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後編|地方のスタートアップでの働き方・やりがい

5. 地方での生活|移住に不安はなかったか?

自分が一番気になった点は、私生活への不安というよりも、北海道に移住してしまったら今後のキャリアがどうなるのだろうかという不安でした。面接が進むに連れて本当に北海道に移住して大丈夫だろうか?またスタートアップで本当にパフォーマンスを発揮できるのだろうか?もし結果が出せなかった時は北海道の会社に再就職するのだろうか?そのまま北海道に骨を埋めることになるかもしれないなど、いろいろな不安がありました。一方で前職の経験から、地方企業を活性化していくには、企業が成長し儲かって法人税を町に落とさない限り、税収が増えないので持続的にその地域が発展していくことは難しいと感じていました。もちろんISTはまだ赤字なので法人税を支払うことはできません。ただ少なくとも自分が移住すれば住民税を町に落とすことができるので、そこでの貢献はできるだろうとは思っていました。堂々巡りでいろいろ考えましたが、ネガティブなことを考えても悩みは尽きないので、いっそのことポジティブに物事を考えようと最後はバッサリと割り切って移住することにしました。上手くいかなければ、その時はまたその時でまた考えればいいと 笑

ちなみにISTでは入社後のミスマッチを防ぐため、選考の過程において大樹町でマッチングを行っています。自身が大樹町を訪れたのは8月のお盆の時期でした。代表の稲川に工場・射場の案内をしてもらったのですが、本気で日本の宇宙産業を変革していきたいという強い想いとモノ作りにかける熱い想いを聞いてシンプルにこの人と一緒に働いてみたいと感じました。また射場の上に登って太平洋の水平線の絶景を見て、こんな素晴らしい景色とともに仕事ができるのかと思うとワクワクが止まりませんでした。


▲射場から見える太平洋の風景
▲冬のオフィス会議室からの風景

自宅とオフィスまでは車で片道15分で通勤はまったくストレスにはなりません。買い物も日々の生活に必要なものは町内で完結できますし、そうでないものに関しては帯広市(人口17万人)まで車で片道1時間行けば手に入ります。どうしても緊急性の高いものは都市部同様、楽天やアマゾンで頼めばすぐ届くので日常生活で困ることはないです。強いて言えば、東京のように歴史的な建造物がないのと、美術館などの芸術的なものはほぼないので、人によっては退屈かもしれません。その代わり自然が雄大で、車で走っていると普通にオオワシ、タンチョウ、キタキツネ、エゾジカなどに遭遇します(いまだクマには遭遇していません)。地域の食材も非常に美味しいです。料理が趣味なので、十勝の食材を使ってInstagramで写真をアップするのが楽しみです(https://www.instagram.com/k.atsuta/)。


▲道を横切るキタキツネ
▲北海道十勝産の野菜|BEFORE
▲北海道十勝産の野菜|AFTER

6. スタートアップへの転職|スタートアップで働くことに不安はなかったか?

前述の通り、当初不安はありましたが、割り切りの問題かなと思います。不確定な未来に対して価値を創り上げていくことがスタートアップの醍醐味だと思いますし、せっかくなら逆境を楽しむという前向きな性格も起因していると思います。たしかに大企業からスタートアップに転職すると会社の安定性だったり、年収が下がったりすることが不安という方もいるかもしれませんが、正直慣れの問題かなと思います。会社が成長していけば会社の安定性も増しますし、一時的に下がった年収も上げることができます。結局は自分の頑張り次第ですし、周りに自分を支えてくれる仲間がいます。むしろ周囲の人の頑張りを見て、自分も成長しなければとポジティブな刺激を受けるので、自ずとそういう思考回路になってくると思います。

7. やりがい|大切にしている価値観は?

冒頭で少し触れた通り、現在の日本の産業構造において自動車産業が果たす役割は非常に大きいです。産業別のGDP構成比では約10%を占める巨大産業です。戦後の高度経済成長期に勃興した日本の産業のうち、電機は中国や韓国勢に、ITはGAFAMに後塵を拝し、最後の砦である自動車産業が電気自動車により窮地に立たされています。世界を見渡してもロケットと人工衛星を高度なレベルで製造できる国は、米国・ロシア・EU・中国・インドと日本ぐらいしかありません。もちろん昨今、中国とインドの技術力の進歩は目を見張るものがありますが、日本が世界で十分戦っていける数少ない分野の一つが宇宙産業だと信じてやっています。ISTが宇宙産業を盛り上げていくことで、世界における日本の地位を高めていく、また日本のモノ作りを支えていくという信念を持って毎日仕事に取り組んでいます。

