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淡いこの感情を将来の恋人に話すのかな

先日、推しの=LOVEのライブに行ったときに、この曲が披露されました。

切ない片思いを歌った曲です。
その中に、こんな歌詞があります。

遠い遠い昔の
思い出に変わるのでしょうか
淡い この感情を
将来の恋人に話すのかな

「好きって、言えなかった」(作詞:指原莉乃)

この部分を聴いたときに、ふと頭の中に淡く切ない思い出が蘇ってきました。

今回は私の片思いのお話です。


高校2年のクラス替え。
名簿順に座った生徒たち。
私の前の席はテニス部のS君でした。

私の学校は1学年に280人もいたので、S君のことは同じクラスになって初めて知りました。

いつからS君のことが気になったのか、今となってはもう覚えていません。
でも、S君はすごく素敵な人でした。

ノリはいいけれど、他の男子みたいにぎゃーぎゃー騒がないし。
誰にでも本当に優しいし。
人のことを悪く言っているのを見たことがないし。
なにより、ふにゃっと笑う顔がとても素敵でした。

毎日、授業を受けながらS君の背中を眺めるのが楽しみでした。

しばらくして、席替えがありました。
あわよくばS君と隣の席になりたいと思っていたのに、私の席はS君と遠くなってしまいました。

それ以来、私は定期テストの日を楽しみにするようになりました。
定期テストの日だけは席を名簿順に戻していたからです。
テストを回すときにS君が振り返って、一瞬だけ目が合う。
その瞬間を私は心待ちにしていました。

キラキラしていたS君に、自分から話しかけて仲良くなる勇気は、私にはありませんでした。
ただ、憧れるだけ。
いつの間にか私たちは3年生になっていました。


私たちが通っていた高校の文化祭。
その後夜祭に、みんなが楽しみにしているイベントがありました。
事前に生徒一人ひとりに1本ずつ配られたキャンディー。
それを好きな人と交換するのです。
友達同士でもいいし、先輩後輩でもいいし、恋人同士でもいい。
それに、片思いの相手にキャンディーを渡して告白してもいい。
全校生徒が思い思いの相手とキャンディーを交換します。

私は、1年生のときは親友と、2年生のときは可愛がっていた部活の後輩の女の子と交換しました。

最後の文化祭。
ここを逃したら二度と思いを伝えられないんじゃないか。
そう思った私は、S君とキャンディーを交換することを決意しました。

後夜祭当日。
薄暗い校庭の中、私は一人、必死でS君を探しました。
幸い、S君はすぐに見つかりました。

「S君、あの、よかったら付き合ってください!」
そう言って私が差し出したキャンディーをS君は
「ありがとう」
と受け取り、自分の持っていたキャンディーを私にくれました。

文化祭が終わった次の日は、片付けのための登校日。
祭りのあとのさみしさと、やり遂げたという達成感が、学校中を包んでいました。

S君から「渡り廊下に来てほしい」と連絡をもらったのは片付けも終わりかけの頃でした。
心臓が飛び出そうなくらい緊張しながら、私は待ち合わせ場所に向かいました。

「昨日はありがとう。でも、ごめん。付き合えない。」
S君は少し困ったような優しい顔で、私にそう言いました。
「うん。わかった。ありがとう。」
ここで泣いたらきっとS君を困らせてしまうから。
私は頑張って笑顔を作りながら答えました。

その後、どう過ごしたのか覚えていません。
ただ、S君からもらったコーラのキャンディーの味は今でも思い出せます。
コーラなんて普段飲まなくてそんなに好きじゃなかったのに。
あの日なめたキャンディーはいつまでも終わらないで欲しかった。


その後、私たちは今まで通りただのクラスメイトになりました。
特別避けることもなく、かといって親しくなることもなく。
まるで何事もなかったかのように。
S君の笑顔はいつも素敵でした。

卒業式の日。
私はもう一度、勇気を出してみることにしました。

「S君、一緒に写真撮ってくれない?」

S君はにっこり笑って、二つ返事でOKしてくれました。
私のスマホを友達に渡し、教室でツーショットを撮りました。
二人とも満面の笑みでした。
S君は、最後までS君らしく、優しい人でした。

あれから、S君とは会っていません。
風の噂でS君の実家が県外に引っ越したと聞いたので、今後もきっと会うことはないのでしょう。


その後、私は大学で素敵な人に出会いました。
今、その人は私の最愛の夫です。

S君への片思いは遠い昔の思い出。
甘酸っぱくて、コーラの香りがする、大切な思い出です。

遠い遠い昔の
思い出に変わるのでしょうか
淡い この感情を
将来の恋人に話すのかな

「好きって、言えなかった」(作詞:指原莉乃)

こんな片思いがあったことを夫に話したら、どんな顔をするのでしょう。
きっと、笑って聞いてくれるのだと思います。

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