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ナウシカの耳飾り

金曜ロードショーでまた『風の谷のナウシカ』が放送される。子どもの頃から繰り返し観ていてストーリーを熟知しているのに、何度でも何度でも観てしまう。
30年以上前の作品ということにも驚かされる。

原作の漫画本があると知り、手に入れたときはとても興奮した。というより、幼いながらも衝撃を受けた。それまで読んでいた『りぼん』や『なかよし』の少女漫画とまったく異なる質感、とんでもない情報量と密度だったから。
映画と反転した結末も衝撃的。

さて、この世界では、腐海をつらぬく「タリア川」で採れる綺麗な石が「宝石」として珍重されている。旅の途中には通貨の代わりにもなるし、花嫁衣装の飾りにも使うらしい。

マスクなしでは5分で肺が腐ってしまう死の森、しかも巨大な蟲たちに守られた広大な腐海の川で採れる石。簡単には入手できない、命懸けで採取されたであろう貴重な石ということだ。

宝石とは、古来からそういう存在だった。たとえば、人類が最初にダイアモンドを採取したとされる古代インドの伝説では、ダイアモンドは無数の毒蛇が棲む深い谷にあったという。危険な場所からもたらされることが、さらに価値を高めるのかもしれない。

もちろん、そんな石に価値を見いだしているのは人間だけだ。


ナウシカはドロップ型の赤い石の耳飾りをつけていて、これは母親の形見でもある。

はっきり赤く、そのまま耳飾りにできそうな結晶の大きさだとすると、ルビーやレッドスピネルのような石ではないかと思う。また、川で採れるという情報からはガーネットも思い浮かぶ。

でも、ガーネットでは真っ赤な色とは言い難いし、少し庶民的すぎるかな…。ありふれた鉱物であるガーネットは、実は日本の河川でも、川底の砂をふるいにかけると小さな結晶が採れる。それくらい身近なものだ。小国とはいえナウシカはお姫さまなのだから、ありふれた石ではいけない。それなりに格の高い、特別な石のような気がする。

タリア川の石の耳かざり、たしかにあの娘のものだ……(僧正のせりふ)

耳飾りひとつで誰のものか特定できる、ジュエリーとはその人を表すアイコンにもなるのだ。

(緑色の耳飾りのカラーイラストもある。そちらはベリル系?トルマリン、翡翠かも。ちなみに、クシャナ殿下の耳飾りは緑色で、真っ先に思い浮かぶのはエメラルド!原作版の気高く潔い姿に呼応していると思うので。)


高度な文明を失い、自然からわずかに恵みを受けて素朴に日々を送る人類。しかしながら戦や紛争が絶えない状況でもあるから、華美で精巧なジュエリーは合わない。

年月をかけて川底を転がるうちに自然に丸みを帯びた結晶、それをつるりと研磨しただけの「宝石」が、この世界にはよく似合う。


それから、イヤリングについては作者自身による解説もある。
単行本の表紙裏には、風の谷の暮らしぶりや周辺諸国の地図、装束や小道具の設定など、『ナウシカ』における世界観の解説コーナーがあるのだ。その中に、イヤリングの設定が書き込まれている。単行本2巻の表紙の裏の「風使いの腐海装束」という部分だ。

イヤリングはこの時代、老若男女の区別なく、ごくありふれたアクセサリーとして身につけられていた

なんと細やかな視線だろう。屋外で活動するための実用的な服装であるのに、装身具も忘れないとは。老若男女が皆ごく当たり前にイヤリングをつけるというのもいい。

架空の世界ではあるけれど、物語の大きな流れの合間に、そんなちょっとした風習が描かれているところが凄い。

実際、世界中どの時代のどの文化でも、人は何らかのアクセサリーや装身具を身につけているのだ。

その理由は人としての本能的なものから生じていて、御守りでもあり、装飾でもあり、集団の中において自分自身や立場などを表現するためでもあり…。古代の人々から現代を生きる私たちにまで、多くの部分が共通している。

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それにしても、赤い石の耳飾りは印象的だ。イヤリングやピアスではなく、あえて「耳飾り」と呼びたい。


私も何か手元の素材で…と思い探してみると、ドロップ型ではないが、綺麗なレッドスピネルのカボションがあった。硬くて透き通っていて、何よりもこの色。遠目にも赤がよく映える。
ナウシカの耳飾りは、きっと、こんな赤い石で作られているに違いない。



※このノートはShortNoteにて公開した記事に加筆修正したものです。

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