自衛隊のパワハラホットラインへの相談が年々増加 防衛白書より
私は軍隊、警察、情報機関の必要論者だが、それらの存在を無条件で認めるわけではない。それらの組織にはそれぞれ特有の、無視出来ない問題がある。
軍隊なら、巨大な国家予算を使うだけでなく、人の命に関わる。祖国を攻撃する敵と戦うことは必要だが、それは殺人でもある。
警察は国民を監視し、不当に逮捕し、拷問をすることもある。
情報機関は国家機密を盾にして、敵の暗殺や、テロ「容疑者」の誘拐、それに拷問、施設に長期間不当に監禁したりもする。今書いたことは米国の情報機関が現在進行形で行なっていることだ。
詳しくは別の機会に譲ろう。
それら政府機関の活動の原資は私たちの税金であるから、国民として、納税者として、その活動に関心を持ちたいと思っている。だから、自衛隊に何の関わりもない私は自衛隊に関心を持ち、自衛官たちがどんな職業人生を送っているのか気にするわけだ。
私は以前、自衛隊のセクハラとパワハラ問題について書いた。以下はその続きである。
令和2年度(2020年)版防衛白書の「人的資源の効果的な活用に向けた施策など」という項目には、ハラスメント防止についての記述がある。
『防衛省・自衛隊では、高い規律を保持した隊員を育成するため、従来から「防衛省薬物乱用防止月間」、「自衛隊員等倫理週間」、「防衛省職員ハラスメント防止週間」の期間を設けて、遵法(じゅんぽう)意識の啓発に努めるとともに、服務指導の徹底などの諸施策を実施している。
19(令和元)年からは、新たに本省の課長などの幹部職員となった職員に対してハラスメントの防止にかかる教育を義務付けるなど、ハラスメントの防止に取り組んでいる。
また、河野防衛大臣のリーダーシップのもと、暴行、傷害及びパワーハラスメント等の規律違反の根絶を図るため、20(令和2)年3月から懲戒処分の基準を厳罰化した。』
冷たく言えば、2019年までは幹部職員になった職員に対して、ハラスメント防止教育は必須ではなかったということか。
もう一つは深刻な内容である。令和3年度(2021年)版防衛白書には、防衛省パワハラホットラインに寄せられる相談件数が年々増加しているとある。2016年度に開設されたそれには、2017年度に140件の相談があったが年々増加し、2020年度には1010件だった。「年々倍増している」と正直に書いてあるものの、その分析はない。分析はないと言うのは、なぜパワハラ相談が年々倍増しているのか、その理由についての考察が書かれていないということだ。
令和3年度版防衛白書のウェブサイトには、(それを閲覧する画面の左下に)「索引語検索」という機能がある。私たちが知りたい事柄の頭文字を、検索機能にある、ひらがなと英字のキーボードのようなキーでクリックすると、それに関連する記事が出て来る。これで1970年から2020年までの白書の検索が出来るそうだ。言うまでもないが、「パワハラ」なら「ハ」か「P」だろう。「パ」のような音のキーはない。
そこで、「セクハラ」「セクシャルハラスメント」「パワハラ」「パワーハラスメント」「マタハラ」「マタニティーハラスメント」「ハラスメント」と、それらの英単語の頭文字を入力したが、ヒットしたものはなかった。
書くまでもないが、防衛白書は日本の軍事に関する政府の公刊文書であって、自衛隊員のパワハラなどのハラスメントに関する文書ではない。だから、検索しても『そういう情報はない』のが当然なのかもしれない。それに、そのような問題は自衛隊員の勤務に関する問題であって、そういう項目を検索しなければ、情報は出てこないのかもしれない。
そこで、私はこの文章で既に書いた「人的資源の効果的な活用に向けた施策など」を思い出した。「人的資源」に関する検索語なら、ハラスメント問題に関する何かの情報をつかめるかもしれない。
それで「じ」がないので「し」を検索して出てきた言葉を調べると、「人的基盤」という検索語を見つけた。それをクリックして入手したのが、以下のPDF文書である。
http://www.clearing.mod.go.jp/hakusho_data/2020/pdf/R02040101.pdf
その11ページ目(別の表記では414ページ)に「自衛隊員の自殺防止への取組」という項目があり、それに、自衛隊員の自殺防止に向けた施策の数々が書かれていた。その最後に
「19(令和元)年には、自殺防止対策をより一層実効性のあるものにするため、ハラスメントに精通した弁護士による相談窓口の新設を進めている」とあった。
私はこの1行に重要な意味があると感じた。それが意味するものはなんだろうか。それは、自衛隊には過去に、何らかのハラスメントを理由に自殺したか、それを試みた自衛官が少なくとも1人はいたのではないか。だから、防衛省と自衛隊はそれを問題視して、「ハラスメントに精通した弁護士による相談窓口」を新設したのではないのか?
そこで、「自衛隊」と「自殺」をキーワードに検索してみると、自衛官の自殺のニュースがいくつか見つかる。それに、自衛官の自殺に上官のパワハラが関係していると、遺族が主張する件が複数あった。だから、防衛省と自衛隊は相談窓口をつくったのだろうか。少なくとも、以前と比較して進歩があったことは評価出来るだろう。
セクハラやパワハラは犯罪につながる深刻な問題であり、暴力である。自衛隊がそのようなハラスメントのないか、発生の少ない組織、犯罪が起きてもきちんとそれが捜査され、正義が実現される組織であることを望む。
この文章は誰かに要請されて書いたのではなく、自分の意志で書いて公表した。
付記
(注記 防衛白書はネット上で無料公開されており、誰でも自由に全文を読むことが可能。過去の白書も公開されている。詳しくは検索して頂きたい)
防衛省のパワハラに関する書類は、内容が貧弱であり、
https://www.mod.go.jp/j/profile/harassment/pdf/harassment_02.pdf
厚生労働省が公開している書類は、防衛省のそれを比較して量が多く、内容も具体的である。
https://www.mhlw.go.jp/content/11909500/000366276.pdf
添付した写真は、2017年に、ある駐屯地で行われた基地開放イベントの際に、私が撮影したもの。
大川光夫です。スキを押してくださった方々、フォロワーになってくれたみなさん、感謝します。もちろん、読んでくださる皆さんにも。