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【長崎ヴェルカ】中山佑介さんと仕事論

B.LEAGUE所属「長崎ヴェルカ」のディレクターオブスポーツパフォーマンスこと、中山佑介さん。

長崎ヴェルカ設立時から選手の身体をつくり、支えてきた方です。そんな中山さんは過去にアメリカへ渡り、バスケットボール界の「キング」と称されているレブロン・ジェームズやさまざまなNBA選手と仕事をしてきました。

今回、中山さんと日本ベネックスの執行役員 芥川さんが、バスケットボールをはじめたきっかけ、アスレチックトレーナーを志した理由、一流アスリートの共通点などいろいろなことを話しました。

一つひとつの言葉をていねいに選びながら話す中山さんがとても印象的でした。まずはこんなお話から。



1.はじまりは高校時代

画面左:日本ベネックスの芥川さん、長崎ヴェルカの中山さん


芥川隆(以下、芥川):
まずは長いシーズン、お疲れさまでした。

中山佑介(以下、中山):
ありがとうございます。

芥川:
昨シーズンはヴェルカにとって初のB1挑戦となりました。

中山:
はい。これまで積み重ねてきたものを選手、コーチたちがコートで表現してくれた姿に、すごく頼もしさを覚えました。それと同時に、長いシーズンの中でそれを「維持しつづけることの難しさ」も感じたシーズンでした。

芥川:
中山さんの肩書である「ディレクターオブスポーツパフォーマンス」とは、どういう仕事ですか。

中山:
GMの伊藤拓磨さんからこのタイトル(肩書)をいただきました。チームスポーツの環境として、栄養学、理学療法、スポーツ科学など多方面に大きな要素がならんでのパフォーマンスになると思っていて。

それらを足し算すればいいわけでもないですし、必ずしも全部が掛け算にはなるわけでもないんです。必要に応じては引き算をしなければいけません。

それぞれの専門家が集まって選手をサポート、ケアしていますが、それぞれの考えのままに足したり引いたりしていくと、けっきょく選手のいいパフォーマンスにたどり着かないことになります。それらの「方向性を決める」ことがわたしの仕事です。かなり抽象的にはなってしまうんですけれども‥‥。

芥川:
いえいえ。

中山:
ぼくは選手の身体、パフォーマンスに関わるすべての専門家になることはできませんが、多岐に渡った知識を持っていて、必要に応じて専門家へのアクセスを作り、方向性を決めていきます。

芥川:
そもそもこのお仕事に就こうと思ったきっかけは何だったのしょうか。

中山:
ありきたりなんですけど‥‥。中学生のときに『スラムダンク』の影響で、バスケットボールを始めて、高校生のときにすごくのめり込みました。コーチがいないチームだったので、選手たちが自分たちで練習内容を決めるんです。

芥川:
上級生、下級生関係なく。

中山:
上級生が一応リードします。わりと自由な練習を通して、自分の身体を探求し「こうしたらうまくいった」とか「なんで今これができたんだろう?」とか、そういうことを考えながら練習をしていました。

できなかったことができるようになった喜びや、その理由を見つける喜びを感じるようになったのが、大きなきっかけだったのかなと思います。

芥川:
身体を探求しながら練習ですか‥‥すごい。その後、大学でもバスケを。

中山:
はい。大学でもバスケットボールを突き詰めたいと思い、名門大学のトライアウトを受けました。そこで初めて全国レベルの選手たちを目の当たりにして、自分との差をものすごく体感して‥‥。

トライアウトは合格したんですが「途中でマネージャーに代わってもらう可能性がある」「選手じゃなくなったから、途中で辞めるというのは部の方針として認めない」と説明を受けました。

芥川:
えぇ。

中山:
でも全国レベルの選手との差を「努力でなんとかなる」というふうには思えなかったんです。それでも「自分の身体を探求したい、成長したい」という思いは強かったので、選手としてプレーできなくなることは嫌でした。

最終的にその話はお断りし、サークルとクラブチームでプレーすることにしました。



2.憧れから現実に

芥川:
大学を卒業後、なぜアメリカに行こうと思ったのですか。

中山:
就職活動の時期に、自分が抱えてるモヤモヤというか「このまま就職活動をしていいんだろうか」みたいな話をゼミの先生にしたら「アメリカに行けばいいじゃん」と言われて‥‥。 たぶん本人はそれを覚えてないと思うんですけど(笑)。