また地方を活性化するという観点からは既に一部成果が出ている事象もあります。それは大樹町の人口減少が60年振りに止まり、今年増加に転じると見られていることです。大樹町の人口は戦後初期の約12千人をピークに、現在では5,400人まで減少しています。農業・酪農畜産・漁業・林業などの一次産業の担い手がいなくなっていることが主な要因です。だからこそ二次産業であるモノ作りの産業を育てていきたいと思っています。ISTは2013年に設立して9年が経ちますが、2019年に観測ロケットが民間で初めて宇宙空間(高度100km)に到達して社員数は順調に伸び続けており、2年前には30名、昨年は60名、今年は150名を見込んでいます。大樹町には毎月コンスタントに社員が2~3名が入ってくるので、家族も含めると人口増加への貢献は大きく、非常にやりがいを感じています

https://kachimai.jp/article/index.php?no=574909

8. 働き方|ワークライフバランス

大前提としてスタートアップは大企業と比べてヒト・モノ・カネのすべてが潤沢にあるわけではないので、一人あたりのワークロードの負荷は大きいですし、果たさなければならない責任は非常に重いです。チームメンバーの中には子育て世代もいますし、業務の兼務、国内・海外の出張も多いので、個人のライフスタイルに合わせてワークライフバランスを各自でデザインしてもらっています。例えば自身の例で言うと、月2回、計10日間ぐらいは東京もしくは海外に出張しているイメージで、お子さんが小さいスタッフは週2日、お子さんの事情によっては3日は在宅勤務といったイメージです。チームとしてはプロセスとアウトプットにこだわって業務に取り組んでいますが、チームのアウトプットを極大化できるように月次でアウトプットの振り返りや個人の業務負荷がどの程度あるか棚卸しする機会を設けています。その上で、個人のスキルの習熟度に合わせてリソースを再配分したり、業務の見直しを行ったりしています。スタートアップは業務量に対して人員が追いついていないことが恒常的にあります。一方で本当に必要なコアな業務は何なのかを自分自身で考えて、優先順位が低い業務は敢えて捨てる決断もしていかなればなりません。残業時間や有休休暇の消化など細かいことは一切口を出しません、また個人のスキルアップに必要な残業であれば法律に触れない範囲で貪欲にやってもらっています。

9. ISTの良い点と悪い点|仕事の醍醐味とは?

まず良い点を挙げると、分野が横断的なので幅広い経験や知識を得られるところかなと思います。ISTは低価格なロケットを武器に今後人工衛星を活用した垂直統合型のサービスを目指しているので、ロケットと人工衛星の両方についてビジネスモデルや業界知識や過去の経緯などの専門知識が習得できるのは非常に良い点だと思います。一方、悪い点(なのか分かりませんが)を挙げると、自律していないと生き残っていくのは厳しい世界だと思います。分野が広いだけに過去経験がない分野でも常に自習しながら、自分でゴールを設定して、自らが実行していかなければなりません。加えて結果に対してもコミットしていかなければなりません。これはまさに中途半端は許されない工業製品としてのロケットと同じだと感じています。

10. 最後に|こんな人にぜひオススメ

もし仮に「新しいことに対して物怖じしない」、「学習意欲が旺盛」、「論理的に分析ができる」、「謙虚」、「粘り強い」、「英語力がある」といったキーワードにマッチする方がいれば、この業界で活躍できる素地があると思います。宇宙業界は官需が主流だったことから、民需の事業開発ができる人材はまだまだ少ないと考えています。宇宙に興味があることに越したことはありませんが、宇宙産業の未経験者であったとしても問題ありません。自身もまったく異なる畑違いの業界から来ましたし、宇宙業界の経験があればベターぐらいの位置付けかなと思います。それよりもどれだけアンラーニングして、キャッチアップできるかの方がよほど重要だと思います。宇宙業界というと一歩引いてしまうかもしれませんが、まさに今が成長産業のど真ん中に身を置くことができる絶好のチャンスです。何か一つでも上記のキーワードにヒットするものがあれば、ぜひこの業界をオススメします。そして願わくばISTの扉を叩いて頂ければと思っています。 


▲東京での展示会の様子

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