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戦わずして勝て!「孫子の兵法」に私が救われたこと

ビルゲイツ氏や孫正義氏も愛読書にしているということで、経営者のバイブルとしても近年注目されている兵法書「孫子の兵法」。書店に行けばたいてい孫子に関連するビジネス書がずらりと並んでいて「3分でわかる」みたいな要約本も大人気。戦国時代の武田信玄が軍旗に用いいたスローガン「風林火山」も出典は孫子です。

「孫子の兵法」は紀元前500年ごろの中国春秋時代の軍事思想家・孫武の作とされる兵法書で、それまでは”勝負は時の運”的な考え方が強かった戦争にデータ分析や戦略を取り入れた画期的な書物で、戦争論だけでなく戦争を簡単に起こすことや長期戦による国力消耗を戒める項目も多く、勝ち負けやメンツよりも「国益」を何より優先しているという点が後世でも評価されている理由の一つでしょう。

※孫子の分析やビジネスその他の現代活用の事例に関しては中国文学者の守屋洋さん、あるいは息子さんの守屋淳さんというの方の著書が大変参考になります。

私の孫子の兵法との出会いは大学の図書館。もともと「三国志演義」から中国の古典に興味を持った私でしたが、その後、漫画「三国志」を描いた横山光輝先生の漫画「史記」を読んで、その中に孫武、孫臏、呉起といった兵法家が登場していたので、図書館でたまたま「諸子百家」の棚に「孫子兵法」「呉子兵法」という中国語の原典を見つけて「あ〜あの史記で出てきた孫子だ!」と心躍り、気づいたら何日も図書館にこもって日本語訳に没頭したのでした。

孫子の兵法に出てくる名言の中で特に私が感銘を受けたフレーズをいくつか紹介しましょう

知己知彼、百戰不殆(彼を知り己を知れば百戦危うからず)

これはまさに恋愛でも仕事でも何でも応用できる一番有名な格言ですよね。相手のことを調べるのはだいたい誰でもやるんですが、自己分析が意外にちゃんとできてなくて身の丈に合わないことをしてしまう・・孫子を学んだ後にもこの手の失敗はたくさんしましたが、その都度孫子を思い出して自戒しています。中国語だと「己を知る」が先に来るんですよね。

兵者詭道也(兵は詭道なり)

ようは戦いは騙してナンボみたいな意味ですが、この言葉に続いて孫子には具体的な方法論も書いてあります。弱いと見せかけて強いとか遠いと見せかけて近いとか。格闘技におけるフェイトみたいな理論が語られています。これは市場競争でも国際関係でも似たようなことが言えますよね。もっと近いところでいうと友達関係とか家族関係における駆け引きもそれに近いものがあります。私は仕事関係の人から「今忙しい」と聞かれた時には「ぼちぼちやってます」と答えます。これって「忙しい」と答えると仕事を振りづらくなるし「暇」と答えてもこの人大丈夫か?と心配になるかと思うので、どっちともとれる言い方が関西弁の「ぼちぼち」なんですよね。中国語で同じ質問をされた場合は「马马虎虎」と答えます。これもたぶん孫子イズム?

夫兵形象水(軍隊の形は水のようなものである)

水は高い所から低い所に流れていく。軍隊の形は敵の守りの固い「実」の部分を避けて守りの薄い「虚」の部分を攻撃する・・といった解説がその後に続くのですが、中国の古典にはこの「水」という言葉がよく出てきます。
孫子ではないですが「水随方圆之器(水は方円の器に随う)」という慣用句もあり、一度決まった型を作ってしまうと応用が効かなくなるという解釈だったり、環境という器に合わせて人の性格も水のように形を変えるという意味で使われたりします。その場その場で頭をやわらかくして自分の姿も変形させられる「水」のような存在になろう・・そんなことを今でも教訓にしています。

百戰百勝、非善之善者也(百戦して百勝するは、善の善なる者にあらざるなり)

個人的には孫子が伝えたいことの核心がこの訓示に詰まっている気がします。そもそも用兵の原則は、敵国を傷つけずに降伏させることが最上であって、戦って打ち破るのはそれよりは劣る。軍団を降伏させるのが最上であって、軍団を打ち破るのはそれより劣る・・戦わずして勝つのが最善策ということです。

この言葉は「善戦者、勝於易勝者(善く戦う者は勝ち易きに勝つ者なり)」というビジネスマンに特に人気のフレーズともつながる概念で、戦う前の段階で勝敗はすでに決まっている・・準備こそが一番大事ってことですね。これがあってこそ、無駄な争いを避けつつ勝ち筋を作れると。


ただし、「兵法読みの兵法知らず」という言葉もあり、孫子を呼んだら成功者になれるよ〜とか必勝バイブルみたいな感じで頼りにしちゃうと墓穴を掘ることになるでしょうね。中国の戦国時代に武将の家にはたいてい孫呉の兵法が置いてあったけど、ほとんど活用できてなかったというのは有名な話です。三国時代の曹操のように孫子を体系的なロジックで捉えて尚且つ実践に応用するというのは至難の技なんでしょう。なので「ビジネス活用例」とかを紹介するのはいいけど、「ビジネス必携バイブル」みたいな言い方で孫子を紹介するのはちょっとどうかな〜と思ってます。まあ本を売る側からしたらビジネスは詭道なり!ってことでまさに孫子をうまく利用できてるのかもしれませんが。

ちなみに、私の大学卒業論文のテーマも「孫子兵法の現代活用」だったんですが、この話を出会った中国人に自己紹介がてら話すとなぜか皆口を揃えて「嬉しい」と言ってくれます。

もちろん「孫子」も「三国演義」も中国では誰もが知る名著ですが「三国志」に詳しい日本人は嫌というほど見てきている中、「孫呉兵法」というコアな古典を中国語で学んでいる日本人が珍しいのか、中国文化や歴史への熱意を感じとってくれてるのかもしれません。日本人的には「徒然草」や「奥の細道」にハマってる外国人みたいな感覚でしょうか?(違うか・・)

結論、私的には孫子兵法を学んで一番良かったことは「中国人と仲良くなれたこと」これに尽きます。

北京大学で書道家の先生に書いて頂いた孫子の名言




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