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【スペシャル対談】長崎ヴェルカの「いい仕事」

「いい仕事」をテーマに、日本ベネックスの小林社長が「長崎ヴェルカ」伊藤拓摩社長兼ゼネラルマネージャー、狩俣昌也選手、髙比良寛治選手と語り合った座談会。

常に勝利が求められるプロバスケットボールチームで伊藤さんは、社長兼GMとして、狩俣さん、髙比良さんはプレーヤーとして、何を考え、どんなふうに仕事をしてきたのか。どうやって「最短B1昇格」を実現させたのか。「いい仕事」をする上で必要だと考えることは?いいチームワークとは?

プロスポーツの第一線で活躍する3人の言葉は、一つひとつが心に熱く響きました。今回はそんな熱いトークをお届けします。



1.それぞれの「いい仕事」

画面左から日本ベネックスの小林社長、長崎ヴェルカの伊藤社長兼GM、狩俣選手、髙比良選手


小林洋平(以下、小林):
昨シーズンはじめてのB1ということで、いかがでしたか。

伊藤拓摩(以下、伊藤):
GMとしては「もう少し勝てたかな」と思います。一方、社長としては「This is “VELCA”」のスローガンのもと、ヴェルカの魅力、可能性をバスケットボール界全体に広げられました。ホーム全試合チケット完売やSNSのフォロワー数増加など、集客面も大きく成長しました。

狩俣昌也(以下、狩俣):
ぼくは久しぶりのB1でのプレーでしたが、以前よりもレベルが高くて、楽しかったです。拓摩さんも言われたように、チームのポテンシャルを考えると‥‥もっと勝てたなと。

小林:
たしかにすごく惜しいゲームが何試合もありました。

狩俣:
そうですね。勝てるチャンスはたくさんあったので、悔しかったです‥‥。

髙比良寛治(以下、髙比良):
ぼくも悔しい思いをしました。ただ、長崎でのヴェルカの盛り上がりは今まで以上に感じました。B3参入当初は、町を歩いていてもあまり声をかけられませんでしたが、B2、B1と上がるにつれて「応援しているよ」と声をかけてもらうことが増えました。

小林:
唯一の長崎出身の選手として、思い入れも強いですよね。

髙比良:
ぼくよりも親戚のみなさんの方が盛り上がってます(笑)。

小林:
今回、日本ベネックスが掲げるパーパス「いい仕事を、しつづける。」の「いい仕事」について、みなさんにお話を聞かせてもらえたらと思います。

まずは、みなさんにとっての「いい仕事」とは何でしょうか。

伊藤:
我々は「プロバスケットボールクラブ」ではなく、「エンターテインメントを通して地域創生を実現する会社」です。もちろんプロのバスケットボールクラブを運営しているので、勝つことでみなさんにワクワクと熱狂を感じてもらうことは大事にしてますが、それ以上に「ヴェルカを通して、幸せを感じてもらう」ことを大事にしています。

「ヴェルカがあることで人生が楽しくなった、幸せになった」という声を聞くと「いい仕事をしてるな」と思いますね。

小林:
わたしも幸せを感じているそのひとりです(笑)。

伊藤:
ありがとうございます(笑)。ファンの方とお話しするなかで「趣味ができた」「ヴェルカのおかげで健康になった」と言ってくださる人もいました。とても嬉しいことですし、もっともっとクラブとしてできることはあると思うんです。

狩俣:
ぼくは選手なので、試合に勝つことが一番大事です。勝つことで、ファンの皆さんが喜び、アリーナ中に笑顔が溢れる。あの瞬間はこれまでの努力が報われたような気がします。そういう意味では、目の前の一試合にかける準備期間そのものが「いい仕事」ですかね。

小林:
なるほど。試合自体もそうですが、そこにいたるまでの準備期間が大事だと。

狩俣:
そうですね。いい準備ができれば結果はついてきます。 一日、一日をどう大事に過ごしていくか、一試合、一試合をどう大事に戦っていくかで、 シーズンを通しても成長できると思います。

