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「クニエダヤスエの和食卓」と新生じゃこめてい出版のスタートと

【ピンチはチャンスを実践する編集者のレキシ】

じゃこめてい出版は1970年に創業した、大変歴史のある出版でした。

でした。
というのは2007年に、私が勤めていた会社が、じゃこめてい出版を買い取ったからです。

買い取った。と、いっても、廃業する直前で、社員もいなければ、ずっと新刊が出ていない状態で、あるのは古い在庫のみでした。

もともと私は務めていた会社では入社からずっと、書店営業をしていました。
本は好きだったし、やはりいつか自分でも本作ってみたいと、出版企画書は提出していましたが、採用されることもなく、編集を任されることもなく、書店の営業と取次の見本だしの日々でした。

そんな私に、「じゃこめてい出版を買い取ったけど、やってみろ」と、社長から直接言い渡されました。
「本を作ったこともない私がなぜですか?」と、理由を聞くと社長は、
営業を知っているということは、販売はもとより、本の入り口から出口までを知る立場であり、それを知っているのは君しかいない、規格は外からでも持ってこられるだろ。だから、じゃこめてい出版をお前がゼロからやってみてくれ。

という理由で、社長ではなく出向役員として、私一人きりで、じゃこめて出版を運営することになりました。
そんな無茶な話があるかい!と、戸惑いと不安しかありませんでしたが、確かに社長の言う通り、会社を引き継ぐというこになると、そのまますんなりということにはいかず、取次に代表者変更届を提出すると、それを逆手に取るように取次から契約条件の見直しを迫られ半年以上に渡る交渉をしたりと、いまま営業で培われたメンタリティがなければ、心が折れていたかもしれません。

ある程度の条件をのめば、取次との交渉は難しくないのですが、一番困ったことは、すべての取次との契約交渉において問われる、出版計画書でした。
1年間で最低でも6~7冊以上出さなければならないという条件から、具体的にどんな出版計画があるのかを提出しなければなりませんでした。

企画から出版なんて、そんなにぽんぽんとできるわけはありません。ましてや、営業しかやってこなかった私には、力のある作家さんとの接点などありません。自分が今まで提出していた出版企画も、企画段階で著者が決まっていなかったり、著者は決めていてもまったく接点がなかったりで、それをすぐに制作できるようなものではありませんでした。

会社の編集長や先輩は、私がじゃこめてい出版を運営することをよく思っておらず、はっきり言って、今の仕事のじゃまでしかない、さらにいうと、成功してしまったら困る、と思っているようで、相談するわけにもいかず、頭を悩ませていました。
当時の会社は、グループ会社になっていて、私が勤める出版部のほかに、女性雑誌編集部、DVD映像雑誌編集部があり、全体会議が月に1回ありました。
その全体会議の時に、思い切って女性雑誌編集部の編集長に相談してみました。すると、女性雑誌編集長は、「あそう、いろいろ大変ね。でも、こっちで手が空いている人がいたら声かけとくから。本作りたい人結構いるから!」そう言ってくださると、すぐに、一人の女性スタッフSさんを紹介してくれました。
その人は、じゃこめてい出版を知っていて、じゃこめてい出版の過去のラインナップを見るなり、「あら、懐かしい。この人たちにもう一度書いてもらえばいいじゃない。」
なるほど!たしかしかに! 新しい本を作るということで頭がいっぱいだった私にとっては目からうろこでした。
たしかに歴史のあるじゃこめてい出版には、名のある方たちがたくさんいらっしゃいました。
Sさんは、過去の書籍の中からこの著者の方だったら、今のスタイルに合わせた形で新しい企画ができるかも!と、選んだ方が、クニエダヤスエさんでした。

クニエダヤスエさんは、日本のテーブルコーディネイトの第一人者です。

1970年代の日本にはまだ、テーブルコーディネイトという言葉すらありませんでした。
日本には、お膳にのせた「しつらえ」という言葉はありますが、1970年代では、テーブルで食事をする家庭も一般的とはまだいかず、さらに食事でテーブルを飾るというところまでは、浸透していませんでした。

クニエダさんは海外の生活の中で、ピシッと洗練されたテーブルクロス、揃えられたプレート、さりげなく食卓を飾るお花、それが普通の一般家庭でも当たり前にあることにとても感動したそうです。

食事はそんなに美味しくなくても、食卓を美しく飾ることで、豊かな食事になる、この素敵な文化を日本に広めたい!

その想いから、「クニエダヤスエのテーブル物語」という本をじゃこめてい出版で最初に作られました。

そして、 十数年の時を経て、子供の頃から慣れ親しんだ和の食卓の美しさを、テーブルコーディネイトとの融合を考えて出されたのが、『クニエダヤスエの和食卓』です。

クニエダさんは、私のことをとても可愛がってくださり、ご自宅にも招いてくださいました。クニエダさんのご自宅は、二階が撮影所になっていて、普段使っていらっしゃる食器棚はピシッと綺麗に揃えられ、そのまま写真素材として使えるほどでした。

ミニチュアのお家があちこちにら飾られたり、こだわりのリネンで揃えられた水回りや、造花と生花を組み合わせた華やかなお部屋は、おとぎ話の世界にあるお部屋そのものでした。

『クニエダヤスエの和食卓』は、クニエダ先生の新しい食文化の結晶です。暮らしを彩る豊かさを、ぜひ、この本で感じてみてください。

全国書店、アマゾンほか、ネット書店で発売中。


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