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俳句/短歌/詩 作品

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毒と苺(20首)

毒と苺(20首)

短歌20首連作

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 毒と苺  丸田洋渡

さくら色の車が追い越していった(あんず色の直線踏みながら)

はじまる恋/すすむ映画館の解体/恋の解体ののちの跡地

食欲が健康を凌駕する夜みんなの想定を超えていく

銀を傷つけてつくった落書きの気持ちが分かるまで触りたい

説明がつきそうだから止めておく恋愛の毒性・苺性

イヤホンをつけてねむって音楽はねむれるわたくしを筒抜けた

 

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矯正(短歌・短編)

矯正(短歌・短編)

 短歌入り短編。

  矯正    丸田洋渡



 骨盤矯正の人が、ひとしきりやってくれたあとで、短歌も治せますが と言った。聞き間違えたと思ってぽかんとしていると、口を過剰に大きく動かして「短歌も、治せますよ」と親切に繰り返した。
 じゃあ、お願いします と興味本位で応えると、俯せにさせられて、また骨盤の矯正をするかのように、私の体を指で強く押しはじめた。すると自然に、私の喉は詠いはじめた。

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Unlucky(抄・30首)

Unlucky(抄・30首)

 ある賞に応募して落選した50首連作より、抄出して再構成したものです。完全版はまたどこかで形にする予定です。

 ○

 Unlucky  丸田洋渡

遠雷がもっと遠くへ逃げていく嘘つきがいる新生児室

捻挫した子どもを囲む子どもたち柏葉あじさいの陰の奥に

行かないでその木陰には平成のバスガイドが三人もいるから

 ○

夏の雲は自動的に流れて行ったすみれ色の果物籠の上

野薊が揺れる 未

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歓声(川柳30句)

歓声(川柳30句)

川柳30句。

 歓声   丸田洋渡

海沿いの水族館のいやいや期

雷は剣をあやして哺乳瓶

新月の新生児室なればこそ

新しい手が生えてくるから撮って

うつくしい濡衣を着せられている

骸骨は琴のおけいこがあるから

都市伝説が透明になる

ろわろわと白い卵が冷蔵庫

ふりかかる奇跡が大好きで病院

詩で詩を拭う戦いになる

死と気心がしれているから

たかが顕現ごときで呼ぶな

悲しみと砂

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ミニチェア(詩)

ミニチェア(詩)

 ミニチェア  丸田洋渡

 ミニチュアの椅子 ミニチェア

 ○

 椅子と椅子が結婚したとして ミニチェアが期待されるなら 家具屋から逃げるしかない

 ○

 家具屋姫 まぼろしの家具を要求

 ○

 人の式典が再び開かれるまで 椅子はすしずめ

 ○

 アマチュアの椅子 アマチェア

 ○

 ありとあらゆる可能性からひとつに選ばれた わけではなく、初めからそうなる予定で、椅子になった

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落選作より48首+思い出

落選作より48首+思い出

 お世話になっております。丸田洋渡です。過去に短歌の新人賞に応募して、落選した作品のうち、まだ公開していなかったものの中から、それぞれ数首ずつ抄出しております。

 連作の流れが分からないままになるので読みづらいかもしれませんが、一首単体でも面白がれるようなもののみ引いております(全て載せられたらいいんですが、今改めて見ると表現の甘い部分が多くて全て公開するにはやや難がありました)。

 本記事後

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Fair Enough (20首)

Fair Enough (20首)

 短歌20首連作です。

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Fair Enough  丸田洋渡

刺したあと貫くためのひと押しで爪楊枝の先端は曲がった

声が磁石になって四月の教室に仲良しグループのできあがり

先生の言うとおりに列に並んだ モルモットに二回出てくるモ

これもまた何かの暗示 新しい歩道橋が積乱雲の下

振った手のその手のひらが見えたなら占い師は占ってしまうよ

夏の雲

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Float/Fluorite(50首)

Float/Fluorite(50首)

 短歌50首連作

 Float/Fluorite  丸田洋渡

三十円多く払ったのはメロンソーダにアイスがフロートするから

天秤がうすくらやみに傾いてあなたの半覚醒の寝返り

 ○

恋のふりして洗脳はよくないな雨雲が雨落とさず通る

心は遥か上に浮かんでコンビニの監視カメラに当たって砕ける

わくわく眠りどろどろ覚める 妖怪は町中にいるような気がする

花札が踊って話しかけてくる

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Raspberry Waltz (30首)

Raspberry Waltz (30首)

短歌連作です。

 Raspberry Waltz   丸田洋渡

ボトルシップの船引きあげる銀色のピンセットは鋭利でありがたい

わたしはよく動揺する。よく想像する。海に浮かんで暮らす自分を。

コンソメスープが喉を滑って落ちていく体の中と体の外に

白菜に包丁と手と水がいる 私が必要になってくる

照明の足が布団を噛んでいる そういうのそういうの 親心

 ○

生活を急変させるのはいつもおも

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鉄琴/宝石(詩)

鉄琴/宝石(詩)

 詩 二篇

 鉄琴   丸田洋渡

 うちは木琴やからごめんね、と言われて、別に謝らんでいいよ、と答えた。何故かその子が泣いてるから、泣いていいんはこっちだけやのに、と思いながらハンカチを渡した。/自分以外の全員が木琴で、私だけが鉄琴であることは、はじめは自慢だったが、今はもうお金をいくら払ってもいいから木琴にしたいと恥ずかしく思っている。/放課後、涙を溜めながら早足で階段を下りると、関係のない

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解錠師の手(詩)

解錠師の手(詩)

 解錠師の手  丸田洋渡

 鍵

鍵のモチーフは多用され、希釈されることにのみ意味があった

 雲

雲は何かに喩えられる しかしその何かを前にして、雲に喩え直すことはしないだろう/元に戻らないことにのみ意味があった/できていく雲の洞に、溶岩と水銀を思い出していた/彼 の残像が写真になって それが無数に複製されたあと、度重なる放棄によって一枚へと戻っていった/雲を背にして 彼が言うことには/聞こ

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うまれ(短文)

うまれ(短文)

 短詩を作ろうとして作品にしきれなかったものを、短文として置いていきます。

 ○

むずかしいことばがステージに来て踊る よりむずかしい方が当然人気が出て、担当カラーのサイリウムが波立っている

でも、 が後に続くタイプの「いい人」

うまれは俳句だと言ったら、短歌は少し嫌な顔をする と思った

思い出す ことをとても嬉しがっている犬は、思い出すために、飼い主を一度忘れる必要があった それが苦し

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切断(15首)

切断(15首)

短歌の15首連作です。

 切断   丸田洋渡

死に際して夜に動いていたはずの監視カメラも ごといかれてた

開演時、鍵が掛けられていたのは数人に確認されている。

トロフィーは凶器になるから凶器にした 春は変に温かくて嫌だ

十五分隔てて浴びているものが血からお湯へと変わった それだけ

探偵の言うとおりに覗いてみれば細工がしてあった切断面

トロフィーを上半身は握りしめ少し離れている下半身

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