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ベン・アフレックのお気持ち表明記事を読み解く

Los Angels Times の例の記事です。

ジャスティスリーグは苦痛だったと告白してファン界隈ではざわつきました。

日本時間2022年1月8日(土)午前1時の投稿でした。

タイトルはこうです。

Ben Affleck is done worrying about what other people think
ベン・アフレックは他人がどう思うかを気にするの止めた

以下は、私が気になった部分をピックアップして拙訳と感想を述べていきます。

▼やりたいことをして生きていく:

You said recently that it’s only in the last few years that you’ve felt comfortable as an actor. What shifted?
My whole career, I’ve loved acting. But I kind of got to a place where I realized I needed to really define and stick to what my standards were for what I wanted to do and not be drawn into what everyone else thinks. I think it’s a paradox that the more you focus on actually trying to do what you think is interesting and what you want to do — rather than what other people say — the better your work is and the more relaxed you get.
最近数年間は俳優であることを快適に感じられるようになったとお聞きしました。何か変化がありましたか?
長いキャリアを通してずっと、僕は演技が大好きだった。でも自分の価値基準を決めて、それを守り、他人の意見に引き込まれないようにするのが大事だと気づいた。自分が面白いと思うことややりたいことに集中した方が、仕事は上手く進み、リラックスできる。逆説的だね。

ベン・アフレック、五十にして惑わず、の境地に到達したようですね。このことわざは一般的には「四十にして惑わず」ですが、それだけ波乱万丈の人生を送ってきたということでしょう。好きなことをして生きていけるって羨ましいです。才能がある人にしか出来ません。いや、生計が立つまで努力を止めない能力を才能と呼ぶのでしょうか。

I mean, “The Last Duel” came out and every article was like, “It made no money.” And I really loved the movie, and I liked what I did in it. I was disappointed more people didn’t see it, but I can’t chase what’s going to be cool. I’m happy with it. I’m not preoccupied with notions of success or failure about money or commercial success, because those things really corrupt your choices. Then what happens is the movies are less interesting and you’re less good.
『最後の決闘裁判』は多くのメディアが興行不振を指摘していたが、僕は演技と作品に満足している。金銭や商業的成功は本当の選択を見失わせるものだ。それらを求めた映画は面白くならないし、良い演技もできない。

最後の決闘裁判』での彼の演技や役作りは見事でした。彼のそれまでの「女にだらしない人」というパブリックイメージを逆手に取った会心の演技だったと思います。ある意味では『ゴーン・ガール』の進化系と言えるかもしれません。『ザ・ウェイバック』での自伝かなってくらい悲壮な演技もいいですが、本作では伸び伸びやっててマジで痛快でした。

▼ザ・バットマンについて:

In 2016, I interviewed you three times — for “Batman v Superman,” “The Accountant” and “Live by Night” — and I got the sense that you were under a lot of pressure. Shortly after that, you dropped out of directing and starring in “The Batman” and sought treatment for your drinking. Was that when your priorities changed?
Directing “Batman” is a good example. I looked at it and thought, “I’m not going to be happy doing this. The person who does this should love it.” You’re supposed to always want these things, and I probably would have loved doing it at 32 or something. But it was the point where I started to realize it’s not worth it. It’s just a wonderful benefit of reorienting and recalibrating your priorities that once it started being more about the experience, I felt more at ease.
2016年ごろに複数の作品でインタビューをさせていただいて、後でプレッシャーを感じておられたことを知って腑に落ちました。その直後には『ザ・バットマン』の監督と主演を降板されて、アルコール依存症の治療に専念されました。何か心境や優先順位に変化があったのでしょうか?
『バットマン』の監督を降りたことは最近の僕の変化の典型例だ。この手の作品ではフィルムメイカーは作品対象を愛さなければならない。僕も32歳くらいだったらそれを心から好きだと思っただろうが、もう興味の対象ではなくなっていたことに気がついた。こうした体験を通じて自分の嗜好性への理解が深まっていくと、優先順位が変わることは素晴らしいと思うようになるよ。より心が楽になるんだ。

