板金鉄道はこうして生まれた
ペーパークラフトのように手軽に組み立てられ、プラモデルのように精密な、電車のメタルクラフトモデル『板金鉄道』。
”つくるをたのしむ”をコンセプトに、社内発のプロジェクトから生まれた製品です。
この製品はいかにして生まれたのか、そして今後の展望を、プロジェクトメンバーに聞いてみました。
1.商品化のアイディアは、ペーパークラフト
——:
今日は、いろいろとお話しを聞かせてください。
一同:
はい、よろしくお願いします。
――:
まず、板金鉄道が開発されたきっかけは?
手島:
ベネックスでは、これまで産業用の製品をずっと製造してきたんですが、若手主体で、何か商品開発にチャレンジしてみたい!というふうに思いまして。とはいっても、何を作ったらいいか、全然思いつかなくて…。
――:
まぁ。
手島:
企画を考えているちょうどそのとき、新型コロナが世界的に流行りだして。「おうち時間」の過ごし方が、頭の中で1つキーワードとしてありました。
それに関連して、各鉄道会社が出している電車のペーパークラフトのダウンロード数がすごく伸びてると知ったことが、ヒントになりました。
ーー:
ほう。
手島:
しかも以前、ベネックスでは長崎市を走っている路面電車にラッピング広告を出していたこともあり、 長崎電気軌道さんとはお付き合いがあったので、これは路面電車で”何か製品化できるかも”と思ったのがきっかけです。
あと、板金って金属の紙みたいなものですよね。だから1枚の金属板から、ペーパークラフトのように、手軽に組み立てを楽しめる電車の模型が、できるんじゃないか、と思いました。
——:
なるほど。最初のモデルはどうやって決めたんですか?
手島:
長崎電気軌道さんに、商品化の話しを持ちかけてみたところ、長崎で引退した車体が、「西武園ゆうえんち*」というテーマパークに、寄贈されて展示されるということを知って、これをモデルにしたい!と思いました。
——:
商品アイディアを、ペーパークラフトから着想したわけですが、素材が「紙」と「金属」という違いは、どうとらえましたか?
手島:
「1枚の薄い板状のもの」という点では同じなので、モノにできなくはないとは思いました。でもやっぱり紙と比べると、圧倒的に自由度がないので、どこまで再現できるかは、全くわからなかったです。
2.解決策は、きゅうり?
——:
最初は図面も全く何もないところからのスタートだったと思います。どうやって形にしていったんですか?
井上:
長崎電気軌道さんから、車体の外形図を頂いたんですが、昭和20年代につくられた車体なので、図面が全て手書きだったんです…。なので参考資料として、それをもとに、また自分でCAD*で設計図を書き直しました。
——:
でも、板金だと紙のように自由度がないから、いろいろと難しいところが多いと思います。
井上:
はい。そこが一番の悩みの種で…。紙のようにやんわり曲げられないから、綺麗な「R*」が出せなくて。Rが出せないということは、カクカクした形状の電車になってしまうんです。
――:
まぁ、そうですね。
井上:
きれいなRを出す方法が無いか、何日も悩んで、悩んで考えて‥‥。
で、ある日突然、アイデアが降りてきました(笑)
Rに曲げたいところを刻めば、いい感じに曲がってくれるんじゃないかなと。
ーー:
刻む?
手島:
刻む。
井上:
野菜の「飾り切り」って、切込みをたくさん入れると、柔らかく曲げたり出来るじゃないですか?
きゅうり切ってて、これは使えるんじゃないかと思いまして。
——:
きゅうりからきたの?!
井上:
そう、そう。とはいえ、刻む幅だったり、切り込みの本数とかでかなり曲がり方が変わったので、作ってはみんなで検証しての、繰り返しでした。
切り込みの本数を変えてみたり、曲げるときにひずみが出ちゃったら、ジョイントの数を増やしてみたりして。
泉田:
きゅうりの部分の発想力”は”本当にすごいと思いました。
手島:
発想力“は”(笑)
井上:
発想力以外は、だらしない先輩です(笑)。
——:
その他に難しかったところ、工夫したところは?
井上:
つなぎの部分かな。どうやって側面と正面をくっつけるか。最初はキノコ型の、ツメだったんだけど、奥まで押し込めないねってことでダメになりました。
ツメが太くても、細くてもダメで‥。色んな形状のツメをつくって、試しました。
手島:
めちゃくちゃデリケートなんです‥。本当にいろんな検証を、1つひとつ重ねて、半年かけて完成させました。
——:
なるほど。座席とかつり革は精密板金加工ならでは、ですよね。
泉田:
つり革、すごくいいなって思いました。つり革があるだけで電車らしさがめちゃめちゃ出る。あとステンレス独特の質感とか手触りが、つくりながら感じられます。
井上:
そう、そう。つり革はちゃんと揺れるしね。ここから見た画がいいですよね。ここからのアングル結構好きです。
3.こだわりのポイント
——:
ペーパークラフト同様に自分で組み立てるってことですが、その辺の設計は、何か意識して作ったんですか?
