見出し画像

前編|宇宙ロケット スタートアップの事業開発って何をやっているの?

北海道・大樹町でロケットの研究開発から製造・打上げまで一気通貫で行っているインターステラテクノロジズ株式会社(以下IST)というスタートアップでビジネスディベロップメントを担当している熱田です。東京から北海道に移住してから早いもので11ヶ月が経ちました。十勝の雄大な自然と美味しい食に囲まれて毎日元気にやっています。宇宙と聞くとやや遠い存在に聞こえるし、実際どのような業務をやっているの分からないという声をちらほら聞くので、前編では具体的な業務の内容や現在に至るまでのキャリアの流れについて触れてみました。

また後編では地方のスタートアップでの働き方・やりがいなどについて触れています。今後、宇宙産業に関わってみたいという仲間が少しでも増えてくれると嬉しいです(もちろんISTであれば、よりありがたいです)。


▲インターステラテクノロジズ本社|北海道大樹町本社での集合写真

1. 業務内容|ビジネスディベロップメントって何をやっているの?

ビジネスディベロップメント(以下BD)というと海外や最近のスタートアップだと聞き慣れている人もいると思いますが、ISTが本社の拠点を置いている北海道・大樹町では不慣れで説明するのに苦労することがあります 笑 ISTの組織には研究開発を行う開発部門、財務経理・人事総務・購買といったバックオフィスを管轄する管理部門があり、それ以外の業務全般を担当するのがBD部の役割です。単なる事業開発とは少し違うので、もう少し細かくブレイクダウンしてみたいと思います。

BD部は主に3つの業務区分があります。1つ目はロケットの契約受注とふるさと納税の寄付を集める「営業」です。ロケットの営業は国内外の衛星事業者にISTのロケットの売り込みを行ったり、ロケット打上げ時に事故が発生した際の保証に関する宇宙保険の手続きを行ったり、ユーザーズガイドを作成したりするので、非常に高度な専門知識が必要になります。次にふるさと納税は個人版と企業版があり、個人版は商品の製造業者と提携して自社で企画運営を行い、ガバメントクラウドファンディングの仕組を活用して寄付を募集します。また企業版ではISTを支援してくれそうな会社を開拓して寄付を募集します。そもそも、なぜふるさと納税で寄付を募集するかと言うと、寄付金がそのままISTの技術開発や運営資金に充当されるからです。これはISTの本社がある大樹町と連携して、町からも応援して頂いているからこそできる仕組となっています。


▲米国ローガンで開催されたSmall Satellite Conference 2022でのプレゼン

2つ目はコーポレートブランディングやメディア向けの情報発信、各種イベント企画を担当する「マーケティング・広報PR」。ここではISTのMVV(ミッション・ビジョン・バリュー)を検討・見直したり、資金調達を視野に入れた対外発信を自社のSNSや社外のメディアを通じて行ったり、イベントなどでISTの露出を高めたりしています。大企業だと広報・PRはバックオフィスにあることが多いと思いますが、ISTではフロントのど真ん中です。これはISTの開発のステージが観測ロケット(MOMO)としては完成しているものの、人工衛星投入用のロケット(ZERO)としては開発の真っ最中で、見せ方や情報発信の仕方がロケットの受注や資金調達に直結することが多いため、このような組織形態にしています。

3つ目は資金調達、事業計画・予算策定、政府向けロビー活動、企業間提携などを担当する「経営企画」となります。資金調達では事業会社やベンチャーキャピタル(VC)といった投資家の開拓やそのために必要となる投資家向けの資料作成といったフロント業務を行っています。実際の株式のディールに関する契約周りや投資家との条件交渉などは管理部が担当しています。事業計画は資金調達のラウンドに合わせて中長期の事業計画を引きます、一方、予算策定は単年度で事業計画よりもワンノッチ精度の高い計画となります。政府向けロビー活動では宇宙政策に関連する省庁(内閣府・文部科学省・経済産業省・防衛省など)や政治家の方々と面談して国との連携強化を図っています。企業間連携は「みんなのロケットパートナーズ」というISTを応援してくれるパートナーシップの枠組を自社で作っていて、この枠組に入りたい事業会社の開拓を行っています(2022年10月末時点で36社がこの枠組に加わって頂いています)。この枠組では事業会社からの人的支援や物的支援など支援内容を個社毎に協議して、お互いがWin-Winになるようにしています。


▲政府と協議して宇宙の民間利用を促進してもらう

2. チームメンバー|どんなメンバーと一緒に働いているの?