髙比良:
ぼくも「いい試合をして勝つ」ことが、「いい仕事」だと思ってます。

チームは約15人の選手がいて、相手チームのスカウティングをするコーチ、試合プランを考えるヘッドコーチ、トレーニングをしてくれるトレーナーやマネージャーなど、20人ほどのスタッフがいます。

チームに携わる人たちが報われるためにも、やっぱり勝たないといけません。勝つと本当にスタッフの笑顔がすごくて‥‥。

みんなの笑顔を見ることで、いい準備もできるし、いい試合をして、勝つことができる。その結果、ファンの皆さんも喜んでくれると思うんです。



2.いい仕事を、しつづけるために

小林:
「いい仕事」をしつづけるために、意識していることやルーティンワークはありますか。

髙比良:
狩俣さんはあんまりルーティンがないみたいですが、ぼくは数えられないぐらいあって(笑)。食事や睡眠時間もそうですし、ホテルでの過ごし方も基本的に毎回おなじです。

同じルーティンをやるようにしてから、怪我がすごく減りました。

小林:
狩俣選手はルーティンがないみたいですが(笑)。

狩俣:
昔はあったんですけど、性格的に一つのルーティンができないと「あれ、やってない‥」って、ゲームに入るまでずっと気になってしまうんです。生活のリズムはだいたい一緒ですが、細かいルーティンはなるべく作らず、試合だけにフォーカスしてます。

伊藤:
もともとあったんやね。

狩俣:
はい、ありました。どんどん増えていくんですよ(笑)。「これやったから勝ったな」と思うと、また次の試合でもこのルーティンをしないといけない、ってなって(笑)。「これやってから調子いいな」と思うとまた付け加えたりして‥‥。

小林:
ああ、なるほど(笑)。

伊藤:
いまはだいぶ減ったんですけど、ぼくもヘッドコーチをやっていたときは、朝起きてから試合までのルーティンはぜんぶ決まってました。

狩俣が言うとおりで、ルーティンがスムーズにできないと気になるし、イライラするんです。ヘッドコーチ時代は「話しかけられなかった」と言われるぐらい、ルーティンに徹していました。でもそれはよくないなと(笑)。

小林:
なるほど(笑)。ちなみに「いいチームワーク」ってなんだと思いますか。

伊藤:
いいチームワークですか‥‥。

何より大事なのは「お互いの多様性を認めること」だと思うんです。チームには国籍が違う選手もいますし、さまざまな年齢の選手もいます。これからキャリアを築くルーキーと、キャリアの終え方を考えるベテランでは、考え方も大きく違いますよね。

「いいチームはこれ」「いい選手はこれ」と決めつけるのではなく、多様性をお互いが認め合い、共通の目標に向かって切磋琢磨することを大切にしています。

小林:
人には強みも弱みもあって、その上でどのように全体をまとめてよくしていくか、難しいですが我々もやらないといけません。

狩俣選手は、キャプテンとしてどういうことを意識してますか。

狩俣:
ぼくはベテランなので、自分が出過ぎると発言ができなくなる若手がいたり、気を遣う選手がでてきたりします。それはよくないことなので、それぞれが意見を言いやすいような、自分のカラー(個性)を出せるような雰囲気づくりは意識しています。

昨シーズンは「発言するより話を聞く」を個人的なテーマにしていました。例えば、ミスした選手に「あれはダメだ」ではなく「あのプレーどう思った?」という聞き方をして、まずは理解してあげて、その選手がいい方向に変わってくれたらと思っています。

小林:
先日、ルーキーの木林選手と会社に来ていただきましたが、和気あいあいとしてるというか、すごくいい雰囲気を感じました。髙比良選手はいかがですか。

髙比良:
プレーでは狩俣さんがリーダーシップを発揮してくれるので、自分はコミュニケーションの部分を大事にしています。オフコートで「人と人を繋ぐ役割」というか。年齢差のあるベテランと若手、選手とスタッフを繋げることがぼくの仕事です。

