休日の充実を忠実に修築
「年末に借りていた本を読まなければ!」との思いに駆られ、今日は本と財布だけカバンに入れ、スマホを持たずに出かけてみることにした。
借りていたのは妹の本だ。年末年始に帰った際、貸してくれた伊坂幸太郎の『逆ソクラテス』という短編集。
年始以降もちょいちょい帰っているものの「お兄ちゃんあの本読んだ?」と訊かれて「いや、まだ…」と言うのが情けなかった。そんなに読みにくい本ではないはずだけど、読書はスマホをいじる行為に比べて幾分ハードルが高かった。
だからスマホを触れない状況を意図的につくり、強制デジタルデトックス状態に自分を追い込んだ。
とっさの思いつきだけど、向かった場所・やったことを章立てで書いてみる。
①吉野家
歩いて25分ほどの距離にある吉野家へ向かった。いつもICOCAで支払うので、スマホはいらない。出てきた牛丼の並を黙々と食べ、吉野家をあとにした。月曜の朝だというのに、結構人がいてびっくりした。
②皮膚科、パン屋
その足で皮膚科に向かった。バイト先のパン屋の近く。淡々としているけど優しい先生なので好きだ。薬をもらって、駅へと向かう。
その途中、パン屋を見つけた。名前だけは知っていた、店長がおすすめしていたお店だ。クロワッサンの惣菜パンと、同じくクロワッサンの菓子パンと、ソーセージのパンを購入した。大通りから外れた角にあったそのお店は、「隠れた名店」のオーラを放っていた。
③駅
改札に入ると、駅内にくつろげるスペースがあったので、そこで短編をひとつ読むことにした。この『逆ソクラテス』という小説、とにかく読みやすくて後味がいい。そして説教臭くならない程度に僕の背中を押してくれる。とてもいい小説だった。
キオスクで買ったお茶を飲みつつ、さっきのパンを食べる。美味しかった。小説に一喜一憂しながら(もちろん無表情で)、時間がゆっくり過ぎるのを感じた。
④ショッピングモール
電車で実家近くのショッピングモールに行き、メガネを買った。丸いメガネがずっと欲しくて、でも購入に踏み切れずにいたのだ。
いいフレームがあったので、選びとって視力検査を行ってもらう。
「スマホでかんたんにご登録お願いします」と言われた。LINEで友達になると登録が行えるらしい。
「あの、スマホ持ってなくて」
と咄嗟に返した。
「忘れた」でも良かったんだけど、わざと置いてきているのだから正確ではないよな…と変なこだわりが出て「スマホを持っていない現代人」みたいになってしまった。
店員さんは若干の狼狽を見せたけど、特に気にもせず面倒な店内での登録へとスムーズにシフトしてくれた。
「お品物は30分ほどで出来上がりますので」
と言われ、そこで初めて僕は時間が分からないということに気づいた。
腕時計もしていなかったし、周りを見ても時計がない。仕方がないのでまた短編を読むことにした。ひとつ、念押しでふたつ読めば30分は確実に経っているだろうという計算のもとだ。
ふたつ短編を読み終え、メガネを引き取りに行った。完成していたので、30分は経っていたことになる。
そのメガネをかけたまま、残りひとつとなった短編を読み切ることにした。
⑤実家
30分ほど歩いて実家へ戻る。帰ると妹がいて「急に帰ってきたら怖いよ」と言われてしまった。
『逆ソクラテス』がめちゃくちゃ面白かった、と告げて妹に返却した。
「言うと思った。お兄ちゃん好きそうやもん」
と冷めた様子で言われたのがちょっと悔しかった。
家族で一緒にご飯を食べ、車で自宅へと戻ってきた。そして約10時間ぶりにスマホを触り、これを書いている。
◇◇◇
デジタルデトックスは「本を読む」という1点のみに関してはプラスに働いたが、特にそれ以外のメリットは感じられなかった。期間が短すぎたせいもあるだろうが、スマホがなくて特に困ることもなく、かと思えば「通知から解放されたー!」というようなスッキリ感もなかった。
僕は「スマホを使わない」という「スマホの使い方」をしたのだ。自ら不便になろうとしているのだから、現代人とは贅沢なものだ。
でも「時計が見られない」や「他人からスマホを持っていない人間だと思われる」などの貴重な体験ができた。
それは嬉しかったし、繰り返しになるが何より本を1冊読み切れたのが大きい。
…充実してたかは分からないけど、意図的に充実をつくり出そうとしてみた、という実験的な日だった。
最後まで読んでいただきありがとうございます。
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