ISTの社員数は現在約120名で、約8割がエンジニアです。この内、BD部は7名で構成されていて、2名はそれぞれ開発部と北海道スペースポート(HOSPO)というロケットの射場運営をする会社を兼務してもらっています。自身はGeneral Manager(部長)として部全体を見ていますが、チームメンバーは非常にスキルフルでポテンシャルが高く、日々自分が成長していかないと置いてけぼりにされてしまうような、ある意味ヒリヒリとした緊張感のなか、楽しみながら仕事をしています 笑 また自分が至らず方向性が間違っていたり、改善した方がいい点などがあれば、その都度、忖度なくビシビシ指摘してくれますし、一人一人がプロ意識を持って仕事をしていると感じます。チームメンバーのバックグラウンドは多彩で大手企業から転職してきたスタッフもいますし、スタートアップから転職してきたスタッフもいます。なかには自身で起業した経験のあるスタッフや歯科医だった兵(つわもの)もいたりします 笑

北海道のスタートアップというと北海道出身者が多いと思われがちですが、実際には全体の2割程度なので、ほとんどが北海道外の社員で構成されています。BD部でいうと2名が北海道出身で、1名が地元・大樹町出身、もう1名が道内の出身です。

3. 宇宙産業|どんな産業?

宇宙産業?そんなものお金にならないでしょ?それなら高速道路などのインフラや食料難の対策に投資した方がマシと考えている方、ぜひ以下を読んで頂きたいです。

世界の宇宙産業の市場規模は2021年の43兆円から2040年には約115兆円に成長することが見込まれています。日本の産業構造はこれまで自動車を中心として発展してきましたが、電気自動車化による部品点数の減少に伴いサプライヤーの維持が急務になってきています。宇宙産業はこれを補完できる潜在性を秘めており、ISTではロケットの開発製造を一気通貫で行うことで低価格なロケットの開発に取り組んでいます。


▲世界の宇宙産業の市場規模

今後、人工衛星を活用した垂直統合型のサービスを目指しています。例えば、イーロン・マスク氏が率いるロケット会社Space Xでは、Starlinkという通信事業に乗り出しており、日本でも月額12,300円・初期費用73,000円でサービスを受けることができます。Starlinkは地球の低高度550km付近に約3千基もの衛星を配置してカバーしていることから、エベレストにいても、アマゾンにいても、サハラ砂漠や太平洋のど真ん中にいても、文字通りどこでもインターネットに繋がることができます。いわゆる全地球インターネットです。


▲宇宙を活用した全地球インターネット

これまで宇宙は官需が主流で、マネタイズが難しい産業と言われてきました。しかしそれは宇宙への輸送コストが高額だったからです。例えば、日本の基幹ロケットのH-II Aだと1回の打上げ費用は100億円で、ボーイングやエアバスの小型ジェット機とほぼ同額となります。これを民間の力で変革してきたのが、まさにSpace Xでした。今では信じられませんが、2000年初頭に同社が設立された当初、周りは絶対に成功するわけないと冷ややかな目で見ていましたし、旧態依然とした米国の宇宙業界からも決して最初から歓迎されていたわけではありませんでした。この逆境を何とか乗り越え、宇宙への輸送コストを劇的に改善しました。これに加えて人工衛星の小型化や高性能化が進んできているため、衛星の製造コストも下がってきています。身近な例だと携帯電話の高性能化と似たようなものだと思います。これらが呼び水となり、宇宙は地球観測や衛星通信といった地球のありとあらゆるデータを取得するためのプラットフォーム(インフラ)に変貌しつつあります。衛星通信以外の分野では、地球観測(リモートセンシグ)により衛星からのデータを画像処理して、高速道路の保安や穀物やプランテーションの生育状況の把握など農業分野でのDX化も期待されています。日常生活でGoogle Mapなどの地図アプリを使う人もたくさんいると思います。これはGPS(測位システム)衛星から現在位置を特定するというまともな用途ですが、ポケモンGOなどのゲーム(エンターテイメント)にも活用されていますし、ゴルフ・ランニングのスマートウォッチなどヘルスケアのデバイスにも発展してきています。ちなみに自分はランニングをするので時計はGarminです 笑