「いまコミュニケーションとらせたいな」と思うときは、話を振ったり、食事に誘ったりします。コートに入るまでにある程度の関係性を構築して、チームをビルドアップしていくことが大事なんです。

やっぱり関係性ができてないと、思ったことも発言できません。それは選手同士だけじゃなく選手、スタッフみんなでいいチームを作るために必要なことだと思うんです。

小林:
なるほど。髙比良選手のSNSを見ていると、視座が高いというか、全体のことをよく見られてるな、という気がします。

髙比良:
選手だけじゃなく、スタッフも含めてチームだと思っているので、そういうことを伝えられる時間があれば、選手としても伝えた方がいいですね。



3.「昇格」という特別な瞬間

小林:
これまでのキャリアで「これはいい仕事したな」と思った瞬間はいつですか。

伊藤:
やっぱりB1に昇格したときですね。昇格が決まったときの選手、スタッフ、ファンの皆さんの表情がいまだに忘れられません。昇格が決まった試合の後、いろいろな方に感謝の気持ちを伝えていただいたときは「ヴェルカというクラブが長崎にできて本当によかった」と思いました。

小林:
「いい仕事」を積み重ねてきた結果ですかね。

伊藤:
もちろん勝ったから昇格したんですが、勝ちにいたるまでのプロセスで、わたしたちが貫いてきたのは「正しいことをやり続ける」ことです。

正しいことをやり続けたからこそ結果が出たと思いますし、目立たないかもしれないけど毎日「いい仕事」「 正しいこと」をやり続けた結果だと思うんです。

小林:
我々のパーパス「いい仕事を、しつづける。」も、過程そのものを大事にしています。ズルをして一回だけ結果を出せたとしても、長続きはしません。正々堂々、真正面からやり続けたことが結果につながったんですね。

伊藤:
それを象徴するできごとがあります。B1昇格のかかったアルティーリ千葉戦で、実はクラブとしてすごく大切な判断をしなければいけなくて。

小林:
はい。

伊藤:
この試合の一週間ほど前に、チーム関係者にコロナ感染者が出てしまったんです。当時(2023年5月)は、感染者が出た場合、リーグのプロトコル(手順や規則)に従って練習ができないとか、そういうのがあったんですね。

昇格が決まるいちばん大事な試合前だったので、感染者が出たと「言わなければいい」ってこともできたんです。

小林:
うん、うん。

伊藤:
でもヴェルカはこれまで正しいことをやり続けてきたから、今回も「正しいことをしよう」と判断をしました。なので、実はアルティーリ戦の一週間前は、一度もチーム練習をしていないんです。試合当日の朝にはじめてチーム全員が集まり、チーム練習というよりも確認作業しかしていません。

小林:
ああ。

伊藤:
選手もスタッフも「自分たちは正しいことをした」と自信と誇りを持てたからこそ、試合終盤の強さにつながったと思います。アルティーリの第3戦目は10回中、8回は負ける試合の流れでしたが、髙比良がビッグショットを決めてくれたり‥‥。

常に正しいことをやり続けてきた結果、勝つことができたんです。

小林:
そんな裏話があったんですね。感染者がでたとき「言わなきゃいいじゃん」という声も出ることなく、チームがさらに一致団結するのもまたすごいですね。

狩俣選手は「いい仕事したな」と思った瞬間はいつですか。たくさんあるような気もしますけど、あえて1つあげるなら。

狩俣:
拓摩さんも言われたように「B1昇格」は自分のキャリアにおいても「いい仕事」だったと思います。

ぼくはヴェルカ創設時のメンバーとして、プレーでも結果を出さないといけないですし、最短でのB1昇格、チームのカルチャーづくりもやらないといけませんでした。常に結果を出しながら、チームのスタンダードも上げていくことは、当時とても大変でした。

B3時代は、相当つよく選手に怒った記憶もあります。たぶんコーチよりぼくの方が選手に怒ってましたね(笑)。

伊藤:
間違いない(笑)。

狩俣:
怖がってる後輩たちがいたのはわかるんですけど‥‥。「2年で昇格する」と決めていたので、絶対に勝ちたかったんです。

小林:
うん、そうですよね。

狩俣:
だから昇格が決まった瞬間は、ほんとにホッとしましたし、キャリアの中でも忘れられない出来事です。今後、優勝することがあったとしても「昇格」は、また別の意味で自分にとってすごく大事なものです。

