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開高健 『珠玉』 『宝石の歌』

文庫本の巻末に付いている、他の本の紹介が並んでいるページ…とてもアナログだけれど、あれを見て次に買う本を決めることが多い。

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開高健 著『珠玉』(文春文庫 1993年発行)の紹介文はこうだった。

海の色、血の色、月の色。
三つの宝石に託された、三つの物語


これは…読むしかない!

忘れもしない、ミネラルショーに行った帰りの京都駅ビルで、地下の本屋さんに飛び込み文庫本を買った。
私の脳内は、つい先ほどまで存分に堪能してきた宝石や天然石で埋め尽くされている。休日とはいえ人口の多い街の混み合った時間帯の電車が、とびきりの読書タイムになったのだった。

実はこの著者のことはよく知らなくて、作品も初めて手に取ったのだが、これが絶筆となったらしい。



さて、青・赤・白と三色を並べられ宝石にたとえなさいと問われれば、多くの人が安直に「サファイア・ルビー・真珠(またはダイアモンド)」と答えるのではないだろうか。
深い青色の海、鮮烈にほとばしる血の赤、夜空に輝く満月。
しかし、それらのイメージはよい意味で裏切られる。


『珠玉』に登場するのは「アクアマリン・ガーネット・ムーンストーン」の三種だ。


どれも決してマイナーな宝石ではないけれど、この透明感あふれるセレクト…。
著者はもしかしたら宝石や天然石をよく知っていて、あるいは何らかの特別な思い入れを持っていて、これらを題材に選んだのでは?と感じずにはいられない。

読んでみると、やはり宝石からインスピレーションを受けて生まれた小説のようだった。
どの短編も宝石が主役というよりは、宝石にまつわる人生の一端という印象だった。



『珠玉』を読み終えてしばらくしてから、こんな大型本も見つけてしまった。

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『オーパ・オーパ‼︎宝石の歌』1987年発行、中古本だ。


魚の鱗のようにも見えて少し分かりにくいが、表紙にはスターサファイアがびっしり!
著者はコスタリカやアラスカ、モンゴル、中国など世界中を釣りの旅で廻り、その中のスリランカ篇(ここでは釣りは無し)では宝石の採掘現場に行き、すっかりその魅力にはまっていたようだった。

ちなみにスリランカでは、アクアマリンもガーネットもムーンストーンも産出される。
私の勘は当たっていた?


スリランカという国名は「宝石の島」を意味する。
「どこを掘っても宝石の原石がざくざく出てくる国」なんて言われているが、実際に現地まで行き来している同業者の話によると…


◎ザクザクとまではいかず、昔ほど良質のものは出にくくなった。しかし今も、川や田んぼからも採掘できる。

◎街へゆくと観光客向けの宝石業者がとても多く、路上でも宝石を手のひらに乗せて強引に見せようと寄ってくる。もちろん観光地価格なので、適当にあしらわなければならない。

◎スリランカ産の原石は減っていて、マダガスカル産やタンザニア産が多くなった。

…とのことだ。


『オーパ・オーパ‼︎』は35年ほど前の本になるのだが、そこに掲載されている採掘場の様子と、同業者に見せてもらった現在の写真が、本当にまったく変わらない。
人の手で掘られた井戸や川底から土ごとザルに上げ、水にさらして原石を探すという原始的な工程も、泥にまみれて作業する人々の素朴な姿も、まったく変わっていないのだ。
(2009年の内戦終結以後は、観光に力を入れているという違いはあるのかもしれない。)


日本で35年前といえば、昭和の終わり頃。
私は世代的にバブル期の華やかさをよく知らないが、1991年にバブル崩壊なので当時はまだまだ絶頂期だ。
ためしに「1987年」と検索してみると、マイケル・ジャクソンの『BAD』やTM NETWORKの『Get wild』などが続々と出てきて、凄い時代だったんだ!と驚いた。

その頃に比べると、身の回りの品物…特に家電や通信はものすごく変わったし、街の風景だって変わった。

簡単に比べて「どちらが良い・悪い」と決めつけるものではないけれど、国が変われば時間の流れるスピードまで違うのだなぁ…と、あらためて感じた。




画像引用元

https://www.amazon.co.jp/gp/aw/d/4167127113/

https://www.amazon.co.jp/宝石の歌―オーパ・オーパ-コスタリカ篇スリランカ篇-開高-健/dp/4087726282

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