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いま、老舗企業のファイナンスとは?

なぜいま「ファイナンス」が再び注目されているのか?

昨今、ファイナンスに関するビジネス書が次々と出版され、webメディアでもたびたび目にする「ファイナンス」という言葉。しかし出てくる事例はほとんどが大企業のことばかり。一体、中小・中堅企業ではどのようにファイナンスを活用しているのか?

そこで今回は「中小・中堅企業におけるファイナンス」について、当社の小林社長にお話を伺いました。

まずはこんなお話から。


1.ファイナンスブームの理由

日本ベネックスの小林社長


――:
ここ数年、ファイナンスの重要性が再注目され、関連の書籍もすごく売れているようです。なぜ今ファイナンスが盛り上がっているのでしょうか?

小林:
2014年に伊藤レポート*が出て、上場企業に「最低でもROE 8%以上を目指しなさい」と呼び掛けたよね。そこで資本効率を意識する会社が増えた。それまでは売上至上主義で、企業はPL(損益計算書)しか見ていなかったし、株主もPL上で「利益出して」という感じだったのが、徐々に変わってきた。

実際にアクティビスト(モノ言う株主)と呼ばれる人が、資産をため込んで有効活用していない企業にどんどん投資をして「お金を吐き出させる」という現象が国内外で増えてきた。

以前、アクティビストの動きは世間的にあまり受け入れられていなかったけど、今は国や東京証券取引所まで同じようなことを言っている。

伊藤レポート(Ito Review)とは:
2014年8月に公表された、伊藤邦雄一橋大学教授(当時)を座長とした、経済産業省の「『持続的成長への競争力とインセンティブ~企業と投資家の望ましい関係構築~』プロジェクト」の最終報告書の通称。
企業が投資家との対話を通じて持続的成長に向けた資金を獲得し、企業価値を高めていくための課題を分析し、提言を行っている。ROEの目標水準を8%と掲げたことで、実務界から大きな反響があった。

https://www.meti.go.jp/policy/economy/keiei_innovation/kigyoukaikei/pdf/itoreport.pdf

――:
投資家からすると資産を貯め込まず、株価や企業価値が上がるようなお金の使い方(投資)をしなさい、と。

小林:
そう。すべてのアクティビストが正しいとは思わないけど、言っていることは正論だよね。伊藤レポートや、アクティビストの圧力によって「上場企業が資本コストを意識し始めた」のがブームのきかっけかも。



2.老舗企業だからこそ

――:
当社は資金調達によって事業を最大限に成長させています。資金調達は老舗企業ならではの強みなのでしょうか?


小林:

仮にうちがベンチャー企業や設立間もない企業だったら、金融機関はお金を貸してくれない。そういう企業の選択肢は、お金がかからない事業をやって稼ぐか、VC(ベンチャーキャピタル)からコストの高いお金を調達するか。

ベネックスみたいに一定の歴史(1957年創業)と実績があれば、金融機関から結構いい条件でお金を借りられる。これだけでも事業を営む上で有利になる。

例えば1億円調達しようとするとき、ベンチャー企業はVCから調達して15~20%のリターンを期待される。我々は金利1%で金融機関からお金を借りることができれば、最低限稼ぐべきハードルが最初から違うよね。

エクイティとデットの違いはあるけど、極端な話、我々は最低1%の利益を出せばよくて、ベンチャー企業は15%の利益を出さないといけない。

――:
桁違いに有利ですね。当社は老舗企業ということに加え、本社が長崎にあります。地方の金融機関は地場企業に対し、いい条件で融資してくれるんですか?

小林:
地方は、積極的に借入する会社があまりないから借入環境を考えると東京よりはるかに有利。でも、どんな金融機関であろうと審査があるから、融資してもらう案件ごとの詳細をきちんと説明することが大事。それと先方が「稟議を書きやすいような資料をつくる」ことも意識している。その結果として、いい条件になっているのかも。

ただ、地方の金融機関には情熱的な人が多い。

――:
どういうことですか?

小林:
担当の方が数字だけを見て機械的に判断する、ということが少なく、親身に話を聞いてくれて「どうすればいいか一緒に考えましょう!」と、熱量を持って対応してくれる。その気持ちの入れようが、地方と東京の金融機関の違うところかな。

――:
ああ、なるほど。

当社がファイナンスを強みとしているのは、小林さんの過去のご経歴(不動産ファンド)が影響していますか?