まだ行ったことのないアメリカの風景が頭にぱっと浮かんで「これが自分にとって正しい道なんだ」というふうに信じ込んだんですね。

芥川:
当時、英語は話せたんですか。

中山:
日本にいる間に準備はしていたつもりなんですが、実際に行くと10%も聞き取れないし、喋ることもできませんでした。最初の1、2年は本当に言葉との戦いでしたね。

芥川:
その苦労を乗り越えられた原動力って、何だったと思いますか。

中山:
最終的に「帰る場所がある」というのが大きかったんですかね。

芥川:
帰る場所‥‥ですか。

中山:
実家のことですね。本当にダメだったら帰る場所がある、だから「全力でぶつかってみよう」と。

芥川:
ああ。渡米した当初からNBAで働くと決めていたんですか。

中山:
1つのゴールにはしていました。渡米一年目、ミネソタ州の大学に行っていたんですが、そのときはじめてNBAの試合を観ました。すごく遠い席からでしたが、チームのアスレティックトレーナーらしき人たちを見て「自分が歩もうとしている世界はあれだ」とイメージできました。

芥川:
見ることでぐっとイメージできますよね。

中山:
渡米三年目の大学院時代、大学のバスケットボール部でアスレティックトレーナーの実習をしていたんですが、 その大学出身の現役NBA選手が夏のトレーニングで大学に来ていたんです。

芥川:
おお、はい。

中山:
ぼくは当時アイスバッグを作ってその選手の膝に巻いただけですが、そのときはじめて「NBA選手って本当にいるんだ」と実感しました。

自分が憧れていたものが、現実の先にあると認識できました。

芥川:
たぶんこの質問はいろいろな人に、聞かれたと思うんですが、レブロン・ジェームズをはじめとしたトップアスリートたちとお仕事をしてみて、彼らに共通しているものは何かありましたか。

中山:
レブロン・ジェームズや、オーストラリア人NBA選手のマシュー・デラベドバ、オールスター選手のケビン・ラブなど、優れたバスケットボールアスリートと仕事をさせてもらいましたが

「何かを犠牲にする決断ができる」というところですかね。

自分が持っているものを最大化させて、チームの目的に貢献する上で「自分が何を犠牲にするのか」というところを突き詰めて、実際に行うことができる。いま名前を挙げた選手はそれが特に優れていたというか、そこに徹していたと思います。



3.長崎ヴェルカだからこそ

芥川:
普段、選手とトレーニングをしていく中で、コミュニケーションの取り方はどのような点を意識していますか。

中山:
そうですね‥‥。何か特別に意識している、というのはないですね。

それぞれに合わせているつもりもないんですが「1つのやり方がすべてに通用しない」っていうことは、経験の中からわかっています。同じ身体は2つないので、同じ動作が起きることは絶対にありえないんです。仮に 2人の選手が全く同じ動作をしていたとしても、そこに対する声掛けの内容だったり、タイミングだったりっていうのは変わります。

「この選手はここまでだったら許容範囲なので、終わった後に説明をしよう」と考えることもありますし「この選手はこのタイミングで動作を止めるけれども、そこで声掛けをしよう」とか。そこは常に考えながら選手たちと仕事をしてます。

芥川:
ちなみに選手とぶつかることってあるんですか。

中山:
ぶつかることですか‥。うーん‥。記憶にないですね。

芥川:
例えばトレーニングの仕方や考え方の違いだったりで。もちろん前向きなぶつかり合いとかも含めてなんですけど。

中山:
長崎ヴェルカに来てからは、言い方が正しいかわかりませんが「すごく楽をさせてもらってるな」と思っていて。その理由としては、選手たちが勝手にがんばってくれるというか。