昇格が決定した瞬間の狩俣選手。©B.LEAGUE

髙比良:
ぼくも2人と一緒で、昇格したことです。

個人的にこの試合のキーポイントだと思ったのは、試合前日の夜にホテルで見た、スタッフの皆さんからのメッセージ動画でした。スタッフ一人ひとりのビデオメッセージを見たとき「もう絶対に勝たないといけない」という気持ちになって、モチベーションが2段階、3段階も上がりました。

小林:
それは高まりますね。

髙比良:
プレーオフの1戦目は勝って、2試合目はすごい負け方をしてしまって‥‥。もう後がない中で、3戦目にチームがすごくまとまり、勝つことができました。

3戦目がはじまる前、ファンの皆さんがコートサイドで円陣を組んでいる姿や、昇格が決まった後のみんなの顔が忘れられません。ぼくもバスケのキャリアでたぶん初めて泣いたんじゃないですかね。

バスケキャリアで初めて涙した髙比良選手。©B.LEAGUE


髙比良:
後から試合映像を見ると、伊藤さんがずっとベンチの後ろで祈るように立っていたんです。それくらいこの試合は、チームとして、ヴェルカに関わる人たちにとって、大事な試合でした。

ベンチ裏で祈る伊藤社長

小林:
3名とも一致ということで(笑)。

伊藤:
はい(笑)。



4.まだ物語の途中

小林:
新シーズンはいよいよ新アリーナでの開幕です。新シーズンの目標を聞かせてください。

伊藤:
シーズンが終わってまだ2週間ぐらいしか経っていませんが、これから新シーズンのテーマを少しずつ考え、開幕の1ヶ月前ごろにスローガンとして発表します。

細かい部分はまだ詰めきれていないですが、「結果にこだわるシーズン」にしたいと思ってます。優勝を狙えるチーム、チャンピオンシップに出場することに加えて、事業面でも集客や収入など、もうすべてですね。

狩俣:
ぼくも選手として「結果にこだわりたい」と思っています。契約更新のコメントでも書かせてもらったんですが、新シーズンは優勝を目指します。

そういえば、ベネックスさんの会社を見学した後に、ホームページを見させてもらったんですけど。

小林:
ありがとうございます。

狩俣:
「いい仕事を、しつづける。それが次の世代につながる」みたいな言葉があって。一日、一日、正しいこと、いい仕事をやっていけば、これまでの3年間もつながっていくと改めて思いました。そういうふうに新しいアリーナでヴェルカのストーリーも今後どんどんつながっていくはずだし、それが結果、優勝につながるはずです。

髙比良:
すごく夢のあるアリーナでプレーさせていただくぼくらにも夢があります。世代関係なくいろいろな方に来ていただいて、みんなに夢や希望を与えれるようなチーム、選手になりたいです。

それから、ヴェルカがあることで、長崎県の人口流出問題が少しでも緩和されたらいいなと。ヴェルカの試合を観に行くために「長崎に戻ろうかな」という人が出てくるかもしれませんし「スタジアムシティで働きたい、長崎で働きたい」と思う人もいるかもしれません。

バスケだけじゃなく、いろいろなところにプラスのエネルギーを与えていけると思うので、まずは選手として、しっかりと結果にこだわっていきたいです。

小林:
はい。

髙比良:
伊藤さんがコーチ時代、毎日のように選手に「Every day, Get better」と言っていて。やっぱり一日、一日、ちょっとでも進みつづけることが、成長や結果にもつながると思うので、そこをしっかり意識していきたいです。

小林:
新シーズンも一ファンとして、非常に楽しみにしています。今日はお時間いただき、ありがとうございました。

伊藤・狩俣・髙比良:
ありがとうございました。

長崎ヴェルカのみなさまありがとうございました!


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