小林:
不動産ファンドの役割は、投資家から預かったお金を最大化すること。不動産を取得するために資金を調達するんだけど、資金の8割を金融機関から借入したりする。

しかも単純な借入だけじゃなく、いろんな種類の借入を使って投資家のお金をいかに増やせるか。

つまり「レバレッジをかけてお金を増やす」というのが当たり前の世界で新卒からキャリアを積んできたからね。

――:
「レバレッジをかけてお金を増やす」と考えている事業会社は多くない気がします。

小林:
一般的には運転資金が足りなくなるときに、借入をするんだろうね。「目先の売上、利益を最大化するため」であって「長期的な成長のため」という発想はないのかもしれない。



3.リスクを最小化するための投資

――:
話は変わりますが「無借金経営」「増収増益」はいいこと、という風潮が未だにありますが、その辺りについてはどう思いますか?

小林:
状況にもよるかな。例えば自分の会社がゾンビ企業で「生き残るためだけにお金を借りています」という会社だったら、無借金を目指すのは正しい選択。

一方で、ちゃんと利益を出せる会社の場合、無借金経営を目指すことはやめた方がいい。会社の資産を有効活用せず現金を貯めこんでも、まったく社会貢献にならないから。

上場企業の経営者であれば「退場してくれ」とか「貯め込んだ現金を配当に回せ」って言われちゃうよね。

――:
今では「無能な経営者」という烙印を押されそうです。

小林:
もちろん増収増益もすばらしいとは思うけど、それが目的になるとダメ。結局、経営の目的は「将来キャッシュフローの最大化」だから、その中で出っこみ・引っこみがあってもいいはず。

長い目で見たときに、キャッシュフローが一番最大化する方法を取ればいい。「今期は増収するために設備投資を控えます」というのは本末転倒。

――:
足元と未来のバランスをどうとるか‥‥。

小林:
ベネックスも足元の利益だけを増やしたければ、新規の太陽光発電に投資しなければいい。投資をやめた瞬間に、財務状況も今よりよくなる。だけどいま積極的に投資を続けているのは、将来キャッシュフローが大きくなるから。

――:
そもそも日本人は、投資に対して苦手意識があると聞いたことがあります。

小林:
過去30年デフレだったとして、デフレ社会では投資しないのが正解。そういう意味では、日本人は環境に合わせて賢い選択をしているとも言える。

ただ今後、デフレを脱却してインフレになったとき、いままでと同じ思考で現金を持っていると、価値がどんどん目減りしちゃう。

――:
たしかに。

小林:
いまと過去にあったインフレで違うのは、全体のパイが縮小しながらのインフレだから、よっぽど慎重にならないといけないけどね。

――:
単に「どんどん投資すればいい」ということでもない、と。

小林:
いま太陽光発電に投資をしているけど、いい案件に限定していて、その案件をさらによくするためにファイナンスの力を使っている。

今は魅力的な案件がたくさんあるからアクセルを踏んでいるけど、そういう案件がなくなってきたら無理はしない、というのがすごく大事。苦しいときにいまと同じペースで投資すると後で痛い目に合うから。

――:
なるほど。

小林:
あと「投資=ギャンブル」というイメージがあるけど、わたしは逆で「リスクを極力減らすため」にやるもの、と思っている。ファイナンスの理解がないビジネスジャッジこそ、単なるギャンブルだと思う。

――:
まさにそうですね。ちなみに事業投資以外で、いま考えている投資はありますか?

小林:
本社社屋の改修。30年前に建てたから老朽化しているし、ここでしっかりとお金をかけてリニューアルしていこうかと。「この会社で働きたい」と思ってもらえるような社屋にしたい。

新社屋のイメージパース。2025年竣工を目指す。


――:

直接お金を生まない社屋への投資判断は、難しくないですか?

小林:
経済合理性だけを考えたら「やらなくてよくない?」という投資でも、過去を振り返ると意外と効果あることが多い。

この社屋も30年前に建てたわけだけど、当時の判断としては、そこまでお金をかけなくてよかったのかもしれない。

でも、立派な社屋をつくったおかげで社員も増えたし、太陽光パネル設置に耐えられる屋根があったおかけで、環境エネルギー事業も始められた。戦略投資はその辺も含めて判断しないといけないよ。

――:
事業投資と違うのはそこですね。

小林:
5年先だけを考えるのであれば「何もやらない」のが正解。でも長期視点で考えているから、「いま投資しなかった場合どうなるのか?」ということをシミュレーションしてる。

――:
なるほど。「投資した場合の効果」だけを考えがちですが、費用対効果が明確な数字で出しにくいものは「投資しなかった場合に起こり得ること」も含めて考える、という。

小林:
投資をしようと思ったときにできないのが一番辛いから、できるタイミングでやるのが大事だよ。



おわりに

見ているのは目先の利益ではなく、未来のワクワク。

これまで「ファイナンス」と聞くと、どこか無味乾燥としていて、小難しいものだと思っていましたが、実際にはシンプルかつ「未来のワクワク」を生み出すためのものだと気がつきました。

そして我々のような中堅、中小企業こそファイナンスという武器を有効活用し、未来を見ながら新しい価値を創りつづけなければならない、そう思いました。


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