ここで注意しておきたいのは、アフレックは俳優としてブルース・ウェインを演じることには特に言及しておらず、あくまで『監督としての関わり方』について語っていることです。もともとアフレックが執筆にも関わっていた脚本はバットマンの探偵としての側面にフォーカスしたノワール物(人間の悪意や差別、暴力などを描き出す、闇社会を題材にとった、あるいは犯罪者の視点から書かれたもの)になると報道されていました。もしかしたらスタジオと作品の方向性で衝突があったのかもしれません

実際に2017年の再撮影でウンザリしてしまったアフレックですが、2020年にスナイダーから電話を受けたときには二つ返事で「君のためならもう一度やるよ」と出演を快諾しています。本記事のサムネではその追加撮影時に撮られたナイトメア版バットマン写真です。(*超クローズアップでArmy of the Deadと同じドリームレンズを使っているので2020年以降の撮影であることはすぐに分かりますね)

https://freegametips.com/new-images-of-batman-joker-and-more-from-the-set-of-zack-snyders-justice-league/

なのでアフレックが演じるバットマンの新作映画は今後作られないと落胆するのは早計でしょう。海外ファンに頻繁に使われる #MakeTheBatfleckMovie は俳優としてなのか監督としてなのか定義が曖昧で、個人的には使いにくいハッシュタグです。私の解釈では「監督として作らせろ」というニュアンスが強い気がしていたので、こうやって本人が声明を出してしまった後だと尚更に気後れします。

個人的には、アフレックには監督としてバットマンの物語を作ってもらいたかったので、この脱バットマン監督発言は寂しい気持ちになりましたが、彼は『アルゴ』や『タウン』を撮ってる監督だから、そりゃね、という気持ちにはなります。自分の描きたい物語はバットマンを通しては実現できないことが分かった、というのをオブラートに包んで語っているも考えられます。

2013年 アルゴ
1998年 グッド・ウィル・ハンティング/旅立ち

そしてだからこそ、逆に、いつかアフレックがバットマンを題材にして作りたい物語ができた時には作ってくれたら嬉しいな、と思います。別にデスストロークの話じゃなくても良いので。繰り返しますが、勿体無いし寂しいですけどね。ジョー・マンガニエロは日本や武道への造詣も深く役作りのためにかなり準備もしてくれていたようでしたので。

ただ、ファンが見たいという気持ちも大事ですが、アフレック自身が残された人生をどう使いたいか、というのも尊重したいです。アカデミー作品賞を獲れるような監督はそんなに多くないので、彼がヒーロー映画に従事することは、一方で別の優れた映画が生み出される可能性を削っているという事実に私は着目したいという意味です。特に私はDCファンというよりは映画ファンとしての性格が強いので、余計にそう思います。

▼ジョスティスリーグについて:

It was really “Justice League” that was the nadir for me. That was a bad experience because of a confluence of things: my own life, my divorce, being away too much, the competing agendas and then [director] Zack [Snyder]’s personal tragedy [Snyder’s daughter Autumn died by suicide in 2017] and the reshooting. It just was the worst experience. It was awful. It was everything that I didn’t like about this. That became the moment where I said, “I’m not doing this anymore.” It’s not even about, like, “Justice League” was so bad. Because it could have been anything.
最低だったのは『ジャスティスリーグ』だ。悪いことが重なった。私生活、離婚、仕事での競合、そこにザックの家族に不幸が起きて、そしてあの追加撮影だ。人生で最悪の経験だった。酷かった。本作に関して僕はすべてが嫌いになったね。もう二度とやらないと決めた。完成した映画は「とても悪い」と言えるものですらなかった。他にいくらでもやる余地があったんだからね。

