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【シュリ】を三幕構成で読み解く

#ネタバレ

結末まで語るので、本編を未見の方にはブラウザバックを推奨します。

登場人物
ユ・ジュンウォン(ハン・ソッキュ):主人公。イ・バンヒを追う諜報員。
イ・ミョンヒョン(キム・ユンジン):ユ諜報員の恋人。その正体は…
イ・ジャンギル(ソン・ガンホ):ユ諜報員の相棒。
パク・ムヨン(チェ・ミンシク):北朝鮮第8部隊。イ・バンヒの上官。


まずは、物語を三幕8場構成に分解します。

一幕

プロローグ)1992年。北朝鮮で第8部隊の過酷すぎる訓練を突破して韓国へと出発する最強の女戦闘員が居た。

1)1998年、南北統一ムードで一見平和な韓国ソウル。しかし1993年から1996年にかけて軍事関連の重要人物の暗殺事件が連続して、その容疑者である北朝鮮第8部隊の暗殺者イ・バンヒは2年以上姿をくらましており、担当のユ・ジュンウォン諜報員とイ・ジャンギル諜報員は行き詰まっていた。

ジュンウォンは熱帯魚ショップで働く恋人ミョンヒョンから夫婦のキッシンググラミーをプレゼントされる。

2)ジュンウォンとジャンギルは韓国裏社会の武器密売人と密会しようとした矢先で、待ち伏せしていたイ・バンヒの妨害を受けて密売人を殺される。なぜイ・バンヒは数年の沈黙を破ったのか?密売人は北朝鮮との取引情報を漏らそうとしたからイ・バンヒに消されたのか?そして諜報部と密売人しか知らなかった待ち合わせの情報をイ・バンヒはどうやって掴んだのか?

ジュンウォンとジャンギルとミョンヒョンは三人で観劇や夕食で楽しく過ごす。結婚を控えるジュンウォンにジャンギルはいつ本当の仕事を伝えるのかと問い詰めるがジュンウォンは伝える必要が無いと突っぱねる。(果たして、ジュンウォンは恋人ミョンヒョンこそがイ・バンヒだと気づけるのか、そして気づいた時に韓国諜報員として正しい行動を取れるのか?)

二幕

3)北朝鮮第8部隊がシュリ作戦を実行に移す。ジュンウォンとジャンギルは密売人の取引相手が国防科学研究所の開発主任だと特定するが、入れ違いで第8部隊に暗殺されて、さらに同研究所が新たに開発した次世代液体爆弾CTXを略奪される。第8部隊は商業ビルを爆破して韓国諜報部を脅迫する。

4)ジャンギルは迅速すぎる第8部隊の動きから内通者の存在を疑う。パク隊長はイ・バンヒにジュンウォンの暗殺を命令するが、バンヒは失敗する。ジャンギルはミョンヒョンを疑ってジュンウォンの周囲に盗聴器を仕掛ける。ジュンウォンはジャンギルに嘘の情報を提供して第8部隊を誘い出す。第8部隊は罠に掛かったが、バンヒが救助に現れてパク隊長を逃がす。

5)ジュンウォンはミョンヒョンの正体がバンヒだと知るが、事実を受け止めきれず一度立ち去ってしまう。パク隊長はバンヒの根性を叩き直す。ジュンウォンはバンヒが背乗りしていた女性を斉州島の療養施設まで訪ね、バンヒが日本で彼女の容姿になる整形手術を受けたことを知る。

6)ジャンギルは諜報部オフィスの水槽内に盗聴器を発見してミョンヒョンがバンヒだと確信する。ジャンギルは武装チームを引き連れて熱帯魚ショップに訪問しミョンヒョンを追い詰めるが、パク隊長が現れて逃がしてしまう。パク隊長に撃たれたジャンギルはその場で絶命する。ジャンギルが握っていた観戦チケットからジュンウォンは第8部隊の狙いが南北朝鮮サッカー親善試合だと確信する。

三幕

7)2002年W杯に向けた南北朝鮮の親善試合。数万人の観客で揺れるサッカースタジアムでは南北の首脳も来賓席で観戦している。そこをジュンウォンは孤独に捜査する。昼なのに点灯する照明を見つけてCTXに気づいたジュンウォンは第8部隊に制圧されていた中央変電室に突入するが、拘束される。平和的解決を説得するジュンウォンに対して、パク隊長は北朝鮮の50年の苦痛を理由に一歩も退かない。激しい銃撃戦の末にジュンウォンは照明を落として起爆を停止する。

爆破失敗を察知したバンヒは予備作戦に切り替えて客席から首脳陣にライフルの照準を向けるが、こちらも間一髪で警護チームが退出させる。諦めず追うバンヒは、ついにジュンウォンと銃を向けて対峙する。バンヒは一瞬の隙をついて護送リムジンに発砲するが、直後にジュンウォンの銃弾でバンヒは絶命する。バンビの銃弾は外れた。ジュンウォンは、最期にバンヒが何か頷いたような気がした。