泉田:
板金なので、紙と違って鋭利な部分は危険。そこは無くさないといけないな、とは考えていました。
井上:
買って後悔はさせたくないなとは思ってて。組み立てが難しすぎず、でも簡単すぎない。
大人と子どもが一緒に楽しく作れるもの、にできるよう意識して設計しました。
手島:
実際に、何個か製品サンプルで作りましたけど、めちゃくちゃいいバランスだと思います。そんなに簡単じゃないけど、不器用な私でもつくれたし。
あと、ちゃんと見ると気が付くんですが、細部への気配りがすごくて。パンタグラフとか、排障器とかちょっと曲げなきゃいけないパーツが、スムーズに曲げやすいように、切りこみが入ってるんです。
そのあたりは設計者側の気遣いが感じられるなと思います。
——:
これ作るのに、接着剤とか工具とかって、別にいるんですか?
泉田:
それがですね・・・いらないんです。
井上:
なんですか、その通販番組みたいなくだり。
一同:
(笑)
——:
え、ではどうやってつくるんですか?
泉田:
全部、付属の治具(ジグ)で、できるんです!
泉田:
手では曲げにくいところとか、せまくて届かないところを、これを使って曲げたり押し込んだりするだけで、組み立てができます。
なんと接着剤・はんだ付け・ペンチ等の工具は、いらないんです。
——:
それは嬉しいですね。完成したあと、5/19(2021年)にリニューアルオープンした西武園ゆうえんちに、商品が実際に、置かれることになりましたよね。
井上:
じっさい園内で販売されてるってことに、あまり実感がわかないですね。でも小林さん(社長)が、現地に行ってくれて、写真撮ってきてくれたり、買ってお子さんと一緒に作った、っていうのを聞いたときは、やっぱりうれしかったかな。
子どもと大人が一緒に楽しめる、というコンセプトが成立してすごい、よかった~って思いました。
4.長崎らしいモデル
——:
その後すぐ、第2弾「長崎電気軌道360形モデル」の開発となりました。
手島:
長崎電気軌道さんの車体で、長崎らしいモデルを作ろうというのがテーマでした。
で、どのモデルをやるか検討をしているときに、360形が「初の全金属製」だということを知り、これはやるしかないと。
——:
西武園ゆうえんちモデルから変わった点は?
井上:
前回は、諭吉が1枚飛んでいく価格(9,600円)で、ちょっとお高いなというイメージでした。どうしても購入するとき、気合を入れる必要があるというか‥‥。
なので、その半分くらいのサイズ感で、値段も半分くらいで買える。作りごたえはちょっと落ちるかもしれないけど「らしさ」は残したものを、作ってみました。
泉田:
でも単純に全部サイズを小さくしただけでは、全然うまくいかなくて‥‥。
つなぎ合わせのツメの部分とかが、うまくはまらなかったり、設計の修正が必要な部分はかなり多かったです。
井上:
そう、そう。簡単にできるかなと思ってたけど、かなり苦戦しました。
泉田:
小さくしたらその分、作りにくくなっちゃったので、作りやすさを重視しながらまた一つひとつ、調整していったという感じです。
手島:
一見、西武園ゆうえんちモデルと似ているんですが、正面の顔が違ったり、長崎電気軌道社のロゴが、側面に入ってたり。
——:
このサイズ感、良い感じだと思います。
手島:
かわいいですよね。
——:
このモデルつくった後、取材がいくつかきましたよね。
手島:
まずは毎日新聞社さんから来ましたね。その記事がきっかけで、売れ出したみたいで。新聞ってすごいんだなぁと。
泉田:
新聞に載ったのは、素直にすごいなと思ったし、嬉しかったですね。
手島:
あとびっくりしたのは、twitterで作成中の写真をアップしたら、窓の形だけで「360形ですか?」ってコメントがきて、当てられたこと!
井上:
窓の形でわかるもんなんだ‥‥。それだけ私たちが本物に近い形を再現できてるってことですね。
——:
細かいところまで見られてるから、手が抜けないですね。
泉田:
本当にそうですね。あとこのモデル、長崎空港や商業施設のお土産屋さんに置いてもらえているのは、すごく嬉しいです。
手島:
たしかに手に取ってもらうチャンスが増えるのは、嬉しいですね。
——:
今後も作り続けていく感じですか?
井上:
それはもちろん!
手島:
商品パッケージも、地元のデザイナーさんに、かっこいいのを作ってもらいましたからね。
井上:
レトロ感が良く出ていて、好みのデザインです。「板金鉄道」のロゴもかっこいい。
手島:
私はこの小窓がすきですね、「メタルクラフトが入ってます」感があって。
ーー:
それでは最後に一言お願いします。
手島:
実際に何個か作ってみて、簡単ではなかったけど、とても楽しく作れました。なので、車体・モデルは変わっても難易度やクオリティは保ちつつ、板金鉄道らしさを追求したアイテムを今後も作っていきたいなと思っています!
若手が中心となり、現在進行形で進められている本プロジェクト。
現在、第3弾モデルの製作に向けて協議を重ねています。
今後の活動にもぜひ、ご期待ください!
(お読みいただき、ありがとうございました。)
『板金鉄道』の詳細については、以下よりご覧いただけます↓↓↓
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