選手同士でモチベーションを上げ合いながら、どんどんチャレンジしてくれるので、ぼくの方から発破をかける必要がほとんどない環境で仕事をさせてもらっています。

そのぶん、先ほど話したような選手の身体の動きだったり、そっちの方にぼく自身がフォーカスできるのは選手たちに本当に感謝です。

芥川:
コミュニケーションの一環として、選手と一緒にご飯へ行くことはあるんですか。

中山:
まったくしないです。

芥川:
そうなんですね。

中山:
例えば選手が15人いたときに、15人と同じようにご飯行くことってできないわけですよね。であれば、ぼくはしないという考え方です。

トレーニングの中では全員おなじように向き合うことができますが、それを離れて選手と関わるときに、自分のコミュニケーションの量や質が偏ってしまうと、いい仕事ができません。

もちろん、そういう方たちを否定してるわけで全くなくて。ぼく個人として、そう思うだけです。食事によるコミュニケーションが必要な場面はあるかもしれませんが、ぼくは自分がそれを上手にできるとは思わないので「やらない」という選択をしています。

芥川:
なるほど。選手一人ひとりと向き合っているからこその選択ですね。

B1に昇格して、1年間シーズンを戦いました。B2とはスピード、フィジカル、プレーの強度も違う中で、健闘できた理由は何だと思いますか。

中山:
積み重ねに他ならないかなと思っていて。B3、B2、B1と上がってく中で、今シーズンに関しては、B1でのプレー経験がある選手たちが加わりました。

もちろんB1経験のある選手たちは、戦い方、身体のコンタクトなどがわかっているんですが、B1に初めて挑戦する選手たちは、B3のときからB1に上がることを目的にしていたし、そのためのトレーニングを続けてきたので、その積み重ね、準備がしっかりできていたのかなと思います。

ただ、それに満足はもちろんしてはいません。

芥川:
課題も見つかったと思いますが、これまでの積み重ねの成果が現れたシーズンなんですね。

ちなみにヴェルカのトレーニングルームに中山さんがアメリカから持ってきたユニークな設備があるとお聞きしました。

中山:
はい。説明が難しいのですが、さまざまなトレーニングができる特注のマシンです。このあと、見に行きますか。

芥川:
ぜひ後で見せてください。

対談の後、特別に特注マシンを見せていただきました!
このマシンで身体のあらゆる部位のトレーニングができるとのこと


中山:
トレーニングってきついんですよね。なので、ウキウキしながら行く場所ではないんです。その場の雰囲気やにおいもすごく大事だと思います。その中で、自分たちが選手の気持ちに応えられる環境はしっかり作りたいと思っていて。

決して日本で手に入るもので、それができないと言ってるわけではないんですけれども。

芥川:
ええ、はい。

中山:
「長崎ヴェルカでトレーニングすることの違い」を環境面から感じてもらうには、やはり違ったものかつ、ぼくがアメリカで実際に使ったことがある、信頼ができるものを準備したいというふうに思い、チームにわがままを聞いてもらい持ってきました。



4.中山さんの「いい仕事」

芥川:
日本ベネックスは「いい仕事を、しつづける。」というパーパスを掲げていまして、中山さんにとっての「いい仕事」をぜひ教えていただきたいです。

中山:
 ぼく自身が持っている能力のベストを尽くすことは大前提です。そして、仕事をするときは必ず受け手がいるわけですから、受け手が期待しているものに少なくとも応える。

で、狙うのは「期待を超える」っていうところ。その二つがあって「いい仕事」ができるのかなと思ってます。

芥川:
うん、すごく響きました。ありがとうございます。新シーズンに向けての目標、チャレンジしたいことを最後に聞かせてください。

中山:
選手もスタッフも昨シーズンでB1という世界を学ぶことができました。新シーズンの開幕(10月)まで、あと数ヶ月ありますが、自分たちが学んだB1の世界に焦点を合わせて、準備をすることができます。

芥川:
今回はB1を学んだ上で準備ができると。

中山:
はい。「もうテスト期間は終了だ」というふうにも思っていますから「結果を残すシーズン」にできればと思います。

選手それぞれが持つゴール、そしてそれが集まって出てくるチームのゴールを達成できるように、これから具体的なプランを立てていきます。すみません、歯切れが悪くて‥‥。

芥川:
いえいえ。伊藤GMも選手の皆さんも来シーズンは「結果にこだわる」とおっしゃっていました。新シーズンも楽しみにしています。 本日はどうもありがとうございました。

中山:
ありがとうございました。

長崎ヴェルカの皆さま、中山さん、ありがとうございました!



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