本気の好きを仕事にして成功するっていうこと
先日、久しぶりにセントラルパーク側のMuseum of Arts and Designのショップでクラフトでも見てみようと思って中に入ったところ、少しダークな薄紫の背景に黒で描かれたアールヌーボー調クラシックともゴシックモダンとも取れる見慣れた装飾の派手なエレベーターがいきなり目に飛び込んできた。
The World of Anna Sui / アナスイ回顧展
2017年にロンドンで始まり、2018年は東京の六本木ヒルズを巡回した”The World of Anna Sui"(アナスイの回顧展)が行われていたのだ。寄り道するつもりはなかったのだけれども、近年のファストファッションの影響で、今年の3月に三越伊勢丹の売り場撤退が決まってしまったAnna Suiの洋服を、実際に百貨店で手に取って見る機会も日本ではなくなってしまうのかと思うと、何とも言い難い気分になり、気がつくと、思わず入場チケットを買ってしまっていた。
https://madmuseum.org/exhibition/world-anna-sui
Anna Suiは、1991年のランウエイデヴュー以降、ロックやカウンターカルチャーに魅力を感じている世界中のファッション好きにとっては言わば共通言語とも言えるアイコンデザイナーの1人となった。音楽や文化と共に存在する時代性をファッションとして再現した世界観は、ソフィアコッポラやリブタイラーからエマワトソンまで、多くの女性セレブたちをも魅了し続けている。
Kirsty Hume wearing Anna Sui 1998, photograph by Gilles Bensimon
今回の展示では、美術館らしからぬ60年代から70年代のロック、もしくはパンクやニューウエーブが延々とBGMでかかっていて、グランジ、ヒッピー、海賊風ロックスター、カウガール、フェアリーテール、スクールガール、モッズ、サーファー、などを含む11のシリーズであるテーマ別20年の歴史が展示され、ヴィンテージグッズや70年代のポスターなど、彼女に多大な影響をもたらしたに違いないコレクションも、数多く展示されていた。
環境によって花開いた才能
60年代に、ミシガン州デトロイトのカトリック教徒が多い白人エリアで中国系アメリカ人の2世として生まれたAnnaは、4歳からすでにデザイナーとして生きる決心をしていたと言う。
幼少期にはポップスターやジャクリーンケネデイーのファッションに憧れを抱き、中学になってからは、ロック好きの兄に連れられてデトロイトのダウンタウンでのコンサートに行くようになった。
そこで見たロックスターの自由なファッションスタイル、グラフィックスなどの独自のボヘミアンな世界の美学に大きな刺激を受け、Annaは高校卒業と同時にファッションデザインの世界に入ろうとNYを目指す。
NYではパーソンズというデザインスクールに行きながら、今度はパンクやニューウエーブが全盛だった80年代のクラブシーンの中にどっぷり浸かり、自身のコアとなる更なるデザイナーズインスピレーションを固めていく。
もともとは彼女が生まれ育ったデトロイトという場所は、一般には自動車産業としてしか知られていないかもしれないけれども、モータウンレコードの発祥地であるだけでなく、MC5やThe Stoogeを始め、数多くの重要なロックミュージシャンも生まれていて、ミシガン大学しかり、文化の中心地である学生街アンナーバーも近くに存在し、実は音楽や芸術を含むカウンターカルチャーがかなり熱い。
生活そのものがクリエイションの源泉
そんな日常の中で、子供の頃から本当に好きなものを夢中になってかき集めて本気で掘り下げ続けて来た結果、彼女はそれを自分のクリエイションにした。つまり彼女のライフスタイルそのものが、インスピレーションの源泉になったのだ。
クリエイターにとっては、生活圏で目にするありとあらゆる文化がそのクリエイションに影響を及ぼす。だから、どういった環境に身を置くかはものすごく重要だ。
本気で”好き”だと感じるものがある環境にうまく身を置くことができれば、体が自然に動いてその環境を活かせる方向に創造性が向かっていく。Anna Suiは、生まれ育った環境によって見つけた”本気で好き”の気持ちだけを武器に世界的な成功を確立した。
Anna Suiの事例を見てもわかるように、環境と才能の開花は、往々にしてセットで存在していることが多い。彼女の場合も、もしもカトリック系の白人エリアではなく、移民系の中国人だけのエリアで生まれていたら、現在のような形での成功はひょっとしてなかったかもしれない。そのぐらいに環境の後押しは成功には大きい影響を与えると思う。だから、たとえば、もしもあなたが今ある場所では自分が活かしきれていないかも、と感じるのならば、環境を変えることで、眠っていた才能が開花することだっていくらでもあると思う。大切なのは、今ここにいるだけの自分が全てだとは決して思わないことだ。そうして、もしも今とは違う環境にピンときたならば、まずは思い切って環境を変える勇気を持つことから始めていけばいい。それが、明日の天才を作る第一歩となることだってあるかもしれないから。
天分は、持って生まれるもの。才能は、引き出すものよ。(ココ・シャネル/1883~1971)
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