背伸び。
私は、背伸びが好きだ。
それは、朝起きて両腕をあげて、ぐーーっと天に向かってストレッチをする、身体の「背伸び」もそうだし、
自身の環境から、一歩飛び出して挑戦する意味での「背伸び」も大好きだ。
受験生の志望校選びはこれの典型だと思う。
「滑り止め」が存在するように、「記念受験」というものもある。
「受かる可能性は低いけど、憧れの学校だから記念に受けてみよう」
でも、実際にネットで調べると、「記念受験でまさかの合格。ずっと憧れて続けていた学校へ進学できた」というエピソードって、巷には結構あるものだ。
もちろん、出願だけでも費用は発生するので、金銭的に余裕がなければ記念受験のような博打には手を出さない方がいいだろう。記念受験という言葉だけあって、失敗に終わる可能性が高いからだ。
でも、受けなければ、出願しなければ、受かる可能性は永遠に0%だ。
どんなにD判定が続いていたとしても、出願した時点で受かる可能性は0から1%になる。もしくは5〜8%、10%ということもあるかもしれない。
記念受験はまさしく「背伸び」である。
私自身のスタンフォードへの受験は「記念受験」に近かった。
進学したスタンフォード教育学大学院の国際教育政策学を学ぶ修士課程は、ハーバードよりも選抜が厳しく、毎年世界でたったの20名程度しか進学できない。留学生が20名じゃなくて、ローカルなアメリカ人学生も含めて20名。
ハーバード教育学大学院の同じ専攻の修士課程は、毎年75名程度が合格する。
要は、スタンフォードの受け入れ人数の4倍近くをハーバードは受け入れているのだ。
もちろん応募した母集団の数値によって倍率は変化するので、一概に受け入れ人数だけでは比較できないが、私の中で、スタンフォードは「記念受験」だった。
自分のTOEFL・GRE・GRAの点数で、まさか世界の20名に選ばれる自信はなかった。
ただ、「途上国の子どもたちのために何かしたい」という夢と、教育政策に対するパッションは、生半可ではないという強い思いは確かにあった。
当時の心境は、
・スタンフォード:記念受験
・ ハーバード:第一希望
・ コロンビア:滑り止め
今、眺めると、なんという豪華な顔ぶれ・・・
(海外の大学院受験に関するノウハウは、マガジン「スタンフォード大学院合格までの道のり」にまとめています。私のTOEFL・GRE・GPAの点数からSOPまで有料公開しています)
マンハッタンに位置するコロンビアも素晴らしい学校だし、私の分野では有名。何より立地がいいし、国連本部も近くだし、コロンビアに進学するつもり満々だった。
もちろんコロンビアだってハードル高いんだけど、日本人でコロンビア教育学大学院へ進学する人は毎年数名いたし、何名かとは直接の知り合いだった。失礼かもしれないが、その方々よりも教育について勉強でも仕事でも真剣に長年取り組んできた自負はあった。
(教育分野ってビジネスや経済学等の他分野で活躍した人が、突然教育に目覚めることが多分にある。もちろんその方々には、私にはない視点やスキルがあるので大歓迎なのだが、アメリカの大学院受験のSOPで訴えるべき「なぜ、ここで、この専攻を勉強したいのか?」という問いに対して語れることは必然的に少なくなる)
スタンフォードはさすがに厳しいだろうと思いつつ、TOEFLもGREも受けたし、SOPも書いたし、推薦状も3名の方にお願いしたのだから、出願に必要なものは全て揃っていた。
出願しない理由が見当たらなかった。
ので、受験した。
したら、受かった。
スタンフォードに受かったのだ!
今でも忘れられない。
春を感じ始めた三月の第一土曜日。
友人の結婚式に参列するため、早起きをして、ドレスを着て、化粧をして、髪を巻こうとコテを温めている最中だった。
ポーン
メールを受信したパソコンの通知音が狭いワンルームマンションに響いた。
何気なく目をやると、スタンフォードからのメールだった。
「うっわー。絶対合否通知だよ。今は見るの辞めようかなー」
と思ったものの、まぁダメで元々。わりと気軽にメールを開いてしまった。
Congratulations!
メールの冒頭から真っ先にお祝いの言葉。
それを見た途端に、鼓動が鳴り、緊張し、固まった。
わかっているのに、メールに記載されていたadmissionsを辞書で再度調べてしまった。
そしたら「入る権利」と出てきた。
間違ってない、間違ってない、間違ってない。
私は受かったんだ。スタンフォードに・・・!
キャーーーーーーー
人生で初めて、パソコン画面に向かって一人で叫んだ。
本気で叫んだ。
それからはもう頭はパニックになり、鼓動が鳴り止まず、手が震え、とりあえず落ち着かなければと、もう一度化粧台に向かい、髪を巻こうと思ったが、
もう気が動転してしまい、
髪を巻く前につけるクリームと間違えて、巻いた後につける髪を固めるスプレーを最初にかけてしまった。
気づいた時には時すでに遅し。
もちろん髪を洗う時間などないので、そのまま巻いたら、バリッバリでただのボサボサ頭になってしまった。
それでもその時はそれどころじゃなくて、髪とかどうでもよくて、事故なく時間通りに結婚式に到着するため、なんとか自身を落ち着かせようと必死だった。
結婚式の間も頭の中では「スタンフォード合格スタンフォード合格スタンフォード合格」のリフレインがノンストップ。
この後、奨学金にも合格するのだが、この時ほど自分の持っている運を使い果たした感はなかっただろう。
ともあれ。
こうして憧れだったスタンフォードの教育学大学院(私の専攻では世界一と評されている)へ進学したのだった。
スタンフォードへ向かう行きの飛行機で、これから待っている冒険と、これまでの人生の浮き沈みに思いを馳せ、「自分が歩んできた道は間違っていなかったのだ」と、薄いブランケットの下で一人涙した時のことは一生忘れられない。
そうはいっても、進学後に一生向き合わなければならない病気が発症したりとまだまだ苦労もあるのだが、それでも、無事に卒業できた今、スタンフォードで過ごした一日一日が今でも私の中で光り輝いている。
それは、28歳の青春だった。
中学・高校・大学・社会人とそれぞれそれなりに過ごしたのだが、当時は想像もしなかったような世界がスタンフォードには待っていた。
人生で初めて「この人には敵わない」と心から思える同い年のクラスメートや、壮絶な半生を過ごしたアフガニスタン難民としてイランで育った同い年の親友。日本で超エリート街道を駆け上がっている他分野の日本人。
そして何より、誰よりも尊敬して止まない人生のパートナーと出会ったのも、全てスタンフォードだった。
どれもこれも大学院受験の際に、いつもよりほんのちょっと「背伸び」したから。
野心的でいると、日本では息苦しく感じる場面がある。
私にもあった。
特に女性だと、余計にかもしれない。
それでも私は「背伸び」が大好きだ。
そして、今日も目覚めたら、いつも通りベットの脇で背伸びをする。
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