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違う船

良い年になって、会社勤めが板につき始めた頃、また花は蕾になり始めた。 もう何年も過ごしてきたこの季節に、やはり痛烈に時間の進みを感じてしまいます。 最近になると、あの頃は、とよく考えるのですが、もはや、大人になってしまったと感じえないのです。 昔は20代の半ばなど、大人だなぁ、とか、もうそんな歳なんだぁ、とか思っていたが、今ではもうあの頃は、と思うようになったのです。 お金も無く、どうやって楽しむのかを追求する日々が楽しく、今のように、ある程度のものでしか満足できず、そして

    • 夜明けを待つ

      「ねぇ。」 と白い息と共に吐いた。 「もう帰んの?まだまだ飲めるぜ?えへへ、 お前…もうしんどいの?ほら立てよ。」 と言ったのはもうすでに夜空を見上げ、仰向けになるAだ。 「わかった。またね。」 と白い息は途切れない。 「…今度っていつだ?聞いても良いのか?聞いちゃいけないことを聞くほど野暮じゃねぇ。で、明日か?明後日か?」 と困らせるのはいつものことだけど、少しだけAはいつもよりしつこい。 「そりゃ…。」 と白い息を飲んだ。 「…。」 Aは 「また明日ならこのまま夜明け

      • あの頃のまま

        キラキラとフワフワの間にある その輪郭をまだ覚えている スポットライトは眩しいが それを見る私は明らかにフワフワだった お酒を飲んであの人の言葉を聞く時 それを聞く私は明らかにキラキラだった いつからカッコつけなくなったのかと そうフワフワ思ったり 俺はまだなにかやれるんじゃ? と、キラキラしたりした 生きるってそんなもんだ どっちに振り切るかってそんなもんだ 振り切れない私は 中途半端な私

        • 「疲れた人ー?」 と、よく聞く父だった 私が覚えているのは幼児の時 歩くのが疲れた私に 「疲れた人ー?」 と聞いた。 私はめちゃくちゃにわんわん泣きながら 「うんーわー!」 と言い、抱っこしてもらった 小学生の時 遊園地に家族で行った時に 「疲れた人ー?」 と聞いた。 私はあはあは笑いながら 「はーい!」 と言い、おんぶをしてもらい二人で笑った 中学生の時 友達とうまく行かず落ち込んだ私に 「疲れた人ー?」 と恐る恐る聞いた 私は一瞥も与えずに 「…」 無視をした 高

          目の裏の金のざらざら

          目を瞑ると、そこには金色に光るざらざらがあった。右側だけの、また、左側にあった。殴られた時にあったのとは違う。ただ眩しい何かがあった。 あれには名前はない。名前などあってはたまらない。あんなメリーゴーランドのような景色は、目を瞑っても味わえはしない。ただ、幾ばくかの"あぁ私は生きているのだ"という快楽なぞに、地獄の底まで引っ張られはしない。掴めそうで掴めないあの光は、ずっと遠く、ずっと近い。その遠近感を失わせるような、その存在こそが、私にとって悪魔だったと言える。いや、それ

          目の裏の金のざらざら

          あなたと私

           ある一軒家に、仕事が大好き!今日も今日の仕事のことが頭から離れない者と、今日は今日!一切の全てを過去にする者が一緒に住んでいた。仕事が好きな方は、「明日なになにのどこどこの人と商談がうんたらかんたら。」と、宣う一方で、「明日は、ちょっと…疲れたし休む。」という様子であった。  さてここで、『兎と亀』を思い出して欲しい。兎は亀には勝てなかったのだ。あれは、おそらく『亀でも努力すれば勝てる』ことが教訓であったろうが、この話はまたちょっと違う。  兎は、自身に自信があり(駄洒落

          あなたと私

          3人の女性

           ある男と女に、可愛らしい女の子が3人生まれた。  時を経て、両親、あるいは、本当の父ではない人が、彼女たちが、20歳を過ぎた時 「一人暮らしをしなさい。」  と、言った。  彼女達は外へ出た。  三女は、多くの男達の家を渡り歩いた。彼女は面食いで、軽薄そうな男を囲い、夜な夜な飲み歩いていた。そして、街では大きな顔をして闊歩し、ネオンの街に消えていった。家に帰ることは、仕方なく少なかった。  あるその中でも冴えないが、大柄な男が他の男達を突然殴り出した。 「か、彼女は!!俺

          3人の女性

          校門

           ある少年は放課後、校門で人を待っていた。  雨が降っていたので、側の教員用の駐輪場の屋根の下に身を隠した。ここには彼以外いない。 「…もうみんな帰っちゃったのか。」  駐車場の一台の自転車にカマキリが止まっていた。会話相手には、なりそうにない。  まだ、放課後を過ぎて間もない頃だが、子供達の喧騒は聞こえない。し、おそらくみんな帰っていても息を潜めるように歩き、あるグループだけが、猛々しく笑って歩いていることだろう。というのも、その彼らはクラスで逆らうものがいるのならば、荷物

          月の下には不安が眠っている。

          『月の下には不安が眠っている!』 そう一緒に飲んだフラフラの男は信じて欲しそうであった。『何故って、真っ暗な夜空にあんなに明るいわけなじゃないか。俺はあの明るさが目障りで、この二三日眠れなかったんだ。しかしいまにわかるよ。月の下には不安が眠ってる。言いたいことはそれだけだ。』  どうして俺が毎晩家へ帰って来る道で、俺の部屋の数ある道具のうちの、よりによってちっぽけな薄っぺらいもの、お気に入りのペンを使うためにあるノートの一枚が、Wikipediaのようにすぐわかるのか――お

          月の下には不安が眠っている。