なぜ宇宙産業が世界的に見て市場規模が拡大すると見込まれているのかご理解頂けたと思います。この成長の未知数が、まさに宇宙産業が2000年代初頭のインターネット黎明期に例えられる由縁です。また企業価値の観点ではSpaceXの直近の資金調達時の企業価値は1,500億USD(≒20兆円)となっており、自動車業界でいうと過去はVolkswagenと同様の10数兆円でしたが、最近では遥かに大きくなりつつあり、トヨタの時価総額30兆円に肩を並べる日もそう遠くないのではと想像しています。

4. キャリア|そもそもなぜISTを選んだのか?

そもそもなぜISTを選んだか?という話をしていなかったので、自身のキャリアも踏まえて説明します。ISTに至るまでに主に3つのステージがあったかなと思っています。1つ目は学生時代の就職活動での想い、2つ目は総合商社でのビジネスパーソンとしての基礎の習得、3つ目は経営コンサルティングを通じて感じた日本の地方の中小企業の課題です。

まず1つ目ですが、私は学生時代に大学院で航空宇宙工学を専攻していたのですが、研究内容が水素・メタンといった比較的シンプルな燃料の燃焼反応のCFD解析という基礎研究だったこともあり、全体を俯瞰できるようなことがやってみたい、新たなビジネスを創り出したいと感じていました。また学生時代に海外に留学していた経験から、海外に住んでみたい、そして世界を股にかけるビジネスパーソンになりたいと思っていました。その流れから新卒の就職先として選んだ会社は三菱商事という総合商社でした。

次に2つ目ですが、三菱商事という会社では本当にたくさんのことを学ばせてもらいました。マレーシア・インド・パキスタンとの海外取引では引合から決済(場合によっては不良債権の回収)まで商売の基礎をみっちり鍛えられました、また欧州・ロシアでのクロスボーダーのM&Aや事業撤退、ロシア・カザフスタンでは会社経営の基礎習得、ベトナム・フィリピン・マレーシアにおける新規事業開発など幅広く経験させてもらいました。この中でロシア・カザフスタンには計5年間駐在することができ、幸いなことにその内1年半はロシア・サンクトペテルブルグ国立大学に語学研修生として派遣され、ロシア語も習得することができました。社会人として12年が経過し、何一つ不自由はありませんでした。上司や同僚、後輩にも恵まれ、仕事も楽しくやれていたと思います。しかしふと我に返ると、その時点で学生時代にやりたいと感じていたことの全てを経験できた気がしてきました。そして急にこの先何を目指すのか?このままで自分の人生は幸せなのか?これまでの人生で一体何を達成したのか?といった焦燥感、もしくは危機感のようなものが芽生えるようになりました。


▲商社時代のロシア駐在|三菱自動車の卸売販売会社に出向
▲商社時代の新規事業開発|ベトナム・ハノイ

そんな中で何となく次は国内に目を向けてみたいと感じるようになっていました。それはこれまで海外でのビジネス経験が長かったことに加え、自身が駐在していたロシアでは家電や自動車など、それまで日本のお家芸と言われていた業界で日系企業のプレゼンスが日に日に落ちていくのを目の当たりにしていたからだと思います。また別の要因として、ある種コロナ禍が自身のやりたいこと、向かう方向性を冷静に考える機会になったことも大きいと思います。自分は意志がそれほど強い人間でもないので、コロナ禍の今このタイミングを利用して外に出ないと、一生ずっとこのまま、居心地の良いこの場所に居座り続けるのだろうとも思っていました。