公開当時はプレミア上映とかで「ザックとジョスの二人の作家性が場面ごとに見られる奇妙につなぎ合わされた映画だ」みたいなことを言ってましたね。これって芸能人がテレビ番組の食レポで「個性的な味ですね」とコメントした時と同じだったんですね。つまり本音では「不味い」「私の口には合わない」と思っていたんですよ。あ、良識のある社会人でしたら当時から察していましたし、彼の愛想笑いも見抜いていましたよね、はい。笑。

[Justice League is] an interesting product of two directors, both with kind of unique visions, both with really strong takes. I’ve never had that experience before making a movie. I have to say, I really love working with Zack, and I really love the stuff we’ve done with Joss.”
ジャスティスリーグは2人の監督による興味深いプロダクト(製品)だ。どちらも個性的なビジョンを持っていて、それがどちらも強く出ている。僕はこんな経験を1本の映画を作るときにしたことはないよ。これは言わなくちゃいけないんだけど、僕はザックと仕事をしたことが本当にLOVEだし、それからジョスと作り上げたモノも本当にLOVEだよ」

2017年8月11日のEntertainment Weeklyより

1本の映画に2人のビジョンを突っ込むなんて前代未聞だよ」と暗に批判していること(making moviesと一般化せずにmaking a movieと特定して言ってるのは重要なポイント)と、「(主演俳優としての立場上)言わなきゃいけないから」と前置きしていることと、ザックは関係性も含めて肯定しているのに対してジョスは作品だけに言及を留めているのもポイントでしょう。笑。

ちなみにここでモノという意味で使われた単語(stuff)には「取るに足らないもの」というニュアンスもあります。サービス精神や職場の家族意識が強い日本では誤解されやすいですがスタッフは欧米の文脈では「金で雇われた使用人」という感覚が強く結構蔑まれた立場です。

アフレックがスナイダーを支持しているのは数年前から言質も取れていたので、今回のインタビューでの発言も、そこまで驚くものではないと思います。

▼サウンド・オブ・サイレンス:

I got to a place where [the public perception] was so different from who I am that I just stopped reading and stopped caring. But then, as my kids got older and started seeing the internet themselves, that’s the difficult part. Even the “Sad Affleck” meme— that was funny to me. I mean, there’s nobody who hasn’t felt that way at a junket. But then my kids see it and I think, “Oh, are they going to think their dad is fundamentally sad or they have to worry about me?” That’s really tough.
(2003年ごろに診てもらったセラピストのアドバイスのお陰で、)僕は自分と異なる意見を持つことに寛容になって、それらを読んだり相手にしたりするのを止めるようになった。だから僕はサッド・アフレックの動画ですら笑って見られていたんだよ。と言うのも、宣伝のために飛び回っている時は、誰もあんな悲しい気分ではなかったしね。でも、子供達がネットで見て本気で父親のことを心配するかもしれないと考えると、マジでキツかったよ。

誰があの動画を作ったのか知りませんし、今だから笑い話にできますが、インタビューを受けている時期は精神的に不安定な面もあったでしょうし、私生活はボロボロだったので子供達は本気で心配していたでしょうし、それを感じ取れるからこそアフレックも苦しむという負のループが走っていたと思います。これを誰でも笑って見られる時がきたことを嬉しく思います。

ここでのサイモンとガーファンクルのSound of Silenceは反則です。厳しめの質問にも正面から真摯に対応するカヴィルの声がどんどん遠くに聴こえなくなっていったのに、最後に「そうだろ、ベン?」「ああ、その通りだ」っていう瞬間は、何度見ても可笑しいし、アフレックを現実に引き戻してくれるカヴィルの優しさに泣けますね。

= = =

他にも最新作『テンダー・バー』にかける意気込みや役作りの秘訣、そして子育てを通じて感じる変化するエンタメのあり方や映画産業とYouTubeに対する視野など、興味深い話題が盛り沢山です。

Google翻訳にかけるだけでも大体のことは伝わるので、英語が苦手な方もLos Angels Times の原文記事を読んでいただけたら嬉しいです。

了。

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