば日本人至上主義に染まった少年たちが、

自分たちの批判者へのテロを肯定するという、

民主主義国家にあるまじき連中の誕生であった。


民主主義で大切な、相手との対話や説得という過程を無視して、@す。相手が自分の気に食わないから@す。
相手が自分の意見を受け入れないから@してしまえ。

これは彼らの主張の一部であるが、彼らは、単純な機械のような精神構造をしているように、この特集の記者は感じる。


こういう連中は「

しんぺいだん

」の登場で明るみに出た。世間はそれをいつもニコニコしているピン芸人の「シンペイ」が放った冗談だろうと思った。彼がそれを否定したときも、世間は、あの彼がマジな顔をするのを初めて見た、と笑っていたぐらいだ。ところが、その「しんぺいだん」が、学園に敵対する者を暗@し、神の国日本を守護する兵士の集団という意味で「

神兵団

」だと分かったとき、世間が恐怖したことは記憶に新しい。

 神兵団は少年たちの秘密結社で、構成メンバーは祖国防衛のために自分の命を捧げると誓い、血判状まで作っていた。組織は卒業生と在校生、15歳から19歳までの男子学生11人で構成されていた。

11人なのは、人気アニメ「攻殻機動隊 スタンドアローンコンプレックス セカンドギグ(SAC 2nd GIG)」に登場する極右集団「

個別の11人」を真似たから。


そして、彼らは某日本人至上主義者が唱える、反日勢力への「直接的抗議」に賛成した。

それを実行する過程で、ある少年の異常な行動が明らかになり、それで警察が神兵団を逮捕した、というわけだ。


愛国者学園の広報担当者は、ワイドショーのレポーターにその存在を問われて、「そんなこと、知りません。ネットのジョークでしょう」と、投げやりに答えた。しかし、翌日、警察が「神兵団」のメンバーを自称する少年三人を脅迫の疑いで逮捕したとき、広報担当者は青くなった。それはワイドショーの良いネタになり、学園関係者のもとに取材陣が押し寄せた。彼らは愛学の人々に対し、「あんたたちはテロリストなのか!」「答えろ!」などと叫んで、学園生を驚かせた。


神兵団はある言葉を熱心に口にしていたが、それは愛国者学園の

「学園生の誓い」

という言葉であった。

「ひとつ、私たちは日本の愛国者として、日本古来の宗教である神道を信じます。私たちは伊勢神宮と靖国神社を心の故郷とします。

ひとつ、私たちは日本の愛国者として、皇族を心から尊敬します。私たちは世界最古の王族である皇族を神に連なる方々として崇め(あがめ)ます。

ひとつ、私たちは日本の愛国者として愛国心を誇りにします。私たちは日本が世界一素晴らしい国を守るために愛国心を大切にします」

これが全てだ。この学園生の誓いが、

神兵団の心の礎

(いしずえ)だった。彼らはそれを実行しただけだったのだ。


こういう集団が自分たちの間から出た、という事実は学園生の心に大きな穴を開けた。自分たちのすぐそばに、人間社会のタブーを平然と破るような人間たちがいたことはショックだった。もちろん、親たちにも衝撃が走った。その結果は、連中が逮捕されてから半年以内に、学園全体で50人近い学園生が転校した。


これをどう解釈すべきだろう。学園に残った者たちは@人肯定派であり、転校生は反対派と言い切って良いのだろうか。だが、いずれにせよ、@人を肯定するような神兵団に愛想を尽かした子供たちがいたことは、私には救いに感じられる。


続く

これは小説です。

次回 223話 愛国疲れ4。愛国者学園ではよく使われる「閣下」という言葉。それが思わぬ出来事の引き金になりました。愛国心ばかりを考える学園では、多文化社会や外国について考えることがほとんどないからです。その出来事とは? 次回も  どうぞお楽しみに!




「皇族を神に連なる方々」

とは、初代天皇である神武天皇(じんむてんのう)が、日本神話に登場する女神・天照大神(あまてらす・おおみかみ)の子孫とされていることを意味します。神武天皇は現代の奈良県の地で日本国を作った人物とされます。また、それ以降、歴代の天皇たちの歴史が続き、今の天皇、つまり今上天皇(きんじょうてんのう)である徳仁(なるひと)陛下(へいか)は126代目にあたります。愛国者学園の「学園生の誓い」はそのような歴史を含んでいるのです。


ピン芸人の「シンペイ」は架空の人物です。

大川光夫です。スキを押してくださった方々、フォロワーになってくれたみなさん、感謝します。もちろん、読んでくださる皆さんにも。