そんな中、経営共創基盤の冨山和彦さんの動画を観る機会がありました。それによると、日本には株式会社という形態をとっている会社だけでも約380万社ありますが、この内、いわゆる大企業として上場しているのは約3,500社で、それ以外のほとんどが中小企業ということになります。換言すれば、自分は約0.1%の大企業の世界しか知らないという事実に衝撃を受けました。したがい日本経済を活性化させるためには中小企業を元気にすれば手っ取り早い、しかも地方の中小企業であればなお伸びしろが大きい。自身が大手企業で学んだノウハウを中小企業に活かせるチャンスだと考えました。昨今いろいろな場面で失われた30年と言われるようになりましたが、1989年の世界の時価総額ランキングトップ50において日本の企業は32社ありました。一方、2019年ではトヨタ自動車の1社しかなく、世界における日本の競争力の劣後は顕著になっています。どうせ外に出るのなら短期間でできるだけたくさんの業界に関わってみたいという想いもあり、中小企業のハンズオンコンサルティングに強いフロンティア・マネジメントに転職しました。

最後の3つ目ですが、岡山県にある食品製造業・小売業のリテールを中心に複数社の中小企業の経営支援に携わることができました。自身がいた経営執行支援部門は、単にクライアントに経営改善案を提案するだけではなく、自分自身がクライアントにポジションをアサインされて常駐(出向)し、経営改善を行っていくいわゆるハンズオンスタイルの経営コンサルティングでした。常駐するわけなので、平日は岡山県のホテル住まい、週末のみ東京という生活をしていました。コロナ禍であっても食品製造業はリモートワークなどできるわけもなく毎日出社していましたし、移動の新幹線や飛行機もガラガラで、新幹線の車両が自分一人しかおらず貸し切り状態という、いまでは冗談のような状況でした。


▲コロナ禍で新幹線がいつもガラガラ

またクライアントへのアウトプットで常に自分のスキルが評価されるので、残業時間が月100時間を超えることも日常茶飯事でした。特にアウトプットは全て成果物としてドキュメントとして提出しなければならないので、エクセルワーク・パワーポイント・フレームワークと言ったようなコンサル特有の分析方法やプレゼンテーションの作り込みのスキルは、前職の商社時代とは違った筋肉を使うような感覚で非常にいい経験になりました。幸いにもチームメンバーは優秀でしたし、BCG・マッキンゼー・デロイトといったコンサル経験者の大先輩にもサポートしてもらいました。周囲の協力があってこそプロマネをこなすことができたと思います。業務範囲は主に財務経理・経営企画・事業開発の領域を担当していました。商社の時も経営企画は経験していましたが、自身が役員として派遣されることでさらに高い視座での経営の実践経験を積むことができたこと、また食品製造業だったのでいわゆる製造業の観点でのファイナンスを経験できたことは非常に有意義な知見で、また一段スキルアップできたと思います。一方、大企業で得たノウハウを中小企業に活かすという点に関しては、そう簡単ではなく、遥かに厳しいという現実を突きつけられました。特に財務・法務・総務といったバックオフィスのギャップが一番大きかったと思います。例えば大企業で法務部に照会すればすぐ返ってくるような案件でも、毎回顧問弁護士や税理士の先生に頼まなければならず、タイムリーに回答が出てくることはまれでした。また銀行借入では地元の地方銀行に何度も予算や資金繰表を出して説明しなければならず、銀行側のロジックで説得していかないと融資を得ることはできませんでした。中小企業の融資なので、当たり前と言えば当たり前なのですが、金額規模は大したことないのに、銀行からお金を引き出すというのはこれほど手間と労力が掛かるものなのかと、商社にいた時にいかに身の回りで飛び交う金額感がバグッていたのか実体験を通じて痛感しました。これら課題の中でも特に大きかったことは人的資源の枯渇ではないかと思います。地方の優秀な人材は東京や大阪といった大都市に流出してしまっており、地方に残った一握りの人間で会社全体を回すしかありません。しかもこういった優秀な人材ほど年齢層が高く、いつまでも現役で働いて頂くというわけにもいきません。地方を活性化する(地方創生)、言うは易し、行うは難しです。一発ネタで盛り上がるようなビジネスのネタは持続的がないのですぐに廃れてしまいます。本当の意味で地方企業を活性化していくには永続的に回るビジネスモデルでなければなりません。このような状況下で「地方であっても優秀な人材が集まる」、「日本経済にインパクトのある製造業(モノ作り)」が必要ではないかとぼんやりと考えていたところ、出会ったのが、まさにISTでドンピシャでした。

後編に続く・・・・


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?