8)事情聴取を受けるジュンウォン。検死解剖の結果バンヒは妊娠していた。諜報員でありながらバンヒの正体を見抜けたなかったジュンウォンは疑いを掛けられるが、南北朝鮮の分断という現実が彼女をヒドラ(複数の人格を持つ女妖怪)にしたのだとだけ答える。後から聴いて判ったことだが、ミョンヒョンはジュンウォンの留守番電話に作戦の概要を残していた。彼女は最初から作戦を失敗させるつもりだったのだ。

エピローグ)再び斉州島を訪れたジュンウォン(服装からしておそらく諜報員を既に辞めたか休職している)は本物のミョンヒョンとバンヒが好きだった音楽を聴きながら海を眺める。

FIN

1999年製作/125分/PG12/韓国
原題または英題:Swiri
配給:ギャガ
劇場公開日:2024年9月13日
その他の公開日:2000年1月22日(日本初公開)

韓国映画界の歴史を塗り替え、後の韓流ブームに繋がる作品でありながら、本作品の権利が複雑であったことから、長年に渡って、再上映や動画配信サービスでの公開が出来ない状態が続いており、「幻の傑作」と称されていた。しかし、2024年に監督のカン・ジェギュの努力により、権利問題が解消されたことから、同年9月に4Kデジタルリマスター版として再上映されるほか、定額制動画配信サービスのAmazon Prime Videoでも見放題配信されることが発表された。

https://ja.wikipedia.org/wiki/シュリ

▼解説・感想:

一幕
 一場:状況説明
 二場:目的の設定
二幕
 三場:一番低い障害
 四場:二番目に低い障害
 五場:状況の再整備
 六場:一番高い障害
三幕
 七場:真のクライマックス
 八場:すべての結末

参考:ハリウッド式三幕八場構成

1-1:北朝鮮から来た最強の女暗殺者と、追う二人の韓国諜報員
1-2:暗殺者が2年ぶりに活動再開
2-3:新型爆弾の盗難、商業ビルの爆破テロ
2-4:お互いのことを疑い始める二人の諜報員
2-5:主人公が恋人の正体を女暗殺者だと特定
2-6:主人公の相棒諜報員が殉職
3-7:サッカースタジアムで決着をつける
3-8:主人公はこの悲劇を生んだのは南北朝鮮の分断だと語る

まさに、完璧なハリウッド構成ですね。

いやあ、良い時代が来たものです。本作ほど「原点にして頂点」という評価が似合う映画も珍しいでしょう。こんなに面白くて完璧でな映画をずっと日本では観られなかったなんて、不幸でしたね。それが四半世紀の時を超えて劇場にリバイバルして、同時にアマプラでも視聴可能になったなんて、にわかに信じられません。

2000年公開で、あの頃のハリウッド映画らしさに溢れています。今回4Kリマスターされて劇場上映で24年ぶりに観たのですが、ほとんど記憶から消えていたのでかなり新鮮に愉しめました。

当時の私はまだ高校生で知識も人生経験も貧弱でしたし、北朝鮮政府が日本人拉致を認定する前でした。令和に中年として改めて観ると、ディテールが解像度高く理解できて、面白さ三倍増しでした。

以下、個々の気になったポイント

何かあるたびに登場人物がポカリスエットの缶ジュースを飲んでいたり、激しい銃撃戦の場所にポカリスエットの自動販売機が置いてあったり、タイアップが見え見えなのが面白かったです。(笑)

テロリストが爆弾を仕掛けたと諜報部に電話してきて、それで実際に爆弾処理班を向かわせて捜索してるのに、そのビルの商業施設を利用する一般客には全く非難を指示しないのは、ちょっと意味不明でした。(笑)

爆破されるビルがまるで70年代ハリウッド映画のようなミニチュアだと丸わかりのミニチュアで、90年代後半時点では韓国には優れた特撮技術が無かったことが窺えます。現在は韓国政府が資本を投入して環境を整えたおかげで、日本よりもずっとリアルなCGによるVFXを鑑賞できますけどね。(ぶっちゃけ日本の白組よりもCGのレベルは高いと思います)

BGMはレオンみたいで、とてもよく時代を感じました。

ヒートのような銃撃戦が格好良かったです。

ニキータのようなトイレで銃を組み立てるシーンが良かったです。

ハリウッド映画の「かっこいいあれ」を恥も躊躇いもなくどんどん真似していく姿勢が、節操ないけど、パワーはある、って感じでいかにも韓国映画らしいです。これこそが「韓流の原点」と言われる秘訣でしょう。

サッカースタジアムのシーンがとにかくリアルで、おそらく本当に南北で親善試合をしてる時にゲリラ的に撮影したカットがいくつか含まれているのだと思われます。そういう時流をうまく使ったことも、本作を「神レベルのすごい映画」に押し上げていると言えるでしょうね。

(了)

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